【2-5-1】 蠢動
「貴方は何故そこまでするのですか?」
身体を地面に投げ出して粗い息を吐く。はー? アンタも知ってるでしょーに。
「……そんな事をしなくても、いずれは皆貴方達を認めますよ。今はただ驚いているだけです。時間が経てば分かってくれます」
それで弟が傷つけられた事も許せと? ……ふざけんなって話だ。
「貴方の気持ちのままに行動すれば、解決するものもしなくなります。それが分からないわけではないでょう?」
暗に私の行いを責めているんだろう。相手はボコボコにしてやったから。でもザマーミロだ。あの子は大人だから流していたけれど、私はそんなの許しやしない。やられた分はやり返す。
でもそのためには力が必要だ。悔しいけれど、魔法はやっぱりいくら試しても無理だった。であればと剣技を修めることにした。昼に大人達から教わり夜には一人で訓練をする。時間なんていくらあっても足りやしない。
「……貴方達は私達の里の仲間です。それはどうか忘れないでくださいね」
彼女の声が遠くに聞こえる。でも私の意識は既に訓練に向いていて、その声なんて気ほども私の耳に残る事はなかった。
「――リーザ?」
私は寝ている彼女へと話しかける。
「……」
ただ彼女はうんともすんとも反応をしない。
「本当にスヤスヤよく寝るねー」
私は彼女の髪の毛を撫でる。ギィ達と会ったあの日から今日まで、リーザはただただ寝続けていた。
「もうどれくらいになりますかねー?」
ジーが指を折りながらに数えている。
「いや、いーよ」
私はそれを止める。聞いたところで虚しくなるだけだ。
「……リーザー。早く起きないと甘いの全部モノに食べられちゃうよー?」
なんて言ったところで、言葉はただ部屋の中に響くだけだ。
「ほーんといつに起きることやら、だね」
「……ええ。お寝坊さんで困ってしまいますね」
肩をすくめた私にジーが合わせてくれる。こういう時の彼女の気遣いは素直にありがたかった。
「起きたら、寝過ぎ! って怒ってあげないといけませんね」
「ねー。そん時はうんと怒ってあげよ。普段リーザを怒る機会なんて滅多にないからね」
怒って怒って、そしてギュッと抱きしめてやろう。本人は何事かと思うだろうがそんなの気にしない。だって、それくらいは許されるでしょ?
彼女の手術自体は成功したと聞いた。実際呼吸も整っているし血色もいい。傍目からみると本当にただ寝ているように見える。それも気持ちよさそうに。
「……起き上がったらリーザはどうなってるのかな?」
リムさんから聞いた話では私の身体を移植したと言っていた。この身体の、一部を。その影響からか生命維持のための栄養摂取なんかも何も必要ないのだとか。
「……正直どのような形で目覚めるのかは予測もつきません」
ジーは慎重に、言葉を選んでいる様子だった。
「リーザちゃんの身体は、貴方が知っているように身体が欠損する大怪我を負っていました。でも貴方の身体を移植することで命を繋ぎ止めた。……他に方法はありませんでした」
「それはいーよ。何とかして救ってやってって頼んだのは私だしね。……とはいえそんな方法を取るとは思わなかったけどさ」
文句を言えない立場であることは理解しつつも、予想だにしない手法ではあった。いや一番手っ取り早いってことは分かるけどさ。まさか本当にそんな事やるとは思わないじゃん? リムさんがほくそ笑んでいる姿が目に浮かぶ。
「あはは……。でもご主人もかなりご執心みたいでしたよ? 移植はスーニャの時以来でしたからね」
「あそーなんだ? てっきり頻繁に何かやってるんじゃないかと」
「あー、それはご主人の前では言っちゃダメですよ?」
「ん? そなの?」
「ほら。家の問題とか……」
「……あ゙」
つまりしたくても出来なかったと。……ジーから聞いておいて良かった。下手な事を言ってたらそれこそリムさんに殺されていたところだ。
「ですからご主人もリーザちゃんの容体は気に掛けてるんですよ? 生き残ること自体稀有な例なんですから」
「えーでもさ。随分と厄介そうな反応じゃなかったー?」
レナードやマーニャさん達と相談をした時、追い出されるんじゃないかという剣幕だった。
「ふふっ。あの方も素直じゃないですからね。本心は2人のことも心配しているんですよ」
いや本当にそうだろうか? まあでもジーがそう言ってくれるなら、いやでも……。『スーニャの時もそうでしたが、頻繁に様子を見にも来ているんですよ? 内緒なんですけどね』なんて言われると本当にそうなのかという気もしてくる。
「きっとリーザちゃんが起きたらご主人も喜びます。その時はお祝いしてあげないといけませんね」
「私の時みたいに?」
「はい。ケーキも用意しないとですね」
「それはいーね、リーザもきっと喜ぶよ」
『それにモノやククルもね』『食べ尽くされないようにしないといけませんね』と二人で笑い合う。
「とにかく、早く起きて貰わないとねー」
私はリーザの額を人差し指でペシペシと叩く。『怒られちゃいますよー?』なんて嗜められるが知った事か。それにそれで起きてくれるならそれはそれでいいのだから。
「ま、もう少し様子を見てみよっか」
いずれにせよ今は待つしかない。『また様子見にくるよー』なんて反応がない事は理解しながらも声をかける。早めに目覚めてくれる事を祈りながら
ただ世界はそんな私達を待ってくれるほど甘くはなかった。
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