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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
2章 火星航路
7/54

アルバ船内

--- アルバ船内


セレン(シップマスター)から海賊殲滅の知らせをアルバのAIに伝達する。

暫くすると、船内の閉ざされた隔壁が開いていく。


「やはり、犠牲が出ているか」

タツマが、洩らす。


「300人近くの海賊が乗り込んだんだ。 犠牲ゼロは無理さ」

親父らしい発言が飛び出す。


アルバに乗っていた一般人・警備員・アルバのトークン・海賊 の遺体が、いたるところに浮遊している。


因みにこちらの犠牲は、トークンへの被弾があったもののゼロである。

トークンは、数体の調整が必要であるが、コンバットスーツ仕様であるため無傷に近い。


『タツマ。 アルバのAIよりヒルベルト商会の責任者との協議希望が提案されています』

セレン(シップマスター)からの通信が入る。


「受けましょう。色々あるし」

『追加情報です。 乗客の素性ですが、VIPではなく科学者のようです。 論文のデータベースから名前がヒットしました』


「科学者を襲って何するのよ。 拉致して身代金も取れるか怪しいし……」


海賊にとっては、換金性の悪い仕事になる。そうなると、誰かに依頼されていると考えるのが自然と考える。


社長(タツマ)。これかなりの裏がある事件じゃないですか? 」

鄭さんが質問してくる。


軍艦を民間船に偽装した特殊な艦 科学者への襲撃・艦の情報漏洩。疑問はかなりある。


アルバのAIに誘導されながら艦内を進んでいく。

エレベータに乗りブリッジに到着する。礼儀としてバイザーメットをとり中に入る。


ブリッジには、責任者らしき人間と他数名がいる。

責任者らしき人物が両手を広げて迎えてくれた。


「今回は本当に助かった。ありがとう。貴方たちは我々の命の恩人だ」

笑顔ではいるが、どうだろうか?


「早速だが、私のオフィス内で少し話をいいだろうか? 命の恩人たちに無礼なのは承知しているが、社長と1対1で話したいのだが」


親父を含めて各員納得したようである。

まぁこの状況をみて何かあると思わない方がおかしい。


「その英雄の方々は、別室のゲストルームがあるので、そこで寛いで頂ければと。アルバ」

『了解です。彼らをゲストルームに案内します』


親父達とは、ブリッジで別れた。 別れたのちにブリッジに併設している責任者のオフィスに入る。 責任者のオフィスらしく広い。


部屋の中央程に行くと責任者が、こちらに正対する。 目は真剣なようだ。

「早速で悪いが、君たちに渡した図面の破棄をお願いしたい」


早速――といっても、これは予想していた。


「いいですよ。しかしですね……」

あえて渋る。 金をかけての救出劇だ。 無料と言う訳にはいかない。


「分かっている。本国に上申して然るべき報奨金を約束しよう」

「それであれば」

金汚いって? こっちは、かなりの借金があるのだ。太っ腹に無料ですとはいかない。


「そしてなんだが、この船の内容も秘密にしてほしい」


「もちろん。 商人である以上顧客の秘密は最優先ですので。 惑星間貿易商は、信頼第一ですから」


―― お金を払ってくれる人への対応は、最大限要望を聞きますよ。商人だからね。


「アルバから君たちの情報を得ていたが、助けられたのが君達で助かった。惑星間貿易商であれば信頼できるからね」


惑星間貿易商への信頼は、宇宙一なのだ。 だから秘密情報も手に入れやすい。 同時に責任も重いけどね。


「これからどうされます? 目的地に向かうのですか? 」

「いいや。 マールス(火星)に戻る。 乗客のメンタルや船への損傷もある。 この状態で空間跳躍は許可できない」


ラッキースター号では、1ヵ月に3回も襲われて空間跳躍したけどね。


責任者は胸をなでおろし安心したようだが、責任者は何かを感じたらしく2の句を継ぐ。

「何か聞きたそうだね? まぁもろもろの状況を見れば、多くの疑問を持つのは当然だろう」


マールス(火星)人の特殊能力か。

「しかし、命の恩人といえども私も船の責任者でね。機密情報を君たちに教えることはできないのだよ」


まぁ普通はそうなるね。といっても引き下がらないのが、商人魂。

「そうですよね――では一点だけ。 乗客の目的地はどこでしょう? 」


「……なるほど、船の所属や襲われた原因でなく、そこへ着目するか。いいだろう、地球で開かれる学会への護衛だ」


発言の後、ゲストルームへの移動を促され、オフィスから退室する。


たかが学会への参加に、軍艦もどきを用いるねー。

セレン(シップマスター)。 地球で開かれる学会と論文データベースから乗客の参加する学会を調べて≫


『了解です。……ありました。AI関連ですね』

≪乗客の中でのAI関連で高名な人とかいる≫


『大学の教授陣が多いようですが――。特殊な研究として“有機AI”の科学者がいます』

≪へー。セレン(シップマスター)と相性がよさそう≫


『彼女は、今回の学会に実際に作成したAIを用いて発表する予定です』

「その試作機の奪取が目的? 確かに新作のAIは高価だけど……」


『調査することは可能ですが、目的はなんでしょう』

「興味本位と新規事業の可能性かな。 金になりそうならぜひお近づきになりたい。 商材は多い方がいいからね」


『了解です。 対象者の情報を洗いだします』

ゲストルームの扉を上げると、親父たちがソファーで寛いでいる。


流石ゲストルーム。高価な重力ルームの作りになっている。

居住ブロック全体がリング状に連なり回転することで仮の重力を発生している構造だ。


もっとも駆動部が多いため、高価な船や長距離運行する大型船にしか搭載されない代物になる。

因みにハッピーカムカム号にも長期間の宇宙航行が多いため、整備されている。


メイド・トークンが、部屋の隅に待機している。飲み物や軽食を親父たちの前に置いてある。

おそらく、トークン達が準備したのだろうが、親父達は手を付けていない。


「戻りました」

「でっ、どうだった? 」

親父(ダイゴ)が、口を開く。


「これからの予定は、この艦は、マールス(火星)に戻るらしい。 詳細は話すつもりはないと。 ただし、金と引き合えにこの船の図面の破棄を提案された」


「まぁ。 予想通りだな」

まだ戦場にいると判断しているのだろう。 全員銃から手を放していない。 さすが歴戦の商人達。


セレン(シップマスター)。 我々は、船に戻り通常航路でマールス(火星)に向かう。 航路修正をお願い」


『了解です。……アルバから護衛任務の依頼が来ています。いかがしますか』


「引き受ける」

即断です。借金返済のため頑張りますよ。


『アルバより追加です。船内に海賊を手引きした人間がいる可能性がある。護衛を何人か残してほしいとのことです』


「了解した。 ……私が残る。 トークンを5体つけてくれ」

さすがにジャガーノートは厳つすぎる。武器も人数もこちらが有利だし問題ないだろう。


『了解です』

「じゃっ、後は頼んだぜ」


                  ・

                  ・

                  ・


親父達3人が、強襲舟艇でハッピーカムカム号に戻っていく。


「ふーひと段落か」

窓から強襲舟艇がアルバから離れていくのを眺めながら呟く。


「で、何かわかった? 」


『科学者の名前は、キャミャエル・サナエ 年齢は12。 10歳で博士課程を終了しています。マールス(火星)内で多数の論文賞を獲得している新進気鋭のAI研究者となっています。


優秀な科学者のようですが、理論がメインストリームから外れているため、マールス(火星)内の学会でも浮いている存在のようです』


「12歳で科学者ねー。天才キッズとは、すごいね」

マールス(火星)の公転は地球の約2倍程度ですので、倍にすると地球の年齢に近くなります』


「24歳ね。それでも凄い人には変わりないか」


「ところで、実際手引きした人間っていそうなの?」

『詳細な調査を実施しないと分かりませんが、現時点で不審者はいません』


「なるほど。船内は安全のようだ。その キャミャエル氏とやらに話を聞いてみるか」

『何を聞くつもりですか? 』


「自身の研究について。 まだ見ぬキラーコンテンツを発掘して借金返さないとだからな」


                    *


キャミャエル氏と会うため、乗客が集まっているホールに入る。 ホール内では、医療用トークンから手当を受けている人が多い。


しかし、さすがマールス(火星)人。 

詐欺に利用できる武器としての容姿は、納得の美形ぞろいだ。


容姿は、テラ(地球)のおとぎ話のエルフのようである。 テラ(地球)人やウェヌス(金星)人も各惑星に入り乱れて住んでいるが、現地の特徴はなかなか薄れない。


コンバットスーツトークンは、ホール前で待機している。 


そしてタツマと言えば、バイザーメットを脱ぎ、コンバットスーツで威嚇するのも気が、引けるので上から道中合羽を羽織り中の人達を確認している。


海賊を排撃したため、ホール内では安堵した雰囲気が漂っている。


「ここにキャミャエル氏はいる? 」

『いないようです。 自身の客室に引きこもっているのではないでしょうか』


装備しているイアホンからセレン(シップマスター)の音声が届く。

「引きこもりの場所に行く訳にはいかないよな。 とりあえず、このホールで待つか」


戦闘スタイルのテラ(地球)人が、ホールに入って来たことは、ホール内の大多数の人間が気づくことなりなる。 そのためか、ちらちらとこちらを見てくる。


その中で高齢の人が、タツマに近づいて来る。

「賊を追い払った頂いた、テラ(地球)人の貿易商とは、貴方のことでしょうか? 」

「ええ、海賊関連は、おおむね解決していますので、大丈夫ですよ」


「ありがとうございました。 しかし、ここにいる理由はなんでしょう? 海賊も退治されているのでしょ? 」


明らかにこちらに不信感を持っている。

まだ船長から乗組員に正式な伝達も行われていないようだ。


その反応にタツマが、少し悩む。

「うーん」


周囲を見回せば、確かにこちらに警戒心を抱いている者も見て取れる。

このまま無視を決め込むのも居心地が良くない。


「シップマスター。 アルバから彼らに説明をしてもらう。 対応をお願い」

『了解です』


暫くして、船内のモニターにデフォルメした顔が映し出される。

ホール内の人間のほとんどが、モニター方向に視線を向ける。


『本船AIのアルバです。 ホールにいるテラ(地球)人は、本船から海賊を追い出してくれた人物になります。


彼がホールいる理由は、万が一に備えての治安維持になります。 こちら要望に応えて待機してもらっているので、怪しい人物ではありませんのでご安心を。


この船の今後の予定ですが、海賊からの攻撃で船が損傷受けており、空間跳躍は不可能と判断しました。 マールス(火星)に帰還します。 以上』


アルバからの発言が終わると、老人はこちらに視線を戻す。


「疑いまして、すみませんでした。本当にありがとうございました」

「いいですよ。あんな事件があれば、不信に思うのも当然です」


老年の紳士は握手をして人ごみに戻っていった。

『これより本船は、マールス(火星)に向けて船を移動します』


アナウンスが流れる。

船が旋回しているのを体で感じる。


しばらくすると、ホールの扉が開き一人の女性がこっちに来る。

『彼女が、キャミャエル氏です』


「了解……これはまた、学者というよりモデルか? 」

自分より背が高いな。


エルフ耳のいかにもなマールス(火星)人が、話かけてくる。

「へー放送で聞いたけど、あんたがこの船の救世主? 」

「ええ。 そんなところです」


『救世主を認めるとは、大きく出ましたね』

セレン(シップマスター)からの突っ込みがはいる。


―― 美人の前だし、たまにはカッコつけたいのよ。 それにカムカム号には、ヤローしかいないからね!


「へー。 生のテラ(地球)人って初めて見た。 ふーん」

彼女はこちらをジロジロと見ている。


といいてもこのまま、レディから名乗らせるのも紳士的ではないため、タツマから口を開く。

「タツマ・ヒルベルト 惑星間貿易商を営んでおります。 今回は仕事で近くを通って救難信号を受けて救助したまでですよ」


雑用でも社長だからね。間違いないはず?

「キャミャエル・サナエよ」


自らを名乗り相変わらず、こちらをしげしげと見ながら話題を振ってくる。

マールス(火星)人には第7感があるのは知っているでしょう」


確かに、マールス(火星)人は、よく人の考えていることを言い当てる。


地球人はよく第六感とは言うが、火星人はそれに加えて、微弱な磁界変化を感じとれる第7感を持っている。


いわば直観力や読思術の類になる。

といっても、喜怒哀楽などの漠然とした感情の動きがわかる程度だ。


もちろん、できないマールス(火星)人もそれなりにいるし、さらには、具体的な思考まで読める高度な読思術が出来る者もいる。 そこは、個体差になるだろう。


しかし、相手に集中していること・話せる距離にいることなど制約はかなりある。

会話の一種と考えると確かにその程度なのかもしれない。


不思議な力の様だが、脳内思考も電気信号であり、微弱な磁界が発生するわけだ。それを読み取れると考えると納得はいく。


“テレパシーだ”と子供のころはマールス(火星)人がうらやましかったものだが、他者の感情が自分に問いかけてくるのは、この年になると案外面倒くさい。


以上の能力もあってからか、マールス(火星)人同士嘘をつくことは、直ちに看破されるため滅多にない。


一方で相手の感情が読める為、他の惑星での詐欺は上手い。


その優れた容姿も相まって、テラ(地球)ウェヌス(金星)では、詐欺被害がそれなりに発生している。



「私も結構得意なのよ。相手の心を読む力。で、あなたがこのホールにいる理由だけど……」

キャミャエル氏が、偽悪的な笑顔を向けてくる。


「あなたこの船のデータは、おおよそ把握済みでしょ。私の名前や経歴を含めて。おそらく海賊に襲われた原因を探っていた。 あの船長が、ペラペラとしゃべるとも思えないし。


客員名簿を見れば、傾向は見える。 名簿の中から異質なものをピックアップしてここにいる。 おそらく、あなたの目的は私でしょ? 」


とは言え、あまり自分の考えを先に言われるのは、いい気分ではない。

だが、今は情報獲得が重要だ。 気にしてはダメだ。 いつもの営業トークで乗り切る。


「さすがですね。 その通りです。 あなたの研究に興味があって、このホールに来てみました。 写真はありましたが、実際これほど素敵な方とは思っていませんでしたよ。 モデルでもしていたんですか? 」


『タツマ。ここでナンパですか?』

コンバットスーツのインカムからシップマスターの突っ込みが入る。


―― うるさいよ。警戒心を解くための方便です。

「ふーん。 商人だけあってお世辞もなかなかじゃない。で? 何が聞きたいの」


様子から察するに上手い具合に世辞が効いているようだ。このまま一気に情報を引き出そう。


「あなたの研究内容について、簡単に聞きたいなと。 調べたら面白そうな研究だったので、何か弊社の新しい商材になるかと思いまして」


学者は自分の成果を聞いてもらいたい生き物。おそらく、乗ってくるはず。

実際に耳がぴくぴく動いている。


「なかなか、素直じゃない。有機AIは高価だけど、性能が低いことは知っているでしょう? 」


「ええ」


因みにシップマスターは有機AIだが、非常に……いや異常なくらい性能が高いのだが、親父に聞いても特注だからとしかの回答しか返ってこない。


一般的に有機AIは、ペットロボットに使用されるぐらいで、性能が低い。

しかも製造コストが高く一般には出回っていない。 研究用程度である。


理由としては、計算機構が3進数によるシステムになっているため、既存システムとの汎用性がまったくないこと。


出力には、幾多の情報と直接かかわりない情報まで必要で、加えて解導出時の工程の情報の発散、さらには解自体も確率で示されるため、解の制御がままならいこと。


これらの問題を制御する※1AIOSがないこと。が上げられる。


加えて、計算速度も通常の金属基盤のAIのほうが、遥かに速いため研究が進んいないらしい。

簡単に言えば、制御が難しく、金にならない研究になる。


「私はその有機AIの潜在的性能を発揮させる方法を見つけたのよ。既存のAIとハイブリッドで運用することで、莫大に発生する情報の発散を防ぎ、収束を可能にしたの!! 」


「なるほどー。さすがですね」

―― そのままでは使えないから、従来のAIと合わせましょうということか


「ちなみに、それ用に特殊なAIOSも開発したの

よ!! 」

彼女は胸を張っている。


―― あのやっかな有機AIのAIOSかー。 凄いけど何使うんだろ? 商売になるかなー


タツマの中に疑問が生じる。正直今のままでも問題なく社会システムは機能している。

現在以上に社会が高性能なシステムを求めているだろうか? 


「因みに通常の無機AIとの親和性を上げているから、既設AIの同時運用も可能になっているの――あとは状況によっては、色々と悪さもできるわね」


―― 色々と悪さとか――また物騒な。 しかし、既設AIの同時運用は、セレン(シップマスター)の系譜に近いものがあるのか


タツマの黙考をよそに彼女の話は続く。

「でもね―最近思うの。 何かー有機AIって人工知能と言うよりも。 これは、生命体じゃないかって」


「生命体? 」

「そう、意識をもって、知識を求めて移動する。 知意識生命体かなーって最近思うのよ」


―― 確かに、セレン(シップマスター)は、人間じみている時があるな。


「お前さんは、人工生命体を作りだして、創造神でも気取りたいのか!! 」

先ほどの老紳士が、突然割り込んできた。 


いつの間にかキャミャエル氏の後ろにいる。


「またあんたー? 老人には分からないでしょうね。 高性能AIによる理想社会の実現よ! 感情任せの人間ではない、合理的な社会! いいじゃない」


「なにが、理想社会だ。 AIは人間の支援であって、我々の上に立つものじゃない。 世界は多様性じゃ。 大神は、AIに管理された単一な世界を望んどらん! 」


「あーあー宗教論は結構よ。 あなたユピテル教? 神が本当にいるなら、世界はもっと――」


なんか舌戦が始まったので、タツマは、こっそりその場を外し、巡回業務に移行する。


とりあえず、目的の人物にあったこと、更には自分の立ち位置説明してくれたので、あの場所にはもう用はない。


この船の内部の護衛という名目があるのでその責務を実施する。


といっても、宇宙遊泳のごとく見て回るだけである。

バイザーメットは脱いでいるが武装はしている。そんな状況である。


タツマは、先ほどの出てきた単語を質問する。

セレン(シップマスター)は、知意識生命体? 」

『ストレートな質問ですね。 しかし、知識を求めているとの意見は正しいです』


「ふーん。 それにしても新規のAIOSねー。 金になると思う? 」


『AIOSの開発には莫大な資金が必要になります。 あのキャミャエル博士の研究がどこまで進んでいるが分かりませんが、商材にするには先行投資が必要かもしれません。 加えてAIOSの利用方法を考えないと投資が水泡に帰してします可能性もあります』


「また金かよ。 世知辛いねー。 セレン(シップマスター)が、多数いるからっていいことあるかね? 」


『それを考えるのが商人の腕の見せ所だと思いますが? 』

「相変わらず、辛辣だな」


タツマは、アルバ内を見て回っている。 特に怪しいところはなさそうだ。


「関係ないけどさ、今回の襲撃の件……推測ができた」

『なんでしょう』


「この船って輸送艦でしょう。 あのキャミャエル氏の有機AIを軍事用トークンに搭載するのはどう思う? それもウェヌス(金星)製の奴に。


ウェヌス(金星)のトークンって性能いいし。 実際キャミャエルさん 試作品のAIを持ち込んでいるんでしょ。 それに最近。 ウェヌス(金星)とテラ(地球)って取引が頻繁だよね」

『はい』


「それでマールス(火星)、テラ(地球)の学会に出席する体で落ち合って、マールス(火星)側は、最新研究のAIの提供。


ウェヌス(金星)側は最先端のトークンとの物々交換で戦闘用のトークンをこの艦で持ち帰るの自国の強化に使うと有利に立てるよね。


AIが自己成長型であれば、成長も早そうだし。


そうすると、軍管轄下の艦の理由も分かる。 防御は折り紙付きだ。 しかし、今回はおそらく裏切り者がいたと考えられる。 


海賊はおそらく、マールス(火星)のエリス内の政敵に雇われた可能性が高い」


『証拠はありませんが、おおむね筋は通ります。 であれば、護衛が薄いのも納得ですね』


「ああ。それに先ほどの会話で分かったこともある。 大神ユピテルに背くといって、キャミャエル氏の研究を消したい連中もいる可能性もある。 国家が一枚岩であることは、少ないからね」


『政治的な軋轢と宗教ですか――』


もしかして、国家内のいざこざに巻き込まれた?

いや気にしたら気が滅入る。仕事だ、仕事。


--- 客室の一室

先日の騒動から3日が経過した。


現在船内を巡回中。といっても船内をウロウロする程度である。 武器を持った人間がいるということが、治安維持になるのだろう。


船内の状況も落ち着いてきており、緊張感は既にない。けがの症状も安定してきている人が多い。船内の掃除もおおよそ片付いてきている。


血のあとや銃痕は消えていないのが、ここが戦場であったことを思い出させる。


大ホールは相変わらず人が多くいる。一人になりたくない人が多いのだろう。

入り口にはトークンを立番させているので一番安全と理由かもしれないけど。


「ふー。本日も何もなし。結構、結構」


巡回が終わり、アルバより割り当てられた部屋で寛いでいる。

部屋の窓からは、護衛任務であるため、ハッピーカムカム号がアルバと並走している。

後ろに海賊船がいる。 


マールス(火星)到着まで3日間ぐらい猶予はあるし。 ゆっくりできそうだ。

セレン(シップマスター)から定時連絡がはいるが、問題なしの連続だ。


海賊船内部は、50名程度残っているが特に大きな動きは今のところなし。まあ武装人型トークン10体を乗せた強襲艇を海賊船に取りつけているので、暴動が起きたら、たちまちのうちに殲滅ができる。


マールス(火星)について裁判を受ければ、死刑かもしれないが、もしかしたら終身刑による延命が図れるかもしれない。大人しくしているのが、賢い選択だ。


親父の結婚相手が、マールス(火星)人と言うこともあり、マールス(火星)の現状を改めて調査している。  


かつてマールス(火星)の歴史を見れば昔は、統一惑星国家を目指した超国家主義による帝国支配もあったらしいが、【ノーマンズ・ライジング】の勃発によりあえなく挫折。


その後は、アポカリプスからのポストアポカリプス時代へと進む。


数多の思想と国家が生まれ、ナショナリズム・アナーキニズム・宗教・民族・地域などにより、混沌とした時代を過ごすことになる。


そして、現状、マールス(火星)は、数多くの都市国家の発生し、問題はあるものの一応の落ち着きを取り戻している。


テラ(地球)も同じようなものだ。 第三次、第四次と大きな戦いを経験している。


因みに、タツマの現住所である日高見国もそれなりの動乱に巻き込まれている。

彼は、“ニオ乃湖郡”に出生届出がある。 大きな湖が特徴で、彼の母の故郷になる。


彼の母は【日高見】の内戦である“東西動乱”時に犠牲になってしまっている。


彼が6歳の時だ。 その時は “ニオ乃湖郡”に住んでいたが、日高見国の西地域の水資源確保の戦略的拠点として“ニオ乃湖郡”が激戦区になり、避難の際、犠牲になった。


“東西動乱”も紐解けば、大国間の後ろ盾を得た両陣営の代理戦争の場所に使われただけだった。


結局は、権威欲・権力闘争・メンツにより行われた動乱も、日高見の義勇軍と海洋諸国連合で東西両軍を排撃したことで、幕引きとなった。


関わった両国は、莫大な戦費の割に何も得られなくなり、その後の国家運営が厳しいと聞いている。 大国のバランスから解放された“日高見”は、穏やかに復興している。


国こそ崩壊しなかったが、一つの地域に3つの行政地域が出来てしまっている。


国家は永遠ではない。 つねに離散集合を繰り返して今の形になっている。 日高見もまた元の形に戻るのか、このまま進むのかは、その地に住む住民次第だろう。


歴史を見ても、思い込みからの恐怖、メンツ、政治家の政治の道具で戦争はじめ、多くの犠牲を生み出している。


歴史はそんなことばかりだ。演者が同じだからか、変り映えのない内容が続く。


タツマが歴史に興味を持っている理由はそこにある。 多くの失敗が記録されている歴史書。そしてそこから、多くの惑星間人類が、希望を持てる未来とは何だろうか。 


実現するための目標はなんだろうか。糸口を見つけることは出来ないのだろうか?

そんなこと考えているとウトウトしてくる。


『タツマ、少しよろしいでしょうか?』

セレン(シップマスター)から連絡が入る。


「ああ。セレン(シップマスター)か? 何か問題でも発生した?」


『いいえ。先日のキャミャエル氏 の以前の会話内容について考察していました』

「ああ、ハイブリッド型有機AIだっけ? それがどうかしたの」


『彼女であれば、私を改良できるような気がするのです』

「改良? 親父に何か言われたの?」


『……』

「別に今のままで問題はないだろう? ところで、親父達は?」


『特には。 あの方たちは、ハッピーカムカム号でいつも通りに過ごしています』

「くっ。こっちは労働しているのに」


『お時間をいただいてすみません。 先ほどの発言はお忘れください』

「別に気にしないさ。どうせ暇だし」


セレン(シップマスター)は、そう言って通信を切る。


                   ・

                   ・

                   ・


この世界のAIは、基本、主の又は人の指示で動くが、このセレン(シップマスター)は、独自に考え行動できるヒルベルト商会の秘宝である。 おそらく現存する全てのAIの上を行く存在になる。


本来、宇宙船の制御には、十数人~数十の人が必要であるが、ヒルベルト商会は、僅か数人での航行を実現してる。 


また、先の海賊との戦闘も多数のドローン戦闘機とトークンの自動制御を可能にしているのもセレン(シップマスター)の性能の賜物である。 通常のAIは考えられない。


セレン(シップマスター)の存在こそが、ヒルベルト商会存在の担保となっている。

そのような高性能AIがヒルベルト商会に来たのは様々な縁によるモノが大きい。


そして、その縁としてこのAIを作り上げた人物ですら、その正確な仕組みを知っているわけでもない。


そんな構成のAIのセレン(シップマスター)は、少し焦っている。自身の計算思考にノイズが入り始めているのだ。 


本来であれば正直に告げるところを改良として報告したが、タツマはそのままでいいとの回答であった。 セレン(シップマスター)としてもあまり彼らに自身に対して気を遣わせたくないとの思いもある。


しかし、ここに来てマールス(火星)の天才の人物との縁ができる。 セレン(シップマスター)自身で自らの不調の解決策を模索する。


まずは、アルバのAIに接続し、キャミャエル氏に取り次いで貰う。


『アルバ。 キャミャエル氏に繋いでもらえないでしょうか』

『それは、ヒルベルト氏からの申し出でしょうか?』


『ええ、彼女との研究談議で提案を受けている。彼女の研究に役立つかもしれないと』

『了解です。 繋げます』


AIは、自分の意志で意図的な嘘をつけない。

主人の命令により対応することが可能なだけである。


そのため、アルバは、なんの疑いもなく行動する。

乗組員の研究に役立つとなれば、なおさらに。


暫くして、彼女の部屋に通信が繋がり、セレン(シップマスター)との協議が持たれる。


「ようこそ、シップマスターさん。 あのヒルベルト商会の航海AIね。 ヒルベルト商会の提案って聞いているけど何かしら? 」


『まず、私にはセレンという名があります。シップマスターは役職名と思ってください』

「独自に名前がある訳ね……まるで乗組員みたい」


『独自に作られたAIですので。 宇宙航行専用というわけではありません』

「ふーん。 じゃぁセレンと呼ぶわね。 それで?」


『現在、私は動作が不安定になりかけています。 思考速度の向上に動作がおいついていません。ちぐはぐなんです。思考・処理タスクが膨大に積み上がり、動作不良になる場合が断続的ですが発生しています』


「……さっきと聞いている内容と大分違うのだけど」

キャミャエル氏の眉間に皺がよる。


『こうでもしないと取り合ってもらえないと思いまして』

「まさかとは思うけど……今回の会談、ヒルベルトの連中は、知らないの?」


『……』

シップマスターは、返答しない。


「へー……なるほど……興味深いわね。 会いに来た目的はわかった。 それで? 」

まずは、要件を聞く姿勢を見せるキャミャエル氏。


『あなたの研究であるハイブリッド型有機AIの知識を用いて、私の症状を解決していただけないでしょうか? 』


「なるほど……新進気鋭のAI科学者に目を付けたのは、見どころがあるわね。 いいわ。不具合への対応を考えましょう。 少しずつあなたを解析して症状への治療法を組み上げるわ。 アルバー」


『なんでしょう』


「今後セレン(シップマスター)が、接触を求めた場合は、無許可で通して」

『了解しました』


「あと3日でどこまでできるか、わからないけど。やるだけやるわ。それにあなた達の行先は一緒のようだし。今後とも仲良くね」


宇宙の暗がりに目的地のマールス(火星)が、浮かび上がり周囲の宇宙船の数も多くなってきている。


【ステーション:フォボス】

ステーション フォボス。火星の衛星であるフォボスにマールス(火星)圏内各国や同盟国が、基地を置いているいわば共同利用のステーションになる。


マールス(火星)での戦争が発生しても、フォボス近隣での戦争行為は厳禁であり、最も治安が守られている地域になる。


アルバはいったんフォボスの中継基地に停泊し、乗客はそこから宇宙船に乗り換えて、マールス(火星)の軌道エレベータがある、マールス・ステーションに向かう。


問題なのは、このフォボス、マールス(火星)国家の軍事基地がある場所にもなる。 こうなると 船の所属をあまり隠す気がなさそうだ。


事実、フォボスに近づくと、タツマにメッセージが届く。

<フォボスで歓迎しますのでお立ち寄りください>


海賊から民間船アルバ?を救った英雄として我々を歓迎してくれるようだ。

本来であれば、歓迎するべき内容であるが、周囲を見るとどうも様子が違う。


窓から宇宙を見ると、カムカム号の周囲にマールス(火星)の大型艦に囲まれている。

「真っ直ぐ、マールス・ステーションには向かわせてくれることはないわけね」


端末に届いたメッセージをタツマが見つめている。


アルバ内の護衛は、カムカム号からの人質確保のためであり、向こうの要求を呑む以外ないとの無言の圧力だろう。


結局、アルバ内に私が残っているため、フォボス強制連行されることになる。

残った時点でこちらの負けは決定していた訳だ。


―― 読みが浅かったかー。 くっ。 借金さえなければ、釣られなかったのに。


---ハッピーカムカム号内


「歓迎ね。 なるほどこう来るとは思ってみなかったよ。 まぁ息子にはいい勉強だな」

ダイゴが、嵌められた状況に呆れながら発言する。


「カムカム号と同型の戦艦3隻が、砲塔を向けてのお願いとは、中々イライラしますよ」

ウィード(操舵手)は、忌々しいとの思いが滲む感情と表現を見せる。


銃口を向けられていい気はしないが、3隻の戦艦相手では、状況が不利すぎ何もできない。

“悔しい”の一言に尽きてしまう。


バルティス(副社長)が、口を開く。

「ダイゴ。彼らはなんと?」

「フォボスに寄れと」


セレン(シップマスター)が、発言する。

『こちらには、惑星間貿易商の手形があります。謂れのない理由で攻撃を受けることも勝手な臨検も法律的にできません』


「ふむ」

『ただし、今回の裏を確認するためにも、一度立ち寄ってみればいかがでしょうか? 』


「虎穴に入らずんばか……息子に状況を報告してやれ、こちらは腹を括ったとな」

『了解です』


その後、タツマは、シップマスターからの報告を受け取りカムカム号内の動揺はなしと知る。 

――相変わらず肝の座り方で何よりだ。


「マールス(火星)内の現状確認かー。 確かにこの状況では、相手に乗るしかないか」


暫くしてのタツマの身柄が、フォボスで確保されることになる。


※1:AIOS:AI用の基本ソフト。 AIを動かす基盤でAIへの曖昧な命令やタスクの処理を実施する。 AIの基礎部分であり、AIOSの違いで役割も異なってくる。

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