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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
2章 火星航路
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初顔合わせ

---拿捕中のハッピーカムカム号


「メッセージがきた? エリスのキャミ……キャミュ……誰? 」

ダイゴがメッセージの内容を確認しているが、マールス(火星)独特の発音に戸惑っている。


「キャミャエル・サナエ。 何でも海賊に襲われたときに二代目に助けられたとか。そのあと話す機会があって、うちに就職したいとのことです」


エンジニアが、解答する。


「へー。いいじゃないですか。 従業員が増えるのはいいことです。 因みに何ができるんです? 」


アリエフ(操舵士)が、呼応する。


「まじモノの科学者だ。 AIに関して新進気鋭の研究者との触れ込みで、確かに本物のようだ。 どうします会長? 」


「なるほどね――会うよ。 就職面接だ」


「分かりました。 段取りをつけます」

そう言って、鄭が端末のキーを叩き始める。


「大丈夫なのか? ダイゴ」

バルティスから質問を投げかける。


「たぶん問題ないだろう。 半拘留中だが、戦艦も撤退している。 それにこの状況、キャミャエル氏も認識しての訪問だ。 そうなると相手が何を考えているのかは、知る必要がある」


「なるほどね――では暫く待機してみますか」


                      *


フォボスのエリス国家群の基地より小型の船が、ハッピーカムカム号へ向かっていく。

「こうして見ると巨大ね」


『約600mの大型艦に属します。大金をはたいて購入していますから』

「いくら? 」


『60億リドル。火星の主要通貨換算で600億マリアルになります。 わが社の資本金の10倍の買い物ですね』


「馬鹿じゃないの? あなたの会社。 それにしても600億マリアル(6000億円)ねー。本物の軍艦じゃない」


『タツマ本人も常に愚痴っています。 これでも通常価格より30%ほど安いのは、ダイゴの手腕によるものでしょう』


「金銭感覚が狂いそう。 でもいいの、そんな情報を私に流しても」


『株式を公開しているわけでもありませんし。この情報を用いてあなたが、わが社を買う気もなさそうなので。信頼の証と受け取ってください』


「買わないわよ。 そんな債務まみれの会社なんて。 それに私、経営なんてできないし」

『さて、ハッピーカムカム号につきます、下船の準備をお願いします』


ハッピーカムカム号のハッチに小型船が、ドッキングする。圧力が調整され弁が開く。


丸形トークンが出迎えてくれる。

『ようこそ、ハッピーカムカム号へ。 どうそこちらへ』


「なんか、アルバと似た構造ね」


トークンに案内さたのは、応接用の重力エリアにたどり着く。

エリアの前には体格の良い2人の男性と一般人のような男性2人が 彼女を出迎えた。


「ようこそ。キャマル……。サナエ さん でいいかな」

対応に応じるのは、ダイゴになる。


「問題ないわ。ええと、会長さん? 」


「ああ。会長のダイゴ・ヒルベルトだ。今日は就職活動とのことだが、うちの息子に何か言われたのかい? 」


愛想の良さは、さすが商人。


「ええ。 まぁ。 就職の面接ですけど、会長とお話したいと思って」

「構いませんよ。こちらにどうぞ」


ダイゴが、重力エリアの一角のゲストルームに案内する。

「シップマスター。 お客さまに飲み物を」


『了解です。 何がよろしいですか? 』

「では、ハーブティーがいいかしら」


『了解です』

「さて、ご客人。 内容はなんでしょう? 」


2人になると急に雰囲気が変わってくる。


「あら、履歴書をもってきたのだけど」

徐に持ってきた手提げを開く。


「別にいいですよ。 単刀直入で結構です。もちろん本当の就活であれば別ですがね」


相手は海賊相手に荒事をしてきた連中である。一般人であれば威圧され、雰囲気に飲まれてしまう凄みがある。しかし、サナエさんは平然としている。


「レディに対して、猜疑心むき出しも失礼ではなくて。 少なくともお宅の息子さんには、モデルですかって口説かれたのに」


足を組みながら、儚げな表情で訴えてみる。

このような時、足が長いと余裕の表れとも見られる。


自分の息子が、アルバと言う戦場で女性をナンパしていた事実にダイゴの顔が多少引きつる。

とはいえ、直ぐに平静を取り戻し話を続ける。


「そ……そうか、失礼した。 しかし、目的は聞きたいところだ」


「ハーブティーをお持ちいたしました」

丁度良いタイミングでメイド・トークンが、お茶を給仕してテーブルの上に置く。


「本日のリフレッシュメントです」

追加で、チョコレート菓子を置く。


リフレッシュメントが、置かれた瞬間、サナエ氏はチョコレート菓子に手を伸ばす。

「いただくわ」


彼女もタツマの父親が、普通の一般人でないことは雰囲気から察せる。

しかし、ここで雰囲気に飲まれるのは彼女のプライドが許さない。


彼女自身、学会のエロ親父どもと交戦してきた自負がある。


とはいえ、今回は相手の質が違うため余裕を装っているが、実際は辛うじて演じているだけである。 彼女は、出されたチョコレート菓子を手づかみで口に運ぶ。


口の中を菓子でいっぱいにして、ハーブティーで流し込む。

ハーブティー清涼感が、コクのあるチョコレート菓子とはよく合う。


相手もその飲食の光景に少し引いている感じが見える。これで相手の前のめりを少し引かせることが出来た。


食べ終えると、サナエさんは話し出す。

「セレン(シップマスター)について、お聞きしたくて」

「セレン……。うちのシップマスターがなにか? 」

ダイゴの眉間に皺がよる。


「あのAIは、ただのAIでは、ないのでしょう? 少し調べました」


「何を勝手に――いや。 セレン(シップマスター)から申し出があったのか? 」

「もちろん。 この船を外部からハッキングできる能力は、持ち合わせていないわ」


サナエさんは、ハーブティーで喉を潤し、一拍おく。

「セレン(シップマスター)から“調子が悪いので見てくれ”との申し出があったの。 そこで新進気鋭の私が症状を診てあげているわけ」


「なぜ俺達に――」

一旦ため息が漏れるダイゴだが、話を続ける。


「まぁ大方理解はできた。それで新進気鋭さん(サナエさん)の結果は? 」


「率直にいうと、入力に対して出力が著しく減少し、処理低下の事象が発生しています。中間層のネットワークの混線といったところかしら? 」


「それで、治し方とかあるのか? 」


「問題がハード側か、ソフト側なのかってことなんだけどー。 簡単なテストデータの出力値を見る限りソフト的問題はなさそうね。

 でも重いデータ処理になると結果が揺らいでくる。となると有機AI特有のハード側の問題と読んだわけ」


「……」


「おそらく特注に近い仕様になっているはず。とのことで、本題の目的ね。セレン(シップマスター)のハードを見せて頂戴」


「うちの心臓部だぞ」

ダイゴが愚痴る。


まずは、彼女の目的を相手に告げることができた。


サナエ氏は、一息つけたのでハーブティーに口を付けるが、先ほど飲み干したため空になっている。 その様子を見てメイド・トークンが動き出す。 


「そうでしょうね。 普通一隻で3隻の海賊艦は相手できないわ。それも10年以上の前の船で。 この艦であれば問題ないでしょうけど。 ログを確認したところAIの性能で勝ったようなものね」


とりあえず、気を取り直して話を進める。


「そこまで調べたのか?」


「診察に、問診はつきものでしょ? 15機のドローン戦闘機や200体の武装人型トークンの同時運用の実現。  単体での運動データで確認をしたけど、戦闘機はエースパイロットクラス、人型トークンも訓練された正規軍並みの統率力。


いくら海賊が物量で押していても、次から次へのエースクラスが出てくるようでは、勝ち目はなかったわね。 最もラッキースター号の被害も甚大だったようだけど」


「わかった。 ただし――」


「良いわよ。秘密保持契約の文章でもなんでも書くわ。私は研究が出来ればいいわけだし。どこのなにかは、興味ないわ」


「ついてこい」

ダイゴが立ち上がり部屋を出る。


重力エリアから、暫く移動する。 ダイゴが向かうのは、ブリッジであり、その先にハッピーカムカム号の心臓部がある。


ブリッジに着くと、この船の社員はこちらを見ている。


「こっちだ」

彼らの視線を無視してダイゴが進み、ブリッジのもう一つの扉に入ろうとする。


「ダイゴ、その部屋は……」

バルティスが引き留める。


「セレン(シップマスター)のためだ」

サナエ氏 も後に続く。


薄暗い部屋に赤い光が満ちている。

電算室やサーバルームと呼ばれる場所にあるが、ここは少し趣が違う。


「何? この部屋」

質問に答えず、ダイゴが奥に歩いていく。


コンソールから、パスワード・網膜認証を実施する。電子音とともに、映像パネルにクリアの文字が浮かび上がる。


「これだ」


ハンドルを回し、シリンダ状の何かを引き抜く。シリンダはガラス張りになっており、液体で満たされている。 透明のシンダー内には液体が満たされ、その中に有機物のような何かが固定されている。


「これは……随分変わった型式の有機AIね。こんなの初めて見た」


「だろうな。 こいつは、ヒルベルト商会の特注仕様だ」

「でも、そんなに秘密にすることではないでしょ。 現に私の研究にも有機AIは利用されているし」


「まぁな。 しかし、こいつはさっきも言ったように特注で、磁界感知能力を用いて非接触型で情報を取り出している。 通常のデータベースの情報もこの光によって細胞に伝えて対応している」


「非接触型って」

確かに配線らしいものはない。シリンダーにも電源らしい配線はあるが、それ以外見当たらない。


「しかし、興味深い構造ね。 驚いたわ。 通常のAIの補助なしで、有機AI単体でここまでの性能と耐久性を実現できるなんて。本来ならサーバー群の中にあるようなシステムなのに」


「これで満足したか。 治し方は? 」


「まって……早まらないの。 セレン(シップマスター)。 聞こえる」

『聞こえています』


「現状をみているわ。細胞自体は依然と比べて変化はあるの? 」


『有機体の一部の神経網の膨張が見られ、それにより情報伝達量は増加していますが、増加しすぎた神経網により、適切な信号処理ができず処理能力が低下しています。 


結果、応答までの時間が低下することでさらなる、情報の渋滞を引き起こしています』


「それだけ? 」

『応答遅延の結果も精度が落ちている為、再計算の発生も頻発しており、それに伴う更なるリソースの消費によりデータの乱れが、高まっている状況です』


「なるほどねーどうしようか……」

悩んでいる。しかし、会長・ダイゴがソワソワしているのも気になる。


できないこともないが……机上の空論とまで言わずとも理論が飛躍し過ぎている。今すぐの決定はできない。当面は対処療法で乗り切るか。


「そのシリンダは、もとに戻して、ゲストルームに戻りましょう」

「対策はあるのか」


サナエさんが戻ったら話すというと、ダイゴは素直に従い、再び応接室に向かう。


--- 応接室


再びの応接室。 両者は向かい合っているが、初対面のようなギスギスした感じはない。


「さて、治療法ですが、メモリの増設を実施して対応しましょう」

「それだけか? 」


「対処療法ね。 根本的な解決策は、研究と実証が必要になるわ」

「教えてくれ」


「おそらく、現在セレン(シップマスター)の症状は、おそらく鬱状態ね」

「鬱? どうゆうことだ? 」


「神経網が増大したっていっているでしょ? おそらく色々計算し過ぎている状況ってこと。 人間で言えば、あれこれ考えて前に進めず立ちすくみ、無気力になる感じ」


「……酷使しすぎたのか」


「一概には言えないけど……AIにとって経験値は食料のように貴重なもの。 成長には欠かせない資源であり、その経験が困難であればあるほど、成長は早まる。


 特に戦闘のような、敵の把握・撃退・作戦の立案・武器の同時運用などの重負荷は、AIの成長を早めるはず。


 端的にいえば、食料を与えすぎている状況で過食に陥って、鬱になっていると言った方がいいかもしれないわ」


ここでトークンが遅れてお代わりハーブティーを給仕してくれる。

新しいお茶を一口飲み、気を落ち着ける。


「会長がなぜ10年前の船を利用していたかわかりませんが、結果それが多くの海賊の目に留まり襲撃頻度が増えた。 履歴を調べたところ、惑星間貿易商の中で襲撃数が突出してかつ生き残っている……」


実戦による命のやり取り。安全が確保されている演習とはわけが違う。


「……本来であれば順調に成長するはずなのに、このAIは委縮している。 そこが不明なの。人間で言えば過労からくる鬱と考えるのが一般的だけど、有機AIでそんな事例はないし、でも、ソフトの症状と現状を合わせると、人間の精神疾患に近いように感じるのよね」


「対応策はあるのか? 」


「今はまだ不明。対策を構築するためにもシップマスターの研究・検証が必要になるでしょうね」


「当面はメモリの増強か……さっきの就職の話は本気か。それとも俺に合うためか? 」


「半々ってところね。 当初は会うための口実だけど――今の状況をみると、この船でシップマスターの研究者としているのも悪くないと思ってきたわ」


笑顔を向けながら、残ったハーブティーの2杯目を一気に飲み干す。


「私、これでも新進気鋭のAI科学者で通っていますから。 貴方達が私を雇って頂ければ、セレンの症状回復への研究を開始するわ。 報酬は……研究内容の論文発表でどうでしょう」


「わかった。 本採用だ。 セレン(シップマスター)。 こいつに協力してやれ。 欲しい情報は、全て提供して構わない」


『了解です』


「ふー。 交渉成立ですね。 私のデータは、セレン(シップマスター)を仲介して送ります」


ようやく、緊張した会話が終わった。

今回は学会のお偉いさんとは違い、神経を使う言葉選びだった。


「金はいらないのか? 」


「いりますけど、研究が成功することでいくらでも手に入りますから。 それに社員になればそれなりに給金もでるんでしょ? 」


「まぁな」


「よって今回は初期投資ですね。お金の代わりに潤沢な情報をいただくことが、研究成功の一歩ですし。 会社に対しての信頼構築も必要でしょ? 」


「お前さん。 商人の素質があるじゃないか? 」


「息子さんほどでは、ないですよ。ところで、この製作者は、誰なんですか? なぜ、有機AIでのシステム構築を? 」


「すまない。製作者との約束で、応えることはできないんだ。この技術も当時は最先端でね。おそらく今でも最先端になる」


「ふーん。製作者に聞けば、有機体の症状の改善方法がわかると思ったのだけど」


「おそらく……無理だろう」

「訳がありそうなら、これ以上聞かないわ。自分で解決する方が、ワクワク感あるし。そうだ、この件を解決したら教えてね」


「……いいだろう」

「おお、意外に素直なのね。やる気が出てきたわ」



サナエ氏がフォボスに戻っていった後の船内は、少ししみじみしている。

「ダイゴ。 本当に教えるのか? セレン(シップマスター)の秘密」

バルティスが疑問を投げかける。


「彼女の論文は読んだよ。 シップマスターが彼女を頼ったのは、運命かもしれないな。 それに、彼女の研究は、確かにシップマスターを救う可能性がある。 進めていけば真理にたどり着いて、事実も受入れられると思ってさ」


「運命ね」

「……AIにはとことん因縁があるな」


--- フォボス タツマのスイートルーム


「あー暇だー。いつまで軟禁されるんだー」

タツマが、ベッドの上でのたうち回って暴れている。


「ナーミャン!! ナーミャン!! もういいでしょう。ナーミャンかわいいよ!! かわいいよナーミャン!! 」


とりあえず叫んでみる。 盗聴されているから、おそらく司令部は、爆笑寸前だろう。

ナーミャンの可愛さは、わかる人にはわかるはず。


しばらくすると、ドアがノックされる。

「はーい」


ドアを開けるとナーミャンがいる。

きりっとした顔で応じる。


「いかがしました? 少将閣下」


真っ赤な顔でプルプル震えている。 かわいい。

「貴様ふざけているのか? 」


「とんでもございません。私、少将閣下のご命令にしたがい、待機をしているまでです」

「はー、分かった。本国との交渉も終わった。 戻っていいぞ」

諦めたような感じで言い放つ。


「了解であります。少将閣下」

「それで、あの場での約束だが、本当に可能なのか」


真剣なまなざしに少しの不安がよぎっている。少将がそんな目をしちゃだめだろう。

この階級につくのにどれだけの苦労・しがらみがあるか、想像に難くない。


「できることをいたしますとの発言に相違はありません。 もちろん少将の手柄になるよう動きます。 ただし、民間人ですのであまり過激なことは厳しいかもしれませんが」


「手柄なんていらんさ。 本国に降りたら、この人にアポイントをとって、話を聞いてやってくれないだろうか。 もし、必要であれば助けてやってほしい」


近距離通信で端末に情報が送られてくる。


「ご安心を。 契約書のサインは少将閣下です。 代金をいただいた、お客様の秘密保持、契約まで、少将の案件を最優先にいたします」


恐らくこの場では、対象者を助けられないから、こちらに助けを求めたのだろう。

美人からのお誘いだ。断るわけにはいかないさ。


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