【2-8-4】
「何とかお願いするっすよ!!」
「だーかーらー、そんなのはしないって」
あれからずーっとカナンは私に弟子にしろ弟子にしろと迫ってきていた。何をするにもふと周りを見ると常に彼女がいて、自分の身体の周りをクルクルと回っている様子は可愛らしいものではあるが、それでも無理なものは無理なのだ。
「む〜〜。じゃあひとまずお酒でも飲んでほら」
グイッと杯を渡される。む。それは飲みたい。というか頂く。
「喉も乾いたでしょうから。ささっ。グイッと」
うむ。美味い。昨日は果実酒だったけれども今日は風味がついた程度の蒸留酒で、喉がカーッと熱くなる。でもそれがまたスノウベアの野生味溢れる肉にとても合う。
「いやーこれは、最高だねー」
「そうでしょう? ほらもう一杯どうぞっす」
コイツ、さては私を酔わせるつもりだな? と分かっていながらもお酒を拒む事が出来ない。いやーだって本当に美味いんだもの。
私達はスノウベアを討伐して村へと戻ったわけだけれど、その歓待ぶりは思った以上だった。村人達からは大層感謝の言葉を頂いて、私はその言葉におずおずとどういたしましてーなんて返した。どう反応すべきなのか分からないというのが正直なところだった。
そこからはあれよあれよとお祝いだーなんて話になった。そういえば昔化け形族の里の頃も、何かあればすぐに宴会だーなんてなっていた気がする。娯楽が少ない分何か催しを行うための機微には聡いようで、話はすぐに村中に広がり準備が急ピッチに進められた。そーして今に至っているわけだ。
ちなみに、村の真ん中あたりのスペースで火を焚きながらの宴会だ。さながらバーベキューである。
「じゃーリムちゃんにカンパーイ」
「……オルダークさんも何回目ですか」
といいつつも私も彼と杯を重ね合う。
「いいじゃろー? こういう時くらいしか騒ぐ事もないんじゃ。楽しめる時に楽しんでおかんとのー」
グビグビと杯の中のお酒を飲み込んでいる。オルダークさんも結構飲んでるなー。でも顔色も変わってないしホントお酒強いんだ。
「しかしおかげさんで助かったのは本当じゃ。改めて村長としてお礼を言わせてくれるなの」
「いえ別にそんな大層なことは……」
実際そんなお礼を言われる程の事ではない。ただモンスターを倒しただけだし。
「だとしても、じゃよ。もし自分達だけで対処していたらこの村のものに大事があったかもしれん。それを何事もなく対処出来たんじゃ。お主のおかげでの」
「……まー私も美味しいお肉にお酒にありつけてるんで」
ジッとオルダークさんに見つめられ照れ臭くなった私は誤魔化すように杯を掲げる。……うむ。やっぱ美味い。
「このままここにずっといてくれてもいーんじゃがのー?」
「あ! そりぇは賛成っす。リムしゃんがずっといてくれたら心じゅよいっすよー!!」
「……もうカナンはそれ以上飲んじゃダメだよ?」
赤ら顔に呂律が回っていない様子からすでにかなり酔っ払っていることがわかる。『なんじぇっすかー!? まりゃまりゃこれからっしゅよー!』なんて言っているけども、いやもうホント酔っ払いじゃん……。
「ほらお水お水」
近くにいた人にお水を貰いカナンに渡す。彼女は『こんなんわりゃしは飲みましぇんからねー!?』なんて言っているが無理やりに飲ませた。
「全く……。酔った人ってどこでも変わらないねー」
「ワハハ。カナンはリムちゃんに随分懐いてるようじゃの」
「えー? いやこの子ならみんなと仲良いでしょうに。たまたま珍しい私が気になってるだけでしょう?」
「んー? いやいやそんな事はないぞ?」
オルダークさんは自分の杯にお酒を注ぎながらに言葉を続ける。
「この子が快活である事は認めるがの。ただ自分から進んで他人に何かを求める性格ではない」
「……え? そなの?」
「ああ。むしろうちに秘めるタチでな。お前さんのような外から来たものの方がとっつきやすかったのかもしれんの」
その言葉は素直に意外で私は隣でフラフラとしているカナンを眺める。『んやー? ようやく弟子を取る気になったっしゅかー?』なんて言っている。まだ諦めていないのかと感心しつつ、でもこんなにも他人に詰め寄れるのであれば村でも上手くやっていると思うのは当然だろう。
「……まあ事情は知らないけども、オルダークさんが色々教えてあげてもいーんじゃないですかね?」
それは私が最初から抱いていた考えだ。彼なら上手に魔法やら武芸やらを教える事も出来るだろう。
「……残念ながらそれも出来なくての」
「えっと? だって貴方って」
そこまで言葉を紡いでただ途中で止める。それはオルダークさんが、なんというか儚げな笑みを浮かべていたからだ。
「……今のワシにはそんな力はない。魔法も何も、いつからか扱えなくなってしまった」
私はそれ以上追求することなく、ただその言葉を受け止めるだけだった。
「……でも、私はこの村に長くいるつもりはないですしカナンに何か教える時間もありませんよ。だから無理なものは無理です」
リーザの事もあるしリムさん達だってどうなったのか気になる。……何よりも私はこの世界では有名人だ。この村に迷惑をかけないとも限らない。だから早めに去った方がいいと思っていた。
「実はもう早々にお邪魔させて貰うつもりでいて――「――はぁ? なーにをいってるっすかぁ!?」
私の言葉に被せるようにカナンが喋ってくる。目がぐるぐると回っているようにすら見える。ありゃ。ちゃんと水を飲ませればよかったか……。
「まーだみゃーだ、この村にいりゅっすよねー? しょうすっよねー? リムしゃん?」
なんて酒臭い息を吐きながらに詰め寄られる。いやだから貴方達の事を思って私はね……。
「……のうリムちゃんや。お主がどういう想いを抱えているのかはワシも知らん。しかし少しだけでもゆっくりとしていかんか? みなきっと喜ぶ」
『幾つか空き家もある。村外れと他にもな? お前さん用に掃除しとくか』なんて言い、周りを見ると近くにいた村人達もウンウンと頷いていた。いやでもしかしなぁ……。
「……やっぱりダメです。ご迷惑をお掛けすることになるので」
「かったいのぅ……。よし! じゃあ飲み比べじゃの! 負けた方が言うことを聞くと言うのでどうじゃ!?」
「いやだからそういう問題じゃなくて……」
「よいからよいから。ほら皆の衆。ありったけの酒持ってこんかい!」
なんて宴はここにきてまたひと盛り上がりを見せる。別に誘いに応じる必要はないのだけど、私はなんでかその誘いに応じていた。グビグビとお酒を飲み干していき、少しずつ意識が曖昧になっていく。
「――ほれほれリムちゃんももう限界かのー?」
「なーにいってんだか。まだまだこれからでしょー?」
オルダークさんの声に応じてどんどんと杯を乾かしていく。結局何杯飲んだのかも覚えていない。ただ私の記憶はこの辺りで途切れ始めている。
でも、もし勝負に負けてしまったらそれならそれでいーか、なんて考えてしまったことは覚えている。自分が言っていることとは裏腹に、この温かな村で暮らすということに対して私もまた満更でもなかったのだ。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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