【3-9-2】
後ろを見ると、使徒達との距離は少しずつ開きつつあるようです。たまに火の玉のようなものがこちらへと向かって放たれていますが、届くほどのものではありません。
私はイオリの服をクイッと引きました。彼女はちょっとだけ驚いた表情を浮かべます。ああ。当たり前なのですが確かにイオリがそこにいます。
「ごめんなさい。突然で驚いたでしょう……」
その口調は先ほどまでのものとは別で、昔のイオリを彷彿とさせるものでした。
「貴方がどうされているかずっと心配でした」
それはこちらのセリフです。ずっと、ずっとずっと心配でした。ご無事でしたか? お身体に変わりはないですか? 一体どんな日々を過ごされてきたのでしょうか。
「ふふっ。今貴方が言いたい事が手に取るように分かりますよ」
『言葉なんて必要ないのかもしれませんね』なんて笑っていました。それに釣られて私も笑います。まるで昔に戻ったかのようでした。
「……全然違うのぉ」
「ねー。ふふっ、だなんて。ふふっ」
『お! 今の似てたぞ!』『まじ? 持ちネタ一個ゲットかな?』なんて外野の声にイオリは青筋をピクピクと立てています。
「ワシらにもあれくらいの塩らしさを見せてくれてもいいと思うんじゃがなぁ? 顔面だけはいいんじゃし」
「……ドミニク、テメー後で覚えとけよ?」
「冗談、冗談だぞい!?」
慌ててドミニクさんが訂正に入りました。それでもイオリは怒りが収まらないのか剣を抜こうとしています。それをリムさんが慌てて止めていました。
その様子を見て私は笑ってしまいました。だって、まるで先ほどまでの逼迫感が嘘のようでした。私を見てイオリもまた困ったような笑みを浮かべながらに笑っていました。
「まリーザに免じて許してやる。……次はねーからな?」
イオリはギロリと二人を睨みつけました。ドミニクさんもリムさんも『はいはい』なんて言っています。……適当に返しているわけではない、はずです。
「でだ。リーザ。驚いただろうがこれが今の俺だ。あの時話していた通りにな」
『覚えているか?』と聞かれ当然と私は首を縦に振ります。あの時というのはイオリがフクローランを去る時、その時に彼女は私に言っていました。次に会う時は口調を変えているかもしれないと。そしてそれを実施した姿が今なのでしょう。
「随分と色んな所を見た。沢山の人にあった。裏切られることもあった。助け合う事もあった。それらの過程を経て、今の俺がいる」
イオリは噛み締めるようにその言葉を吐いています。私はどうしても聞きたい事がありました。それを伝えるために、彼女の手を取り文字を書きます。
「ん? どうした?」
イオリは怪訝そうにしてはいましたが、一文字ずつ私の書いた文を理解していきます。
『後悔していないですか?』と私はそうイオリの手に書き込みました。彼女は少しだけ驚いた顔をしながら、そして曇りなく私へと笑いかけてくれました。
「ないよ。この選択を後悔したことはない」
その姿は私の心をいたく打ちました。私は、私はどうなのでしょう? イオリのように自分の考えを持って、それに殉じる事が出来ていたでしょうか?
ふとダリアお母様のお言葉が頭に浮かびました。『思うがままに生きてください。私が望むのはただそれだけです』とそうおっしゃっていました。思うがままに生きるというのは、一体どういう事なのでしょう。
「……感動の対面なのもいーけどさ。ちょっとヤバいかもよ?」
リムさんの声でハッと意識が戻ります。イオリもその声を受けて馬車の後方へと目を向けました。
「思ったよりも早いなぁ……。追いつかれるとは思えないけどもさ」
後ろからは馬に乗った使徒達が多数此方へと向かってきています。私達は馬車に乗っているのですから、どうしてもアチラの方が速いのです。
「ドミニク?」
「……これ以上は無理じゃぞ。馬の足を痛めてしまう」
「ならさ、イオリ?」
「ああ。遠隔魔法なら幾つか覚えがある。応戦するしかねーな」
『リムもやれよ?』『分かってるって』なんて会話をしながらに、お二人は馬車の背に向かいます。
「おーおー。アチラさんはやる気満々だね」
「こことない機会だからな。……アヌ神の想いに応えるための」
「共感出来ないけどねー。でもま、邪魔するなら抵抗させて貰うよ」
リムさんは使徒達へと手を向けます。同時に見えない圧力のようなものが彼らへとぶつかり、馬から落ちる人、その場に止まる人、躱し此方へ接近してくる人もいました。
「ヘタクソなだなー。こういう風には出来ねえのかよ?」
イオリは氷の礫を魔法で作り使徒達へと放ちました。それはまるで雨霰のように使徒達へと襲いかかります。
「ほらな?」
「あんまり強くやると私達まで影響出ちゃいそうだから加減が難しいんだよ!」
わーわーと話しているお二人を若干羨ましく思います。私も魔法を扱えたら、混じる事が出来たでしょうか。
そういえばと私は昔にジーさんに教えて頂いた魔法を試してみます。身体は絶不調ではありますがもしお力になれるなら。だって皆さんは私の為に戦ってくれているのですから。
グッと力を込めて頭の中に氷のイメージを作ります。――それは、思った以上に簡単に私の手元に浮き上がりました。
……え? いや、でも、何ででしょうか? だって前にはどれだけ試しても全然ダメだったというのに。でもそれでも都合が良いことには変わりありません。これなら私もリムさん達のお手伝いが出来るかも。
私はお二人に伝えようと身体を動かしました。魔法が使えるようになりましたと。私も加わりますと。――それなのに、私の身体は言うことを聞きません。足がもつれて顔から倒れてしまいます。立ち上がる事すら、出来ません。一体どうしてしまったんでしょうか。
「ドミニク!! もっと飛ばせ!」
「これ以上は無理だと何回も――「――ギィ様だ」
イオリの声は、焦りと共に絶望の色が含まれていました。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――
評価・ブックマーク・ご感想という形で、どうかあなたの想いをお残しください。続きを書く励みになります。
(……でないと、力尽きるかもしれません)
※評価は星マーク、ブクマはお気に入りからお願いします。




