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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
1章 揺蕩星間
4/51

新しい船

そろそろ休暇の1ヵ月が、終わりに近づく時期になる。休暇も残り半分と言ったところになる。


現在は、新造艦の受け取りのため、ユーラメリカ地域の連合のニューフロリダにいる。

惑星間貿易商の船は、法律で結構な武装が許可されている。


そのため、艦によっては、軍のお下がりを使用でき、費用は高いが建造許可は早く降りるのが利点だ。 事実、他の惑星勢力圏にはいるため、海賊からの襲撃など荒事が発生時の処置である。


宇宙空間は厳しい環境であり、治安は最悪である。広大な宇宙では警察はないに等しい。

惑星近くでは、パトロール艦隊がいるが、深宇宙になると無法地帯になる。


そこで現れるのが、宇宙海賊になる。


彼らから命と積荷を守るのが貿易商の仕事になる。

で、貿易商の艦には兵器が必要なるわけだ。


しかし、宙域貿易商の船は法律により、船の大きさが制限されているため、強力な兵器は搭載できない。

一方で、惑星間貿易商の艦は基本的に巨大であり強力な兵器が搭載可能である。


海賊としては宙域貿易商の艦は実入りが少ないが、狩りやすい。


星貿易商艦は、積荷を奪えばグループが一生困らないぐらいの実入りになるが、強力兵器のおかげで全滅する可能性もある。


1ヵ月前の事件のような状況だ。

そのため、海賊からしたら惑星間貿易商艦の襲撃は、ハイリスク・ハイリターンの仕事になる。


年に1,2回 惑星間貿易商艦が襲撃に成功することがあるが、成功時には、ニュースになるほどの内容

になる。


                     *


日差しと風が心地よい。


休暇の最後を満喫するためパームビーチ地区の海岸沿いを歩いている。 リゾート地だけあって開放的な気分になる。 日差しと風が心地よい。


一見すると平和そうに見える場所であるが、国境付近では散発的にドンパチがあるらしい。

それでも街には人が溢れ、笑い声も聞こえてくる。 最前線でなければ、銃後はこんなものだろう。


「やはり地上は、宙の過酷さに比べれば平穏だなよな」


そんな感情とともに海風を感じながら、タツマは、徒歩で企業のドックに向っている。


--- カナベラルロボティクス社 新造艦のドック


カナベラルロボティクス社 ユーラメリカ連合にある会社になる。


宇宙船からトークン・コンバットスーツなど宇宙関連の製品を扱う巨大コングロマリットになる。

ユーラメリカ地域有数の重工業企業になる。


「新型艦ねー……親父これ商船だよね? どうみても装備がおかしいよ? 戦艦でも注文したの? 」


「こういうのは、見た目で威圧しねーとダメなんだよ。前の船なんて1か月に1回は襲われていただろ? 」


それ以上に感じているが、ここでは流そう。


「惑星間貿易商の艦の中で最も古かったからね」

「海賊の間じゃ、ヒルベルト商会は 今一番落としやすい商船 との話題だしな」


―― いやな表題だな。まぁ襲撃が多かったもそのせいか。


「で、これ? 」

「そうだ、これなら小規模艦隊とも互角に渡り合えるぞ。 やったな」

ダイゴが、タツマの背中をバシバシ叩いて来る。


仕様書を見ながら武装を読み上げる。

「全長580m・・・。全幅30m・・・。側面にプロトン砲多数・正面に大型電磁加速砲が1基と上下に3連速射 電磁加速砲が3基づつ・・・海賊が近づいただけでバラバラだね」


「そうだろ。宇宙空間用のドローン戦闘機と人型トークン・魚雷も多数積んでいる。ジャガーノート装備もあるしな」


「商社からPMCにも商売転身したの? もう軽量巡洋艦だよ。 これ」

「もしものための装備だ。 因みに地上攻撃型人工衛星も積んでいるぜ」


「……親父。 何を考えている? この船の武装は、商人が持つには強力すぎるだろ。 PMCでもここまでの装備は揃えられないし。 どこから支援を――」


「俺は合理的な人間だ。 綺麗ごとでこの宇宙を渡る気もない。 俺は惑星間の状況から判断して、あらゆる伝手を用いてこいつを完成させた。 きっと役に立つはずだ」


「自分から合理的とか言うかね? まぁ現在の社長は親父だ。これ以上は聞かないよ」

「歴史マニアだろ? いずれ分かるさ」


親父は笑ってはいるが、含みがありすぎる。


親父との会話をしながら、船の仕様書を確認していると感じのいい担当者が、現れる。 

「ヒルベルト商会様ですね。 お待ちしておりました。 受取の手続きをお願いします」

我々を個室に通して書類手続きを始める。


「今回の船のご購入、ありがとうございます。こちらが受け取りの契約書になります。」

金額が60億(6000億円)※リドル……60億!? あほじゃないの!!


※テラ(地球)の惑星間通貨単位。 各地域の通過と主に惑星間協定で惑星ごとの共通通貨が存在している。


「親父、資本金の10倍の借金をしたの?」


「先行投資は一気に行うことで商機をつかむもんだぞ。 レバレッジっていうやつだ」

「レバレッジって借金だろ! こんな借金があったら信用が急落だよ」


「おまえなー借金といっても不良債権じゃない。 立派な船だし資産に計上できる。

そして、お前はこの船のオーナーだ。 会社の資産はバランスシートで考えろといってるだろ? 負債を早く返せば会社は更に大きくなる。 頑張れよ」


「いやいやいや。 おかしい。 なんでこんな時期にこんなものを買うの? 」


「ラッキースター号がぼろかったのは事実だし、連盟の宇宙安全機関からおさがり宇宙戦艦が手ごろな価格で売りに出ていれば購入するだろう? 」


「60億(6000億円)リドルは、手ごろじゃないだろ!」


「まぁ細かいとは気にするな。とにかく借金返済のため働くんだ」

「……最初からそれが目的か? ふざけるな! 」


タツマが少し熱くなるが、親父は冷静のままだ。

「じゃあどうする? ヒルベルト商会を売り払うか? 」


完全に罠にはまっている。 この親父は本当に肉親なのか?

「いいじゃねーか。こんな船もっているのはヒルベルト商会だけだぜ」


「当たり前だ。 戦艦で商品を運ぶ商人がどこにいるんだよ。 砲門販売とか(ちょっとうまい?とか思っちゃけど)勘弁しろよ 」


軽い口論をしながら親父は書類にサインをしていく。


「最後のここはお前のサインだ。」

所有者の欄を指し、ペンを渡してくる。会社名もあるが、社長名の記載も必要なのだ。


「社長椅子と商船のプレゼントだ。 感謝しろよ」

―― 莫大な借金の会社と戦艦まがいの船だけどな!!


「それと※惑星間貿易商協議会には、既に社長変更の届けは出してある。 この書類へのサインは、社長としてのお前の初仕事だ」


※惑星間の貿易を管理し惑星間貿易商の認可を与える組織


書類を見つめる。ただの紙にサインを記入するのがこんなにも億劫になることは今までなかった。ここでサインしたら自ら社長を認めることになる。


と思いつつも、周囲の人間はタツマのサインを待つ雰囲気を前面に押し出している。

こうなるともはやサインをして、自らヒルベルト商会の社長を名乗るしかない。


ペンをとりゆっくりサイン欄に書き込む。


「ありがとうございました。これで成立でございます。 ヒルベルト商会社長、タツマ・ヒルベルト様 今後とも御贔屓に」


その言葉と共にサインした後に猛烈に後悔してきた。


--- 初仕事

テラ(地球) スペースステーションは、軌道エレベータにリング状の構造物がついている構造になっている。軌道エレベータは、地球から3本ほど伸びている。


いつ見てもよくもまぁこんなものを作ったと感慨深い。


先人の努力には頭が下がる。

建築時には現地住民といざこざが絶えなかったとか。


結局、地球連合軍?が、間に入って調整したがようだ。 実際は民族浄化まがいの行為が発生したと聞いている。といっても数世紀前の話。もうだれも真相は知らないだろう。


ラッキースター号が止まっていた場所には、新造艦が停泊していた。 もちろんラッキースター号も近くに停泊している。


数日前に打ち上げてもらった打ち上げ式には、社員全員で出席している。 まぁ5人ですけど。


軌道エレベータ内の両艦が見られるホールで最後の手続きを実施している。


「タツマ様。 新造艦の無事を確認していただきましたので、予定通りラッキースター号は、弊社にて引き取らせていただきます。 ここにサインを」


引渡書のサインを自分に求めてくる。


「それと新艦の名前とコード番号も登録ずみです。こちらになります」

担当者から書類の説明を受ける。


「いくら時代が進んでも、紙での受け渡しが必要なのは、我々の文化ですね」

担当者は、穏やかに微笑みかけてくる。


まぁ名前やコードは、データで各所に登録されているし、シップマスターに任せればいつでも照会してくるが、儀式も重要だよね。


ちなみに船の名前は、ハッピーカムカム号……


この名前のセンスは、ラッキースター号から変わってない。 親父が社長時代につけたから文句も言えないのが口おしい。


しかし、よくこんな変な名前を思いつくな。 運気上昇みたいな名前が好きなのだろうか。

親父の考えはさっぱりわからない。


ともあれ、最後の手続きを完了し、最初の航海が始まる。



--- ハッピーカムカム号 艦内のブリッジ

社員たちは、新しいコンソールに興奮している。

まぁ自分もちょっと――それなりに興奮しているんだけどね。


―― 新品っていいよねー。


そんな感情に浸る中、直ぐに現実に戻される話題を振ってくるのがいる。


セレン(シップマスター)が早速話しかけてくる。

『社長。わが社の財務は、カムカム号の購入によって、負債比率がとんでもないことになっていますが、どうしますか?』


「……」

天井を仰ぎ見る。


『関係各社からのわが社への与信が悪化する可能性があります。 資本の積み増しが必要と思われます』


与信がないと取引停止か、現金取引になるんだっけ? 

惑星間の取引をニコニコ現金払いって訳にもいかないし。


「親父は、どうやってこんな莫大な借金ができたんだ? 」


タツマが、ダイゴに話題を振る。

これだけの金を借りられるのであれば、銀行もそれなりに担保を取っているはずである。


「ああ、“惑星間貿易商の権利”を担保に金を借りたんだ。 それに売り上げと、資本金、内部留保を加味すれば必然的に莫大な金が借りれるっていうもんよ」

なぜが得意げに話す。


「……会社をチップに金を借りたのか」


惑星間貿易商という、特殊民間会社、準外交官特権の企業故に許される借金は、その権利を担保に入れると莫大金額を借りることができる。


惑星間貿易商の認証は絶対数が決まっており、条件付きではあるものの資格の売買が可能であるため、後発参入組の大企業では、いくら資金を出しても欲しい資格となっている。


故に資格を売って現金を手にすることもできる。


「まったく。 しかし、そーだよな、銀行は“惑星間貿易商の権利”は、欲しいよなー」


『ええ。 といっても返済さえ滞らなければ、“惑星間貿易商の権利”を取られることにはないでしょう』

「簡単にいってくれるなよ」


『とは言え、如何せん与信の問題があります。 与信により取引先が減れば、返済が遅れる可能性があります。 負の連鎖ですね』


何故に就任早々、厄介ごとしかないのか? 頭が痛い。


「就任そうそう借金会社になるとは、前社長もやりますね」

副社長がニヤニヤ笑っている。この人が社長になればいいのに。


本人は中小企業じゃ地位なんて関係ないでしょ? 好き勝手にできる社員のほうがいいと固辞したらしい。 副社長って社員なの? 役員じゃないの? 


「親父! どうするんだよ! 」

「俺はもう社長じゃない。 社長であるお前が考えることだ」


愚痴っていても事態は改善しない。与信への対応かー。


「それじゃぁセレン(シップマスター)。まず、うちの会社の資産のうち、現金化しやすいものを抽出しておいて、取引に影響が出た場合、現金取引になるかもしれないから」


『了解です』


「それと、与信の悪化に対しては、特効薬は思いつかない。 博打みないな案件は避け、地道に仕事をこなし社の存続を図っていく。 誠実さこそ商売の鉄則だ。王道路線をまずは堅持だ」


『了解しました。 割が良い仕事を探しておきます』


―― 相変わらず優秀ですね。 まったくAIしか見方がいないのかよ。


『今回の火星への仕事の説明をします。今回の積み荷は、火星のサバエア大陸の都市国家群を中心に16の都市国家への配達になります。製品は、精密機器が中心です』


「精密機器ね。ウェヌス(金星)からの商品も精密機器だったよね」

「精密機器って具体的に何よ? 」


「まっ、コンバットスーツや武装人型トークンも精密機器といえば間違いではないような」

「戦争でもするのかよ」


「しかし、今回の仕事割がいいね。親父。なにかあるの? 」

「俺が再婚するのは知っているだろ?」


「言っていたよね。そんなこと」

「その再婚者が、取引先なんだ」


「へー、会社の社長でもやっているの? 」

「えらい公務員なんだ」


「……ほう。そうなると今回の積荷は会社ではなく、公共系? 」

マールス(火星)は、基本都市国家だからな――その感覚でいいかもな」


「都市国家相手なら安心して商売できそうだ。 最初からもめごとに巻き込まれるんじゃたまらいからね」


「さて、ハッピーカムカム号、出発する。 各員持ち場へ」

命令とともに各員持ち場につく。


「ステーション・ステーション。こちらヒルベルト商会・ハッピーカムカム号・艦コード送信・離脱許可を」

締まらん名前と感じつつもこれから付き合っていく名前になるため、受け入れるしかない。


テラ・スペースステーションから応答がある。

≪了解しました。ハッピーカムカム号の離脱を許可します≫


船体からロックアームが外れる音が聞こえる。無重力であってもゆっくり船が垂直から水平になっているのがわかる。


「行き先、マールス(火星)。 進路、マールス(火星)ポータル へ 」

タツマが指示を出す。


「了解。 マールス(火星)ポータル へ 進路設定」

操舵士(エリエフ)が、繰り返す。


『了解しました。 これより操舵支援を開始します』

セレン(シップマスター)が、反応する。


ハッピーカムカム号による、タツマ達の最初の航海が始まる。


***

ポータルとは、強大なワープ装置になる。


ワープを実現するためには、2つの工程が必要になる。


空間に穴を開けること。

そして穴の中の異空間を安全に進むことだ。


ワープを実現するデバイスとなるポータルには、ヘイローと呼ばれる巨大なリング状の構造物と近隣に多数のエネルギー発生機構を有している。


まず、ヘイローは、供給された莫大な電力に指向性を持たせ、リング中央の空間の一転集中させることで時空間に亀裂を入れる工程を担っている。


しかし、空間跳躍には、入口と出口が必要になる。そのためヘイローは複数必要になる。

入口のみの場合、異空間の袋小路に捉えられて、そのまま分解されてしまう。


ヘイローを用いて入口と出口にそれぞれ空間に亀裂を入れ、異空間トンネルを造るイメージになる。

これがワープ空間の出入り口となる。


そして、次に異空間を安全に進む方法として、艦はワープバブル(異空間不干渉空間)を発生させる必要がある。


ワープバブル(異空間不干渉空間)は、艦を保護するための処置であり、異空間からの干渉を排除することができるバリアーのような存在であり、船の周囲を既存の3次元空間に固定させる役割がある。


しかし、このワープバブル(異空間不干渉空間)発生には、莫大なエネルギーを必要とする。 故に惑星間貿易商船が巨大な理由がここにある。 船体の多くの部分が、電力発生機関になっている。


そして、このワープバブル(異空間不干渉空間)なしに異空間に突っ込むと一瞬でバラバラになる。


技術が未発達時代には、ワープ中にワープバブル(異空間不干渉空間)が破損し、異空間で多数の艦が消失した例が、発生していたようだ。


ワープを行うには、空間に亀裂を入れる技術、ワープバブル(異空間不干渉空間)の発生、加えて出口の構築方法を同時に実施するエネルギー確保、制御方法など数多くの技術が必要とされており、現在のところ艦単独で対応する技術が追いついていないのが現状である。

***


「※1 テラ・マールス・ポータルまで5日、そこからマールス(火星)まで10日か。 宙域の情報は? 」


テラ(地球)マールス(火星)間の海賊情報は、現在少な目といったところでしょうか? 宇宙嵐による障害もなさそうです。 太陽も非活性化時期であり、太陽風の影響もなし。 到って穏やかと言えるでしょう。 航行日数の猶予も十二分にあります』


「簡潔いえば視界良好。 波もなく? 」

『そうなります』


「前途が良さそうな船出だこと」


ポータルも惑星から遠方に位置している。

テラ(地球)近郊から気ままに空間跳躍とはいかず、それなりの遠方にある。


傷つけた空間“削孔空間”が閉じる際に“疑似ホワイトホール現象”と言いう、空間修復時の宇宙ジェットが発生するため、惑星に影響を及ぼさないようにするため、近隣での運用は厳禁になっている。


                       *


「まー、気長にいきましょう。最初はシップマスターの引っ越しした情報の整理からだね」

『了解しました。さっそくですが……』


テラ(地球)マールス(火星)・ポータルまでは、それなりの時間がかかる。

テラ(地球)を離れるハッピーカムカム号の航海が始まる。


※1 テラ・マールス・ポータル: 最初が入口、後が出口になる。そのためテラ(地球)・マールス(火星)ポータルは、テラ(地球)宙域にある、マールス(火星)に接続するポータルになる。


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