【2-8-1】 望郷
あの力がなんなのか結局いくら調べても分かる事はなかった。これから先も分からないかもしれない。
でもそれならそれでいい気もしてきた。あの子はアレで里に大分馴染んでいるし、私も別に今の暮らしが嫌いではない。だからあえてこの生活を崩すこともないだろう。
まあ正直に言うとちょっと退屈だけどね。刺激がない毎日過ぎる感はあるかも。だからあの子を連れてどこか旅したりして、たまに帰ってくるとか出来たら理想かな? こんな事言ったらまたうるさい顔役に怒られそうだけど。
それと、もう一つ気になって調べていた事がある。自分達の種族の事だ。伝承が正しければ私たちには特殊な力がある。今のこの姿が人族のそれに酷似しているのは、過去に力を使った名残なんて話もあった。本当か甚だ疑問だけど。
でも、その力のせいで私達の祖先は迫害された。何が悪いんだと思ったけど、自分の姿を変える事を許さない宗教があるんだとか。そして彼らによって私達は世界の隅へと追いやられた。
別に自分達の歴史に興味はない。ただその特性の使い方は知りたかった。自分が誰かになりたいわけじゃないし、誰かに取って代わられるのだって気持ち悪くて考えたくもない。
だけど、もし、もしだけど、あの子が力を必要としていて、私の身体を明け渡す事でそれが叶うのであれば、私は躊躇いなくそうするだろう。
まあそんなの、あるわけないんだけどさ。
ダリアさんに言われた道を進む。先ほどまでは平地だったが今は山の中だ。所々には目印と言っていた朽ち果てた大木や人の顔のような亀裂が入った大岩が見られ、ひとまずは正しく進んでいると理解する。その後も私はひとしきり歩き続けそしてダリアさんに言われた場所へと辿り着いた。
「さて? 本当にここがそうなのかな? ね、リーザ?」
背中に抱えているリーザに話しかける。当然回答はない。しかしなんだか随分と馴染んだ気がする。まるど田舎の農家のお母さんみたいな気持ちだ。
「えーと、ダリアさんが言ってたのは……」
言われた村は当然ながらに人目につかない場所に隠されている。大っぴらにかまえていてはアヌ教徒にすぐに見つかってしまうためだ。
「……あ。ここかな?」
目の前にあるのは凍りついた滝。氷柱が上から下へと降りてきていて壁のように一面になっている。
「……冷たっ。あでも確かに奥へいける」
ダリアさんから聞いた話だと、この氷柱のわずかな隙間に洞窟が隠れていてそこから村へと行けるのだとか。
「仕方ないけども薄暗、あれ? でも奥の方には光が見えるかな?」
多少距離がありそうではあったが先には明かりが見えている。つまりは外に繋がっているのだろう。ひとまず無事に着けそうだと安心する。
もし迷って遭難などしてしまったらそれこそ一大事だ。ダリアさんの元までまた戻ってもいいけれども、あんな別れ方をした手前格好もつかないし。
私はあと一踏ん張りと歩みを進める。その村に着いたらとりあえず温かな飲み物でも貰えたら嬉しいなー、なんて。まだどんな人達なのかも分からないけれどね。
「……あれ?」
出口に近づいた頃人影がいることに気づく。もしかしなくても村の人だろうか?
「こんにちはー」
私は警戒されないよう極力愛想良く振る舞う。ここで叩き出されでもしたら本末転倒なのだ。
「すみません。もしかして奥の村の方で――「――なんすかアンタ!? どっからきたんすか!?」
……穏やかにという私の考えは脆くも崩れ去り、奥にいた人は凄い剣幕で私に槍の刃先を向けていた。
「村の関係者じゃないっすよね!? 侵入者ってことっすか!?」
「えーと、とりあえず、落ち着いて?」
『落ち着いてなんかいられないっすよっ!!』とキーキーと目の前で怒っていらっしゃる。小柄な様子から小鼠みたいな小動物的印象を受ける。人族だろうか? いやでも耳の形が尖っている。という事は精霊族かもしれない。
「まーまー。どーどー。ほら深呼吸ー深呼吸ー」
ふーふーと鼻息を荒くしているために、一度呼吸を正してやる。彼女も彼女で素直にすーはーなんて息を吸っている。なんだかこう嗜虐心をくすぐるタイプの女の子だ。
「……それで、アンタは誰なんすか?」
「うん。初めまして。リムっていいます。ここにはダリアさんの紹介で来たんだけど――「――ダリア様!?」
また彼女の声が洞窟内に響き渡る。
「えっ! えっ! アンタはダリア様からの使いなんすか!?」
ダリアさんから自分の名前を伝えれば問題なく村に入れてくれると聞いていたが、ただこんな反応をされる辺りあの人って実は凄い人なのだろうか?
「うん。まー、使いってわけじゃないけども。さっきまで会ってて村を紹介してもらったんだ。ちょっと休ませて貰えないかな?」
「さっきまで会ってた!? ダリア様と!?」
今度はきゃーきゃー言っていらっしゃる。私は一向に話が進まないなーなんてボンヤリと思いながらも、彼女が落ち着くのを待っていた。
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