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異世界転生したら、世界の敵になりました。【続】  作者: 篠原 凛翔
【第2部】 重なる足跡

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【2-7-3】

 それからは会話も程々に私はリーザも隅に置かせてもらい、背を伸ばす。凝り固まった筋や骨が伸びてパキパキとなった。


「あー、疲れたー」

「大変でございましたね。本当ならベッドなどご用意出来ればよいのでございますが。お連れ様は寝ていらっしゃるのでしょう?」

「ええ。でも休憩出来るだけで本当に有難いですよ」


 リーザもずっと同じ体勢では疲れてしまうだろうし。


「しっかしどうしたもんでしょうね。あんまり遠出の準備もしていないしなぁ……」


 元々はレナードの元へ行くつもりだったので最低限の装備しかないのだ。


「……それでしたらやはりフクローランへと行かれてはいかかでございましょう?」

「うーん、いやー、まーそうなんですけどね」


 フクローランに行けばそれはきっと行商なんかもいるのだろうしマグシアまで同行させて貰う事も可能だろう。ただもし私だとバレとしまったら大変な事になるのは間違いない。それこそ街全体、いや国全体が私の敵に回る事だろう。


「何かフクローランに行く事は問題が?」


 私の煮え切らない反応にダリアさんがおずおずと質問してくる。


「……ええ。なんというか、アヌ教とはちょっと因縁がありまして」

「まぁ。そうなのですね?」

「ええまあ。あはは」


 とりあえず笑って誤魔化す。自分がスーニャなんですなんて話したところで信じて貰えるかも分からないけども。


「……アヌ教が何かリムさんにご迷惑をお掛けしていたなら、謝らせてください。申し訳ございません」

「え? いやいやダリアさんに謝られる事ではないのでー」


 実際彼女には関係ない話なのだけど、なぜ彼女はアヌ教を庇うようなことを言うのだろうか? ダリアさんもまたアヌ教によって捕えられてる身だろうに。


「それに私の場合は、ほら何というか自業自得というか自分で選んだ結果っていうかー」


『だから別に気にもしてないですしー』なんて彼女に伝える。ただそれでもダリアさんは何だか神妙そうな表情を浮かべていた。


「……えっと?」


 その様子から私は何だろうかと彼女に話しかける。


「……いえ私はけして無関係というわけではありません」

「え、でもほら? ダリアさんはアヌ教徒ではないでしょう? なんでか知りませんが今囚われているわけですし」


 むしろ彼らと敵対していたとかその辺りではないかなんて思ったり。アヌ教ってかなーり過激だから。


「いえ私はアヌ教徒でございますよ。……元がつくのですけれども」


 あれそうなのか。そういえばダリアさんと最初に会った時確かアヌ神がなんちゃらと言っていた。ただそれよりも気になるのは彼女が後から付け加えた情報だ。


「……元、っていうのは?」


 アヌ教って途中でやめるのは御法度なのではないだろうか。だってリーザだってあんなにも追いかけられていたわけだし。私の質問にダリアさんはニコリと頬を緩めた。


「私は今でもアヌ神は信仰していますよ。しかしもうアヌ教は信仰していないのでございます」

「……だから、元?」


『ええ』と彼女は頷く。


「ここに囚われているのもそれが関係しているんですか?」


 踏み込んだ質問であることは分かってる。でも何だかダリアさん自身も聴いて欲しいように思えたのだ。


「……ええ。その通りでございますよ」


 そこから少しの間彼女は黙っていた。


「……ダリアさん?」


 何かを逡巡している様子に私は声をかけてみる。彼女はハッと此方を向いてきた。


「いえこれは失礼しました。昔の事を思い出していて……」

「そう、ですか? ……大丈夫ですか?」


 その言葉を彼女に送ったのは、彼女が辛そうにしていたからだ。


「はい。……大丈夫でございますよ」


 その言葉はハッキリとしたもので、今までのどのものよりも力が込められていた。


「……私はアヌ教に自分の全てを注いできました。その為にどんな事でもしました。本当に、どんな非道いことだって。でもそんな私がその考えに疑義を持ってしまった。信仰に曇りが生まれてしまった。――アヌ教に、背いたのです」


 彼女の過去に何があったのかは分からない。でも悪い人であるようにはどうしても思えなかった。はたしてどんな事情だったのだろう。それに、それとは別に聞きたい事があった。


「一つ、聴いても?」


 想像通り彼女は頷いてくれる。これは、踏み込んだ質問だ。だがここまで話しているのだから今更だろう。


「――貴方はその判断を後悔していますか?」


 彼女は自分の全てをアヌ教に捧げてきたと言っていた。それであればアヌ教とは彼女そのものと言っても過言でないだろう。その自分自身を否定したという事実に、彼女はどう思っているのだろうか?


「……後悔、でございますか?」

「ええ。すみません。踏み込んだ質問であることは分かっています。でも聞いてみたくて」


 自分のその判断が正しかったのか。誤っていたのではないか。人間はどんな事でもそんな悩みを抱えている。ダリアさんはきっと本当であればこんなところに入れられる人ではないはずだ。


 ただその判断によって全ては変わった。見窄らしく汚れた服に身を包んで自分の世界はこの牢獄だけになった。視界すらも閉ざされた。後悔したとしてもおかしな話ではない。


「……」


 ダリアさんはまた黙り込んでいる。やっぱりまずい質問だっただろうか。私は慌てて彼女へと声をかける。


「……すみません。不用意な質問で――「――ございませんよ」


 私の言葉に彼女の言葉が被さる。ハッとダリアさんを見る。


「後悔なんてあろうはずがありません。それに、そんな資格すら私には無いのでございますから」


 彼女は寂しそうに笑っている。その笑みと言葉の背景は私には分からない。ただ私にとってはいたく共感するものだった。


「……事情は分かんないけどさ」

「はい?」

「もしもしここから出たいなら、出してあげてもいーよ?」


 私の言葉にダリアさんは驚いていた。私も自分で何言ってるんだろうと思う。でもなんだか放っておけなかった。それに、会ったのも何かの縁だ。同じアヌ教に睨まれているもの同士、仲良くしたってバチなんて当たらないだろう。


「せっかくのお言葉なのですが……」


 まあ断ってくるのは想定済みだ。


「でもここに囚われる前には、貴方は何かを為そうとしていたんでしょ? それが今ずーっと囚われているだけじゃ何も出来ないんじゃないの?」

「それは……」


 私の言葉に少し迷っているようだ。さらに私は言葉を被せる。


「もし迷惑になるなんて考えてるんなら気にしなくていーよ?」

「いえ、しかしそういうわけにはいかないでしょう……?」


『大丈夫大丈夫』と返すと、それでもダリアさんは渋っている。まあ確かにそれは当然かもしれない。私だって普通なら断ってしかるべきだと思う。


「別に貴方を助けたところで私の立場は変わらないよ。だって、私は世界の敵そのものなんだからね」

 

 ただあいにく、私は普通ではないのだ。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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