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異世界転生したら、世界の敵になりました。【続】  作者: 篠原 凛翔
【第3部】 うつろわざる世界

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【3-6-3】

 真っ暗で先は見えない。今日は月が雲に隠れているので余計にだ。しかし昼間見ると荘厳な神殿だがこう見ると不気味でしかない。おかしなものだった。


「えーとあそこには橋があってここら辺から湖に入ればいーのかな」


 遠目に薄らと橋が見え見張りもいるようだった。


「やっぱりここから隠れて行くしかないよねー。……うわ。冷った!!」


 覚悟はしていたけれども指先を入れただけでも嫌になるほどの冷たさだ。……こんな中泳いでいかなければいけないのか。もしかして正面突破の方が楽だったりするかな?


「……なあ。リムがラフィエルを倒したってホントかよ?」


 さっきからずっと黙っていたから何かと思ったけれども、なんだそんな事か。


「あーそうだよ。それよりさこの湖の冷たさ何とかならない?」


 くっそー。レナードがいればあの透明になる魔法で回避出来たのになぁ〜……。だって本当に冷たすぎなのよ。それにそもそも私って泳げるんだっけか? 前世も今世も泳ぐ機会なんてほぼなかったけども……。


「おい。……本当に本当なんだろうな?」

「だから本当だって。アンタにそんな嘘ついたって仕方ないでしょ?」


『そうか……』と彼女は呟き、そして笑い始めた。


「……なに? どしたの?」

「アッハハ。ククッ。いや、待って。少しだけでいーから……」


 腹を抱えて笑うその様子に私の頭は疑問符だらけだ。ただイオリは暫くの間そうしていて、やがて漸く落ち着き私を見た。


「すまんすまん。いやなにちょっとラフィエルとは因縁があってな」

「因縁?」

「ああ。……まあ俺の両親はアイツに殺されたんだ。でいつかはオレがブチ殺してやろうと思ってたんだがな。先を越されちまったって話だ」


 その予想外の言葉に私は反応出来ない。言うなれば、彼女にとってのラフィエルが私にとってのガブリエットだったという事だ。もし私の先に彼女を討ち果たしたものがいたとしたら私は一体どういう気持ちになったのだろう。


「……それは、ごめ――「――謝りなんかすんなよ? ぶん殴りたくなるからな」


 吐き出しそうになった言葉をグッと飲み込む。


「……あーこればっかりは早いもん勝ちだからね。運が悪かったって諦めな?」

「ククッ。あーそれでいーさ。まあでも、そうか。死んだんだな……」


『悪い。少しだけ待ってくれ』と言った彼女は、薄暗い空をただ見上げていて、何を考えているのか窺い知る事は出来ない。だがやがて満足したのかこちらへと向き直った。


「……うし。もういいぜ」

「そ? もうちょい掛かるかと思ったけど?」

「うっせ。モヤモヤはしてるぜそりゃ? でも今はそんな場合でもねーだろよ」

「……だね」


 お喋りをするためにここまで来たわけではない。むしろここからが本番なのだから。


「じゃ行くかー」


 ううっ。分かってはいるんだけどやっぱり覚悟がいるなぁ。この冷たさだものなあ……。


「はぁー。ったく仕方ねーなー」


『リム、いいか?』と言っているイオリに、もしや秘策あり? なんて淡い期待を寄せる。そもそもこの案だって彼女達の発案だし対策を用意していたっておかしくは――。


「こういうのは勢いが肝心だ。ほら。一気にいけ」

「いやいや嘘まじで? 分かってる? だってこれとんでもないくらいに冷たくてさ。なんかないわけ? こう身体を濡らさないとか温めたままにする魔法とか――「――ねーよ。ほらもういけ」


 イオリがバンッと私の背中を叩いてその勢いのままに頭から湖へと落ちた。その冷たさに身体が震える。まるで全身を針で刺されたかのような錯覚に陥った。


「ほら。思ったよりマシだろ?」


 震える私の様子を見ていたイオリはケケケと笑っている。上等だこの悪ガキ。


「……あーあったかいあったかい。ほれ少しお裾分け」


 私は手で水をパシャパシャとイオリに掛ける。『やめろ冷て!!』なんて言っていた。いい気味だ。こっちは本当に心臓が止まるような思いだったんだから。


「……はーじゃ早速行きますかね」


 なんだかんだで泳ぎは問題なさそうだし身体が凍りつく前に進まなければ。


「オレはこの辺りにいる。リーザを連れ出したらここに帰ってこい。……待ってるからな」


『分かったよー』と手を振って私は神殿へとゆっくりゆっくりと泳ぎ向かう。段々と冷たさには慣れてきたものの、ただ思ったより体力を使うという事に気づいた。ちぇ。下手に派手に動くこともできないし地道に進むしかない。物音を立てていいのであれば、魔素を使ってもう少し楽に進む事も出来ただろうに。


 波音を極力立てないように進む。いつ辿り着くのだろうと思える程の距離。気が遠くなるような思いをしながらに何百メートルの距離を泳ぎ切り神殿へ辿り着いた頃には、私の身体は冷えから殆ど感覚が失われていた。


「……いやホントさっぶ。戦い云々よりもこっちで死んじゃうんじゃ」


 身体がブルブルと震える。そういえば凍死とかってどうなんだろうか? 今度リムさんに聞いてみよう。


「それでっと。あ、あそこかな?」


 私は城の外壁をつたいながらにイオリの地図にあった地点へと向かう。


「確かこの辺りにー、お! あったあった」


 そこは神殿の外と中を繋げる唯一の水路で、井戸の出入り口として繋がっているらしい。私がいるのが当然出口側で、水の中から入り口、つまりは中へ侵入する事が可能なのだ。


「んじゃいこうかね。早く水から出たいしさ」


 ただもし上に上がって誰か人がいたら、その時は戦うしかない。騒がれたら元も子もないのだから。


「……うし。いこう」


 私は誰に向けるでもなく独り言を溢し気合を入れる。ここからが本番なのだから。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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