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異世界転生したら、世界の敵になりました。【続】  作者: 篠原 凛翔
【第2部】 重なる足跡

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【2-9-3】

「――リムちゃん、今日もありがとうね」

「――リムさん、次はこっちを見てくれるかー?」

「――リムさん? 私の特訓に付き合ってくれるはずっすよね?」


 それからはまたのんびりとした日々を送っていた。日に日に村で関わる人も増えて顔見知りも多くなった。今では宴会にお呼ばれする事も多い。お邪魔じゃないかな? なんて最初は遠慮していたのだが、私みたいな人はやっぱり珍しく、彼らからしても良い退屈しのぎなのだろう。


「はいはいー。どういたしましてー。それとちゃんとやるから順番にねー」


 私はみんなの依頼事を受けてそれを解消する生活を続けていた。忙しいものではないし刺激があるものでもない。ただ穏やかで平和な生活だった。

 

 私は、そんな生活が嫌いではなかった。


「今日もご馳走様でしたー」

「はーい。リムちゃんもありがとねー」


 今日もまた仲良くなった村人からご飯とお酒をご馳走になって家路につく。結局空き家の一つをお借りしているわけで、なんだかここに来てからこっち村の皆さんにお世話になりっぱなしな気がする。


 でも皆んなが皆んな受け入れてくれるし、断ったら断ったで残念な顔をされるのでまあそれならと甘えさせて貰っているのだが。


「にしても寒いなー。これだけはやっぱり慣れないねー」


 この辺りは当然街灯もない。それに娯楽も少ない為に村人の就寝も早い。だから夜中には辺りは真っ暗になる。月明かりだけを頼りに私は夜道を進む。


「このサクサクって音は嫌いじゃないけどねー。雪も綺麗だし」


 雪は辺りの音すらも飲み込んでしまう。だから自分の声とサクサク鳴る足音が、私がここにちゃんといると分かる証明だった。雪を苦手という人も多いが私は別に嫌いではない。白く美しい見た目も手にとって程なく溶ける儚さも、好ましく思っていた。


「まーでも寒過ぎるのは考えものだけどさー」


 そんな独り言をこぼしつつ私は家に着く。


「さてリーザさんはー? ……いつも通りに気持ちよさそうに寝てるね?」


 リーザの様子はずっと変わらない。そろそろ起きないとイタズラしちゃうぞー? なんて思いながらに彼女の頭を撫でてやる。


「……もう少し、この村にお世話になろっかね」


 どうせここを出たところで行くあてもない。それにアヌ教徒に付け回されるくらいなら、それもいいかもしれない。


「じゃひとまずお休みしますか。お休みね。リーザ」


 また改めてオルダークさんに聞いてみようと思いながらに私は床につく。明日からも平和な日々が続くことを疑う事もなく。


「……行商人が来ない?」


 今日は私は特にする予定もなくて、起きてからはフラフラと村の中を散歩していた。そうしたらオルダークさんの自宅の前に人集りを見つけ近寄ってみたのだ。


「ああ。本当だったらもう来ている筈なんだ」


 そういえばカナンもそんな事を言っていた気がする。村人の一人から話を聞くと、行商人は数ヶ月に一回この村に訪れて必要な物資を届けてくれるらしい。勿論無料というわけではないのだが、そこから得られる資源はこの村にとって不可欠なものなのだとか。


「少し遅れてるとかじゃないの?」

「もう少ししたら来るだろうと話していて、もうかなり時間が経っている。これ以上は……」


 それから先の言葉は紡がなかったがもう待つ事は難しいという空気は感じ取れた。


「んー、なんか連絡する手段はないのかな?」


 オルダークさんやカナンといった見知った人もいたために私は彼らへと視線を向ける。


「……手段はないのぅ」

「えー、じゃあいつもどうしてるのさ?」


 必要なものだったり来るタイミングだったり、それでは情報の伝達に不備が発生しないだろうか。


「ドミニクはいつも決まった周期でここに来るからの。その時に次回に欲しいものも伝えておる。だから今まで何か問題になる事もなかったんじゃよ」


 その行商人はどうやらドミニクという名前らしかった。話を聞くと、律儀な人間で大体が約束した日には村に来てくれるらしい。遅れたとしても数日なのだとか。


「……何かあったのかもしれんの」


 オルダークさんが重々しくそんな言葉を口にする。そしてその言葉で村人達の間には重苦しい空気が流れた。


「……まだ何もわかんないんでしょ?」


 私はそんな中敢えて明るい声をあげる。別に私はそのドミニクという人の事も知らないし村の事情にも明るくない。そんな私だからこそ言える事もある。


「もう少し待ってみたらいーじゃん。それでもダメなら私がその人探してきてあげるよ」


『もしどっかで見つけたらフン捕まえて連れてきたがるよ』とふざけながらに言ってみる。カナンが『なら私もついてくっす!』なんて言って周りの空気が和らいでいく。そーそー。これくらいの雰囲気でいいのだ。


「まあもしさ、なんか足りないものがあって今から近場で取れるものならとってきたげるよ。何がいるの?」


 加工品といったものは難しいが、食材だとか薬草だとか、この辺りで採集可能なものであれば可能な限り協力してあげないと。


「しかし、のう……」

「何今更躊躇してんのさ? いいからほら」


 私は最低限必要なものを纏めさせメモを受け取る。そこには備蓄薬の元になる薬草の名前が幾つか記載されていた。


「ん。オッケー。じゃあここに群生地の地図も書いてくれる?」

「あーリムちゃんや。気持ちは有難いんじゃがの?」

「……バレないようにする。それでいーでしょ?」


 まあバレたって対処するのだが。でもその言葉でようやくオルダークさんも納得してくれたようで、それ以上は何も言ってくることはなかった。


「じゃちょっと行ってくるよ。どーせ今日は何もないし。でも美味しいお酒期待してるよー?」


 その場を後にして早速目的地へと向かう。カナンも『私もお共するっす!』なんて言っていたけれど、彼女は今日は例の警備の仕事があるそうで私一人での行動となった。


 最後まで『誰か代わってくださいー!』なんて言っていたが、そこは罷り通らなかったらしい。私は渡されたメモを見ながらに村を出発する。夜のお酒に間に合うよう早めに終わらせよう。


 私はその後地図の通りにあちこちを行き来し、薬草を採取した。今も目の前に生えている薬草へと手を伸ばす。これが最後の素材のはずだ。細く頼りない足元に気をつけつつ、なんとかそれを手に入れる。


「――よっし。これで最後ー!! 終わったー!!」


 私は誰に聞こえるでもなく声を上げる。これで目的とされた素材が全部集め終わった。いや思った以上に大変だった。岸壁にある薬草もあったが、いやなんでお前そんな所に生えてしまったんだと問い詰めてやりたくなったくらいだ、


「でも何とか夕飯には間に合いそうかな?」


 まだ日も沈んでいないしこれなら村人達の夕飯の支度にも間に合う事だろう。もしかしたら宴会なんて催してくれたり?


「オルダークさんの事だから美味しいお酒隠してるだろーからね。これでもかってくらい飲んでやろ」


 私は一人ニシシと笑いながらに薬草を詰めたカゴを持って帰路へとつく。


「はー、しっかし本当に疲れた。そのなんとかって人にはいつか会ったら文句言わないとだなー」


 どういう事情か知らないが村人にも迷惑が掛かっているのだ。少しお灸を据えてやるくらい構いやしないだろう。


「ここから荷物を持って帰るのがまたなー」


 なんて愚痴を吐きつつ一歩また一歩と前へと進む。今いる場所は村から少し離れているために、帰るまで時間がかかるのだ。


「明日色々予定あったけどもこれはキャンセルだなー」


 流石にこれだけ働いたのだ。許してくれるだろう。明日はひがな一日布団でゴロゴロして――。

 

「ん? なんだあれ?」


 私は歩くの止めてそれを見つめる。


「なんで、煙が村の方からあがってるんだ?」


 普通あの村は昼間に煙を立てるような事はしない。それは居所を隠す目的でもある。ただ、今は村の方角から幾つもの煙が上がっていた。


「……ちょっと、やめてよ。本当に」


 私は、採取したばかりの素材を置いて急ぎ村へと向かう。


 ――脳裏に浮かぶのは、化け形族の里が襲われたあの時の光景、だった。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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