バックヤード
--- メンドゥーサ
タニア連合王国の裏庭との位置づけだが、典型的な地方都市になる。特に栄えているわけでも、廃れているわけでもない。
あるのは軍の施設ぐらいだが、大きな部隊が駐屯している訳でもなく、レーダーサイトの管理程度の人数がいるだけである。
そのため、マイナーな場所になり、隠している訳ではないが、レーダーサイトの場所を知らいない住民も多い。
「あれですか――そこそこ大きい都市ですね」
ケルンが発言する。
車輌から街の外環が見え始める。 高層の建物もあるが5階程度であろうか。 まさにそこそこ大きいとの言葉が当てはまる。
「でしょ? といっても王都から離れているため、前来たときは戦時中でもそほどピリピリした雰囲気がない感じでした。 意外に動き易いかもしれませんよ」
青年が愛想よく回答する。
「そうあって欲しいね」
「それに我々の集落より人が多いですから、その分、職もある感じですね」
「たしかに」
人がいれば仕事もある。 どこの世界でも通用する理屈かもしれない。車両は徐々にメンドゥーサの街に近づいていく。
郊外の多少治安の悪そうな地区に近づくと、タツマが青年に指示を出す。
「さてと、ここまででいいですよ」
「えっ。 ここで降りるんですか? もっと中心部まで送ってもらいましょうよ」
ケルンが困惑しているが、それを無視して話を進める。
「目立つからここまでだ。 さっ降りるぞ」
タツマ達は、貨物自動車を降車する。
「それではまた今度。 成功をお願いしますね」
青年は、そう言い残して行ってしまった。
「こんな場所に下りて……どうするんですか? 」
『私としてもケルンに同意します。 わざわざ面倒事に巻き込まれることもないと思いますが? 』
セレンもケルンに同意している。
「戦争中で治安の悪い地域。 色々な仕事が、ある可能性がある」
「事前にエリスの工作員が、職を見つけていますが? 」
ケルンからの指摘もある。
「それは、それ。 こちらは少し趣きが、違うんだよ」
「はぁあ……」
ケルンな納得してない返事が、返って来る。
「それと君の能力には期待しているからね」
タツマは、そう言って歩き出す。
周囲は貧民街になっており、落書きやゴミの散乱が見られる。 住民の姿はみすぼらしいが、こちらもみすぼらしい。
そのため、周囲からの視線もあるが、少なくともこの環境下では、敵視されることは無さそうだ。
―― 上手く環境になじめているな。
「それにしてもいいんですか? こんなところで油売って」
ケルンが、おどおどし始めた。 周囲の環境への不安が有るのだろう。
「まぁ。連絡が無さ過ぎると相手もこちらを忘れるか……セレン、エリスの工作員と連絡を取って。“メンドゥーサの東の外れにいる”と伝えてくれ」
『了解です』
ドラム缶で暖を取っている者、酒瓶を抱え寝ている者、足取りがおぼつかない歩行者など、気ままに過ごしている感がある。
―― 戦時下であっても、それなりの自由があるのか――といっても、首都から離れた地方都市まで、気がまわらないのか。 ガラスの雪の頃の噂が嘘のようだな。
しばらく、3名でいかにも田舎もの風の雰囲気を出しながら歩く。
暫くすると、一人のチンピラが声を掛けてくる
「よう、兄ちゃんたち。どこから来た? 」
急に声を掛けられたことで、ケルンが驚きながらも返答する。
「ええと――東です」
「ふーん。 こんな辺鄙な街に何しに来たんだ? 」
初対面の人間にかなり深く突っ込んでくる。 情報庁の人間の線もある。
故に怪しまれる訳にもいかない。
タツマが、ケルンとチンピラの間に入り会話を奪っていく。
「戦争でテンペ大陸に帰れなくってね、短期労働して食いつなごうと思って。 何か仕事とかないですかね? 」
「……ああ。 なるほどねー。それならいい仕事があるぜ」
「あるんですか? どんな仕事で? 」
タツマが、まずは喰いつく。
「ちょっとタツマさん何しているんですか? 仲間の所に行きましょうよ」
オーソン氏が小声で警告してくる。
タツマは、その警告を無視しつつもケルンに視線を送り、チンピラとの会話をつづける。
「まぁ。 運送業ってとこかな。 このご時世、モノを物流させるのも一苦労だろ」
「ええ。ここに来るまでに多くの検問がありました――ところで、何を運ぶんです? 」
「兄ちゃん。初対面に食いつくねー」
「例えば?」
チンピラの反応を無視して続ける
「そりゃーいろいろだよ。 ってかあんちゃん。 お前ら、政府の狗か、何かか? 」
チンピラが急に身構える。
「政府の狗なら、最初の時点で捕まえているでしょう? それにマールス人ならこちらの考えも読めるのだろ? 」
こちらも少し雰囲気を変える。
「……なるほど。政府の狗では、なさそうだな」
「分かってもらえて助かるよ。 そしてあんたの言っていた仕事に興味がある」
「……どうやら発言に偽りがないようだな」
「もちろん」
ケルンの方を見ると、彼もうなずいている。
「おかしな奴だな。 何を考えている……商売敵か? 」
チンピラが怪しんでいる。
「逆ですよ、逆。 純粋なお客さんってところかな? 」
「ほぅ……客であれば歓迎だ。 まぁ気が向いたら声かけてくれや」
チンピラは行ってしまった。
マールス人は、疑うことを知らないというより、マールス人自体がポリグラフのような存在になる。 故に初対面であっても信用を得やすい。
「タツマさん。 これが目的ですか」
「ああ。 みすぼらしい職を探している人間には、悪い奴らが寄って来る。 そこから運び屋の情報を得られればいいと思ってね。 あれだけの数の検問だ。 物流にも障害が出ていれば、闇経済が発展するのは道理だ」
「……まぁ確かに」
「現地の犯罪情報は、役立つ時もある。 今がそのときだ。 麓集落からここまで検問を超えてバクドローンを運び込む必要がある。 その手段が必要だ」
「……」
―― といっても思いかけずに目途がたったな。
「セレン。 どこに行けばいい? 」
『はい。 この道を直進したところに移動販売車があります。 そこが待ち合わせ場所になります』
「了解だ。 いくぞ」
メンドゥーサの街中は、大きい都市であるが、活気が少ない。
交通量こそあれ、街中を歩いている人も少なく、シャッターが下りている店舗も多い。
軍の施設があるからといって、街中に軍人が多いかと言えば、一見すると街中では一人も見ない。 たまに憲兵の車両が巡回している。
「なんか大きいだけで寂しい都市ですね」
「地方はこんなもんだろ」
みすぼらしい2人と汚いトークンが、目貫通りを北に向かう。
・
・
・
『あの移動販売車ですね』
移動販売車は、キッチンカーというより雑誌やアルコールなど色々なものが置いてある。軽食も作っているようで、屋外にテーブルや椅子が置いてある。
現在は、食事をしている者はいない。
「いらっ……しゃい」
我々の格好を見て少し引いているようだ。
「コーヒー2つと雑誌“メンドゥーサ観光”をお願いする」
「……了解だ。 テーブルで待っていてくれ」
ちなみにメンドゥーサ観光と言う雑誌はない。
しばらくすると、販売員がコーヒーを運んでくる。
「随分な格好だな? 」
「検問を通過するには、この程度の恰好でないとね。それにしても検問数が多すぎる」
「まぁな。 街中はそうでもないが、郊外の道路はピリピリしている」
「何をそんなに警戒するんだ。 厭戦気分のためか? 」
「反乱だよ。国内の反乱を恐れているんだ」
「外敵じゃなくて、内部の敵か」
「そんなところだ。 詳細までは分からんがね。 ここが我々の隠れ家だ」
カフェの店主がメモを渡してくる。
セレンに場所を覚えさせ、タツマがその場で紙を燃やす。
「了解した」
場所の紙を貰いコーヒーを飲みほし、隠れ家に向かう。
--- メンドゥーサ ダウンタウン
セレンを先導により、建物の間の脇道を歩いていく。 空気が淀んでいるのか、湿気が多い。 地面も湿っており、裸足では絶対歩きたくないエリアになる。
日も陰ってきている為、陰湿な雰囲気が一層に際立つ。 近くで電車が走る音が聞こえて来る。
「電車が通っているんですか? 」
『軍事基地ですからね。 輸送量増加のために整備されているのでしょう』
線路近くのダウンタウンにアパートメントが見えてくる。
――夜は煩そうだな。
「随分と薄暗い場所ですね」
オーソン氏が呟く。
「そう?」
タツマが居た、イスペリア南部地区には、このような建物ばかりだった。 いや落書きが少ない分、こちらの地域の方が、ましかもしれないまである。
ドアのチャイムを押し、合言葉を告げると中から中年の男性が出てくる。
「話は聞いている。入れ」
男は、タツマ達を家に招き入れ、まずは部屋を割り当てられる。
“まずは荷物を置いてこい”
といっても3名とも同じ部屋になる。
部屋に入ると一息付けたのか、ケルンから発言がする。
「ようやく、ここまで来ましたね。これからメンドゥーサ・レーダーサイトの詳細情報の収集ですか? 」
タツマに尋ねる。
「その通りだ。 加えてこの地域の地形や現状の確認。 それが完了したら山麓集落からのバグドローンの密輸だな」
「そうでしたね」
「その後、最終作戦にはいる。 最終作戦が最も難易度が高い。 理論上でしかないからな」
『天候気分というのは、タツマが好きな戦術ですね』
セレンが突っ込む。
―― 無い知恵絞るとこれしかないのよ。それにあんなのどう破壊しろというんだ。
こっちが聞きたいくらいだ!
ドアがノックされ先ほどの中年工作員が部屋に入ってくる。
「荷物を降ろしたらリビングに来てくれ」
リビングに向かうと。3名ほどの人間がいる。 どいつも胡散臭さそうではある。
「キャミャエルとオーソン・それにお伴のトークンか。 トリフィナより指示は受けている。 君たちの受け入れ先として、“メンドゥーサ環境商会”を準備した。 これが社員証だ」
工作員がカードをテーブルに置き話を続ける。
「そこの場所に行ってまずの職に就いてもらう。 メンドゥーサを歩き回るにしても、無職ではないため、怪しまれることはないだろう。 しかし、その恰好はいただけないな」
説明している工作員が、眉間に皺を寄せている。
―― まぁ、流浪の民のような格好だからね。
「なので衣類はこちらで用意する。社員証と身分証を見せれば、憲兵であっても何とかなるはずだ。 あとは現場での対応になる」
仕事があって、所属する帰属する組織があるということは、間接的な信用になる。
「了解だ。 それで“メンドゥーサ環境商会”って何する会社?」
タツマが質問する。
「清掃業だ」
工作員の一人が回答する。
「間接的にエリスの資本が入っているため、あんた達を雇うことができたようだ。たいした者だよ。 女帝様は」
もう一人の工作員が回答してくる。
「了解だ。 どこの清掃業務だ。 できれば、メンドゥーサのレーダーサイトとか嬉しんだけど」
「それもあるが、サイト内は無理だ。サイト内の清掃業者は、王都ノクティス・ラビリントスからの直轄で指名される。 外構のみの清掃だなといっても数日ごとになる」
―― だよねー。軍事上の拠点だもの。 清掃業者といえど、そうそう入れるはずもないか。
「他の業務は?」
「主たる業務は、一般建物内の掃除とゴミ収集がメインだ。 その清掃の中にレーダーサイトの外構清掃が入っている」
「随分と多岐にわたっていますね」
ケルンから感想が聞こえる。
――メンドゥーサの地理を把握するにもゴミ収集の業務も捨てがたいな
今の時期、街中を堂々とうろつける職種は、限られてくる。
「わかったら明日から出勤だ。 遅れるなよ。 あとで衣類は届ける」
そういってリビングから追い出される。
部屋に戻ってくる3名。
「清掃業者とはね。 タツマさんどちらが良いですか? 」
「少し考えさせてくれ」
タツマの長考の間セレンが指摘を入れて来る。
『それとタツマ気づきましたか?』
「ああ。 奴らにも気を付けてくれ。 完全な味方と考えない方がいい」
「え? あの人たちは、敵なんですか? 」
「まだ、決まった訳じゃない。 タニアの敵であることは確かだが、我々の味方という訳でもない気がする。 少なくともトリフィナに対しての態度が、引っ掛かる」
「……」
「といっても、まずは業務要望が先だ。 私は街のゴミ収集業務にする。 ケルンは、一般建物内の掃除班を担当してくれ」
「いいですけど。どう動けばいいですか? 」
「今から説明する」




