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異世界転生したら、世界の敵になりました。【続】  作者: 篠原 凛翔
【第3部】 うつろわざる世界

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【3-1-1】 過去

 主を否定してはいけない。主を疑ってはならない。主を貶してはならない。他の神を信奉してはならない。主と、主が創られた全てを愛し敬うべし。自らの魂は主の為にこそ用いられる。主に与えられしものは、主に返さなければならない。


 これがアヌ教の定める戒律です。アヌ教徒は常々この戒律を遵守しなければなりません。破ることがあれば相応の罰が与えられます。それは例え誰であろうとも。


「――殺しなさい。全てはアヌ神の名の下に」


 その声と共に使徒達は闇夜を駆けます。怒号と悲鳴が端々から聞こえます。『なんだやめろ!』『私達が何をしたというのだ!?』『お願い。この子だけは……』そんな声が聞こえ、やがて途絶えました。


「……終わりましたか?」


 はい。プリエール様、終わったようです。


「リーザ。状況を」


 ええ。こちらは損耗3。負傷6。相手方は全て絶命を確認済み。残滓は如何いたしますか?


「燃やしなさい。跡形も残さず」


 分かりました。――では、そのように。


 私の言葉で使徒の方々は遺体や馬車に火を放ちました。辺りは煙と人の焼ける匂いに塗れます。


「ここにもスーニャはいませんでしたか」


 はい。それらしいものはいませんでした。


「そうですか……。まあ期待もしていませんでしたがね」


 もう何回目でしょう。話がある度に私達はその場所まで出向き相手らを殲滅してきました。


「本当にスーニャなんて、いるのかしら……? リーザはどう思いますか?」


 俄かには信じ難いです。太古の神々を打倒する人が存在するなんて。


 私の言葉にプリエール様も頷きます。


「その通りですね。私もとても信じられない。もしかしたらマグシアの計略なのではないかと勘繰ってしまうぐらい」


 推測である事は理解していますが、誰かにそんな事を聞かれたら不味いのではないですか? 


「ここにいるのは使徒です。問題などないでしよう?」


 確かにそれもそうです。その身の全てをアヌ教に捧げた者たち。私達にとって彼ら以上に信用出来る存在などないのですから。


「では次に行きましょう? まだまだスーニャ候補はいくらでもいるのですから」


 ミーム様の一件があってから私達アヌ教は変わりました。スーニャなるものの存在が許されない事は当たり前ですが、アヌ教こそが世界を導くべきとの機運が高まったのです。混乱に満ちた今我々こそが世界を救済できると。


「――全てはアヌ神の為に」


 その声の元私達は動き続けます。目指すは言うまでもなくかの悪魔スーニャの討伐です。


 断末魔は聞き慣れました。火傷すると思える熱さの血液も鼻がひん曲がるほどの臭気ももはや何も感じません。今日も明日も明後日も同じような日々を送る事でしょう。全てはアヌ神のご意志を遵守し死後に御膝下へ還るため。神に背くものは生かしておくわけにはいきません。


 したし、死後の安寧も約束されるというのになぜ教えに従おうとしない者が現れるのか理解が出来ません。根本的に私達と異なるのでしょうか?


「リーザ。理解できない事は悪ではありません。それにこの世界に生きる全ては元々同じアヌ神から生まれた同胞なのですよ?」


 それはその通りです。しかしそれならどうして理解して貰えないのでしょう。私達は間違った考えを正しているというのに。


「そんな方々を救う事もまた私たちの責務なのです。この世界を導いてあげましょう。私達はアヌ神に選ばれたのですから」


 そのお言葉に私は胸を打たれます。一人でも多くの人を救ってあげる事が我々の使命という事ですね。


「その通りですよ。さて、今日も始めましょうか」


 その声によりまた沢山の命がアヌ神の元へと還りました。今回はスーニャを名乗る野盗の集団でした。スーニャというのは太古の神々の一柱であるミーム=ラフェシア様と、ククル=マグノリア様を倒したという悪鬼です。その名前を騙る事で周りの人々を畏怖させ脅していたようです。


 我々使徒の役割は表立ってはアヌ教の布教であり、しかし陰ではこの世界を浄化する機能も担っています。


 使徒が動くのは、アヌ神の意向に害する存在が認められた時。それを決めるのは我らが神ギィ=フクローラン様にあらせられます。


 少し前には死者を甦らせる種族を殲滅しました。他には文献に残されている程度ではありますが、過去に姿形を変える種族を滅ぼしたと記録が残っています。


 そして今回スーニャが世界に仇なすものとの判断が降りました。そのために私達はスーニャがいたとあればどんなに遠くとも即座に向かい、名を騙る輩であったとしても討ち滅ぼしてきました。


 人を殺すという事に躊躇がないわけではありません。でもこれはギィ様が判断された事、つまりアヌ神の意思と同義です。それに彼らがこれ以上罪を犯さないように楔を打つ意味もあるのです。死後にちゃんとアヌ神の元へと辿り着けるように。


 しかし太古の神々を倒しただなんて、けして認められるはずがありません。アヌ神の怒りを買わない為にも、一刻も早く打ち取ってあげないと。それは、マグシアではなく我々の使命であると理解しています。


 今日も一通りの仕事を終え、達は森の中に敷いた野営へと戻ります。フクローランを出てからどれくらいの時間が経ったでしょうか。お母様とも離れて久しいです。お元気にされているでしょうか。


「――皆んなご苦労様。話があります。そのままでいいので聞いてください」


 各々が身体を休めている中プリエール様からお言葉がありました。皆耳を傾けます。


「一度フクローランに戻る事にします。皆の疲れもあるでしょう。家族にも顔を見せてあげてください」


 その言葉にほとんどのものから反論の声が上がりました。『休みなど必要ない!』『すぐにでもスーニャを探すべきです!』『アヌ神の逆鱗に触れてしまいます!』彼らの言葉はもっともで私も同意見でした。自分の身など二の次です。スーニャを倒すためなら。


 ただプリエール様も折れる事はなく、妥協点として40名程度いた内の半数は一度戻る事になりました。残りの半数は引き続きスーニャの手がかりを探すようです。


 私も戻る組に組み込まれました。どんなに抵抗してもこの場に残る事を許しては貰えなかったのです。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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