行動開始
--- ダウンタウンのアパートメント
ケルンと同じ部屋であるため、毎日業務報告は、直に行える状況にある。
―― 男性2人が同じ部屋、 何もおこるはずが……起きないから。 セレンがいるから。 それに仮にも――いや本当に結婚しているから。
「タツマさんどうでした? 本日の収穫ありました? 」
マールス人だけあって顔が整っているケルンが、興味ありとして聞いて来る。
「ああ。基地周辺の監視カメラは、少ない感じがある。もしかしたら死角が結構あるかもしれない」
「確かに――斥候も少ないですし。 見回りは、見かけませんでした。 おそらくですが外部監視カメラで代用しているんじゃないでしょうか? 」
「だろうね」
「作戦の検討は、ついているんですか? 」
「今のところ少しずつ進めている……街中であのスマイル号を隠せる場所が欲しいな。 ありそう? 」
「了解です。 探しておきます」
「それと、他社の回収表と塗装屋がいるな」
「なるほど。 確認しておきます」
「では、引き続き清掃業務に勤しむとしよう」
清掃業務の日々が、しばらく続く。
--- メンドゥーサ 一ヶ月経過
一ヶ月も経つと結構顔を憶えられてくる。街中をウロウロしていても憲兵から“またルートの確認か?”声を掛けられるぐらいには、関係が築き始めている。
実際、憲兵の事務所も回収ルートにあるため、そこで顔を合わせていることもあり、警戒心は、完全に取り除かれている。
スマイル号の隠し場所も塗装屋も手配できた。
後は“キャリング”とかいう運び屋を使ってカーゴをここに入れ込むだけか。
現在は仕事終わり、宿泊施設で臭いを取った後に例の移動販売車で遅めの昼食を取っている。
現在は24月。 春季ではあるが、昼でも冷える。 しかし、この寒さは頭を冷やすのにはちょうどいい。 遅めの報道紙を読みながら、ホットティーとベイクサンドの昼食だ。
「この寒いのに良く外で食事しますね」
エリスの工作員兼店主が話しかけてくる。
因みにセレンは、ケルンと行動を共にしている。
「それほど、寒くはないでしょう」
プロメンテで真冬に工事に従事していたため、寒さには慣れている。
報道紙には、“タニア王国軍北上!!ノアチス穀倉地帯で敵主力撃破”の文字が躍る。
―― ノアチス平原? 目標はプロメンテじゃないのか?
「その記事。本当であれば、妙ですよね。 エリスを攻略する気でしょうか? 」
「さぁ? 」
何を考えている? 狡猾な奴らだ。意味のないことはしないだろう。 それに、ここでは何もできない。 まずは自分の作戦を進めるまでだ。
「じゃぁ。また来るね」
昼食を取った後、例の旧市街に足を向ける。 ここの街の情報はそれなりに得ているため迷わずに進める。 徐々に周囲の状況が変わってくる。 落書きが多くなり打ち捨てられた車両もある。
―― 相変わらずの光景だな。
そんな街中を歩きながらキャリングを探す。
―― キャリングは、どこに消えたんだ?
ウロウロしながら周囲を見回していると、急に後ろから話しかけられる。
「よう旦那、準着でも整ったのか? 」
驚き振り向くとキャリングがいる。
「……ああ。 まぁね」
「なるほど。ここに来たってことは、依頼というこでいいのか? 」
「約束の前金の3万マリベルだ」
まずは封筒に入った金を渡す。
「立て続けに入金とは、今日は縁起がいいな」
「使い過ぎて、こちらの計画に穴をあけるなよ」
「それは大丈夫だ。信頼第一で動いているからな」
キャリングはそう言ってもらった封筒の金を懐にしまい込む。
「これからアルシア山麓集落にいったん戻る。カーゴはどこに運べばいい」
「さっそくか――その前に少し打ち合わせ。 いいか? こっちにも問題が起きてな」
キャリングの軽い雰囲気が少し重くなっている。
---怪しいアジト
キャリングは、窓ガラスが破れており、いかにも侵入してくださいと言わんばかりの打ち捨てられた中層のアパートのエントランスを入っていく。
中には窓ガラスが落ちており、日の当たっている壁や廊下は、日光で色褪せをしている。
「旦那。こっちがアジトだ」
言われるがままついていく。朝のため、静かで鳥の声が聞こえるぐらいだ。
アパートを横切る形で進む。エントランスと反対の位置には一見すると壁にしか見えず、行き止まりになっている。
案内人が、何気に開いている穴にキーを入れ回す。 センサに持っていた端末をかざすと、ロックが開いた音がする。
「厳重だね」
「そりゃぁ。そうよ。誰でも入って来られたらたまらないだろ? 」
ドアの先には、手入れがされている中庭が広がる。
「ここはどの部屋からも見えないようになっているんだ。こちら側に窓がないだろう? 」
周囲は地上5階建ての壁で囲まれている。空は高く蒼い。
「ここは? 」
「いっただろ? アジトだって」
「いいのか? まだ大して付き合いもないだろう? 」
彼はその質問に回答せず、庭の中央付近を指さす
「取り敢えず、あそこの四阿で話そうか? 」
案内に従い、四阿に向かい内のベンチに腰を下ろし協議が始まる。
--- 四阿にて
屋根付きのベンチとテーブルがあるだけの簡素な作りの工作物である。 雨は凌げても風を凌ぐのは難しそうである。
「さてと、旦那は中々の太客ではあるんだが、茶は出せないがいいかい? 」
「ああ」
テーブルの下をごそごそして地図を取り出してきた。
「旦那達のスタート地点は、アルシア山麓集落……ここだ。で、ゴールはここメンドゥーサだ」
地図の指定の箇所を指さしながら話を進めていく。
「間にかなりの検問があった。ここに来た当時で10か所はある」
タツマも自分の持っている情報を開示する。
「あんがとさん。 ついでに今も大して変わっていない」
「どう突破する?」
「その前に客の名前は聞かないが、目的を聞くのが俺たちの流儀なんだ。 カーゴ車で何をする? 」
「信頼できるのか? 」
「俺達も無法者だ。そうなれば担保は必要だろ? この場所も他言されては困るからな」
大きく息を吸い。気持ちを整える。
「メンドゥーサのレーダーサイトを破壊する」
キャリングは目を丸くしてその回答を聞いている。
「ほー? マールス人以外が、聞いたら冗談と笑う所だが……なるほど。理由は結構だ。 軍に喧嘩を吹っ掛けるか? 」
「そんなところだ」
「いいだろう。 デカいイベントは嫌いじゃない。 ではこちらから説明をする」
地図を広げて説明を始める。
「ガラスの雪は、知っているか? 」
「ああ」
「当時多くの人が戦火……粛清を逃れてこの地にやってきた。 当時の政府は一か所に多くの人が集まることを嫌ってな。 人の集団には銃弾が浴びせる狂った時代でもあった」
「……」
「しかし、人は一人では生きていけないし、交流がないと生活もままならない。そこで裏ルートなるものがあるんだ。 おっとこいつの場所は教えられないぜ。 俺たちの飯のタネだからな」
「……」
「そのルートを使って、各集団は交流をもっていたという訳だ。旦那は運がいい。 特にあのアルシア山麓集落は、“ガラスの雪”の避難者の最初の場所だったんだ。 あそこを拠点にみんな各地に散らばり、命を繋いでいったんだ」
女帝も色々あったんだな。
「湿っぽい話はここまでだ。 そこにカーゴが、置いてあるとなれば話は早い。 ルートに既に乗っているため、ルートに乗っけるまでのリスクがなくなる。 条件は恵まれている」
「そうか。 因みにその裏ルートは、安全なのか? 」
「今、問題が起きているのはそこにある。 盗賊がルート周辺に住みつきやがった。 先日の業務で仲間がやられてな。
当初の10万マリベルだが、護衛を頼む必要ある。 そのため追加料金が発生しそうなんだ。 何とかならねーか? 」
「金さえ払えば、すぐにでも動けるのか? 」
「いや、信頼できる護衛を探す必要がある。 少し時間がいる」
「……私自身が護衛に着いた場合は、問題ないか? 盗賊の排撃が問題なんだろ? 」
「ああ。まぁそうだが――旦那は荒事できるのか? こういっちゃなんだか腕は信用できるんだよな? 」
「大丈夫だ。 腕は――軍に喧嘩を吹っ掛ける程度はある。 それにあんたは、運び屋の仕事に専念できれば、いいわけだろう? 」
キャリングがタツマを見つめている。 おそらく読心術だろう。
「なるほど……腕には自信があるんだな。 いいだろう。 では、あんたの護衛で対応する」
「残りの金は、メンドゥーサでカーゴと引き換えでいいか? 」
「了解だ。 話はまとまった。 交渉成立だ。 ここからは、回答が無くても構わないが、破壊できるのかあれ? ロケットやミサイルでも厳しいぞ」
キャリングがストレートな質問を出してくる。
「それをするための道具を積んでいる」
「なるほどね。 アルシア山麓集落はいつ行く? 」
「明後日が、仕事の休日になる。 それに合わせて出るつもりだ。可能か? 」
「了解だ。では俺は先乗りをして、荷の確認やモノの準備をしている。目的地に仲間がいるのであれば、連絡を頼む。着いてズドンでは、仕事はできないからな」
「了解した」
中庭からの退出を促され、来たところとは別のルートで外に出た。
――どこだここ?
キャリングが、タツマに話しかけて来る。
「この道を真っすぐ行くと、移動販売車の所に出る」
「……」
――なぜ移動販売車の事を知っている?
「旦那よりこの土地は長いんでね」
そう言い残すとキャリングは、またアパート内に消えていった。
おそらく、それなりの情報網と目をもっているとの脅しかも知れない。
しばらく歩くと確かに移動販売車のエリアに出ることになる。
「ああ、またあんたか。どうした? 」
移動販売車の店主がそんな言葉を掛けてきた。
*
その後、共同のアジトに戻り一部始終を説明する。
「なるほど。では早速受け入れの準備をしますね」
ケルンが内容を受け入れ、隠し場所の準備に取り掛かるとの発言。
「セレン。 スマイル号と連絡は付く? 」
『もちろんです。内容を伝えるんですね』
「ああ。 “キャリング”と名乗る男をスマイル号に案内してくれと。 中は見せるなとも伝えておいてくれ」
『了解です』
ケルンが何気に呟く
「ここからどう戻るんですか? 足がないですよ」
「ヒッチハイク?」
タツマが視線をセレンに移動させる。
『誰かに乗せてもらっていた方がいいかもしれません。 街中ロータリーに白タクや旅客車両の案内客掲示板がありました。 その辺りで探したらいかがでしょうか? 』
「分かった。 やってみる。 準備を頼むぞ」
「了解です」
--- 北部ルート 裏街道
メンドゥーサからアルシア山麓集落へ戻るミッションの開始になる。
まずは、メンドゥーサのロータリーに向かう。 ロータリーには掲示板があり、行先と値段の記載がある。
中には、白タクのような記載もあり個人での輸送もあるようだ。
こんな時代、生きていくには必死だからな。
「さてと……アルシア山麓集落方面は……結構あるな」
北部王国道路は、そのまま王都ノクティス・ラビリントスへルートのため、多くの車両の一時、立ち寄り地点となっている。
そうなると選択基準は、安全性だろう。 個人の場合は、追剥に会う可能性がある。 大人数での移動では、その可能性も少ない。
ならば……
「旅客車両でいいか」
関係乗り場に行くと、運転手か旅客車両オーナーらしき人間が立っている。
「アンちゃんも乗っていくかい? 」
「お願いします」
「うちは、マリベルとタニアパウンドがあるが、どっちで支払う? 」
「マリベルで」
「了解だ。 場所は?」
「アルシア山麓集落」
「じゃぁ、300マリベルだ。 前金になる」
「どうぞ」
紙幣を渡す。 惑星間通貨であっても、普通は現地の両替商で現地貨幣に両替し使用することになる。
しかし、キャリングもマリベルで要求したところを見ると、戦争中ということもあり大国タニアであっても、惑星間通貨をそのまま利用できるらしい。
―― 物価が上がっているのか、通過の価値が下がっているのか。 安定の惑星間通貨が人気とはね。
乗車賃を支払い、車両に乗り込む。 乗り込むと分かるが、屋外はかなり冷えているが、旅客車両の車内は、暖房により快適である。
―― 戦時中であったも市井の燃料は問題なしといったところか。 流石大国。
旅客車両が、動き出す。 多くの輸送サービスがあるためか、満席ではないため精神的な負担は少ない。
旅客車両での一人旅。 何も考えず外を見ていると自ずから、周囲の乗客の会話が耳に入って来る。 戦争の行き末、将来の不安、食料の物価高、即位した女王への不安も聞かれた。
――まぁ確かに1歳は、きついよなー
王都に行けば、仕事があるだろうとの思いの人間も多いようだ。 いくら貴族の命名を餌にしても、誰もが戦える訳でもない。
「世知辛い」
ぼそりとつぶやく。
旅客車両だけあって、快適に進んでいく。
さすがに 旅客車両であっても検問は、受けることになる。
検問数も最初に来た時と同じだけのように感じる、増えても減ってもいない。
旅客車両に憲兵が乗り込んできて、一人一人の身分証などを確認していく。
それなりの時間が掛かるが、歯向かってもいいことが無いことは、全員知っている。
故に、乗客は逆らわず検査が円滑に終わっていく。 そのため、朝の出発であってもアルシア山麓集落の着いたのは、夜中になる。
車両の時は夕方には便はずだが、やはり検問で多くの時間が消費されていた。
ひっそりとしたさびれた集落であるが、ここで旅客車両の停泊地もなっているため、アルシア山麓集落から多くの物売りがやって来る。
商魂の逞しさは、厳しさによって鍛えられるのだろうか?
ここでの降車客は、それほどいない。
王都に行くグループと南部へのグループがいるので丁度いい中継ポイントになっている。
乗り換えの中継ポイントになっているが、通過都市としての役割しかない。
意外に利便性は高いのだが、場所の※1イメージがあるためだろうか? 寄り付く人間が、少ない気がする。
集落に入り、スマイル号へ向かう。既に夜であるが、先ずはアガニッペの工作員の家屋に向かう。
ドアの指定されたテンポでノックする。 アガニッペの案内人が、ドアから顔を覗かせる。
「ああ! タツマさん。 お待ちしておりました」
ドアを開けタツマを迎え入れる。
「了解だ。 調子はどうだい? 」
「そこそこですよ。 ここは平穏そのものです。 運び屋のキャリングは、既に来ていますよ。 準備万端で、ガレージでお待ちです」
工作員は、親指でガレージを指さす。
ガレージいるキャリングは、既にコンバットスーツを装着して、アサルトライフルの手入れをしながら待機している。
タツマが近づく音が聞こえたのか、振り向き反応する。
「おお。 旦那。 遅かったですね 」
「アンタのように自分の足がないんでね。 それに検問の数の数もあるからな」
キャリングがどうやってきたかは、不明であるが、伝手があるのだろう。
「まっ。こちらの生活が長いと伝手も多いんでね。身一つであれば以外に簡単なんですよ」
キャリングが、運搬するカーゴに視線を移す。
「これ装甲車に近いカーゴですね、ダンナ。 いつ出発します? 」
「直ぐといたいところだが、こちらも準備がある。 旅の疲れも取りたい。 明日の夜はどうだ? 」
「了解だ」
※1ガラスの雪からの避難者と山岳民族が集まった村




