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異世界転生したら、世界の敵になりました。【続】  作者: 篠原 凛翔
【第3部】 うつろわざる世界

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【3-10-2】

 バルディアに着いた私達は一応顔を隠しつつマーニャさんの元へと向かった。街の中は相変わらずの賑わいだったがチラホラと使徒と思われるもの達もいた。若干だが以前よりも緊張感のある空気が流れているように思えるのは、けして間違いではないだろう。


「なんか変な感じだねー」

「……おかしな事するでないぞ? バレたら洒落にならん」

「分かってるって」

 私達はコソコソと人混みに紛れながらに街の中を進む。ふと前方に人集りが出来ていた。

「ん? あれって……」


 どうも演説か何かをしているようだ。木箱の上に人が乗り群衆へ話しかけている。私達が目的とするマーニャさんの元へは他の道は無く隣を通って進む他なかった。


「――この世界は今転機を迎えています。我々は変わらなければならない。アヌ神のご意思を今こそ実現すべきなのです」


 嫌が応にもその声は耳に届く。話している人物はどうやらアヌ教徒のようだった。


「なぜ我々が恐怖に怯えなければならないのか? なぜ貧しい生活をしなければならないのか? どうしてこの世界はこうも無慈悲であるのか!?」


 身振り手振りで話すその様はいたく群衆の心に響いているようで彼らは熱心に話を聞いていた。


「全てはこの世界に悪が存在するから! 彼奴らを根絶やしにしない限りこの世界はいつまでもこのままです!」


 悪、かぁ。……それってやっぱり私の事を言ってるのかな?


「アヌ神の教えこそが正義。なぜならこの世界を創りたもうたのはアヌ神に他ならない。全てはかの御方の望む通りに作られている。それに背くから歪みが生まれる」


 なるほど。宗教的なものって今まで縁遠かったけれども、こうして聞いてみると若干興味深い部分もある。例えばなぜ世界が今の姿になっているのかとか。


「我々は立ち上がらなければならない。今こそこの世界に火を灯しましょう。アヌ神の教えで世界を光で満たすのです」


 彼の言葉に群衆は歓声と拍手を持って応じていた。私はそれを冷めた目で見ている。当然共感なんて出来よう筈も無いのだけれども、ただもし立場が違えば私も同じようにしていたのだろうか。熱い眼差しを向け高揚から声を上げて、あらん限りの力で手を叩いただろうか。……いや、ないな。想像したらあまりに今の自分からかけ離れていて笑ってしまう。


 ただその姿はどうも演説をしていた男性の目に止まってしまったらしい。


「そこの貴方。今何故笑ったのですか?」


 私はキョロキョロと周りを見渡す。ただ明確に指を刺され『貴方ですよ』と言われてしまう。こうなると誤魔化しようもなく、隣ではドミニクのため息が聞こえた。


「貴方は今幸せですか?」


 別に逃げてしまってもいいのだが、ただそれはそれでまた目立つ。ならここは無難にこの場を濁しておいた方がいいだろう。


「……まあ幸せっちゃ幸せだよ」


 そういえば自分が幸せだとか不幸だとか、久しく考えていなかった。前世の時は何故自分はこんな境遇なのかと嘆いていたものだったが。


「よかった。この世界は痛みに溢れている。そんな中で幸せなのであれば、きっと貴方にもアヌ神のご加護が届いているのでしょう」


『はぁ……』と曖昧な返事を返す。アヌ神のご加護かぁ。かなーり縁遠いものだと思うけども。


「ただ全てのものには終わりがつきものです。貴方の生涯を幸福の内に終えられたとしても、必ず身体も記憶も意識さえも失う。そして誘われるは永遠の地獄。光さえささないただひたすらの闇」


 群衆達が顔を曇らせ呻き声をあげている。ただ彼は皆に大丈夫だと伝える。


「我々の行いをアヌ神は見てくださっています。正しい行いをすれば貴方もまたアヌ神の元へと還る事ができる。永遠の安寧を享受出来るのです」


 ん? 話がよく分からなくなった。えっと、つまりは。


「――貴方達って、つまり死後の為に生きているわけ?」


 私の言葉に呆気に取られた表情を浮かべる。群衆もポカンとしていた。


「これ!! ……すみません。この通りのものでして。ほらもう行くぞ!!」


 ドミニクに腕を引かれてその場を急ぎ足で立ち去る。彼らの視線を背に感じたものの、当然私達が立ち止まる事はなかった。


「まったく!! 目立つ事はするなとあれほど!!」


 距離が離れた頃にドニミクのクドクドとしたお説教が始まった。私は謝りつつも、ただ釈然とはしなかった。だっておかしな話じゃないか。生きている今をこそ、救って欲しいはずなのに。

 

「……こりゃまた随分と珍しい組み合わせやね?」

「まーね。話せば長くなるけど?」


『ならええですわ』とマーニャさんはバッサリと話を切る。


 私達はすぐにマーニャさんの館へと辿り着いた。いつもの執事の男性が出てきて、前よりも更に引き攣った表情を浮かべていた。毎度毎度申し訳ない気にもなるけれど、どうか勘弁してほしい。別に私も迷惑掛けるつもりなんて毛頭ないのだ。……いや本当に。


 そして私達はマーニャさんの部屋へと案内され今に至っている。現れた私達を、というよりは私を見てまるで死人でも見るかのようだったことには何も言うまい。


「何より無事でよかったですわ。まさかそんな悪徳商人と一緒とは思いませんでしたけども」


 マーニャさんはジロリとドミニクの顔を見る。ドミニクはドミニクでそんな事気にも留めてない様子だったが。


「ドニミクが悪徳だってのは置いといてさ。今ってどんな状況ですか?」


『おいちょっとお前……』なんてドミニクの言葉は無視して話を進める。実際フクローランだけじゃなくマグシアの様子だって詳しく分かっていないのだ。


「うーん随分と曖昧な質問やなぁ。ただよくはないですね」

「私が言うのもなんだけどこれまた随分と意図を掴みにくい回答ですね……」

「あはは。……でもな、真面目に答えると貴方にはキッツイ状況と思いますよ?」  


 ん? それはまたどういう意味で? と私がマーニャさんへと視線を向けると、彼女はコホンと咳払いをして私へと向き直る。


「一緒におったリーザちゃん。いたでしょう?」

「リーザ? ……ええ。それがどうしたんです?」

「うん。まぁそうなんやけども……」


 どうにもマーニャさんの歯切れが悪い事をみると、悪い話なのだろうとは感じ取れた。


「……聞いても早まらんで下さいよ?」

「なにさ? ほら早く言ってよ」


 なんだかマーニャさんと話す時って大体似たような事を言われる気がする。ドミニクといい私を何だと思ってるんだか。そして彼女は意を結したように口を開いた。


「――リーザさんの処刑が執り行われるようです」


 私は目の前が真っ暗になったかのような錯覚に陥る。……ほらやっぱり思った通りに、いい話なんかではないのだ。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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