【3-8-2】
「イオリ! ……と誰?」
「お前な!! いいから早くこっちこい!!」
イオリに手を引かれて慌てて物陰に入る。橋のすぐそばには建物が建ち並んでおり大通りの他に路地もある。この暗闇の中で身を隠すにはうってつけだった。
「お前! ぜんっぜん話がちげーだろうが!!」
「あーもうそんな怒鳴らないでよ……」
イオリが耳元で怒鳴り声をあげたためにキーンと甲高い音が耳の奥で反響する。
「今はそんな事してる場合じゃないでしょー。ほらあっちにはもうワンサカ使徒達が迫って来てんだから」
松明を焚いているのだろうが。淡い光が遠目にも見えかなりの数が橋から此方へ向かっているのがわかった。
「嫌な予感がして橋の方に来てみたらこれだ。作戦もクソも――」
イオリが言葉を止める。どういう事かと思ったけれどその表情を見て合点がいく。……そうだよね。貴方も待っていたんだものね。
「――うん。リーザつれてきたよ」
「……ったく。こんな再会のつもりじゃなかったんだけどな」
イオリはリーザに近づいて『……久しぶり』とだけ言いすぐに背を向けた。リーザはポカンとした表情を浮かべ見る見る表情を変えた。私は『え? それだけ?』と言うとイオリにジロリと睨まれた。
「こら。こんなこと話している場合じゃねーだろ。おい! そんでどうすりゃいいんだよ?」
イオリの声に反応してフードをあげ現れたのはアダムだった。
「ええ。まずはリムさん。ご無事で何よりでしたね」
「……アンタ私達と一緒にいる所見られたら不味いんじゃないの?」
「もちろん。ただそうする他ないと思いましてね」
アダムは全てを想定済みであったらしい。作戦が上手くいかなかった時の状況の事も含めて。
「私の言う事なら彼らも信じるでしょうからね。誤った場所へと誘導することも可能でしょう」
「……もしそもそも私たちがここまで辿り着けなかったら?」
「……そうならなくて良かったです。さて早く動きますよ」
若干釈然とはしないもののどうせ追求した所でのらりくらりと躱わされるだろうしまあヨシとしよう。
「ではリムさん達は路地からお逃げください。道はイオリが分かります。私は先ほど伝えた通りに」
暗闇の中で頷く。確かに悠長に話しているヒマはなかった。
「……申し訳ございません。一つだけ聞かせてください」
「ん? なに?」
「――もう一人、いませんでしたか?」
曖昧な質問だった。ただすぐその意味は分かった。
「……いなかったよ。私達だけ」
アダムはリーザへと目を向ける。彼女は身体を震わせながらに首を振り目を伏せた。その反応を受けてアダムは目を見開き、イオリは信じられないと口元を抑えていた。
「そう、ですか。……いえすみません。もう別れましょう」
私が声を掛ける暇もなくアダムはその場から離れていく。イオリもまた『おい行くぞ』と踵を返して歩き始めたので、私は慌ててその背中を追った。
私達は路地をクネクネと右へ左へと移りながらに移動する。遠くからは微かに話し声が聞こえた。アダムが撹乱しているとはいえ油断は許されない状況ということだ。少しでも早くこのフクローランから抜け出した方がいいだろう。
「……そんなに大事な人だったの?」
私は走りながらにイオリへと聞く。
「あぁ? んなの当たり前だろ。あの人は――。いやそういやアンタはアヌ教の事も何にも知らなかったな? だったら知らなくても仕方ねーか」
話の途中でイオリは合点が言ったという表情に変わった。
「……うぅ。ああぁ」
「あれ? リーザ。喋られるようになったの?」
ウンウンと頷いている。以前よりも大分声が出るようになった気がする。
「特にリーザにとっては、な。彼女の母親がそこにいたはずなんだ」
「えっ。母親?」
「うぅ……」
「ああ。アダムや俺はその人も助けたかった。私達だけじゃない。アヌ教徒や使徒の中にもそういう奴はたくさんいる」
「そっか……。ごめん」
『何を謝るんだよ』なんて言っていたがそれくらいしか言葉が浮かばなかった。
「むしろリーザを助けてくれてありがとよ。そっちだって間一髪だったんだろ?」
イオリはどうやらアダムからあらかたの事情は聞いていたらしい。
「あれ? ならあんな怒らなくても良かったんじゃ……?」
「……さて行くぞ」
『おいこら』と肩を掴む。
「こっちは命張ってきたんだからさ。ちょーっと誠意くらい見せて欲しいもんだねー?」
「……分かった分かった。悪かったって。アンタに何かあった時は俺も命を賭して借りを返すよ」
うんうん。まあ実際はこっちが勝手にやったことなんだからそんなに恩義も何も感じなくていいのだが。助けてくれると言うなら断る必要もないだろう。
「……それとさリーザとは話さなくていーわけ?」
リーザに聞こえないようコッソリと話しかける。
「だからそれはまた今度な。……こっちにも色々とタイミングがあんだよ」
ぶつぶつとそんなことを言っていた。まあ照れ臭いやら何やらなんだろう。確かに元々はこんなバタバタとした状況で会う予定ではなかったわけだし。でもリーザもイオリをチラチラと見ているのだ。お互い気にはなっているのだろうし、覚悟を決めて話してしまえばいーのに。
「とにかく今は先に進むことだろうが」
そう言ってイオリは前方へと進み続ける。大分街の中を進んだはずだ。ここまで誰とも遭遇せずに来れたのはひとえにアダムの尽力の賜物だろう。
とはいえ誤魔化すにも限界がある。そう遠くない距離には使徒の気配がしていた。
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