【2-9-2】
「お主には随分と助かっとるよ」
開口一番にオルダークさんがらしくもない事を言い始める。
「一体なにが?」
「分かっとるくせに。お主が来て何日くらい経ったかのう? その間村人達の頼み事を解決してくれているじゃろうに」
「そんな大したことじゃあないよ。別に私がいたから何か違ったってわけでもないしさ」
実際家の修理だったり周囲の警備だったり、はたまた食料の確保なんて他の人でも出来ることだろう。
「フォフォ。また謙遜しおってからに」
うわフォッフォッて笑う爺さん見たの初めてだよ。実在するのかーなんて思ったけども、話の腰を折りそうだし心の中に留めておく。何も言わない私の反応に怪訝そうな顔を浮かべるが特に追求する事もなく、彼は奥から中くらいの瓶を持ってきた。
「ほれ。今日も飲むじゃろう?」
「ええ。頂きます」
今ではオルダークさんとはすっかり飲み友達だ。殆ど毎日のように彼の家を訪れてはご飯とお酒のご相伴に預からせてもらっている。
「ワシにとってもお前さんがいてくれて嬉しいがの。この村は些か静か過ぎるところがある」
その言葉は意外だった。話を聞くと彼はこの村の最初期からいるメンバーのようで、ある意味では今のこの村を作った一人といっても過言ではない。だからこそそれを否定するような発言に驚かされる部分があった。
「……それ貴方が言っちゃっていいんで?」
私は敢えて軽口を叩く。そんなノリを彼も求めているように思えたのだ。
「べーつに今は誰も聞いとらんじゃろー。それにリムちゃんなら何言っても構わんと思っての」
『そんな気を許してくれて嬉しいですよー』なんて言いながらに干し肉を口に入れる。うむ。美味い。燻した風味がまた酒によくあう。
「……だからの。カナンみたいな子が出てくる事もおかしくはないと思っていた」
「……気づいてたんです?」
村を出たいという思いの事を言っているのだろう。彼は私の言葉に頷く。
「あの子は身内の贔屓目を抜きにしても中々に見所がある子での。この村は些か狭過ぎるかもしれん」
「……別に、いーんじゃ? ここがあの子の故郷だって事は変わらないでしょう。好きにさせてやってたまにフラッと帰ってくるくらいでも良いと思うけど」
何もこの村に縛り付ける必要は無いはずだ。勿論人の流出を招く恐れもあるが、反面外からこの村に迎合する人も増えるかもしれない。
「……お主の元々の故郷はどこにあるんじゃ?」
「私? 私はマグシアの南の方にある。……いや、あったかな」
「あった?」
「うん。……今はもう無くなっちゃいましたね」
「……そうか」
二人で静かにお酒を煽る。なんだか不思議な雰囲気だった。オルダークさんと飲む時は大体が馬鹿話が多かった。ただ今日は少し落ち着いた雰囲気だ。
「……この村は、アヌ教から逃れた村だという事は知っておるんじゃったな?」
「ああそれはダリアさんから聞きましたよ。みんな元々アヌ教だったんでしょ? わざわざ隠れ住まないといけないなんて随分と厳しい宗教なんだねー?」
「……お主、本当にアヌ教のこと何も知らないんじゃな?」
「いやー最近嫌ってほど関わっているよ? 使徒ってタチの悪い連中に追いかけられてさ」
私の言葉にオルダークさんの表情がピクリと動く。
「リムちゃんや? 使徒に追い回されるとなると、相当の話じゃぞ?」
「え、そなの? ……いやまあそうなのか」
「そーじゃよ。全く何をしたのかの?」
なんて言われるが、あははーなんて笑って誤魔化す。別に全部が全部を言う必要もないだろう。
「……話が逸れたの。ワシらは、彼らから逃げて逃げて逃げてようやくここに隠れ住む事ができた」
私はうんと相槌を打つ。指先に持っていた杯が机に当たりカタンと音を鳴らした。
「奴らは今でもワシらの事を探しとる」
「……もし捕まっちゃったら?」
「……その時には、覚悟が必要だの」
オルダークさんは杯をクイと傾ける。私は空いたそれに酒を注いでやる。
「でもさ、行商人も定期的にここに来てるんでしょ?」
そんな風にカナンも外に出してやればいいのではないだろうか? なんだか向いていそうな気もするし。
「うーん、まあ、のう……」
「なんか、あんまりみたいだね?」
何だか歯に何か挟まったかのような反応に私は話を促してみる。
「……あの仕事はこの村にとってはなくてはならん重要な仕事じゃ。ただ危険が勝ち過ぎる」
そんな気にするほどだろうか? 確かに見つかる可能性としては高まるかもしれないけど。とは思うものの、そこまでは流石に外部の私が言うべきではないだろう。
「ワシらもこの村を何とか残したいと考えとる。その為に何が最善か考えねばならん」
きっと彼らは色んな事を考え話し合っているのだ。彼らの村を守る為に。
「帰れる場所があるというのは、それだけでいいものじゃからの」
「そりゃ同感ー」
私は自分の空いた杯に酒を注ぐ。さっきからチビチビと進めてるがそれでも大分酔っ払ってきた気がする。
「ちなみにリムちゃんや。お主、本当にアヌ教に対して臆さないの?」
「え、ああ、いや、私も臆しています、デスヨ?」
急な指摘に動揺して変な返答になってしまった。そんな私を見てオルダークさんは笑っていた。
「……お主のようなものとの出会いもまた、アヌ神のご意向なのかの」
その発言には怒りや憎しみは感じられなかった。きっと彼もまだ性根の部分はアヌ教徒なのだ。たとえ彼らから離れて付け狙われようとも、その生き方は変わっていないのだろう。
そこから私達は程々に飲みその日はお開きとなった。私は酒でふやけた頭を捻りながらに、さて明日は何をするんだったかなー? なんて考えながらに帰路につくのだった。
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