ティファー大陸 アルシア山麓集落
ティファー大陸へと到達することになるタツマ一行。
おおよそ1ヵ月を掛けて山中を駆け抜け、現在は“アルシア山麓の集落”にいる。
ここは、鉱山で生活していた集落であったが、閉山後は林業と農業で生計を立てている。 そして“ガラスの雪”から逃れた難民の集落でもある。
もっとも集落としては規模が、大きい気がする。 事実この集落には、旧ベルナールの避難民が多く、一部は集落で命を繋ぎ、巣立っていった者もいるとのこと。
多くの場合、難民が増加するとその対応の費用で地域経済が麻痺する傾向にある。しかし、例の“女帝”からの支援により、貧しい集落であっても何とかここまで存続できている。
つまりは、彼女の力なしには、この集落の存続はあり得なかった。
―― 悪人の気まぐれの施し……というわけでもなさそうだな。
タツマは、それなりに整った街並みを見るとそう感じざるを得なかった。
質素であるが、衛生面に難がある訳でもなく、そして生きていくとしたら、それなりに快適に暮らせる環境であるからである。
つまりは、無償の供与か、長期投資かは不明だが、それなりの金が入っている。
旧領主としての矜持か、それとも生き乗った者の責務か。 いずれにせよ、こう聞くと彼女も悪人には思えなくなってくるのが不思議だ。
*
この地は、現在、冬季ということもあり農耕と林業も意図段落しており閑散としている。 そして今は、日が暮れており薄暮の時刻である。 周囲からは目立つこともなく2台の車両が、一般車両に紛れ山から下りてくる。
集落と言いつつも、西部地域と王都の結節点にもなっているため、それなりの交通量があり、利便性は良いのか、その規模は、かなり大きい。
集落に入ったタツマ達が、最初に立ち寄れと言われた墓地に到着する。 時刻もあり、駐車場に停車している訪問車は、カーゴ2台だけである。 タツマは車両を降りて周囲を見回す。
「なんかコロニーの孤児院近くの公園に似ているな」
アリエフ班も車両を降りて反対側を見張っている。
「タツマさん。 ここが集合場所なんですか?」
ケルンも車両から降りてくる。
「そう聞いている」
しばらくすると、急に後ろから声を掛けられる。
「タツマさんでいらっしゃいますか? 」
状況が状況だけに銃を抜き、声の方向に構える。 アリエフ班もその声に気づいたようだ。 対象は手を挙げている。
「……」
タツマは黙っている。
「スキュリアル様からお聞きしております」
―― スキュリアルねー。 彼女の過去の名前か……
既に、こちらの素性を知っているようだ。
タツマは銃を降ろし、彼の質問に応じる。
「そうだ。 ダイゴに言われてここにいる。アンタは? 」
「彼女の臣下です。 そして命を救われた一人ですよ」
「随分と懐かしい墓地ですね」
アリエフさんの言葉が飛んでくる。
―― 懐かしい?
「我々も詳細は存じておりませんが、ここは唯一スキュリアル様からの指示で作られた共同墓地なんですよ」
臣下の男からの反応がある。 薄暗いため表情は見えないが、微笑んでいるように見える。
「そう――ですか」
「それでアンタは、俺達に何の用だ? 」
鄭さんが質問する。
「事情は全て把握しております。こちらへ」
男が墓地の奥に案内される。
彼に付き従って夕闇の墓地を進んでいく。 さすがに周囲に人の気配は感じない。 全員無言でただ前の男に付いていく。 しばらくすると暗闇に一つの建物の影が現れる。
男が、小走りに先に建物に近づき脇のコンソールを操作している。 しばらくすると、目の前の建物の扉が開く。
「さっお入りください」
そう促され中にはいると急に内部の電灯がつけられる。 電灯に照らしだされた倉庫内部は、辺り一面武器や食料が置いてある。
全員がその光景に息をのむ。 かなりの銃器や銃弾、食料が見られる。
「これは凄い」
ケルンが、感嘆する。
「しかし、我々は戦争しに行くわけではないのでこんなには、必要ないですよ」
「といっても、山道踏破で物資も尽きている。 途中の街で調達するぐらいならここでの調達の方があやしまれないぞ 」
彼らの反応を無視して男が、話し出す。
「ここで準備を整えてください。 ここにあるものは可能な限り持って行っていただいて構いません」
「すごい量だな」
「ええ。 この時のための集めましたから」
男は一拍置く。
「まず各自の準備をお願いします。 本日は、ここでお休みください。 また明日、お迎えに上がります」
「了解だ」
「助かります」
男はそのまま倉庫の開け閉めの説明した後、その場を去っていく。
アリエフ班は、目標に対しての軽い打ち合わせをしている。
さっそく、アリエフ班は、カーゴを倉庫まで移動させタニア連合王国の王都ラビリントスに向かう準備をしている。 山賊相手に減った銃弾の補給と食料やカーゴ内のゴミの処分をしている。
「全く俺達もよくやるぜ」
鄭さんが、いつもの調子で愚痴っている。
「ふふふ。まぁ腐れ縁ですしね」
アリエフさんの少し優雅な対応。
彼らのカーゴの中身を整理しながら、補充の弾丸やら食料を詰めている。
一方、タツマ達はコンバットスーツを解除して彼らの準備の様子を眺めている。
「戦力が半分以下になるのは痛いですね」
ケルンが、小声で不安を口にする。
「ああ、しかし、こちらも進むしかない」
タツマも不安があるが、前に進む。
そして、本日の宿は、墓地の駐車場に止めてあるスマイル号になる。
―― ほんと。 マールス生まれでもないのによくやるよ。
その後、ヒルベルト一行は、墓地での一夜を明かすことになる。
*
朝が来る。 車両内に光が差し込み目が覚める。
―― 地上の夜明けはどこでもいいものだ。
早朝、臣下の男と彼の部下らしき青年が現れる。 部下の青年は、アガニッペの案内者に待機場所の説明やスマイル号の待機場所への誘導を行っている。
臣下の男は、アリエフ班と伴に先に王都に向かって動き出す。
「じゃぁなー二代目~死なないでくださいよ」
鄭さんは、いつものお気楽な別れになる。
「社長。 お気をつけて」
ウィードさんらしい真面目な気遣い。
アリエフ班のアガニッペ集落からの案内人は、ここで待機になる。
「大丈夫ですかね? 」
ケルンが、彼らを見送りながら心配そうにタツマに聞いて来る。
「大丈夫だろ。何するか知らないけど」
タツマが適当に答える。
『相変わらず適当ですね』
セレンが突っ込んでくる。
深く考えても回答は同じさ、それにあの二人が、考え無しに案件に向き合うことはない。
アリエフ班と別れると今度はタツマ達が、メンドゥーサに向かう最終準備に入る。
こちらもここでアガニッペの案内人と別れることになっている。 といっても待機といったほうがいいだろう。 アガニッペの両案内人にはここでこのスマイル号を管理してもらう重要な任務がある。
「そうだ、タツマさん。 こちらです」
案内人が、タツマに大き目のバックを渡す。
「おう! これだ。 これ」
大き目のバックを開けると彼らの着ていた衣類が出てくる。 かなりボロボロであり、上等なものには見えない。
「いいね。 さてと、着替えだ」
「着替えですか? 」
彼らの着ていた服装に着替えていく。
「タツマさんこれボロボロですよ」
「洗濯はしてあるさ」
タツマとケルンがいそいそと着替え始める。
「彼らには、このスマイル号を面倒見てもらう」
「でしたね。 で我々の足は準備してあると聞いてますが、武装もなく大丈夫ですかね? 」
ケルンが質問してくる。
「大丈夫さ。 それに市民が武器を装備していたほうが怪しまれる。 武装は全てこのスマイル号に入れておいてくれ」
「了解です」
着替え終わるころに、先ほどの工作員の青年が、話しかけてくる。
「タツマさんでしたか? ご要望の車両を準備しました。 こちらへ」
墓地の駐車場に向かうと、古めかしいただの貨物車両がある。 家畜飼料用の運搬車であるため臭いも独特である。
「これですか? 」
ケルンの眉間に皺が寄る。
「いいねー想定通り。 あとはセレン。 そこの地面に横になって」
『了解です』
「ケルン。 セレンに周囲の泥やそこら辺の草を擦り付けて」
タツマとケルン両名が、セレンに土や泥や塗りたくる。 準備された家畜の飼料運搬車の荷台に残った藁などを追加で塗りたくり、ただの貨物車両の荷台に乗せる。
運転席には、工作員の青年とタツマ。後ろの席にはオーソンを乗せて、集落を出立する。
武器もなければ武装のない運搬車両になる。
現地も古めかしい車両に乗ると、運転手の麓集落の青年が、話しかけて来る。
「タツマさんですね? どちらへ向かわれます?」
彼に作戦内容は伝えていないし、そして向かう先も事前に伝える必要がないと言われている。
「メンドゥーサに向かってくれ」
「へー海でも見たいんですか? 」
「そんなところ」
「了解です」
青年には、何も情報を伝えていない。そして向こうも必要以上に聞いてこない。 察しは付いているが、女帝の頼みの一言だけで手を貸してくれているようである。
それに知らなければ、治安隊に詰問やポリグラフを用いられても回避ができる。
故にこちらも彼の名前を聞かない。
「ところで、タニア連合王国の近況は? 」
臣下を名乗った男は、アリエフ班の作戦を確認していたため、こちらとの会話は全くなかった。
青年は、車両を運転しながら回答する。
「そうですねー。 戦争が膠着状態になって、当初の浮かれた気分もなくなりましたね。厭戦気分による消沈の方が大きくなっているように思います」
「へー」
「うちの集落はビンボー集落ですから治安隊も来ませんが、街になるといますから注意してくださいね」
「了解だ」
車両は、北部王国道路を西に向かっている。
周囲の耕作地は既に農作物が刈り取られており、寂しい風景が、広っている。
タツマもそんな風景を見ながら景色に耽っている。
そんな哀愁漂うなかでも、軍用車両とすれ違うことも多い。
軍用車両が、彼らの逆方向となる東に向かうとなると、恐く、王都ノクティスに向かっているのだろうか?
そんなことを考えていると青年からの報告が入る。
「検問です。証明書の準備をお願いします」
--- 検問所
メレア街道の腑抜けた検問とは違い、強力な銃火器を持っている。
憲兵らしき人間が、青年に話しかける。
「おう、アルシア山麓集落の奴じゃないか? どうした? どこか行くのか」
青年から身分証を受け取りチェックしている。
「ええ。 メンドゥーサに新しい仕事を探しに行くんですよ」
青年が答える。
「ああ。まぁ農業も閑散期だからな。そっちは? 」
タツマが身分証明書を差し出す。
「テンペ大陸の住民か? どうした?」
「戦争が始まって、帰れなくなってしまって、彼のところでお世話になっております」
ケルンが、解答する。
「ああ……まぁ国境封鎖されちまったもんな」
「工作員かもしれない連中は戻せないといわれ、知り合いを頼ってようやく、アルシア山麓集落に行きつきまして。
短期労働で食いつなぎながら戦争が終わるのを待っている次第です。農耕が終わりこのままでは、貯え減っていくばかり。
少しでも職があるところにとご無理をいってこの方のお世話になっている次第です。
ただの出稼ぎ者が、工作員の訳ないのに」
タツマが悲しそうな表情をする。一見すると両名とも服装はボロボロであり、乗っている車両もそうとう古い。
後ろには汚れたトークンが転がっている。どう考えても戦争の二次被害者に見えない恰好である。
「……まぁ。そうか。この車両は問題ない。通れ!! 」
「ありがとうございます」
戦争中であり周囲もそれなりにピリピリしており、検問が所々にある。
治安隊や恐らく、情報庁の人間も関わっているようだ。
「タツマさん演技上手いっすねー」
青年から感嘆の声が出てくる。
「まーねー」
タツマは、フォーチュナの公式証明書があるため、現在テンペ大陸の民になっており、すんなり検問も抜けられる。
ケルンはアルバテラ在住であり両名ともテンペ大陸出身者になる。 今回戦争に深く加担していないため、余所者であっても意外に緩い。
その後も多数の検問があり、街に入るたびに行先を聞かれる。
「検問数が多いですね」
「戦争中だからね」
それにしても全体的に検問者の人数が足りていない割に、検問数が多い。
何かを警戒しているようにも感じる。
ティファー大陸の北部王国道路を西に進んでいく。




