【3-6-1】 因果
「……本気?」
「本気って何が?」
「いやそりゃ一人で行くってことだろ」
「だって何かあった時に私一人の方が何かと都合いーでしょ?」
『アンタらにとってもさ』と返すと『そりゃそーだけど……』と言うものの、イオリはどうにも納得いかないと言いたげだ。
「でも逃げる準備は任せたよ? まさかワンサカいる使徒全員と相手取らないといけなくなるのは流石に勘弁」
それに何よりギィが出てくるのは不味い。
「分かってるって。んじゃもっかい説明するぞ」
何回目かになるが、私はイオリの話を頭の中に叩き込むよう注意深く聞く。この作戦はスピード感が要だ。手間取った瞬間に失敗となる。
私達はドミニクの館へと戻り早速どうリーザを助け出すかの話し合いを行った。アダムは一度は帰ってきたものの、アヌ教徒としての務めがあるとかでまたいなくなった。今日にも忍び込むと伝えた時の反応は、何とも言えないような、肯定も否定もしない微妙なものだった。
ともかく今いるのはイオリとドミニク、そして私の三人で、重要なのはリーザを助ける為に何処から入りどう脱出するかだ。
二人は様子を見てからの方が良いと言ったが私は頑として聞かなかった。いつ何があるかも分からない。こうしている間にも事情が変わるかもしれない。なら早々に動いてしまった方がいいだろう。
それと、ドミニクはともかくイオリは私に付いてくるつもりだったらしい。それもまた丁重にお断りした。納得いってないっぽかったけど。
だって一応スーニャではないと言っている中で私の戦いを見られるのはあまり好ましいものではない。……それに何より見知った人が死ぬ姿はもう見たくなかったのだ。言わないけどさ。
二人に話を聞いた限りあの神殿への潜入経路は水路が使えそうだった。建物の作りとして四方が湖に囲まれているために見張りは万全であるが、ただ流石に水中までは警戒はしていないと。そのためにそこからの侵入自体は可能らしい。寒さと汚れさえ気にしなければ。
「……おいちゃんと聞いてるか?」
「あー聞いてる聞いてる。そこから中へ入ればいいんでしょ?」
「ったく。そーだよ。人が住んでるんだ。当然水場がある。外と繋がっているのは橋を除けばそこだけだ。真昼間だったら人もいるかもしれねーが深夜ならそうそう誰もいねーだろう」
可能性としてはゼロではないけれど正面から入るのに比べたら気付かれるリスクは雲泥の差だろう。
「りょーかい。でそこから入ってリーザは何処にいるんだっけ?」
「中に入ったらとにかく上にあがれ。あの神殿はそもそも収監出来るような部屋はない。リーザも来客用の部屋にいるらしいしな」
なんだかいつぞやの時を思い出す。あの時はレオを助けにラフェシア城へ入ったんだ。その時もコソコソと上の階へと向かった。
「簡単な地図は用意した。それを見て動けばいい」
ご丁寧に部屋やらを記載された紙を受け取る。ふむ。こうしてみると結構広いんだなあ。で、この赤くなってるところにいると。……思ったよりも可愛らしい絵と文字だなんて言ったら怒られそうだからやめておく。
「……なんかあるか?」
「いやいやいやなんも」
おっと気取られてたか。
「上手く抜け出せたら俺たちは近くで馬車を用意しておく。それに乗って逃げろ」
「ん。イオリ達はどうすんの? 一緒に行く?」
「だとよ? ドミニク」
隣にいたドミニクに話を振る。そして彼は相変わらず『なんでワシに振るんじゃよ』なんて文句を言っていた。
「……少なくともアダムは無理じゃろ。むしろお前さんらを追わなければならん立場じゃし」
「なら俺らは一緒に逃げられるわけだ?」
そのイオリの反応にドミニクは心底嫌そうな表情をしていた。
「もし使徒どもにリーザと一緒にいるところを見られたら一発じゃぞ。そんな危険冒したくはないんだがの」
「今更何言ってんだよ。それにリーザは満更アンタの村と関係ないわけじゃねーんだろ?」
「えそなの?」
リーザの過去は知らないけれどもしかしてあの村の出自だったりするのだろうか。でもドミニク以外いないって言っていたような?
「……リーザの母親がの」
そういえばここまでリーザの家族の話はあんまり聞いてこなかった。あのラフィエルが話しているのを盗み聞きした程度だ。
「なに? あの村の出なの?」
「違う。ただ、恩義がある。ワシらを見逃してくれたんじゃよ」
「へー。確か使徒でしょ? リーザのお母さんて。よく見逃してくれたね」
初めての使徒との出会いが最悪な事もあるが、標的には容赦ない印象だ。
「本人は今のようなアヌ教徒の姿勢には懐疑的だった。オルダークとも気が合ってたしの。……ワシらのようなものが隠れ住む必要のない世界にしたい、なんて言っとったよ」
随分と殊勝な心掛けだ。アヌ教徒の中にもまともな人はいるんだと安心する。
「じゃあさリーザと一緒に助けちゃう? 捕まってるんでしょ?」
リーザも喜ぶだろうし一石二鳥だろう。我ながら名案と思ったのだがドミニクとイオリは首を横に振った。
「……あの人は別のとこに幽閉されてる。オレたちは一度助けに行ったんだ。でも出るつもりはねーだとさ。これは自分の罪だからって」
『どんなに言ったって聞きゃしねーんだ』と、話す姿は厄介だと言いたげながらにどこか誇らしげだった。
「ふーん? まそれならそれでいーけど。話を戻そっか。リーザを連れて馬車に乗る。で逃げるわけだけど、私は道も分からないし出来たら着いてきてほしい」
断られても仕方ない。二人に命を賭ける義理なんてないんだから。でも返ってきた返答は意外なものだった。
「まあ仕方ないかの」
「お、なんだよ? ゴネたら殴ってやろうかと思ってたのによ?」
「……お主。ワシへの信用無さすぎんか?」
「そりゃあんななっさけねー姿ばっかり見てりゃそーなる」
「お前さんな。日々受ける誰かのストレスを若い女子で消化して何が悪いのかの」
二人のやり取りを見ていて、私はつい吹き出し声をあげて笑ってしまう。その様子にイオリは意外そうな表情を浮かべた。
「……なんか意外だよ。アンタそういう風にも笑うんだな」
「はぁ? 人をなんだと思ってんだか。そりゃ笑うでしょーよ」
といっても確かにこんな笑ったのも久々のように感じる。
「……二人ともありがと。極力、死なないようにしてよ」
その私の言葉に『あたりめーだろ舐めんな』『死なないようにちゃんと守ってくれるんじゃろな……?』なんて思い思いの反応をしていた。
よし、じゃそろそろ実行に移るとしますかね。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――
評価・ブックマーク・ご感想という形で、どうかあなたの想いをお残しください。続きを書く励みになります。
(……でないと、力尽きるかもしれません)
※評価は星マーク、ブクマはお気に入りからお願いします。




