【3-2-3】
「……殺す?」
ドクンドクンと胸が鳴る。
「そ。確かに、そう言ったけど?」
イオリは何事かと怪訝そうにしながら此方を見ている。
「一応聞いとこうか? なんで?」
「なんでだって? そりゃおかしな話だ。だってリーザはアヌ教、使徒を抜けたヤツだろ? 仕留めりゃアヌ教から恩赦が出るってもんだ」
「……そう。そっか」
……なんだ。私が馬鹿だったのだ。そんな都合よく助けなんて現れるわけもない。イオリはただリーザを狙っていて、私が彼女の情報を持っていると思ったからここに連れてきたのだろう。
「ッ……」
「んー? どした? なんか気に障ったか?」
「……なんでもないよ」
内心は腑煮えくりかえる想いだ。なんだって彼女がこんな扱いをされなければならないのか。事情は知らないが大した罪を犯したわけでもないだろうに、何故この世界は彼女を認めようとしないのか。
「……それで? 何を話したくて私をここまで読んだわけ?」
「アンタは何かリーザについての手がかりを知ってる。なら逃す手はない。洗いざらい聞かせてもらうぜ?」
イオリはまだ酒の入った杯をクルクルと回しながらに此方へと鋭い視線を向けていた。
私はどう回答をすべきかを考える。ここは、そうだと言うべきだ。私もお金目当てでリーザを探していて、だからドミニクに近づいた。もし協力出来るならしようじゃないか。取り分が減ったって構いやしない。私としても実入りが減るのは困るが、何も情報がなくて困っていたんだ。ああ、リーザってやつはアンタの言う通りに、助ける必要もないやつで、同情するなんておかしな話だ。
そう笑ってやればいい。そうしたらきっと、イオリは握手でもしてくれる事だろう。せっかく協力し合おうと言ってくれてるんだから、リーザへと近づければそれでいいじゃないか。
――なんて、頭の中では分かってるんだけどさ。
「……悪いけどさ、アンタに話す事は何にもないんだわ」
「は? どういう事だよ?」
私は手元にあった酒を飲み干し乱暴に机へとぶつける。
「話すことは、ない。私は別にリーザをそういうつもりで探していたわけじゃあないんだから」
「わかんねーやつだな。話は順序だてて話すもんだ。じゃあアンタはなんでリーザを探してんだよ?」
「あの子は私にとっての家族みたいなものでね。アヌ教なんて訳の分からない連中に何かさせる気も、アンタみたいな悪党に渡すつもりもないんだよ」
私の言葉を受けてイオリはポカンとした表情を浮かべる。ただ構やしないと私は話を続ける。
「あの子が何をしたって言うんだ? なんでこんな目に合う? そもそもアヌ教自体が狂ってんじゃないの?」
捲し立てるように言葉を放つ。心の中に秘めていた想いが溢れ出して止まらなかった。
「あの子は、ただの女の子だ。内気な所もあるけども表情も豊かで美味しいものや風景が好きな、普通の子だよ。そんな子がどうしてこんな扱いを受けなきゃならない?」
「……アンタはつまりリーザの味方だって?」
「そうだよ。そのつもりでここに来た。そのために、ドミニクにも近づいた」
「……アヌ教を敵に回す事になるよ?」
「そんな事気にやしないよ」
私の言葉にイオリは声を荒げる。
「アヌ教は国だ! それに今やフクローラン以外にも教徒は多い! そんな奴らと正面切って戦うつもりかよ!?」
彼女の言葉に笑ってしまう。それが癪に触ったのかイオリは杯を机に打ちつけながらに立ち上がる。硬質な音が部屋に響いた。
「わかってんのか!? ただの喧嘩なんかじゃない。お前が立ち向かったって決して勝てやしない。それなのに本気でそんなこと言ってんのかって聞いてんだ!」
確かにイオリの言う事は最もだろう。普通こんな事思いもしないし出来やしない。ああなんだか最近も似たような事を考えた気がする。
――生憎、私は普通ではないんだ。
「別にアンタに分かってもらえなくてもいーさ。そんなつもりもない。でも本気は本気だ。嘘でも冗談でもない」
真っ直ぐにイオリを見抜く。彼女は私を見ながらにゆっくりと椅子に座り直した。
「……あーアンタが本気って事は分かったよ。狂ってるって事もな」
その言葉にまた笑ってしまう。狂ってるか。確かにそうかもしれない。もしかしたらリムさんの移植の中で脳にまで影響が出ているのかも、なんて彼女に怒られるか。
「それじゃ今度は私の番だね。持っている情報洗いざらい聞かせてもらうよ?」
私はイオリへ圧を掛ける。彼女と協力関係になれないなら手掛かりだけでも入手しておかないと。
「……嫌だと言ったら?」
「ははっ。そしたらその時だね。……腕の一本くらいは覚悟してもらう事になるけど?」
イオリの表情が変わりゆらりと立ち上がる。
「随分な自信だな? アンタそんなに腕が立つのかよ?」
「ま、そこらのヤツには負けないだろうけどね」
「言うじゃないか。オレもそれなりに自信があってな。試してみてもいーぜ?」
「……いーけどさ。後悔することになるよ?」
私は手をイオリに向ける。魔素を放てるよう意識を集中させる。
「今の私はかなーり、機嫌が悪いからね。間違って殺しちゃったらごめんね?」
「……だからあんまり舐めるなって言って、――ッ!?」
「――ああ。ごめんごめん。話してる最中だった?」
私が放った魔素はイオリの頬を掠め後方にあった装飾品を壁ごと粉砕する。私としてもムシャクシャしている中で、むしろここまで我慢したんだ。褒められて然るべきだろう? ……まぁかなり高そうだったけども、まあ気にしない気にしない。
「ふふっ。ハハハ。アハハ。……いーじゃねーか。リムっつったっけ? ……てめー、ぶっ殺す」
「やれるもんなら、やってみ――「――ほら。今度はお前の番だろ?」
自分の顔に何か硬いものがぶつかる。その痛みから思わず呻き声をあげてしまう。イオリを見ても先ほどまでいた位置から変わっていない。ということは魔法か何かで攻撃されたのだろう。……全く気づかないなんて驚くほどの魔法の速さだ。
「いいねぇ。盛り上がってきた。戦いってのは楽しくやるもんだ。そう思わないかリム?」
「……知らないね。別に私はアンタみたいな変態的な趣味はないからさ」
「つれないなー。まあでも少し付き合ってくれよ? 最近張り合いがなくてさ、つまらなく思ってたんだ。アンタなら少しは楽しめそ――「――イオリ? もういいでしょう?」
その声と共に私たちは動きを止めた。扉から現れたのは老齢の男性で、今にも飛び掛からんとしていた私は出鼻を挫かれる。それはイオリも一緒のようで明らかに不機嫌そうにしていた。
「あ゙あ゙? 折角楽しくなってきた事なのにか?」
「……目的を忘れないで下さい。リムさんもどうか許してください。我々はリーザを殺そうなんて思ってないんですよ」
「……は?」
「私達の想いは一緒です。我々も彼女を助けようとしているのですから」
彼から聞く言葉は先ほどイオリから聞いたものとは真逆で、ただ私が最初期待していたものだった。
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