【3-2-4】
「……なにそれ?」
聞いた言葉は今の混乱した頭では到底受け入れ難いものだった。
「さっきまでと正反対じゃん。結局どういうことなわけ?」
いきなりそんな事を言われても受け入れられるわけもない。
「ええ。仰られるとおりかと思います。改めて非礼をお詫びさせて下さい」
深々と頭を下げられる。高まった熱をどう発散すべきなのかと私は途方に暮れる。
「アダム!? 余計な事すんなよ――「――イオリ? 少し黙ってくれますか?」
男性はジロリとイオリを睨みつける。彼女はゔっと言葉を飲み込む。
「全く……。何度も言っていますが貴方のその好戦的なクセは改めた方がいいですね。すみません。脱線しました」
「……私は別に構わないけどさ」
なんだろうか。急に自分の中の熱が収まっていく。この男性と話していると何故か気持ちが落ち着くのだ。
「で、結局アンタらは何?」
「申し遅れましたね。私はアダムと申します。アヌ教の使徒であり幹部を任されている一人です」
「……アヌ教徒?」
それを受けて思わず身構える。アヌ教徒であるなら私の目的とは相入れない存在のはずだ。しかしアダム? どこかで聞き覚えのある名前だ。
「ええ。こちらのイオリは元使徒、そしてドミニクは元アヌ教徒ですね」
それぞれ元? 特にイオリは使徒だって? それがなんで共にいるのか。アダムは私の疑問を理解しているように頷く。
「私達は細かくは違えど、大枠としていえば今のアヌ教に異議を唱えるもの達の集まりです」
「……異議?」
話が読めない。ただ彼は『どうぞ腰掛けて下さい』と手で催促をしてくる。私はそれに応じて椅子に座る。
「込み入った話になります。……ドミニク? いるのでしょう?」
アダムの声におずおずとドミニクが部屋へと入ってくる。手には酒瓶が携えられていた。
「あ、ああ。ワシの館が……」
彼は目を白黒とさせながらに私が粉砕した装飾や壁を見ていた。……冷静になると若干気の毒なような気がしてきた。謝りはしないけどもさ。
「どうぞ。飲みながらに話しましょう」
瓶を受け取ったアダムが、私の杯へと酒を注ぐ。後ろにいるドミニクには気にもしていない辺り図太いというか何というか……。
「まず貴方の目的は、リーザの救出で宜しいんでしたね?」
コクリと頷く。それを見て彼は満足そうな表情を浮かべる。
「結構。歓迎しますよ。貴方と私達は分かり合える」
「……私はアンタが言っている意味がさっきから何一つ分からないんだけど?」
「勿論お分かり頂けるようにお話ししますよ。ただ先にリーザの事をお話ししましょう」
それは願ってもない事だ。私としてもアダム達が何をしようとしているのかよりも先に彼女の事を聞く必要があった。
「彼女なら無事ですよ。アヌ教で保護していますから」
『不当な扱いも受けさせていません』という言葉に私はホッと胸を撫で下ろす。考えたくもなかったがもう手遅れになっているんじゃないかとも思っていた。
「そっか……。本当に生きててよかったよ」
「……貴方はリーザとどのようなご関係なのですか?」
私の安心した表情を見ての質問だろう。確かに不思議に思ってもおかしくない。
「あの子とは、たまたま会ったんだけどさ、短くない期間を二人で過ごして来たんだ。もう家族みたいなもんだよ」
そう。私はあの穏やかな日々を取り戻したいだけなんだ。
「それでこれからアヌ教はリーザをどうするつもりなの?」
「……残念ながら、アヌ教としては彼女は生かしておけないという話になっています」
「……それは、なんで?」
「彼女は悪魔に誑かされてしまったと。……俄かには信じ難いですが、リーザとあのスーニャが共にいたらしいのです」
『冗談ではないですよ?』なんてアダムは言ってくるが、いやまあそうね。確かにいたね……。
「……あまり、驚かれませんね?」
私は慌てて否定する。彼は訝しんでいたものの話を続けた。
「そのために彼女を生かしておくわけにはいかないと。これはギィ様自体が直接宣言なされていることで、誰も異議を唱えられない」
「……いつ頃までならリーザは生かしておいてもらえるのさ?」
「いえ、それがギィ様もいつにというのは仰られていないのです。ですから少なくとも今すぐではないと思いますよ」
なるほど。あのギィだ。するといえば即座に実行しているはずだ。ただそれをしないというのはきっと罠なんだろう。――私を誘い込むための。
「じゃあさ、リーザはどこにいるの?」
「今はギィ様と共に居城にいるはずです。ただ常にリーザの側には彼女の召使達がついていますよ」
「逃がさないように、か」
「そうでしょうね。それと居城はここからも見えます。向かえばまあほどなく着ける距離ですよ」
彼はチラリと外の方を眺める。なるほどそんな距離なら急げば今からでも行けるわけだ。でもギィがそばにいるとなると厄介だな。
「……うん。状況はわかったよ。ありがとう」
「いえいえとんでもない。お役に立てたのなら何よりですよ」
思った以上の収穫だ。あとは、彼らが何者なのかだ。
「じゃ次はアンタ達の目的は?」
「ええ。順に説明させて下さい。まず私からですね。……私はアヌ教のために今までの人生を捧げてきました。ただ今のアヌ教の在り方に疑問が湧いています。だから仲間を集めた。同じ考えを持つもの達を」
「で、私に声を掛けたわけだ? 味方になるかもしれないと」
「ご明察ですね。仲間はいくらいてもいいですから。次に誤解を解きましょう。そちらにいるドミニクですね」
ドミニクは自分の名前を呼ばれてビクッと反応している。……あの酒場の様子がウソのように縮こまっている。
「彼はこんなナリではありますが、自分の故郷を助けたかったんですよ。陰に潜むような生活を強いられるのは、忍びないと」
「……え? いやホントに?」
とても信じられないと私はドミニクに疑いの視線を送る。
「な、なんでそんな顔をする!? ワシだってあの村を助けるつもりでだな!」
「あんな、ボロ儲けがうんたら言ってたのに?」
「そ、それは言葉のあやで!」
「……許してあげてください。彼は誤解されやすくて」
いやいや、誤解されやすいわけではなくて全部自分の所為だろうなんて思ってしまうのだが。
「次にそこにいるイオリですが実は貴方と同じなんですよ。リーザを助けたいというのが彼女の願いです」
その言葉に私は驚いてしまう。イオリを見るとつまらなそうに鼻を鳴らした。
「……フン。恩返しだよ。ある人からの借りへの」
「恩返し?」
「色々あんだよ。ただオレは恩を返さないといけねー。……たとえ死んだってな」
事情は分からないがイオリの目は本気で嘘をついているようには思えなかった。
「……さてリムさん。貴方のお話しは実は聞いていましてね」
アダムが改めて私を見る。その視線は何か期待を孕んだもので、ただ出てきた質問は私にとって予想外のものだった。
「単刀直入に聞きましょう。――貴方は、スーニャなのですか?」
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――
評価・ブックマーク・ご感想という形で、どうかあなたの想いをお残しください。続きを書く励みになります。
(……でないと、力尽きるかもしれません)
※評価は星マーク、ブクマはお気に入りからお願いします。




