【3-1-4】
少し、というよりは月日が経っていますが、以前に私達へある神託が下されました。内容は、死人族の殲滅。数ある神託の中でも多種族へ攻撃を仕掛けるというのは極めて稀でした。……今思えば、その時がお母様が変わられたタイミングだったのかもしれません。
「何故そんな事をするのですか!?」
「ダリア。これは神託なのよ? アヌ神のご意志。その意味が分からない貴方ではないでしょう?」
「しかしそれは……」
その話を受けて、お母様はプリエール様へと詰め寄りました。それは普段声を荒げる事すら稀なお母様からは想像できないものでした。
「彼らにどんな罪があるというのです!? 一体どうして……」
「理由を貴方が考える必要はありません。是非もまた神が定めます。貴方はただその意思を遂行するための一矢にすぎない」
「でもそんな――「――分をわきまえなさい!!」
使徒の面々は戦い自体には慣れています。アヌ教の中の風紀をつかさどっているのは使徒になりますために、時には表に出せない血生臭い仕事も行います。
でもその時ばかりは少し毛色が異なりました。相手方は別に調和を乱したアヌ教徒でもなく、この世界に害を齎そうとしているわけでもありません。ただ生きている。それだけで、滅されねばならなかったのです。
「まだ間に合います!! 今一度お考え直しを!!」
お母様は最後の最後まで抵抗しました。無駄に血を流す必要はないと。ただ、もちろん受け入れられる事はありませんでした。
作戦は予定通りに実行されました。夜。月の光すらも雲で隠れた暗黒の時間。虫達すらも眠りについた頃。静かに、アヌ神のご意志は執行されました。叫び声も泣き声も何も聞こえません。本当に物音一つ聞こえない。その静寂を今でも憶えています。
私もまたこの作戦には参戦していました。とはいっても何か出来るというわけでもありませんが。それでも神託を断ることなど出来うる訳もないのです。私は魔法は使えません。白兵戦もけして得意ではありません。
ですから私に与えられた役割は、指揮官であるプリメール様のご意志を円滑に伝達するというものでした。基本前線に出る事のないこの仕事に揶揄の声があることは認識しています。ただ指示された事を適切に遂行する事だけが、私にできる事でしたために必死に頑張りました。ちゃんとこなせるよう、周りに迷惑を掛けないよう。期待に応えられるよう。
私にとっては、指示のこなす事が全てであってその内容なんて気にもしていませんでした。だって神様のご意志なのです。間違っているなんて、あり得ないことでしょう?
「終わりましたか?」
プリメール様の声だけが辺りに響き、私は近くにいた使徒達に状況を確認しました。
……ん? どういう事ですか?
「何か、トラブルですか?」
そういうわけではないようなのですが……。
「それならどうしたのですか? 抵抗にあっているなら使徒を向かわせて下さい」
いえ、プリメール様。それが……。
「早くなさい? なんだというのですか?」
……どうも抵抗しているのは、ダリアお母様のようです。
「――殺す必要などないでしょう!?」
向かった先には確かにダリアお母様がいて、使徒と言い争っているようでした。背には死人族の女の子が見えます。お母様がその方を庇っているように見えるのは、きっと勘違いではないでしょう。
「この方々が一体何をしたというのです!?」
お母様は剣を抜き、味方であるはずの使徒へと向けています。そのために使徒達も安易に踏み込む事が出来ないようでした。
「……お願いでございます。どうかこの場は納めて下さいませんか? 一度ギィ様とも相談して――「――その必要はありませんよ」
プリメール様がダリアお母様の声を遮り、間に入ります。
「……ダリア? どういうつもりですか?」
プリメール様が現れたためお母様は咄嗟に剣を下ろします。
「プリメール……?」
お母様はまるで懇願するような声をあげました。私も初めて耳にするその声は、ただプリエール様には届きません。
「全く……。信じられない」
その明らかな失望が込められた言葉に、ダリアお母様は一瞬動揺した後に、意を決したように話始めました。
「……ッ。しかし、プリメール。これは、何なのでございますか? これのどこに正義がありますか?」
「だから言ったでしょう? 貴方がそれを考える必要はないと。……退きなさい」
その声でお母様は真横に吹き飛びます。それは紛れもなくプリエール様がダリアお母様へ攻撃した事を意味していて、周りの使徒すらも驚いていました。
「まさかよりにもよって貴方へ力を振るう事になるなんて……。ギィ様へなんて言えばいいのか」
ぶつぶつと呟きながらに、プリメール様は後ろへと隠れていた死人族の方へと近づきます。
「……ヤ、やめテ。ワ、私達、何もしていないでしょウ?」
話す事など無いと、プリメール様は剣を抜き、その刃先を彼女へと向けました。
「タ、助けテ。ア、謝るかラ。アなた達に、従うシ、抵抗もしなイ。ダから、助け――「――必要ありません」
彼女の祈りはその一言によって閉ざされ、そしてプリメール様の剣は彼女の首元を切り裂きました。暗がりの中であったためにその鮮烈な赤を見る事はありません。ただ鉄臭い匂いは辺りに充満しました。
「……リーザ? 終わりましたよ。撤収の準備――「――プリメール!! どういうつもりですか!?」
起き上がったダリアお母様が即座にプリメール様へと掴み掛かりました。
「何故彼女を殺したのです!? 一体、どうして……」
「……何度言わせれば気が済むんです? 全く。貴方は少し頭を冷やした方がいいですね」
慌てた使徒達が流石に止めに入ります。身体を抑えられてもなおダリアお母様は抵抗していました。
「私が信仰したアヌ教は、こんなこのようなものではありません!! けして、このような!!」
「それなら、貴方の理解が正しくなかったのでしょうね? ……貴方にはしかるべき罰を与えます。覚悟なさい」
その後もダリアお母様は抵抗していましたが、魔法で眠らされたようです。
そして私達は片付けをして帰路へとつきます。その間、私はダリアお母様様の側にずっといました。彼女が起きられた時、気が動転してしまわないか心配だったことと、そして逃げ出さないように見張っておくよう言い渡されていたからでした。
この時、帰る途中、私はダリアお母様が言っていた事を何度も考えたのを覚えています。けれどもちっとも、理解が出来なかったのです。ダリアお母様は、一体何がそんなに受け入れ難かったのでしょうね?
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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