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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
11章 工作活動
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ルーティン・ワーク

--- メンドゥーサ環境商会 事務所内


「フォーチュナ出身のキャミャエル・タツマです」

「キャミャエルの相棒のセレンです」

「アルバテラ出身のオーソン・ケルンです」


恒例の新人挨拶が、事務所内に響く。 十数名の小企業でいわゆるアットホームな会社との認識があっているかもしれない。


“こんな時期に新人とはな”

“フォーチュナってテンペ大陸だろ?”


“どうして今次期?”

多くの質問が出てい来る。 ここの所長らしき人から説明される。


「彼らはテンペ大陸出身で、耕作期にこちらに出稼ぎに来ていたようだが、戦争が始まりここから出られなくなってね。


戦争が終わるまでうちで預かることにしたんだ。 知り合いの農場主からの推薦だから心配しないで欲しい」


その一言で空気が変わる。

“所長がいうなら安心だな”

“大変だよな”


“俺ら市民には関係ないのに気の毒に”

タツマ達に対して同情的な意見が出て来る。


「オーソンさんは、事務所内清掃で、キャミャエルさんは、ごみ収集車班と聞いている。 各員最初の仕事の仕方はしっかり教えてくれよ。 では解散」


こうしてタツマのメンドゥーサの日常が始まることになる。


                 *


ごみ収集車班の朝は早い。

各家庭から出されるゴミを回収し、所定の施設に持っていく必要がある。


「キャミャエル! おせーぞ 次だ!! 」

「了解です」


青のつなぎに、キャップと厚手の手袋を付けて回収した家庭ごみをパッカー車に放り込んでいく。


大陸から締め出されたという同情はあるものの、業務とは別であるため、早速こき使われることになる。


「次はあの角だ! 走れ!! 」


車両にのるより走った方が早いため、車両に乗らず走ることも多い。 キツイ仕事だ。 小間使いのように使われているが、これも新人ゆえの仕事だ。


「この区画は終わりだ!! 乗れ!! いったん集積所だ!! 」

特定の区画が終わると、集積所に行きゴミを廃棄する仕様になっている。


パッカー車が、ゴミで満タンになった状態で、火災などの事故が起きると手が付けられない。 


そのような事態を避けるため、一定量でゴミ処理場に持ち込むのがメンドゥーサの法令で決まっているようだ。


集積所に数回往復したところで、本日の業務は完了となる。


ようやく朝の仕事が、終わる。


ゴミ収集車班は朝が早いが午前中で仕事が終わるため、キツイ仕事だが、時間が短いのが利点になっている。


社内に戻って来るとかなり疲労困憊(ひろうこんぱい)状況である。 昼間の清掃班は、すでに現場に出ている為、社内にはゴミ収集班以外、ほぼ誰もいない。


ゴミ収集班が自分のデスクに座る。

「さてと、どうだ! キャミャエル! 初日の感想は」

班長が少し遠方から声をかけて来る。


「きついっすねー」

タツマが回答する。


「まぁ、これがゴミ収集車班の仕事だからな」

「そうだ。 ルートって何か資料は、あります? 」


「おう。 ちょっと待っていろ――」

自分の机の中をガサゴソしている。


「大概、体で覚えるんだけどなー……っと、あった、あった」

班長の机の奥より発掘された、よれよれで(しわ)だらけの地図が渡される。


「これだ。 頭にいれとけよ」

「ありがとうございます! 」


―― また随分と雑な扱いで……なるほど。複数の班が地域ごとに分かれて巡回しているらしい。 他の業者もいるのか


ルートマップを確認すると、レーダーサイト周辺も回収コースになっている。


「ああ。それと軍事施設は、10日に1回だ。社員証と身分証を忘れるなよ。基地内に入れなくなるからな! 」


「了解です」

しかし、メンドゥーサのシティ地区もそれなりに広いため随分と細かに地区が区切られている。


午前の業務も昼前に業務が終わったため、早速ゴミ収集マップを片手に地理確認のため街に繰り出す。


ときどき、憲兵らしき人間に声を掛けられるが、社員証を提示し、ゴミ回収ルートを覚えているというと問題なく解放してくれる。


                     ・

                     ・

                     ・


            そんなルーティンワークで数日が過ぎる。 


                     ・

                     ・

                     ・


新人と言うこともあり、重労働を押し付けられることが多いが、生死に直結する労働でないだけ、気持ちは軽い。


そして、この街の状況や街並みも徐々に分かって来る。 状況としては、この戦況下での経済は低迷。 また、レーダー基地ということで、多くの軍事が来るわけでもない。


逆に軍人が、テンペ大陸の国境付近に駆り出されることで、全体的な消費者が減ることになっている。

その状況が、冬季の物悲しい雰囲気を相まって一層の寂しさが募る光景になっている。


とはいえ、タツマの作戦の方は順調である。 清掃業者として憲兵にも顔を覚えらえるようになっている。 


街並みは、いたって普通だが、やはり旧市街と新市街があるため、治安の良し悪しはあるようだ。 特に、最初にこの街に入った郊外エリアはそれなりに治安が悪い場所になる。


この段階でタツマが、次の準備を開始する。


覚えた街中をうろつきながら、最初の貧民窟にたどり着く。 あの時のチンピラ風の男を探すも意外に早く見つける。 昼間から酒を飲んでいるようで、道端に座っている。 今度はこちらから声を掛ける。


「また会いましたね」

タツマの言葉に顔を上げる。


「あ……ああ。 あの時の。 その恰好を見ると仕事が見つかったみてーだな」

「まぁね。 そっちは? 」


「ボチボチってところか」

「昼間から酒をあおって? 」


「俺たちの仕事は、不定期なんだよ。それに毎日仕事がある訳でもない」

「ふーん。 仕事内容は――運送業――密輸だっけ? 」


その言葉でチンピラの目が鋭くなる。

「ふふふ。 なるほど俺達に近い臭いがする。 何か運んで欲しいものがあるんだな? 」


「へー酔っぱらっていても分かるものなんだね」

「酔っている方が良く分かる。 俺はな。 お客様とは、ありがたいねー」

おそらくマールス(火星)人お得意の読心術だろう。


「大きさはコンテナ1つ」

突然タツマが、商談を始める。 まずは運搬物の仕様から示す。


「ほぅう。 カーゴ車かい? それともコンテナ単体? 」

「どっちが運搬しやすい」


「まぁカーゴ車の方が、牽引車を用意しない分楽だな」

「それは結構だ。カーゴ車だ」


「ほー。 写真とかあるかい? 」

端末から写真を示す。


「なるほど、サイズ感も問題ないな」


「こちらにも準備があるため、直ぐ結構はしないが、問題ないか? 」

「いいぜ。 直ぐじゃないんならこちらも準備ができる」


「いくらだ? 」


「俺は惑星間通貨での支払いになるぜ?――車両サイズからして10万(100万円)マリベルってところか? 」


「いいだろう」

「即決か……」

多少の驚きがあったようであるが、それも直ぐになくなり、男は平静に戻る。


「ああ。 準備を頼む」


「出発場所は? 」

「アルシア山麓集落だ」


「なるほど。了解だ」

「分かっていると思うが」


「誰にも言わねーよ。 それと直ちではないというのは、分かったが、おおよその出発予定は、聞きたいところだな」


「1ヵ月は欲しい」


「了解だ。 まぁ10万(100万円)マリベルの仕事とは、久々のいい案件だ。悪くない。 またここに来い。 俺は“キャリング”とでも呼んでくれ。 あんたの名前はいい。 ポリグラフ対策は、必要だからな」


「また来る――前金はいくらだ? 」

3万(30万円)マリベルだな」


「後で持って来る」


取り敢えず、バグドローン密輸の算段は付いた。これからメンドゥーサの地理の把握とカーゴを収める場所。 さらには、最終作戦の準備をしないとね。 場所に関しては、事前に


あとは、レーダーサイトの状況か――あそこの状況は是非とも知っておかないと。




--- メンドゥーサ・レーダーサイト ゴミ回収・清掃業務


待ちに待った、レーダーサイトの業務である。

メンドゥーサ・レーダーサイトは、森の中に存在し、森を抜けると直ちに基地が見えて来る。


セキュリティはそれなりにあるが、思ったほど強固ではない。王都から離れていること裏庭と呼ばれているためなのだろうか。 


ここは前線と反対側であり、戦争といっても地形上有利な点が多い為、比較的緩い空気が流れている。 この時世であっても外見は静かであり、ゲートの歩哨も1人である。


入館証を見せるとすんなりと中に入れる。


中に入ると直ぐに基地の兵士がこちらを呼んでくる。

「おーい。 ゴミ屋―。 こっちだー」


「はーい。 ただいまー」

タツマが対応する。


「ここのゴミを持って行ってくれ。 それと基地の外の外構周辺の掃除もいつも通りにな」


パッカー車の班長が、タツマに指示をだす。

「キャミャエル。お前は周辺掃除だ。 俺たちはここでこれを分別するから」

「はーい」


基地だけあって分別もしっかりしている。

そのため、パッカー車で回収する方が、楽な任務になる。


といっても自分の目的は別なので、大いに結構。


色々道具を詰めた、移動式掃除用小型コンテナを伴ってサイトの外に出る。

柵の外の外構の清掃に入る。


周囲は森に囲まれ鬱蒼としており薄暗い。 森林の中であるため道らしい道はないようだ。 サイト境界の金網の柵に沿って、清掃を開始する。


落ち葉をかき分け集め、コンテナに入れると圧縮される。時たまゴミも落ちているので箒と塵取りで回収していく。


清掃のする中で感じたのは、この基地は高い金網はあるが、監視カメラが少ない。

外部からの不法侵入こそ難しいが、監視の目が少ない感じがする。


であれば、死角が存在しているはず。

それを探し出せれば、こちらの作戦の最初の段階をクリアしたことになる。


掃除中には、よく小動物に出会う。 こちらと目が合っても直ぐ逃げたりせずに、見つめてきたりしている。


「……」


サイトの端まで来ると少し行くと崖になっており、海が入り込んでいる入江のようになっている。


「随分と高いな」


崖周辺にはカメラはない。恐らく、こんなところ登ろうとする人間もいないとのことだろう。下の海面から風が舞い上がり、独特の磯野香りが感じられる。


――テラ(地球)であれ、マールス(火星)であれ海の臭いは同じなのか? 

ともあれ冬であるためかなり冷え込む。


                *


来た道を戻り、一旦集めたゴミを基地内のパッカー車に入れ、反対側の清掃を開始する。

周囲の風景は特段変化がなく、引き続き森の中にいるような感じである。


―― やはり監視カメラが、少ないのか? 


こちら側も野生動物が顔出すが、その反応がどうも人間に慣れている感じがある。

―― しかし、野生動物にしては、感じが違うな。あれは――。


しばらく行くと森が開け、開けた平地がある。それ以外、特筆すべきものはない。

ただし、高台であるため見晴らしは凄い。


「絶景だな」


その一言で全てに尽きる。 これで両方の基地周辺の清掃が、完了したことになる。


マールス(火星)も球体であることを感じさせられるぐらい、丸みをおびた水平線が見える。 海鳥も鳴き声も聞こえつつ、景色に圧倒される。 自然が豊かな場所だ。


「さてと戻るか!」

再び来た道を戻る。 ゲートに戻りパッカー車に向かう。


「清掃完了です」

兵士に報告する。


「ご苦労」

との返答が返って来る。


「ここの森随分と動物が、多いですね」

タツマから話かける。


「まー」

兵士が、何とも言えない顔をしている。


「もしかして捨てられたペットとかですか? 」

「……どうしてそう思う? 」


「清掃中に多くの動物にあったんですけど、野生というには、違和感があって。 こちらを見ても逃げないんですよ。 人に慣れている感じが、どうも野生という感覚とずれた感じがでして」


「まぁ……その通りだよ。 一応、軍の管轄に入る内容だからね、あまり公にはできないんだけど。 メンドゥーサの市民が自然の豊かここに捨てていくんだ。 困ったものだよ」


無責任な飼い主は、滅びればいいのに。


「ここで小動物の面倒を見ているんですか? 」


「まさか!――あー食堂の余りものとかあるからそれをこうね。 森の中で面倒見ている感じだ。 他の軍事施設と違って時間はある場所だから。 それに俺たちの気分転換にもなるからな」


兵士は、苦笑いをしながら答えている。


                    *


作業が終わり、パッカー車に乗って基地を後にする。


「どうだった。周辺の清掃は? 」

「それになりに広く、大変でしたよ」


他愛もない話をしつつ会社に戻る。

―― あそこを破壊するのか。


モヤモヤした気分になる。 今まで通ってきた街も大陸の全ての街ではないし、大陸の代表でもない。


キンメリア、サバエア、テンペ大陸には、通過した街よりも多くの都市国家と衛星都市があり、そこには多くの民が、生活し日常を送っている。


多くの人は、惑星に多くの民と意思があることを忘れて、大陸単位や都市国家の単位でみる傾向がある。


マールス(火星)人は民族など関係なく火星人であり、テラ(地球)人も民族関係なくテラ(地球)人で括られるみたいな。


しかし、実際には、それぞれの意志があり同等の人である。

そのこと忘れ、大きなくくりで見るから変な方向に話が進んでしまう。何が言いたいか?


どこの国、地域にも悪人はいるし、善人もいるということだ。 所詮はただの人なのだ。


捨てられたペットを保護するタニアの軍人達がいる。

その軍人がいる施設を破壊しないと、戦争が止まらないという現実。


「難儀だな」

パッカー車の座席から、夕焼け空を眺めながらタツマがぼやく。


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