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異世界転生したら、世界の敵になりました。【続】  作者: 篠原 凛翔
【第3部】 うつろわざる世界

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【3-9-3】

 車中に緊張した空気が流れました。先ほどでの喧騒が嘘のように静まり返っています。


「……私が出るよ」


 リムさんが馬車の縁に足を乗り出し今すぐにも外へと出ようとしています。


「待て待て! どうするつもりだ!?」

「んなこと決まってんでしょーが。……戦うだけだよ」


 私は慌てて身体を起こしリムさんの服を引きます。


「リーザ。大丈夫だよ。ほら知ってるでしょ? めっちゃ強いしさ。どんな傷もすぐ治るし。心配いらないって」


『大丈夫大丈夫ー』なんて手をヒラヒラとさせていますが、けしてそんな簡単な話ではないはずです。だって相手は神様そのものなのですから。


「……死ぬぞ?」


 イオリのその言葉にリムさんは一瞬ピクリと身体を揺らしましたが、そんな事を吹き飛ばすかのように笑い始めました。


「あははっ。なに? 心配してくれてんの?」

「お前なッ!! 本当に分かって――「――分かってる。だからこそ私が行くんだ」


 リムさんの言葉はとても力強くて、イオリは気圧されているようにすら見えました。


「そもそもこの状況を招いたのは私だし。そうするのは当然でしょ?」


 あっけらかんとしている様子ではありましたが、ただ軽薄なものではありません。むしろ覚悟を感じさせるものでした。



「……別にアンタだけに背負わせるつもりはねーよ」

「ん。分かってるよ。まここは任せときなさいな。……彼方さんももう待ちきれないみたいだしさ」


 リムさんの視線に釣られて、外を見るとそこには先ほどよりも更に距離を縮めた使徒達が見えました。そしてその中にはギィ様の姿も勿論あります。彼女は私達の視線に気づいたのか、ニヤリと笑みを浮かべていました。


「……あー、ったく。あんなのを信奉する奴らがいるってホント信じられないけど」

「悪かったな元信者で」

「あっは。確かにそーだった。ここにいたわ。今度その辺りのことゆっくり聞かせてよ? っと。そろそろかな」


 使徒達から放たれた魔法は、少しずつですが私達へと届き始めていました。リムさんやイオリが抵抗しようにも数が余りにも多すぎるのです。それらを全て防ごうというのには無理がありました。


「……大魔法で足止めさせるという手はないのかの?」


 ずっと黙っていたドミニクさんが会話に加わってきます。確かにそれなら私たちが逃げる時間を稼ぐ事が出来るかもしれません。


「それは無理だ」


 それを否定したのはリムさんではなくイオリで、彼女は首をふるふると横に振っていました。


「今この場でそんなことしようもんなら、今の私達の足場にも影響しかねない。そうなると逃げるどころじゃあなくなる」


『あいつらもそれが分かっているから下手な魔法を放ってこないだ』という言葉に私は納得してしまいます。


「ま、やっぱり結局私が行くしかないってこと」

「……別にアンタだけじゃなくてもいーだろが。俺も付き合うぜ?」


「イオリまで一緒に来たら誰が二人を守るのさ? 本末転倒じゃん? だからこれでいーの。それとリーザ?」


 リムさんはしゃがみ、私を抱きしめてくださいました。


「ちょっとだけ離れ離れになっちゃうけどさ、またすぐに追いつくから。だから大丈夫だよ」


『ヨシヨシ』とリムさんは私の頭を撫でて下さいました。


「あー行き先はそうだね。とりあえずはバルディアとかかな? マーニャさん辺りに会えばそう悪い扱いはしないでしょ」


『なんじゃ? アイツと知り合いなのか?』『まーちょっとした関係で。ってドミニクも?』『商人でマーニャレスカを知らん奴はおらん』とお二人は話を進めていますが、私はカケラも耳には入りませんでした。それよりももっと考えるべき事があったからです。


 リムさん達は私の為にここまで危険を冒して頂きました。それはとても、とても嬉しい事です。本当に、心から。でも、私のために誰かが犠牲になることは絶対に嫌です。……ダリアお母様のようなことは二度とさせたくありません。いや、させてはならないのです。


「んじゃそろそろ本当に追いつかれちゃいそうだからさ。――リーザどうか幸せにね」


 最後の言葉はとても小さく、きっと伝えるつもりはなかったのでしょう。でも私にはよく聞こえて、そしてその言葉を受けて私の胸の中でどうすべきなのかが決まりました。


「ほらリーザ。そろそろ行くから。手を離してくれる?」


 リムさんは私の手を取ります。ずっと私はリムさんの服から手を離さないようにしていました。どこへも行かせないために。


「……ほら、リーザ?」


 私はリムさんの声には応えません。ごめんなさい。だって、行かせたらギィ様と戦うのでしょう? そうしたら、貴方は生命を落としてしまうかもしれない。そんな事、私にはもう耐えられないのです。


 ――だからごめんなさい。どうか許してください。


「……なに、リーザ? これ!?」


 私の手元から氷がリムさんを包んでいきます。当然それは私が操るもので、私の意思の通りにリムさんの手から身体へ広がっていきます。


「炎でも溶かしきれない!? ちょっと、リーザどういうつもり!?」


 リムさんだけではなくイオリやドミニクさんも慌てていました。止めようともされましたが、この氷はどうやら特殊なようで傷つけても即座に再生するようでした。


 本当にごめんなさい。でもこうする他思い浮かばなかったのです。音が出ない口を開き、私はせめてもと自分の意思を伝えます。 


「……なにを言っているの? ありが、とう? さよ、うなら? リーザ、どういう――」


 氷がリムさんの全身を包んだ事を見届けて、私は馬車を飛び降りました。すぐさま使徒達、そしてあの方もまた私の目の前へと辿り着きます。


 私はふうと息を吐きそして彼女を見つめました。願うことはただ一つだけ。

 

 ――ギィ様、どうか皆を許してください。私は殺して頂いて結構ですから。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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(……でないと、力尽きるかもしれません)


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