【3-5-4】
「見ていられない?」
「ええ。そう言いました。お聞こえになりませんでしたかな?」
その飄々とした様子はこの張り詰めた空気の中では明らかに異彩を放っています。
「……邪魔をするのであれば貴方もまた同じ事となりますよ?」
「……それは脅しですかな?」
アダムさんはにこやかな顔をしながらに、ただ明らかに圧力をプリエール様へと向けていました。
「我々に与えられた神託はダリアを連れ戻すというものでは? けして彼女を殺めることではありませんが?」
その声にプリエール様はバツが悪そうな表情を浮かべました。
「リーザもまた同様でしょう。勝手をしてしまえばそれこそアヌ神の怒りを買うのでは?」
あのプリエール様が『それは……』と言い淀んでいます。アダム様はアヌ教徒の中でもかなり古くからいらっしゃる方になります。それこそアヌ教の歴史そのものであるとの声もあるほどで確かな発言力もお持ちでした。
今は第一線からは退かれ、基本的には後進の育成に当たられています。私もそのうちの一人でありお母様やプリエール様も同様だったはずです。
「全く……。貴方は昔から変わらないですね。少し妄信的過ぎる所があります」
「……この期に及んで小言などやめてください。どうするのですか?」
「まずはダリアの治療でしょう。このままでは亡くなってしまうまで時間の問題ですよ」
アダム様はお母様に手を向け治癒魔法をかけて下さいました。『ほら貴方達もですよ?』と周りにいた使徒達へも声を掛けています。
少しずつお母様の傷が塞がっていきます。青ざめた顔色に血色が戻ってきます。荒くかった呼吸が少しずつ落ち着いてきました。私はその事実だけで泣きそうになります。
「……リーザ?」
ええ! リーザです。ここにいますよ! と言おうと思ったのに、……アレ? おかしいです。声が出ません。
それでもお母様は薄らと目を開けられてこちらを見ています。彼女は周りをゆっくりと見て事態を理解したようでした。お母様は私を抱きかかえました。そして耳元で私にだけ聞こえる声で囁いたのです。
「愛しい我が子。どうか、どうか幸せに……」
それと同時に私の足元と身体が淡く光り始めました。それを見たプリエール様は表情を一変させました。
「ダリア、どういう――「――貴方は新しい人生を歩みなさい。不要なものは、私が預かっておきますから」
どんどんと光が強くなっていきます。それと同時に何だか頭がぼんやりとしてきました。お母様に何をされているのか聞きたいのに、やはり私は言葉を紡ぐ事が出来ません。いくら喉を震わせても声にならないんです。
お母様は私の頭を抱きしめてまた囁きました。
「この世界を沢山、沢山見て来てくださいませ。様々なものを食べて色んな場所に行って貴方の望むがままに生きて下さい。――必ず貴方の神が見つかりますよ」
どんどんと頭の中の靄が濃くなっていきます。何だか私の頭の中にあったものが、どんどん霞んでいっているかのようでした。
「リーザ。生きて。生きて生きて、生き抜いて下さ――「――いい加減になさい!!」
プリエール様の剣が再度お母様の身体を切り裂きます。吹き出た血が私の顔に付きました。慌てて顔を拭います。
……あれ? 今どうしてこんな状況になっているんでしたっけ?
「ダリア!! 観念なさいな!!」
慌てた形相でプリエール様は私たちに詰め寄ってきました。……えっと、プリエール様って誰でしたっけ?
お母様は私を強く抱きしめていました。
お母様少し痛いです。このままでは押し潰されてしまいますよ? ……あれおかしいですね。声が出ません。
「ふふっごめんなさい。苦しかったですか? 少し強くしすぎましたね。リーザ」
私の反応から読み取ってくれたのでしょう。お母様はそんなことを言っていました。
「ああこんな時でも、こんな事しか言えない母を許してください。――貴方に、アヌ神の祝福が在らんことを」
その言葉と共に視界もまた朧げになっていきます。一体どういう事なのでしょう。これから何が起きるのでしょうか。
「何度言えばわかるの!? 今すぐ止めなさい! リーザ待っ――「――行きなさい。貴方の望むがままに」
一際強い光が私の身体を覆い、視界が一度暗転します。
――そして、気がついたら私は何処かも分からない森の中にいました。
……あれ? 私は何をしていたんでしたっけ? どうしてここにいるんでしたっけ? それと、自分て誰でしたっけ?
かろうじて名前はわかりますが、それ以上を思い出そうとすると頭がズキンと痛みました。
当てもなく私はフラフラと歩き続けました。何処かへ行かないといけないとそんな気がしました。理由は分からないですけれど。
――そしてあの人に、リムさんに出会うのです。
これが私の過去。私の真相。
お待たせしました。ようやく、物語が再開します。
「――お帰りなさい。リーザ」
目を開けて広がっていた光景は、それはそれは最悪のものでしたが。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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