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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
1章 揺蕩星間
5/54

テラ・マールス・ポータル付近

至って順調な航海を続けているハッピーカムカム号。

ここまでは何もなく特に荒れたることもなく、平穏な航海になる。


ポータル付近は、宙域貿易商が他の惑星から取引が可能な宙域になる。


宙域貿易商であっても、ポータル圏内であれば、他の惑星に行くことができる重要なポイントであり、また多くの船乗りの休憩所にもなっている。


周辺宙域には、多くの船、コロニー(人が居住するインフラ)スペースステーション(船が係留するインフラ)が多数存在している。


もちろん、パトロール艦も存在しているため、この宙域は海賊も出ない安全域になっている。


「相変わらずポータル付近は賑やかですね」

「物流の中継点だからな」


セレン(シップマスター)。 現状の日程余裕はどれくらいだ? 」

ダイゴが、工程表を出しながら予定を確認している。


26万カウント(3日)の余裕があります』

目的地に早く着き過ぎると、その分、待ち時間分の費用が発生するだけである。


それを聞いてタツマが反応する。

「どこかに立ち寄ってみる? 」


社員に聞いてみる。

コロニーやステーションでは、バザーが開かれている。


中には商船を店代わりに商売をしているモノもいる。

それなりに楽しい場所になるはずだ。


「そうだなー。 ポータルコロニーはどうだろう? 」

一番興味のなさそうな副社長(バルティス)が、反応する。


時間はあるし、係留費はかかるが、惑星間貿易商価格なので格安に留まれるはず。

同じ金が掛かるのなら、社員への福利厚生に使った方が何かと得なはず。


バルティスの一言で各員も“いってみるか”のような、ノリになってきている。


「それでは、ポータルコロニーへ立ち寄る。 シップマスター 進路変更!」

「了解です」

操舵手のウィードさんからの応答がある。


船が梶を切り一路マールス(火星)ポータルコロニーへの行先を変更する。


---  テラ(地球)マールス(火星)ポータルコロニー内


コロニーの外観は、円柱状でガラス張りのエリアから太陽光を得ているようだ。一般的なコロニー構造だ。ベイで係留手続きをし、コロニー内に繰り出す。


頭上に街があるのはコロニーの特徴だろうが、いつになっても不思議な光景だ。

マールス(火星)ポータルコロニー内だけで100万以上の住民がおり、一つの都市国家の様相を呈している。


かつてはテラ(地球)の大国、ユーラメリカ合衆国領だったが、すでに本国も分裂してしまっている。

そのため、幾多の政治的動乱の後、現在はAIが統治している。


人種もマールス(火星)人・テラ(地球)人・ウェヌス(金星)人と多様であるが、閉鎖空間なので、大きなもめごとはないようだ。


『各員17万カウント(2日)の休暇とします。羽目を外しすぎないように楽しんできてください。何か問題が発生した際は、連絡をお願いします。良い休暇を』


2日間といっても1泊2日ね。明日には出発か。流石にギリギリを責めないのは、セレン(シップマスター)らしいところだ。


治安は問題ないが、念のため護身用の武器を携帯していく。


『タツマ。 コロニー内ではおおよその通信が可能です。 もしもの時は、支援トークンを出しますが、危険な場所への立ち入りは控えてください』


「わかっている。 別に初めての土地って訳じゃない。 現地時間で……18時には戻る」

『了解しました』


ホテルが無理なので、船での休息になりそうだ。


まったく、星をまたにかける惑星間貿易商が、こんなに質素な生活をすると思いつつも、久々のポータルコロニー散策に出ることになる。


相変わらず騒がしい街であり、繁栄と退廃が同居したような、資本主義の極端が見える場所である。


高層ビルと高級車が走る一方で、天井にはスラム街のような巨大なビルが林立している。それでもAIによる統治によりだいぶ、格差がなくなっている状態らしい。


事実、衛生面はかなり改善している。


そんな歴史を抱えたポータルコロニーの商業地区近くに足を延ばすタツマ。 

そろそろお昼時のため、周囲からいい匂いがしてくる。


―― まずは、腹ごしらえからだな。

親父たちは、4人で飲みにでも行ったのだろうか、早々にどこかに消えてしまったようだ。


とういう訳で、こちらはタツマ1人での食事になる。 彼が周囲を散策しながら、どこのダイナーに入るか思案する。 


タツマの決定方法は、地域密着型の一見さんが入り難い店に入る傾向がある。

―― おっ! いいじゃない。


古めかしい朽ち果てた看板に、外見もあまり気にしていない、店舗を発見する。

彼のセンサーに引っ掛かった いかにも古めかしい怪しいダイナーに入る。


内部に入るとこれまた、雑多な内装になる。

床は油ぎっており、どこかの土産物がところ狭しと並んでいる。


―― 趣きがあるねー

そんなことを考えながら、席に座りメニューを見る。


テラ宙域のコロニーだけあって、テラ(地球)の食文化圏になる。テラと言えば麺類。

小麦を加工し、長期保存の食品が多い。


麺類を注文し暫し待機になる。

コロニーや衛星などは、基本場所は基本キャッシュ(ニコニコ現金払い)になるため現金必須になる。


ここは、通貨 ※1リドル払いである。 マールス(火星)に付いたら、マールス(火星)惑星間通貨のマリベル への両替の必要になる。


このように外部の者は、基本現金を持っているためスリに注意する必要がある。


そんな煩雑さも有りつつ、タツマは店内を見回す。

旧型の受像機にはスポーツ中継が流され市民の娯楽となっている。


そして客は、昼間から瓶ビールを飲みながら選手の品評をしているオッサン達。 外仕事の人達。

中には身なりの良い人間もいる。


まさにランチのおける人種のるつぼのような場所が、この町中華の醍醐味だろう。

そこでの人間観察ほど面白いものはない。といっても知らない町中華の店舗はまさにルーレット。


外れると黒こげの料理が出て来る場合もあり、ある種スリリングでワクワクする。

オッサン達を横目で観察していると注文の品が届く。


出された麺料理は、白濁のスープの中に麺があり、彩のある具材が乗っけられている。

時たま議論になるが、このようなスープに凝った食事は、麺料理なのか、スープ料理なのかだ。


スープ料理なら……いや止めよう。恐らく長くなる。それこそ伸びてしまう。

「いただきます! 」


一口麺を啜る。

コクのある動物系スープに塩味がついている。クリーミーでありそれでいてしつこくない。

そして臭みもないとなると、ここは当たりのようだ。


麺を啜りながら、ランチタイムを楽しむ。

                    

                    ・

                    ・

                    ・


食事を済ませ店舗からでる。当たりの店舗であるため機嫌がいい。

―― さてこれからどうするか? 


ポータルコロニーは、基本的には、居住地である。 といっても歓楽街やカジノ程度はあるが、昼間からそんなところに行くにもならない。


「うーん」


次の目的地を決めかねているが、腹ごなしも兼ねて歩き出す。


ポータルコロニーでは、ベイ内のマーケットで時間を潰すことも多いが、本日は周囲の散策をする方向で行動する。


ここは、幼少期のころ住んでいた場所でもあり第二の故郷的な存在である。

あの当時は、6歳か7歳ぐらいのときだっただろか。学校も通っていなかった。


*** 回想 ***


タツマは、戦争難民になる。幼少期に母を亡くし、この地に逃れてきた。

親父がふさぎ込んでいたのと、一時期施設に入れられていたのを覚えている。


当時、戦争難民の多くがこのコロニーに逃げ込んできた。

他人の領地でもないため、意外にも衝突が少なかったのも幸いしていた。


そのため、難民も絶望している人もいたが、新しい人生を始めようとする人も多かった気がする。この町周辺では、難民が多かったが、活気があったのを覚えている。


タツマ本人も両親がいなくなり孤独というより、新しい環境や街にワクワクし走り回った経験の方が強い。


ときたま、変なことを言われたりもしたが、急に母が亡くなったのに、何気に気丈だったのかもしれない。


*** 終わり ***


いつも何も考えなしに足を進めると、かつての帰路を歩いてしまう。


風景は、商業地区から徐々にさびれた風景に変化し、いかにも旧市街といった雰囲気になってくる。 といっても危険性は感じない。


かつての子供時代の道であり、ここを良く通っていた。


―― 無意識の散策ルートは、いつも同じだな。

そんなことを考えながら、歩を進める。


このポータルコロニーは、何度か寄っているが、そのたびに手持ち無沙汰になる。


特に親父達は、時間が許せばここに寄りたがっている。

カジノのレートは結構高いため、射幸性が高いのが楽しいのかもしれない。


そんなことを思いながら、気の向くまま足を運ぶ。


そんな中、ポータルコロニーは、空間が閉じているので、結構都市全体を見える環境にある。

ふと見慣れた容貌を見つける。


―― あそこにいるのは、親父達か? 何やら教会? 寺? 墓地? の近くで誰かと話している。 昔馴染みでもいるのだろう。 まだ時間もあるので後で行ってみるとしよう。


カジノ以外でも彼らを見るのは初めてだったが、特に気に留めずそのまま進む。


そこから4半時(30分)ほど歩くと目的の場所に到着する。

「着いたな」


かつてのタツマの実家である孤児院に到着する。 タツマの目に映る施設は、運動場がありそして子供たちが走り回っている。


施設内では親がいないことへの寂しさもあるだろうが、同じ童と遊んでいる姿は、事情を知っている者からすると救われる思いもある。


「施設は、まだ運営中か……なによりだ」


ここが運営しているということは、ここの福祉環境も改善されているのだろう。

当時は閉鎖寸前まで追い込まれていたように思う。


懐かしい気分に浸りながら、タツマは、施設の様子を外から眺めている。

あまり見過ぎると不審者に思われるので、いつも適当な時間で切り上げる。


そしていつもは、宇宙ベイに戻るのだが、本日は少しスケジュールを変更することになる。

――親父達を見た場所にいこうか。


帰るには早すぎるため、ふとそちらへ足を延ばす。時間として半時(1時間)ほど歩く。


―― 今日は本当によく歩くな、今晩はよく眠れそうだ。


到着した場所は、墓地であった。


親父達が何でこんな場所にいたのか、不明ではある。

墓守の建物だろうか、四角い白い建物がある。 周囲には色ガラスが見える。


―― ステンドグラスか?


外見から宗教観は分からない。 となるとここは無宗教施設なのだろう。

それに人の出入りも自由に見える為、公共施設に近いものと感じる。


タツマも好奇心を魅入られ建物に入っていく。


中に入ると、天使や天上世界を表しているのだろう巨大な天井画が、頭上に現れる。

周囲のステンドグラスの光の陰が室内に投影され施設全体で、天上世界を表している感じに囚われる。


――こんな施設があったのか……


荘厳な天井画と周囲の光の芸術に圧倒され、しばし硬直する。

幻想的な施設内の光景から察するにおそらく教会のような施設だろう。


硬直しているタツマに対して、

「旅の方ですか?」


と後ろから声を掛けられる。その声に振り向くとここの管理者だろうか、そう思わせる服装をしたマールス(火星)人が立っていた。


「如何ですか。 この光景は? 」

「素晴らしいですね」


「気に入ってもらえたのであれば何よりです」


そこからこの管理者と話し込むことになる。

なんでも、この地域の集団墓地のようで、宗教にとらわれず埋葬や葬式を実施しているようだとか。


「私も幼少期ここに住んでいましたが、随分環境が良くなったように思います。 こんな施設もありませんでしたし――これも ※2 マキナクラシーのお陰ですかね? 」


タツマにとっては軽い質問であるが、管理者は微笑みながらも目は、真剣な表情で返答が返って来る。


「私もここにきて30年ほど経ちますが、AIによる政治になってから生活環境も良くなってきました。 故にその認識であっているのでしょうね」


管理者らしきものは、一拍おき遠く見つめながら

「本当は星系人類の可能性を信じたいのですがね――」


諦めたような感情とともに言葉を出してくる。


****

テラコロニーでは、立法府をAIに任せている。その立法府から法律や予算をもとに、行政を役人が執行する形態になる。


立法府の法律や予算制定時に、住民への選挙を実施して重点政治内容を絞る、政策民主政体とも言える、政治体制になる。


これにより、既得権益に絡む議員などがいないため、民主主義の欠点である扇動家やポピュリストが生まれない仕組みである。


行政の長は、選挙によって決めることになるが、戦況においてもAIが、公約内容や実現性をスコア化することで、指摘により立候補者の本気度を公開する仕組みを取っている。


因みにテラ(地球)でも西部ゴンドワナなど一部の地域では導入されている。


特に政情不安で政治家が容易に殺害される地域は、行政までもAIで行っており、立法と行政がAIという地域もある。


事実、西部ゴンドワナでは、カルテル対策の法律の立案に効果を上げ、治安と表経済の改善が見込めているようであるが、現地では相変わらず機械の傀儡かとの意見は多い。


といっても、まだまだ人の手を入れないとぎこちない様であるが、ここのコロニーのように徐々に成果も上がってきている。

****


「AIには欲がないですから――保身に捕らわれない政治ができるんですかね」

タツマは、よくある一般事例を持ち出し答える。


「本当にそう思いますか? AIに欲はないと」

しかし、管理者はより真剣な目でこちらを見て来る。


「ええ……まぁ 」

タツマとしては、どうでもいい返事だったため多少引いている。


「欲の根源は、死への回避。 ならば死の感情を持ったAIは、どのような行動を取るでしょうか? 


もしAIが死の感情を持ってもなお、公平なことができるのであれば、人類の進化の可能性はすでに、行き止まりなります。これをどう考えるか? 


私はね。 おそらくAIによるシステムの方が、人類より進歩の可能性を感じるんです」


―― おおぅ。 思想過激派に絡まれてしまったか?


タツマの引き具合を感じ取れたのか、管理者は熱くなった自分に気づき、直ちに冷静さを取り戻す。


「すみません。 こんな場所にいるといろいろ考えさせられるので……つい年甲斐もなく熱くなりました。 忘れてください」


「はぁ……」


「これからどちらへ? 」

マールス(火星)ですね。 今配送中なんですよ」


「なるほど。 私こう見えてもかつては、マールス(火星)の考古学者だったんですよ」


「おお! 」

先ほどの警戒感が一気に溶け、タツマが食いつく。


「その中でも私の専攻は、エリシウム遺跡でしてね……」

「どうなんです? あの遺跡は、※3ノーマンズ・ライジングとの関わりってあるんですか? 」


「よくある噂話ですよね。 実際はノーマンズ・ライジングと関係ない古代遺跡ですよ。 そうですねー。 かつてヘラス地中海を中心に栄えた大陸帝国がありましてね――」


その後、ポータルコロニーやマールス(火星)の歴史などの会話が続く。タツマにとっては面白い話になる。そのため時間を忘れて会話に没頭することになる。


気付けば、施設の閉館時刻のようである。

「なんと! こんな時刻ですか……そろそろ施設を閉館しないと」

急ぎ管理者が席から立ち上がる。


「そうでしたか……歴史的なお話ありがとうございました」

そう言ってタツマも立ち上がり、戸締りで周囲を見回っている、感謝の後ろから声を掛け、出入り口から施設の外に出る。


施設内に管理人が残る。施設内には誰もいない。


ここで管理者と別れることになる。

最後に礼を言ってその場を立ち去ろうとすると相手から意外な言葉が、投げかけられてきた。


「いえいえ。 お構いなく。 それでは、ヒルベルトさん」

管理者は、その言葉と同時にドアを閉め、錠をかける音が聞こえる。


―― なんなんだ……彼は。 少なくともこちらは何も名乗っていない。

質問するにもドアは閉じられ、錠が掛けられている。


わざわざ呼び出す程の事でもないが、なにかモヤモヤする。

相手は、こちらを知っていたとなると、親父と何か関係がある者なのだろうか? 


謎を残し、タツマはハッピーカムカム号へ戻っていく。


19時着。


『夜遊びですか? 』

「1時間遅れでしょう。 親父達は? 」


『一度こちらに戻ってきて、先ほど街に繰り出していきました。 港近くの酒場で飲んでいます』


「楽しめていそうで何より。 私は自室に戻るよ」

『了解です』


とある一日が、謎を残して過ぎて行く。


※1 リドル: 惑星間協定で決められている、各惑星内における通貨単位。もちろん各都市国家や各国家で独自の通貨を使用していても構わないが、惑星間貿易に実施する際に必要となり制定されている。各惑星におけるもっとも信頼の高い通貨になる。 因みに テラは“リドル” マールスは“マリベル” ウェヌスは“ヴィール”となっている。


※2マキナクラシー(機械政体): AIによる政治の名称になる。 AIを中心としつつも、市民の意思を反映させた政体である。 既得権益が強い地域では、忌避される政治形態である。


※3ノーマンズ・ライジング: 4000年前ぐらいにマールス(火星)で起こったAIによる反乱。 様々な兵器によりマールス(火星)全体の環境、人口が大きく棄損する反乱。結果マールス(火星)文明の大幅な後退とその後のポスト・アポカリプスを越えて今がある。 

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