交戦
初陣が迫る。 勢いで参戦を決めたものの、報酬が確定されていない博打の様な戦闘行為。
最悪は、弾薬とトークンの被害だけが出ていく、大赤字の可能性すらある作戦だ。 開戦の熱も冷めると、タツマに何ともいえない感情が押し寄せて来る。
「あーもー。 なんか無性に後悔してきた」
今更ながらにハッピーカムカム号のポテンシャルを見たいななど、カッコを付けることをしなければよかったとの後悔が、タツマを襲っている。
宇宙船の燃料、使用すれば銃火器もコストが発生する。 加えて戦闘で壊れれば修理をする必要もある。 ただでさえ、無理な投資をしていてその対応をしなければいけないのに、金になるか分からない案件に首を突っ込むとは、不合理の極み。
自ら面倒な案件に首を突っ込む自分の性格が嫌になる。
とはいえ、ポンコツ艦の時は頻繁に宇宙海賊に襲われていた。 そのため襲われる恐怖も分かると同時に昔日の戦闘経験からヒルベルト商会はその脅威を取り除ける異常に高い戦闘力がある。
逆境は身を助け、加えて、襲われているのを見過ごすことが、できないのがこのタツマの性格になる。
(ホント、PMCにでも鞍替えするか? )
などと考えているが、実際はする気はないだろう。
惑星の間を行ったり来たりするのが、惑星間貿易商の業務であり、海賊退治はあくまでもトラブル対策になる。
時間になる。
「よし……行くぞ」
ジャガーノートを前面に立てる強襲編成。 今回は敵数が多いため重装備部隊での対応になる。人間は4人の定番。既に戦闘態勢であり、全員コンバットスーツとジャガーノートを装備している。
今回から200体のコンバットスーツモデルのトークンが味方にいるのが心強い。
その光景は心強いが、タツマの頭の中では電卓の弾く音が鳴り止まない。
――戦闘トークン200体稼働……最新型コンバットスーツ仕様の……。一体いくらかかってんだこれ? それに破損したときの修理費用金が掛かり過ぎだろ……加えてこの強襲艇はステルス仕様だと?
金の不安を抱え込み、強襲舟艇に乗り込む。 ステルス仕様の強襲舟艇はハッピーカムカム号の巨大な影に身を潜め、アルバの左舷へと接近する。
―― こいつは隠密侵入用だろ? 商社に必要な装備か?
自分の船であっても親父が付けたオプションがあまりに多い為全容が把握しきれていない。
そしてその豊富な戦力は既に一商社の域を超えている感じすらある。
―― いやこれで人命が救えるのだ、疑問を持ってはいけない。
そんな感情と共に左舷にドッキングされている海賊の舟艇に接続する。 事前にアルバのAIから受け取ったデータによれば、舟艇はもぬけのの空。全員が船内へ侵入済みだ。
「海賊の舟艇に接続完了。ハッチを焼き切るぞ」
インジケーターがグリーンに点灯する。気密を破り、船内へとなだれ込む
≪……ごちゃごちゃしている艦内だな≫
入室の第一声を鄭が上げる。
無重力空間に、散乱した酒のアルミパックや食料のゴミ袋が浮遊している。突撃前の景気づけでもしていたのだろう。今まで鹵獲した強襲舟艇も同様な感じであった見慣れた光景になる。
『タツマ、アルバ艦内から海賊母船への通信を傍受。 発信源はアルバ右舷側。――どうやら敵は、ハッピーカムカム号の接近に気づいたようです』
セレンの声がバイザー内に響く。
≪だろうね。この巨体だ、隠し切れるもんじゃない≫
『敵陣営はややパニック状態です。 船内部隊から母船へ、ハッピーカムカム号への攻撃命令が出ました。 なお、我々がすでに左舷から侵入していることには気づいていません。……ハッピーカムカム号が攻撃を受けた場合、どう対応しますか? 』
「我々がまだ大型艦のブリッジにいるように装ってくれ。 パニックを起こしている演技も頼む。反撃は最小限に留め、徹底して無害な巨大商船を演じるんだ」
『無茶な演技指導ですね』
「借金を返すためだ。あの海賊母艦を無傷で拿捕したい……頼んだぞ」
『了解です』
―― 命のやり取りの際にも、借金返済を考えないとは社長の辛い所だ。
海賊の母艦とハッピーカムカム号の攻防戦が始まった。
ハッピーカムカム号から全宙域に向けて、わざとらしいほどの全方位通信が発信された。
≪こちらは商船だ!! 攻撃の意図はない≫
≪救難信号を受けただけだ≫
≪た……助けてくれー≫
――実に白々しい大根役者ぶりだが、効果は絶大だった。
当初は巨大な商船と多数の武装を施している船に怖気づいた海賊であったが、ハッピーカムカム号からの命乞いを聞き、調子に乗り始め、勝てると思ったのか、攻撃を仕掛けてきた。
海賊母艦からは、多数の魚雷が発射される。
しかし、ハッピーカムカム号の自動防衛システムは完璧だった。
艦体各所に配置されたプロトン砲(近接レーザーCIWS)が超高速で自動追尾を開始。見えない光の束が宙域を走り、接近する魚雷を完璧に全弾迎撃・撃滅する。
しかし、セレンの制御するハッピーカムカム号は、プロトン砲により全弾撃破する。
ちなみに、プロトン砲は防御兵器に属する。CIWSのレーザー兵器版であり、レーザーの高速誘導で対象を破壊する。
レーザー兵器は、遠方への攻撃ができないが、近接戦では指向性も相まってかなりの威力が期待できる。 そのため、精密兵器に対しての船の防御兵器と用いる場合が多い。
『海賊船内に動揺が発生しています。 海賊のドローン戦闘機の発進を確認しました』
≪適当にあしらってくれ。逃げることはないと思うが、圧倒的な火力は見せず、じわじわと手ごたえだけを与えて引き留めるんだ≫
『了解です』
≪それと、アルバ船内地図と海賊の位置を示してくれ≫
『了解です。 情報を各員に転送します』
コンバットスーツのバイザーに地図と丸く赤い光点と白い光点が映し出される
『赤丸が海賊、白丸が民間人になります。くれぐれも誤射に気を付けてください』
≪了解した≫
タツマ率いるヒルベルト商会の一党と海賊との戦闘が始まる。 実弾兵器の鈍い掃射音が通路に響く。
バイザーメットに沿った通路を進む。敵のマーカは出ている。場所の情報とともに火力もこちらが上のため、海賊への対応は、危なげなく進んでいく。
消音器を取り付けた武装は、必要以上に大きな音を出ることなく、接敵者を葬っていく。
タツマ達は、先頭のトークン隊による掃討が終わった後尾から安全が確保された道を進んでいく。
敵の配置、海賊の強襲艇の侵入位置、それらから察するに事前に情報を得ていた可能性がある。 つまり、突発的な襲撃ではなく、計画的な襲撃となる。
そうなるとタツマにも疑問が浮かび上がる。 商船を襲うならまだしも貨客船というのが気になる。 乗客を人質にとって身代金か?
そう思いながら周囲の船の構造を見ていくが、どうもこの船はただの船では無いようだ。
そしてこの船内構造……輸送艦? 軍事用の船なのか?
≪セレン。 乗客にVIP――政治家や金を持っていそうな人物はいる? ≫
『詳細は各人を調査しないと不明ですが、乗員は全て、一般人の可能性があります。 テラへの観光または、ビジネスといったところでしょう』
海賊の目的が不明すぎる。それに貨客船での登録も気になる。輸送艦にしないのは、なぜだ?
軍関連の揉めごと……。
「放置した方がよかったような気がしてきた」
思わず感情が口に出るがバイザーメットを被っているため容易に声は洩れない。
艦内に侵入したのち、進むと隔壁に大きな穴が開いている。かなり無理をして破壊している。
「この隔壁を破壊するか。特殊な爆薬をつかっているぞ。これ」
鄭さんの考察。 ヒルベルト商会のお抱えだけあってその観察眼は間違い。
「この船。客船じゃない――輸送艦だ。 内部の作りが軍仕様だ」
ダイゴからの発言。
無線を使わず直で話している面々。 百戦錬磨の船員たちには、この船の異様さが一目でわかっているようだ。
「厄介ごとに首を突っ込みましたね。社長」
バルティスの声が楽しんでいる。 バイザーメットを被っているため表情までは見られないが、おそらくニヤついて要る。
「くっ……。いいんだよ! 海賊船を拿捕すれば金が入る」
苦し紛れの言い訳になるが、事実である。 これは借金返済のためと思い、多少の疑問は飲み込む。 引き続き前進していく。
海賊への接敵するが、戦闘を危なげなく排除していく。
「エリア1、クリア!」
「エリア2、クリア!」
トークン隊の報告とともに、赤い光点が急速に消滅していく。
メイン通路は、トークンとジャガーノートの部隊で掃討していくが、各部屋や通路の安全を確認は、タツマ達の仕事になる。
通路や部屋には、海賊から隠れた乗客や負傷者もいるため、人命救助などの細やかな仕事は、タツマ達の仕事になる。
救助し動ける乗員にはそちらに向かうよう促し、負傷者運搬の手伝いをさせ左舷後方の安全地帯に送りだす。
徐々に進んでいくと破壊された隔壁の奥から銃声が聞こえてきた。 右舷と左舷を繋ぐ中央メインハブ通路になる。
自分たちのいるマーカを確認すると赤い点の一団が一ブロック先であるところまで近づいてきた。
ハブの奥では、アルバ側の警備トークンと海賊の主力部隊が激しい撃ち合いを演じている。海賊達は前方しか見えておらず、背後から接近するタツマたちに全く気づいていない。
≪よし……本番だ。バックアタックで一気に叩くぞ!≫
タツマの合図とともに、200体のコンバット・トークンが一斉にハブ内へ火力を叩き込んだ。
「なっ、後ろだ! 新手だと!?」
「バカな、左舷は制圧したはずだぞ!?」
背後からの猛烈な不意打ちを受け、海賊たちはパニックに陥った。前方の警備トークンと、背後の謎の重武装部隊による完全な挟撃。
しかし、海賊も間抜けではなかったかようだ。 この部屋は右舷と左舷の接続場所にあたる。
通路が一本であるため挟撃のリスクを減らすためここでトークンを迎え打っていたようである。 海賊の部隊を右舷側に追い込むように、タツマ隊は砲火を浴びせる。
≪無理に攻める必要はない。 威嚇射撃をして、船から追い出せ≫
ジャガーノートを先頭に海賊を徐々に追い詰めていく。
「……っ。撤退だ。舟艇に戻れ!! 」
海賊のボスらしき人間が命令する。
海賊たちが銃を向け、発砲しながら後退をしていく。
―― 作戦通り。このまま舟艇に乗ってもらうよ。
「二代目。 追撃しなくていいんですか? 」
鄭さんからの質問がある。
「かまわない。下手にケガしても、トークンに損傷を出しても損だ。それに、この船の救出が第一目標だからね。 奴らにはおとなしく自分の艇に乗って出て行ってもらう」
暫くして、海賊たちを乗せた5隻の強襲舟艇が、アルバの右舷ハッチから離脱していくのが確認された。
『タツマ、海賊の舟艇がアルバからの離脱を確認しました』
屋外の宇宙でこちらを見張っているセレンからの報告がある。
「その舟艇には、海賊のボスが乗っている。船から十分離れたら撃墜しろ」
『了解です』
「二代目。 冷酷ですね。 警告もなしですか? 海賊の死体に対して、礼をもって送った人のやることではないのでは? 」
鄭さんが、偽悪的な質問がタツマに飛ぶ。
「今は戦闘中だ。あれは、戦闘後だ。 状況が違う。 それに彼らが母艦に戻ったら、今度は艦で戦闘は必須。 投降の意志がない限り戦闘は継続している。 こちらの被害を最小限にするのが定石だ」
タツマは冷ややかに言い放つ。
5隻の舟艇は、漆黒の宇宙空間へ逃れるが、今度はハッピーカムカム号が確認することなにある。 ハッピーカムカム号の射線をくぐり抜けようと蛇行旋回しながら海賊の母艦に向かっていく。
『ターゲット確認。……投射』
主砲より弾頭が小さいが、3連速射電磁加速砲より加速された弾頭が寸分の狂いもなく宇宙を切り裂く。海賊の舟艇の回避運動など何の意味もなさない。
回避は不可能。着弾の瞬間、5隻の強襲舟艇は文字通り蒸発することになる。
「セレン。 海賊の母艦に降伏勧告を頼む」
『了解です』
暫くした後に、通信回線全てにおいて、暗号化なしの通信が入る。
『我々は、ハッピーカムカム号。ヒルベルト商会の商船である。 貴艦の戦闘員は、殲滅した。 これ以上抵抗するようであれば同じ運命をたどることになる。 降伏した場合、命の保証は約束する。 繰り返す……』
静寂が宙域を支配する。暫くしてセレンからの通信が入る。
『降伏信号が届きました。トラクタービームによる艦の支配権を完全奪取。 これから曳航を開始します』
「……終わりか」
タツマは、大きく息を吐き出した。
新体制ヒルベルト商会の初陣は、致命的な被害を出さずに幕を閉じた。
―― 無傷の中型海賊船が一隻……。これは良い値で売れそうだ
一瞬だけ頭をよぎった金勘定を打ち消し、タツマは静かに宇宙の暗闇を見つめた。
人の命があっけなく消えていく酷情な世界。だが、これもまた、この時代を生き抜く惑星間貿易商のリアルなのだ。




