テラへ
--- スマイル号の車内
「なんであいつに呼び出される必要があるの! このまま軌道エレベーターで宇宙に行きましょう! 胸糞悪い! 」
サナエさんは、イライラしている。
『マスター。 仮……いや実際のタツマの義母にあたる方です。 話したいとの要望があれば、多少時間を割いてもよろしかと思います』
「……」
『色々あったのは承知していますが、彼女からの申し出です。 タツマもよろしいですか? 』
「まぁ。 親父に会って金の催促もしたいしね。 こっちは問題なしだな」
『それは良かった』
アルプの小言、サナエさんの愚痴を聞きつつ到着したのは、都市国家エリスのシティ地区。 それも一等地である。
大型ビルディングが林立しながらもひときわ目立つビルディングが目の前にある。 入場には、身分証明書の提示と要件を書き込む守衛があり、セキュリティも物々しい。
「随分なところだね」
『エリスの中枢の出張所の様な場所ですからね』
「そんなに色々入っているの? 」
『行政機関の分室から、議員のオフィス、などなどです』
「へー」
『ここのビルディングにスキュレス氏の執務室オフィスがあります。 マスター達は、ここで降りてロビーでお待ちを。 車両を駐車場に停めてまいります』
車輌から降りて、タツマはまじまじとビルディングを見上げる。 地上から見ればまさに天を切り裂くような建物である。
―― 我々が、洞窟の中やスラム街で過ごしていた中、奴らはこんなところで過ごしていたのかー。 なんか腹立ってくる。
アルプが戻ってきて、オフィスまでの案内をする。
---スキュレス氏のオフィス
アルプに案内されながら、ビルディング内を進む。 エレベータに乗り長い廊下を歩く。 清掃が行き届いている建物内は、格安宿泊施設より、ホスピタリティが高そうだ。
ある重厚な扉に前に止まり。 アルプがノックをする。 “どーぞー”中から声が聞こえてきた。 それを合図にアルプがドアを開け一歩室内に入る。
駄々広いオフィスが目の前に広がる。 会議用、来客用、そして仕事用だろうか、机も複数ある。
―― まー無駄に広いオフィスだな。
中にはスキュレスと親父がいる。 隣のサナエさんを見ると彼女の眉間に皺が寄っている。
―― 彼女とは色々あったからね。 とはいっても、大人なんだかもう少し敵意を抑えられないものかね。
彼女の態度に少し呆れていると、親父から手前の来客用の場所を提示されため、手前の客用のソファーに腰を下ろす。 皮張りのふかふかシートになる。
―― 随分と高級なソファーだな。
給仕が室内に入って来ると紅茶が出てくる。 カップに口をづけずとも香ってくる芳醇な香り。
―― 高級品ですね。
出航の準備や手続きのため、鄭さんとアリエフさん、副社長、セレンは、先に軌道エレベーターでカムカム号に向かっているとのことのようだ。
女帝が、正面のソファーに座り、親父は立ったままである。
「あなた達には、返せないぐらいの借りができたわね」
最初に口を開いたのは、女帝からである。
「そう思っているなら、報酬を弾んでくれませんかね。内部留保をだいぶ……かなりつかっているんですけどね。 特に最初のプロメンテの出費は、相当ですよ 」
「ふふふ。やっぱり商人なのね」
―― まーね。
「でも、これから商社プロメンテからの莫大な上りがあるだろう? それに今回の戦争でかなり儲けたらしいじゃねーか」
親父が、会話を継いでくる。
「それは、それ。 これはこれでしょう? 入金しておけよ」
上から目線でタツマが催促を掛ける。
―― こっちは、命掛けの対応だ。 無料でなんかとんでもない!
「お前。 がめつく無いか? 」
「商人が金に執着しないで、何に執着するんだよ! 」
「……分かったよ。 いくらだ? 」
「それと! テンペ大陸でのアルゴス対応、TF-1型、それに今回の四ヵ国大戦の破壊工作活動の成功報酬もだ! 」
「おい……多くないか? 」
「アルプ! 算出金額だ! 」
アルプがダイゴに金額を提示する。
『金額はこちらになります』
「ひーふーみーよー……おい! 600万マリベルだと! ぼったくりだろ! 」
「いーや。 案件は全て成功している。 命がけの代価としては安いぐらいだ」
「……まぁいい。 査定はさせてもらうぞ」
「いいけど、無理に値切ったら取り立てるからな。 ヒルベルト商会の取り立てをしらないわけじゃないよな」
「悪質すぎるだろ」
「それは心外。 信頼と実績の惑星間貿易商のヒルベルト商会だから」
「……」
ここで親父を黙らせる。 いままでのうっぷんを一気に払いに行く。 親父との応酬と金の交渉も終わり、紅茶で喉を潤す。
タツマからトリュフィナに話しかける。
「それで、戦後処理も順調のようでなによりですね。 護民官。 これであなたの願いが成就したわけですか? “大陸間協議会”でしたっけ? 」
「そうね……あなたには、助けれてばかりね」
「とはいえ、武力を持たない大陸間協議会に何の意味が、あるか分からりませんがね」
タツマから辛辣な言葉が投げかけられる。 惑星内の食糧問題中心に協議する内容らしいが、どこまで踏み込めるのか、国家間の理不尽を暴力なしに解決できるのか疑問が残る。
かつては、このような組織は生まれは形骸し、消えて行った。 彼女がそれを知らないはずがない。 今回のように武力に訴える連中や都市国家も必ず現れるはず。
その対応が今後の問題点になるのは必然。 綺麗ごとだけで国際政治が進めば苦労しない。
「その通りね。 でも、話し合い問題を修正して行けば必ず新しい未来はあるはず。 我々はそうやって復興したきたの。 これからもね」
―― とはいえ、各国や大陸内での悩み事を共有できる場ができたことは第一歩なのだろうか?
タツマの顔が少し穏やかになる。
「そうですか。 で我々をここに呼んだ理由は? 」
「あなた達にお礼を言いたくて。 色々悪さもしたしね。 ありがとう。 この星を支えてくれて感謝するわ」
スキュレスが、微笑みながら謝辞が出て来る。
―― ちゃんとした笑顔が作れるなら、最初からしてくださいよ。可愛いんだから。
突如、横から後頭部に張り手が飛んでくる。
「あんた。何ほだされているの! こいつのおかげで死にかけたでしょう。 私は許さないわ。 旦那をひどい目に合わせて」
サナエさんは、終始おかんむりである。
「あら、ここで嫁姑戦争でもする気? ふふふ」
―― まったく。 いつもの悪い顔に逆もどりですか。
「それとナーミャンにも恋人ができたらしわよ。 残念ね。 乗り換えは出来ないわよ」
「はーー?」
タツマが思わず声を上げる。
「そっ。 喜びの電報をタツマの嫁から送っておいて。 あんたの友人でしょう? 」
サナエさんは余裕の対応で切り返す。
「貴方もなかなかね」
「貴方ほどじゃないわ。 おばさん」
サナエさんが舌を出して威嚇している。
―― サナエさん……もう、大人でしょう?
彼女が応接家具のソファーから立ち上がり、チケットを渡してくる。
「さてと、夕方の便を取ってあるわ。 軌道エレベーター内の検査は、スルーになっているわ。 政府要人としての扱いよ。 送るわ」
そう言って彼女が立ち上がる。
―― 惑星間貿易商だからね。準政府要人扱いなんですけど。 それでも軌道エレベーターの利用料金を払ってもらえるなら、有難く頂きましょう。
スキュレスと共にビルの下まで来る。 スキュレスとタツマ、少し後ろにアルプとサナエさんがいる。 親父は、オフィスを出るとき秘書と少し話があるらしく、後から来るとのことだ。
広々とした空間のロビーを抜け、屋外に出る。 それにしても高い建物だ。
「親父は? 」
「あの人はここに残るわ。 だって夫婦ですもの」
―― そうでしたね。
「じゃぁ。マールスに来たら遊びにきなさい。 一応、息子なんだから」
「はいはい。 おもてなしを期待していますよ」
そんな他愛もない会話がつづく。
刹那どこからとなく人が現れる。
「スキュレス!! エリスの神聖化を阻む、売国者め!! 死ね!! 」
ジャケット広げると、手榴弾が見える。
―― 自爆か? セキュリティ! それよりも!
タツマが、近くのサナエさんを蹴り飛ばし、凶行犯から強制的に遠ざける。
続いてスキュレスの前に出る。
巨大な爆発が起こり、周囲が騒然とする。
犯人の男の体は四方に飛散し、辺りが惨劇に包まれる。
蹴り飛ばされ倒れたサナエさんがフラフラしながら起き上がる。
倒れたことで、爆破物の破片の被害にも合っていない。
『マスター。 お怪我は! 』
「私はどうでもいい! タツマ。 旦那は! 」
フラフラしながら爆心地に向かう。
煙が晴れてくると、まずは五体が繋がっている姿のタツマがうつ伏せに横たわっている。
軽量化パワードスーツが衝撃を吸収したようだ。
戦闘用として防弾性を上げてある。無理して開発してよかった。
サナエさんの中にそんな思いがよぎる。
「う……うぅ……」
タツマから、うめき声が聞こえる。
「聞こえる? 生きている? 」
その声を頼りにタツマからの返答がある。
「サナエ……さん……無……事? 」
「無事よ! あんたは……」
タツマを仰向けにする。軽量化パワードスーツは顔面の防護はない。
タツマは顔面に損傷を追っている。流血もある。どうしよう。
「あぁああ……そんな……これからでしょう!! ちょっと 」
彼女の発言を無視して、タツマが言葉を紡いていく。
「よかった……。 そう……だ、プロポーズ……だっけ? あまり考えてなかったけど。結婚してくれて……ありがとう。これから……」
遠くから緊急車両のサイレン音、サナエさんの嗚咽、そして助けを求めることが聞こえる。タツマの意識はここで途絶える。
惑星暦 1461年。
マールス内の大戦も多くの死者を出しながらも致命的な環境破壊や人口の消耗なく収束に向かうことになる。
マールスの目下の課題である食糧問題において、大陸間食料会議なるものの発足も実現した。
ある人は言った。 忘却は、単なる欠如ではなく、一つの能動的な、厳格な意味での阻止能力であると。 つまり、人は、忘れることで前向きに生きられるとの意味らしい。
しかし、同時に痛み、恐怖、戒め、絶望まで忘れ、己の欲望に従い多くのものを傷つけ、殺めていく。
人は戦から学び、忘れ、また争いに明け暮れる。今後もそうなのだろうか?
つづく
マールス編を何とかまとめられました。 読んでいただいている方、ブックマークを付けて頂いた方、ありがとうございます。 現在ウェヌス編を鋭意作成中ですので、しばらくお待ちください。




