【3-2-1】 暗闇
「――何か釈明は?」
ドミニクの首を掴む持ち上げる。彼は、まるで家畜かのような鳴き声をあげていた。
「は、はなし、離して」
「黙れ。必要最低限の言葉だけ喋れ」
「た、だから、声が……」
……ったく。手を緩めると地面に身体ごと落ちる。彼はゴホッゴホッと咳き込んでいた。
「これでいい? こっちとしてはさっさとアンタの話を聞きたいわけ」
「……お前は、誰なんだ? こんな事してどういうつもりだ?」
彼はまだぜいぜいと息をあげていた。私はこの衝動に身を任せないように身体を押さえつける。でないとこの人を殺してしまいそうだった。
「アンタ、オルダークって名前に聞き覚えは? スチャーチって村も」
私の言葉に、ドミニクは目を見開く。
「ずっとフクローランの近くの隠れ里に訪れてたんでしょ? 最近は遅れていたみたいだけれども」
彼は唇をワナワナと震わせていた。
「……どこで、それを?」
「さてね? それよりも、死んだよ。全員」
「……は?」
「だから、死んだ。一人残らず」
私の言葉にドミニクが唖然とした表情を浮かべている。
「……そんな。なん、で」
「知らないよ。でもさ、アンタも来るの遅かったんじゃないの? みんな困ってたよ?」
これはただの八つ当たりだ。あの村が滅びたのは別に彼が悪かった訳ではない。でもそれでも当たらずにはいられなかった。私の中にドロドロと溜め込まれた怒りを少しでも吹き出させてやらないと、狂ってしまいそうだったのだ。
「いや、ワシはただ……」
「ただ?」
「今の情勢じゃ、帰ったらマズイと思ってだな」
それでこの村の酒場で女を侍らせてご機嫌に酒を飲んでいたと? 偉そうに愉快にあの村にはないような食べ物を味わっていたと?
……くそ。私は自分の手を抑える。本当に、彼に罪がない事を理解していても気を抜いたら殺してしまいそうになる。早く話を進めないと。
「……アンタの話はどーでもいいけどさ。あの村の関係者とかいるわけ? いるなら先に伝えておかないと」
「あ、あの村と繋がりがあるものは、ワシは知らん! 本当だ! そもそもあの里から外に出たものなどワシくらいのもので――」
彼は泡を吹くような勢いで話し始める。私は本気で彼に殺意を向けていた為に、冗談ではないと悟ったのだろう。
あの後私はスチャーチの村から離れた。皆の死体は家々と同様に火葬してあげた。埋葬してあげようかと思ったけれども、全てを灰にして風に飛ばせて遠くへと流れた方が喜ぶんではないかと思ったのだ。……カナンなんて特にさ。
ダリアさんの元へも向かったが彼女はすでにいなかった。争った様子も無いことから何処かへ連れて行かれたのだと思う。彼女の安否も気掛かりではあったが、まずはリーザを探さなければならなかった。連れていかれたという事であれば、彼女はまだきっと生きているはずだ。
でもそれもアヌ教徒がどういうつもりなのかも分からない。今すぐでも救出してあげなればと、あれだけ厭っていたフクローランへ向かったのだ。
そしてフクローランに着き、まず訪れたのは酒場だ。リーザを探すにもまずは何かしらの当たりをつける必要がある。そんな中酒場というのは、えてして不確かな噂話を含め情報を得やすい場所だ。
私が店に入った時部屋の奥には随分と下品な笑い声を上げる男がいて、煌びやかな格好をした女性が数名彼を囲っていた。初めは景気の良い人がいるもんだと思っていた程度だったが、そのうちの一人が彼の名前を呼んだ事で事態は一変する。
「――もうードミニクさん? そんな所触っちゃだーめ」
……は? 今、なんて言った? あの髭面デブの事、ドミニクとか言ったか? その名前は確か、あの里と交流を待つ商人の名前で……。
「ぐふふ。いいじゃあないか? どうせ後で触るんじゃからの〜」
……いやまさか。ただの偶然だろう。ドニミクなんて名前いくらでもいる。それがこんな所でたまたま会うなんて、そんなことあるわけがない。ましてやこんな奴だなんて思いたくもない。
「もー、あ、わたしこのお酒飲みたいー!」
「あ、それならわたしもこのお料理食べたいなー」
「ガハハハ。よいよい。好きなものを頼めばよい。金ならいくらでもあるからの」
「やったー! だーいすき。さすが大商人のドミニク様ね!」
……いやまだ大丈夫だ。商人なんてそれこそいくらでも。
「いーくらでも飲むがいいわい。おい店主! この店の一番いい酒を持ってこんか!」
「えー? 嬉しいけどホントに大丈夫ー?」
「大丈夫じゃと言っとろうが! 実はこの近くの村にかなりの荷物を降ろす約束があってな。ガッポガッポ儲ける算段があるんじゃよ。だから――」
私は自分の机に飲んでいた酒の杯をぶつける。お店の中にその音が響き渡って皆が私の方を向く。先ほどまで賑やかだった店内はシーンと静まりかえった。
「……なんじゃ? 折角人が良い気分で――「――ねえ? アンタってドミニクっていった?」
私の声に彼は怪訝そうな表情を浮かべる。
「……いかにも、ワシはドミニクじゃが? どこかで会ったか?」
ああクッソ。まだ確かめてはいないけれど、きっとこの人なんだろう。なんだってこんな奴なのか。抑え込んでいた怒りがまた沸々と湧き上がる。
「いーや初対面だよ。でもさちょっとだけ時間もらっていいかな? 話したい事があってね」
「……仕事の話なら三日後にでも時間を設けるから――「――今、今すぐだよ」
私は彼へと明確な殺意を込めた視線を送る。彼と彼の取り巻きは明らかに怯えた様子であったが、ただそれでも彼は抵抗をしてきた。
「ワ、ワシにも都合がある。じゃからの、明日の朝1番に時間を作ろう。それなら――「――だから、今すぐと言ったはずだよ?」
ドミニクの頬を掠るように魔素を打ち出す。彼は信じられないといった様子だった。
「いいから。ほら」
私は彼を引き摺り、店の外へと連れ出す。会計もなにも知った事か。取り巻きの女達もいた事だしうまくやるだろう。
私はドミニクを路地裏へと連れ出して、胸ぐら毎壁にぶつける。もうこれ以上我慢は出来なかった。
「――何か釈明は?」
そうして冒頭に戻る。多少荒くても仕方ないだろう? それくらい私は腹が立ったんだから。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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