【3-7-3】
空気が冷えていくのを感じました。温度が数度下がったのではないかというほどに。
「へぇ? それがお前の決断?」
「ええ。この選択に後悔もございません。……貴方のお考えは間違っている」
「……ふふっ。あははっ。アハはははハハハハ。キャハははははははっ!!」
ギィ様のその笑いはとても無邪気で、まるでただの少女のようで、ただそれが私にはより一層不気味に思えてならなかったです。
「ダリア!! 今すぐ訂正なさ――「――プリエール? 黙れ」
その声にウッとプリエールさんは黙りました。
「……はぁ。久方ぶりに笑った」
ギィ様はクルリと後方へと振り返り、アヌ神達が描かれたステンドグラスを見ています。
「これもまた、アヌ母様のご意志という事かねぇ?」
「……アヌ神もお分かりになるはずです。私の想いと、アヌ神があなた方太古の神々へ向けるそれはきっと同じ――「――黙れ」
それは今までにない強い怒気を孕んだものでした。ギィ様はこちらを振り返る事はしませんでしたが、ただまるで睨みつけられているかのように感じました。
「母を語る事は許さない。彼女とお前達は全くの別。あの方は……」
途中で言葉が止まります。ギィ様はフルフルと頭を振ってこちらへと振り返りました。
「……証明してみればいい。 ――お前が正しいと言うのであれば」
「ッ!!」
ダリアさんは立っていた場所から飛び退きました。そして剣を構えます。
「ダリア!! ギィ様に剣を向けるなんて――「――プリエール?」
また声を上げたプリエールさんを静止します。
「しかし――「――これ以上は言わない」
納得いかない様子ではありましたが、プリエールさんはまた後ろにさがります。
「……ダリア。ほらお前の力を見せてみろよ」
ギィ様は両手を広げいつでもどうぞと言わんばかりの姿勢です。ダリアさんは少しの間目を閉じて、ゆっくりと呼吸をしていました。
そして目を見開いたと同時に、お二人の戦いが始まったのです。
「……行きます」
その声と共にダリアさんはその場を駆け気がついた時にはギィ様の目の前で剣を振りかぶっていました。その姿は目で追うのがやっとです。
「……うん。良い動きだな」
そんなにも早いというのにギィ様は振り下ろされた剣を易々と指で掴み取りました。……あり得ない。私なら気がついたら瞬間には両断されていたでしょう。
「――お前はまさしくアヌ母様の愛に満ちた子」
「……ホーリーランス」
宙から光の刃が生まれギィ様へと放たれます。それらは彼女がただ一瞥しただけで霧散しました。
「――その魔素量は他と比べても別格。だからこそ使徒の上位まで登り詰めた」
「インフェルノッ!!」
炎がギィ様の身体を包み込みます。彼女は掴んでいた剣離しました。ダリアさんはすぐにまた距離を取ります。ギィ様は炎に灼かれているのに意にも介していない様子でした。
「――才能に甘んじず自分を高め続けた。その力はこの世界で最高峰のはず」
ギィ様がふぅと息を吹き掛けるだけでその炎は一瞬で吹き飛びました。
「それでも足りない。こんなにも私との力の差がある」
ギリッとダリアさんが歯を食い縛る音が聞こえました。
「……おいおい。次は?」
今度はダリアさんが手に待つ剣に淡く光が宿りました。魔素を込めているのでしょうか?
「ん。それ得意だったな」
「ハァァァァァッッ!!」
その剣はけしてナマクラではない筈です。だって先ほど確かに私の掌を切り裂きました。それなのにギィ様の肩に突き刺さった剣はそれ以上進む事はありません。ダリアさんが止めているわけではない筈です。今も押し込もうと剣が震えているのですから。
「リムの国には確かガブリエットってのがいたよな? その強さはこの大陸中に轟く程のもの。でもダリアもそんなに遜色ないと思うけどな」
『プリエールもだけど』と言いながらに手のひらのままに剣の刃を掴みます。
「それなのに私を傷つける事も出来ない。お前達と私では存在の位階が違い過ぎる」
剣に段々とヒビが広がって行きます。やがてそれは全体に広がりパキンと音を立て砕け散りました。
「……悲しいな。お前ほどのスケールでもその程度でしかない」
『もう終わりにするか』と仰った瞬間、光で目が眩みます。そして次にはダリアさんの右手が無くなっていました。
「くッ……。あ、あ゙ァ゙!!」
私は慌てて駆け寄ります。血がドボドボと流れ出ています。そんな……。このままではすぐに死んで――。
「お前もだぞ?」
風が顔に当たったような感覚がしました。私を見てダリアさんが何か叫んでいます。上手く聞こえません。視界も不鮮明です。何を言っているのでしょう? あれそういえばこれはあの時にそっくりです。となるともしかして……。
あやっぱり、顔を拭うと手にベッタリと血が付いていました。
「リーザ!! リーザ!!」
でもなぜか私は倒れることはありません。前の時はそのままに意識を失ったはずですが今回はそうはなりませんでした。やはりギィ様が言う通りにスーニャさんの力を受け継いだ影響なのでしょうか。
「……大丈夫、なのですか?」
ええ。私はこんなにピンピンしています。いつのまにやら視界ももう元通りで問題ありません。むしろ心配すべきなのは貴方の方で……。
「リーザ……」
ダリアさんが私を抱きしめてくれました。彼女に抱かれると私は何だかとても心地が良くて、安心する事が出来ました。
「……少しだけ、お時間を頂けないでしょうか?」
「いーけども、何のために?」
「この子とお話させてください」
『ん〜〜、まあそれくらいならいーか』とギィ様は、一度玉座へと戻られました。ダリアさんは私の耳元で小声で呟きます。
「リーザ。身体は大丈夫ですか?」
私は頷きます。実際に痛みも何もありません。むしろダリアさんの方がよっぽど重傷なはずです。
「気分は? どこか具合の悪いところは?」
フルフルと首を振ります。大丈夫です。ご心配は入りませんと。
「……その身体にさせてしまったのは、元々は私のせいですね。ごめんなさい」
なぜダリアさんが謝るのかは分かりません。それに、この身体になった事はそんなにも悪い事なのでしょうか? 命を失うほどの大怪我を治してもらったのですから、むしろ感謝して然るべきと思うのですが。
「……覚えている範囲でよいのです。貴方はどんな日々を過ごして今日に辿り着きましたか? それは幸せでしたか? それとも苦痛でしたか?」
何故そんな事を聞くのですか? でも私は今までの日々を振り返ります。それの大部分にはリムさんがいます。私は確かに幸せでした。誰が何と言おうと、リムさんがスーニャさんで世界の敵であったとしても。
私の表情を見たダリアさんは微笑んで、そして目に涙を浮かべました。
「よかった。私の選択は間違ってなかったのですね」
『本当によかった』とダリアさんは頭上を仰ぎ見ました。
「……リーザ。もう少しで記憶は戻るでしょう。その時私を恨んで頂いて構いません」
記憶が戻る? 何故ダリアさんは私が記憶を無くしていると知っているのでしょう?
「思うがままに生きてください。私が望むのはただそれだけです」
ダリアさんは私の額に口付けをしました。……貴方は一体誰なのですか? いえもしかしてあなたは……。
「もういいってことかな?」
「ええ。……ありがとうございました」
ダリアさんは私を抱いたままです。でもその声は何かを決心したかのように強い意志を感じました。
「どうか、この魔法を貴方へ向ける事をお許しください。――キリエ・エレイソン」
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――
評価・ブックマーク・ご感想という形で、どうかあなたの想いをお残しください。続きを書く励みになります。
(……でないと、力尽きるかもしれません)
※評価は星マーク、ブクマはお気に入りからお願いします。




