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異世界転生したら、世界の敵になりました。【続】  作者: 篠原 凛翔
【第3部】 うつろわざる世界

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【3-6-4】

 頭まで水の中に入り壁伝いに先へと進む。途中壁に当たる。まさかこの先が無いのかと慌てたがどうやら上へと続いているらしい。


 水中の中で目を開けると確かに頭上に淡い光が見えた。私は必死に手と足をバタつかせて上へ上へと向かう。身体の酸素が徐々に失われていくのを感じる。


 こんな所で死んでしまったら笑い話にもならない。私は必死に出口と思われるそこへと急いだ。光はどんどんと強く大きくなる。水面と思われる境界線に手を伸ばし、私は勢いよく顔を出した。


「――ぷわぁっ!! うーわホントやばい死んじゃうよ!」


 あークッソ。もう本当に二度ととやんないからな。ゴホッゴホッと咳をして身体の中に入ってきた水を追い出す。


「あ゙ーーもう、最悪」


 暫くの間私は水面で呼吸が落ち着くのを待った。そしてようやく顔を上げる。


「さてこっからだなー。誰かいたりしないよ――「――貴方がリム様、ですか?」


 ……うーわうーわ。嘘でしょ? ……本気?


「えっと。そういう貴方はどちら様でしょうか……?」


 リーザを助け出す為に誰にも見つからずというのが大前提だというのに、まさか初っ端から上手くいかないとは……。


「あれ? もしかして、スーニャさんですか?」

「……え?」


 それは確かに私の名前で、ただここ最近では名乗っていないものだ。本当のごく一部しかその名で私を呼ぶものはいないはずなのに。


「えーと貴方は……」


 私はまだ焦点の合っていない瞳を擦り、改めて声の方を見つめる。そして確かにそこにいたのは見知った顔だった。


「うそ……。ニーナ?」

「はい。ニーナでございます。大変ご無沙汰しておりますね」


 スタンやラルフ、セラムと共にAランク冒険者として名を馳せたニーナが確かにそこに立っていた。


「えっと……。ひとまず手を借りてもいーかな?」


『はい勿論』と、彼女の手を借りて井戸の外へと出る。水面が高くてよかった。でなければロープや何かを使わないと出れないところだ。


 少しぶりに私は両足で地面に立つ。身体からポタポタと水滴が落ちた。うう寒い。身体を両手で抱え少しでも暖を取ろうと擦る。


「いけない。風邪を引いてしまいます。宜しければこちらをお使いください」


 ニーナが乾いたタオルを渡してくれた。私はお言葉に甘えて全身の水気を拭き取る。むろん完全に乾くことなど無いけれどかなりマシだ。


「こちらのお服も用意しております。どうぞご遠慮なく」


 渡されたのは、使徒達が着ていた白いローブだった。私は寒さから何も考えずにそれを借りる。……ふぅ暖かい。あそまそもあれか。炎出せば乾くのかな? でも今はニーナもいるしやめておくか。


「ありがとニーナ。でもなんでまたこんな所に?」


 私はここにきて漸く周りを見渡す。石が重ねられ作られたのであろうこの水場には、井戸と山積みにされた桶があるだけで他には何もない。灯りも小さなものが一つあるだけだった。


「使徒の方々は出払っているために、今日は私がこの神殿の内部の見張りを仰せつかっているのですよ。……私からも貴方様にお聞きしたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」

「ん? いーよ何でも。あスタンの近況について話したげよか?」

 

『それはまた改めて』とやんわり断られる。まあそりゃそーだ。


「貴方様は、今リムというお名前で冒険者をしていらっしゃるのでしょうか?」


 私はここでどう回答するべきか少しだけ逡巡する。何故ならもしニーナが使徒側の人間であれば、彼女は敵ということになる。出来れば見知った人と争いたくは無い。


「うーむー、えっと……」

「どうなのですか?」


 ジーっと見つめるその視線に私はタジタジとしてしまう。まあでも隠してもこんな所にいるだけで怪しさ満点なのだ。取り繕ったとしても仕方ないだろう。


「……そうだよ。今はリムを名乗ってる」

「やっぱり。ではリーザ様を助ける為ここにいらしたのですね」

「そうだけど、……何でそんな事まで?」

「……私がここにいるのは、アダム様からの命なのですよ。リムと名乗る方がここに来るはずで協力してほしいと。まさかそれが貴方だとは思いませんでしたが」


 あーなるほど。全部読み通りの計画通りってわけだあのオッサン。というかもはや私がスーニャと名乗っていた事も理解してるんじゃないか?


「とりあえず、少なくともニーナは私の敵じゃないって事でいいのかな?」

「ええ。微力ながらにお手伝いさせていただきます」


 ふぅと私は安堵の息を吐く。


「よかった〜。もし争うことになるならどうしようかと」


 それこそスタン達に恨まれてしまう。でもニーナは信仰に厚かった印象だがこっち側なのか。


「ええ。私も同じですよ。スーニャさんとは争いたくありませんからね。それに、リーザさんの事は私も納得できないので」


 アダム達は自分たちの同士がフクローランの国内外にいると言っていた。ニーナもその1人ということか。


「じゃ早速だけどさ、リーザのとこまで案内してくれるかな?」

「ええ。承知しましたわ。ただ……」

「ただ?」

「……慌てずに聞いてください。今リーザ様はギィ様とプリエール様とお会いしているはずです」


 その二人の名前を聞いて『はぁ!?』と声をあげる。ニーナは私の口に人差し指を付けて『しー、ですよ?』なんて言っていた。


「いやいやいやこうしている間にもリーザの生命が危ないわけで――「――スーニャさん。落ち着いてください。ほら深呼吸、ですよ?」


 すーはーすーはー、と目の前で呼吸をしているニーナを見ていると何だか気が抜けてきた。


「はぁ……。でもさ急がないと不味いじゃん。そりゃ慌てるよ」

「ええ。でも混乱したままでは判断は鈍ります。判断をするには状況の理解が必要です。リーザさんを助けるためにも今は落ち着いて私の話をお聞き下さい」


 妙に説得力があるのはさすがAランク冒険者というべきだろうか。修羅場を潜ってきた経験は私なんかよりもむしろ多いのかもしれない。


「先程リーザさんが意識を取り戻されたとお聞きしました」

「えっ!? ホントに――「――スーニャさん。しー」


『ごめんごめん』と謝る。いやでもそれどころではなかった。


「……無事に起きたんだ?」

「ええ。そのようです。ただすぐギィ様の元へ連れていかれてしまったようですが」


 それでも私はリーザが起きたという事への喜びの方が勝った。会えた時にはどれだけ迷惑被ったかコンコンと伝えてやろう。嫌な顔をしたって知るものか。


「そのために連れ出すという事が非常に難しくなっています。今はひとまず待った方がいいかもしれません」

「……でもさもしかしたら殺されちゃう可能性もあるんでしょ?」


 ニーナは私の問いに頷いて答える。偽らざる反応はむしろわかりやすく好ましいものだった。


「ならやっぱりすぐに行ってあげないと」

「……たとえ貴方様の身が滅ぼされる事になろうとも、ですか?」

「もちろん。そんなの関係ないよ」


 自分の生命が惜しければこんな場所までわざわざ来たりするもんか。ギィ達と争う事になる可能性だって当然理解している。そうなったらそうなった時だ。


「わかりました。ではローブのフードを被って下さい。……行きましょうか」


 ニーナが部屋の隅にある階段へと足を向ける。私は言われた通りにフードを被り顔が見えないようにする。気休めかもしれないが多少の誤魔化しにはなるだろう。


「向かうのは大礼拝堂です。神殿の中心に位置する大部屋で通常は一階から入っていきます。ただ素直に進んでは気付かれてしまいますので、まずは二階の展望席から様子を伺いましょう」


 ニーナの『すぐにつきますよ』という言葉に従いながらにただ後をついて行く。神殿の中を走り抜け、途中階段を登り目的の場所へと急ぐ。


 ニーナのおかげで特に誰とも遭遇する事なく入り込む事が出来た。ただ彼女の背を見ながらに私は何だか嫌な胸騒ぎを感じていた。寒かった筈なのに嫌な汗が出る。身体中に重苦しい何かが纏わりついているようだった。


「この扉を開けたらもうそこです」


 随分と瀟洒な飾り付けがなされた扉だ。ここから謁見の間の上に位置する展望席へ進む事が出来るのだろう。


「よしじゃあ行くよ。ニーナありがとね。今度ゆっくり時間作って話そう。貴方に迷惑掛けちゃうだろうからもう離れな」


 私の言葉にニーナは頷く。


「はい。そうさせて頂きますね。スーニャさん。もし出来たならのお願いがございます」

「お願い? いーよ。何でも言って」


 ここまでして貰ったのだ。何か出来るなら当然吝かではない。


「ありがとうございます。きっと中には、もう一名いらっしゃるんです」

「もう一名?」

「ええ。……その方をどうか助けては頂けませんか? 難しいこと重々承知ではございます」

「あそうなんだ。んー状況次第になっちゃうかも。もし今ここで助け出す必要なければ後日とかでもさ」


 別に今時点で命が脅かされていないなら、またタイミングを見計らう方が良いだろう。


「はい。それでも結構です。ただもし、もしも今すでに危うい状況でしたら、どうかお助け頂けないでしょうか」

「ん。分かったよ。でその人って誰なの?」


 そこまで言うくらいならさぞ重要な人物なのだろう。


「ええ。その方はリーザさんのお母君に当たるダリア――」


 瞬間、何かが崩れたような轟音が部屋の中から聞こえた。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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(……でないと、力尽きるかもしれません)


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