終戦と講和に向けて
マールス人類として2500年前の再現は、絶対にしたくない。 各国ともその思いは一緒である。 もはや記録は薄れ、断片的な情報のみ残るが、それでも恐怖がよぎる。
タニア連合王国からのエリスに講和の書簡が送られたのは、映像が見終わった数時間後のことだった。
そして、その意志としてタニア宙域の解放を実施。タニアのマルカ艦隊はフォボスに帰還することになる。
ナーミャン艦隊もタニア宙域を占領したが、2度の宙域会戦でタニア以上の消耗を強いられたため、旗艦ゲリュオンの1隻みの滞在となっている。
もちろん旗艦 1隻でタニア連合王国をどうこうできない。 象徴として存在しているだけである。
講和会議は、大部分が非公開で行われることになる。
中身があまりにもドロドロし過ぎている。
事の発端は、タニア連合王国から襲って来たと意見には、プロメンテに入植したタニアの民たちの財産保護が目的だと主張もあり、締結が全く進まない為、ガレへの保証のみにとどめている。
エリス側もメンドゥーサを陥落されており、タニア側に少なくない犠牲を出している。 いつの時代も戦争による一般市民への保証はないもの。 決して戦争が終わって万々歳といかないのが常である。
タニア連合王国側からは、貴族院からの扇動者としてキャンバリーほか数名を公開裁判にかける旨が伝えられる。
一方でエリス側でも執政官の使い込みやTF-1型の議会を通さない配備、運用など多くの問題が噴出しており、関係議員や官僚を合わせると前代未聞の疑獄事件に発展している。
また、メラノ氏は、政局とは別にスキュレス氏への ※1拉致・監禁・強姦未遂により、別件で起訴されることになった。
講和会議には、途中からタニア連合王国からの要望で、トリュフィナ氏の参加により円滑に進んでいる。タニアの現女王とエリスの女帝による会議から“女帝会議”との命名がされている
---エリスのテナント長屋
あれから1ヵ月が経過している。 現在、タツマ達はギャップリバートランスポートがいた場所に住みついている。 貧乏長屋の軒先に、テーブルと椅子を出して朝食中。
親父達の会社であるが、引き続き権利は継続しているため使わせてもらっている。 社内は狭い為、天気がいい日は、よく屋外で食事をとっていたようである。
屋外ダイニングセットが準備てあり簡単にセッティングできるようになっている。
「タツマ―。 朝食時に報道紙読まないで! って言っているでしょう! 」
「サナエさんが読んでいた理由が分かる気がする。 いいよね。 こういうの」
「あほなこと言ってないで、早く食しなさいよ!! 」
親父達は、スキュレス救出の立役者になっており、エリスの高級ホテルに滞在中。
我々は、相変わらずの一市民扱い。 ゆえに空いた場所に住みついている。
ランドリーも食料品も近隣にあるため、住むにはちょうどいい。 男世帯には丁度良かったのかもしれない。
―― 親父もああ見えて意外に細かく綺麗好きだしな。 狭くても周囲に色々整っているこの環境が気にいったんだな?
タツマにそんな考えがよぎる。 そこにサナエさんが話しかけてくる。
「それでタツマは、これからどうするの? 」
「今度こそ本当にテラに向かう。 もう十分でしょう。 ただの一般人に何を期待しているのか分からないよ」
その言葉にサナエさんの反応は早かった。
「ふーん。じぁ私も一緒いく」
―― 以前もこんなやり取りがあったな。 確かあの時は承認したんだよね。 彼女は 聴かん坊 だから、困ったものだ。
「どうぞ」
「おっ! 今度は物分かりがいいじゃない! 」
平穏な時間が流れる。今は、アルプもセレンもいない。
因みにセレンは親父の護衛。アルプは、移動の足の工面とその他向こうの雑事をしてもらっている。
しかし、サナエさんは、マールスの英知になるため、トークンが外れることで、タツマが護衛の立場になる。
そのため、現在はタツマ自身が、軽量型パワードスーツを着こんで護衛担当に当たったている。 一見すると長閑な環境であっても何かと神経を使っている。
―― 何か起きる訳でもなんだけどな
そんなタツマの感情を置いといて、サナエさんは会話を進める。
「二人きりになるなんていつ振りかしら?」
「なかったんじゃない? 」
「アルプも心配性なのよ。護衛なんていらないのに」
それはサナエさんがモテすぎるとの言動が直情的すぎるのを心配しているのだと思います。絶対問題しか起きない。私のような凡人でも目に浮かびます。
「何よ。 目を細めて」
「別に」
タツマが政治欄に目を移し、講和条約の内容を見ていく。
「講和条約もまとまったし、一件落着だね」
「そうね。内容からして妥協の産物といった感じもするけどねー」
サナエさんが呼応する。
「でも、これで一先ず平和が戻って来たって感じかな? 」
「どうかしら? ヘラス地中海沿岸のサバエア大陸やキンメリア大陸側では、今でも紛争があるんでしょ? 」
サナエさんからの指摘が入る。
「まぁ」
「多かれ少なかれどこかで紛争や争いごとが起きるのは世の常よ。 今回は大きな大戦の芽を摘んだだけ、この世界に真の平和なんてないわよ」
―― それをいうならテラも同じようなものだけどね。
「争いのない世界って、無理なのかね」
「無理じゃない? 争いを少なくできることぐらいが精々ってところでしょ? それも難しいでしょうけど」
彼女らしい返答が返って来る。
「……」
「争いを少なくする方法とか考えているの? あんたはリアリストなのか、夢想家なのか。 たまに分からいことを考えるのね」
「人間だから時々に変化もするさ。 でも――人類全体としての平和を夢見るのも悪くないでしょ? 」
「まったく、宗教家にでも目覚めたの? 」
「あそこまでの、綺麗ごとやご高説を打てるほど能力はないよ。 でもどうすれば、そんな世の中にできるかって考えることが多いんだ。 まぁー答えは見つかっていなんけど」
「相変わらず、必要のない苦労を背負いこむタイプね」
サナエさんは半ば呆れながら、温くなったお茶を飲み干す。
二人の間に沈黙が流れる。 最近は朝も寒さから少し汗ばむ感じがある。 遠方より小鳥のさえずりが聞こえ、小動物がそれなりうろつく、この周辺だけは平和との2文字があう。
タツマが報道紙をめくる音そして、折り畳む音が、静かな空間に響く。 サナエさん側の記事が、丁度、執政官解任の記事になっている。
その記事を見つけ、沈黙を破ったのはサナエさんからであった。
「それにしても、メラノ方便はさすが執政官って感じね」
「まぁ想定通りだよ。あの作戦でもやつを糾弾することはできなかった。まぁ女帝からメラノに違法組織の“白翼の騎士団”の所属が移動しただけでも、女帝には利点がるからね」
「でも女性の敵よ。敵」
「だとしても、国内には奴の行動に理解し、賛同するものもいる。マールスに冠たる都市国家エリスの名称は、魅力的なんだろう?」
タツマは報道紙の芸能欄に目を落している。
―― おっ例の女優が不倫相手と別れて、新しい彼氏ができたのかー。モテるよねー。 いいなー
「確かにエリスは大国よ。でも惑星の管理なんて無理でしょう! 馬鹿じゃないの。優良人種とか言っちゃているけど、なら私の研究を超えてみなさいよ」
そうゆう発言が、火に油を注ぐんだけどね。
「無理と言いたいところだけど……理論上は可能かもね」
「へー。どうやって」
「なんでも使い方次第さ。AIを用いた超監視国家による国民を情報管理統制下に置けば可能だろ? 」
「SFじゃあるまいし」
「実際、空想と現実の隙をキャミャエル型有機AIが埋めようとしていると思うよ」
「そっ」
「もっともセレンの能力を使えばもっと早く実現できるかもね」
「……させないわよ」
――言うと思いましたよ――
「考えて実行した奴は、処分する。そのときは付き合いなさい」
「えー」
「なに? 嫁だけ危険な目にあわすわけ? 」
「その脅し文句、ズルくない? ……そうそう。 これ以上の自体は起きないと思うし、もうテラに戻れそうだ。 結婚契約は解除してもいいよ」
「……あんたはどうなの? 」
「? 」
「婚姻関係が切れて、私がどこか行っても寂しくないかって聞いているの! 」
「えーまー」
「どうなのよ! 」
「まーさみしい……かな? 」
何か甘い雰囲気が漂い始めている。 両名の間に再びの沈黙が訪れる。 命を掛けたゴタゴタに巻き込まれて、それらを2人で対応してきた。 その間はまさに相棒としての役割が大きかった。
片方は天才科学者、片方は歴戦のPMCもどきの惑星間貿易商。 孤高と同性だけの職場に身を置いたもの同士、恋愛をしたことが無い為、こんな雰囲気になった時の対応が、まごついている。
そのため、両名ともいい大人であったも思春期の異性間のような状況に陥っている。
しばらくその様な状況が続いていると、助け舟が、邪魔者か? 遠くから聞きなれたエンジン音が聞こえてくる。
―― スマイル号か?
「おっあのエンジン音。スマイル号だ! アルプかな」
タツマが席を立ち、道に出る。ここは郊外の寂れた地域。自動車も人も少ない。
道に出ても特に心配ない。
「ちょっと! そのあと色々あるでしょうが! 言葉にしなさいよ! 」
サナエさんの声が周囲に響く。
*
アルプがスマイル号から降りてくる。
『マスターお久しぶりです』
サナエさんはふくれっ面をしている。
「そうね。 あんたは元気そうね」
『まぁAIですので調子はいいですよ。さて出発しますよ。準備はいいですか? 』
タツマとサナエさんは両名とも言っている意味が分からないとの表情である。
「……?」
「……?」
アルプは続けて言葉を発する。
『本日。ここを出立し、3日後に地球へ向かいとの予定をお聞きしていましたが? 予定が変更になったのでしょうか』
ですよねー。平穏過ぎて忘れていた。
両名とも慌てて準備を開始する。
『ダイゴさんが、マールス(火星)に残るので持ち物は最小限でいいですよー』
*
車内ではアルプからサナエさん対しての小言が始まる。
『マスターは、既にアラ15です。いつまでも少女ではないのです。 もう少し落ち着きと言動への配慮をお願いします。それと日々の……』
タツマは思う。
―― うーん。母親みたいなことを言っているな。
『それとタツマ。 あなたもマスターにちゃんとプロポーズしたのですか? 仮にも、いや本当の婚姻関係です、なればこそ一言があるべきでしょう。 マスターもモヤモヤしているです。 だいたいナーミャンなんて“エリスの英雄”と貴方が釣り合うと思っているんですか? 』
こっちに飛び火してきた。 両名ともその分野で超が付くほど有名人じゃない?
ただの中小企業の凡人には、荷が重いのですが。
『まぁ両名とも今のままが、良いというなら何も言いませんが。 早めにケジメは付けてください』
なんかいきなり、饒舌になっていない?
車内のラジオからは、マールスの民族民謡が聞こえてくる。
―― また変なDJに戻ったのか。
※1:それぞれの戦い ~受難続きのテラ惑星間貿易商 マールス編 断章~を参照




