宙域パトロール艦
宇宙海賊を排撃できたものの、ラッキースター号は瀕死の状態で漆黒の宇宙を揺蕩中。今は支援信号を出し、他の海賊に見つからないようにひたすら息をひそめて漂っている。
船はボロボロ、装備も心もとない、おそらく小型船の海賊としか戦えない程まで状況は悪化している。
『社長。ラッキースター号の戦力ですが、
魚雷10発・ドローン戦闘機4機・外装の破損40%・高射砲の弾頭も38発・トークン20体です。これ以上の戦闘は不可能です』
「ボロボロだな」
親父が呟く。
戦闘後の後始末や海賊の拘束を一通り完了させ、戦闘時の緊張が切れると一気に疲れが押し寄せる。さすがにクルー全員疲れ切っている。
外装の修理はしたが、エンジン回りの重要部分だけだ。多少損傷率を回復はしているようだ。ある程度動けるようにしている。3隻も曳航しないといけないからね。
エンジニアと副社長も疲れ切った状態で、うわ言とも会話とも付かない状態で話している。
「今回はきつ過ぎるー。 ウェヌス(金星)の行きに2回、帰りに1回。 今年の悪運は使いきったな」
「3回連戦でなかったのが、せめてもの幸運だな。3回連戦なら無理だった」
タツマも呟く。
「命も商品も守れているのが奇跡だよ」
ちなみに、戦闘で用いた換装が散弾ミサイルのため、コンテナは傷付いているが、内部までの破壊には至っていない。これが22㎜砲になると怪しい。
さすが、副社長。 考えている。
もうすぐ、地球のパトロール艦の巡回エリアに入るがどうだろうか。信号は送信しているが、この広い宇宙受信してもらえるか? その前に海賊に出会ったら、本当に終わりだ。
―― 早くあの海賊どもをパトロール艦に引き渡したいな。 勘づいた海賊に合流されたら、ひとたまりもないよ。 それに護衛もして貰いたい。
全員が、お祈り状況に陥っている。
通信接続の電子音が鳴る。海賊か? パトロール艦か?
≪こちら※1 宇宙安全機関 所属、第3宇宙艦隊 宙域パトロール艦131。 貴艦の所属と名を回答せよ。 こちら……≫
『こちら、テラ(地球)所属、惑星間貿易商 ヒルベルト商会 ラッキースター号になります』
シップマスターが、直ぐに回答してくれる。
≪また、お前たちか……我々を要請した理由を聞こうか≫
相手は、よく聞いていた声だ。 とりあえず、助かったようだ。
タツマの親父が、マイクから応答する。
「海賊の一団に襲われ、返り討ちにした。犯罪者の引き渡し法による海賊の移送を頼む。 犯罪者のため、船に長く置くのは、治安上問題があると判断し、パトロール艦への要請をした」
パトロール艦との儀礼的問答が行われている。
≪相変わらずの口上だな。船がボロボロなので守ってくださいだろ? ダイゴ≫
「パトロール艦の護衛要請には金がかかるかなら。犯罪者の引き渡しは無料のはずだろ? 黒武者」
因みに”黒武者”が、彼のファミリーネームである。
親父との付き合いが長いようで、こうして名を呼び合えるような関係になっている。
そして、海賊を生け捕ったのもこのためである。
そして、親父からの法の穴をつくような提案も毎度のことである。
スピーカからは、呆れた声での応答がある。
≪まったく。 データを受領した。 また、ずいぶん大物を仕留めたな。 ウェヌスポータル付近を荒しまわっていたヤツか ≫
「お前の手柄にすればいいさ。 おっと戦利品は勘弁してくれよ」
≪ボロ船の戦利品だ。 そこまで落ちぶれちゃいないさ。 それに、お前のおかげで第3宇宙艦隊の検挙率は好成績だしな≫
その後、3隻の海賊船とラッキースター号から総勢100名程度の海賊がパトロール艦に引き渡足されることになる。
『社長。 パトロール艦の艦長の黒武者 様が、乗船許可を求めて来ています』
セレンからの連絡が入る。
「まったく。 許可するよ。 俺も出向える」
『了解です』
そう言って親父が、ブリッジから出ていく。接続ポイントに向かうのだろう。
パトロール艦の艦長が、ラッキースター号に乗船してきた様子がモニターに映る。
接続ポイントで親父と話している様子がモニターに映る。
おそらくブリッジまで来るのだろう。
*
--- 艦内廊下
ダイゴと黒武者が、話しながらブリッジに向かっている。
「船内での戦闘があったのか」
「船の装備を見ればわかるが、かなりギリギリだったからな。最後は白兵戦だ」
「あまり無茶をするなよ」
「海賊さんが見逃してくれればいんだがね」
ダイゴが、一拍おき黒武者に質問する。
「で、乗船した理由は? 」
「たまには、奴らの顔も見ておきたい。それにお前の自慢の息子にもな」
「普通の船員だぞ? 」
「倅に後を継がせるんだろ? それなりの情報は入っている 」
「……」
「まっ。 どうするかは、あんたの人生さ。 それに倅にこの会社を任せるのであれば、宇宙安全機関とのコネクションがあるのは、悪いことじゃない」
「まーな」
両名がブリッジに入ってい来る。
「よう! アリエフに鄭! 元気そうだな」
「どこがですが 」
「まったく。 海賊に襲われたあとだぞ! 」
言葉は悪いが、笑いがこぼれている。
安心感と顔見知りの援護故に緊張がほぐれているのだろう。
はた目から見ても彼らとも知り合いのようで、関係は良好に見える。
「セレンも元気そうだな」
『ボロボロの船体によく言えますねー。 まっ本体はエラーもなくですよ』
「……」
黒武者の視線が、タツマに向く。
「あんたがタツマさんか? 」
「ええ」
「親父さんには、世話になっている。 今までは声や画面越しだったが、今回の捕り物は、大物でな、折角だから乗り込んで見たって訳だ。 ここが無事でよかったよ」
黒武者も満足そうにブリッジを見回している。
その後2,3言葉を交わした後、黒武者が持参した犯罪者引き渡し書類が映し出されたタブレットに親父がサインしていく。
メールでもいいと思うが、思いのほかラッキースター号の装甲版もはがれていたので、艦長もこちらを気にしているのだろうか?
ブリッジからは壊れているが5隻の船が見える。
艦長と社長が話し込んで、両者が一頻り話したあと
「じゃあ、いくな。 俺たちの後ろについてこい。 船の速度は合わせてやる」
「了解だ。 何もだせなくてすまんな」
「おんぼろ船から、何かをもらうのは不憫でな」
と苦笑いをしている。
黒武者は、ラッキースター号からパトロール艦へ戻っていった。
「さて、お前ら海賊船内の財宝探しだ。トークンを引き連れて各船内をしっかり漁ってこい。使えそうな装備はこちらに運び込め!! 」
一先ず安全を確保できたことに感謝し、タツマ達は親父からの命令で海賊船のお宝探しに入る。
―― さらに一仕事。 戦利品で失った装備を元に戻せるぐらいのことは、したいものだが、さてさて金目の物は、出てくるかな?
ラッキースター号は、パトロール艦に護衛されながら、母港のテラに向かって航行していく。
--- テラ スペース・ステーション
テラ スペース・ステーション。
地球の軌道エレベータとセットの地球の宇宙港になる。 商船はここに停泊して、地球と宇宙の物流を行う重要ポイントになる。
「二代目。 次の荷役と行先とか知っています? 」
「こっちは、 通関業務書類と受け渡しの荷役リストの作成中なので、……社長……シップマスターで」
襲撃ばっかりで、戦闘やら後始末で書類の作成が全然終わっていない。
二代目といってもまだ、社長ではない。雑用である。
艦長は、シップマスターと呼ばれるAIになる。社長は持ち主の立場になる。
『次の予定はマールス(火星)への航路が設定されています。地球では、補給、積み込み作業、加えて鹵獲した、海賊船の売却・戦利品の処理業務があるため、しばらく……1ヵ月程度、テラ(地球)での待機になりますので、社長にはクルーへの休暇の申請をする予定です』
「さすがシップマスター・セレン様、全ての工程を把握して、従業員への福利厚生も分かっているじゃない」
『追加情報です。タツマ。船のエンジンの調子が不安定です。ドックで見てもらいますか? 』
「あれだけの襲撃を受ければ問題も発生するか。まぁ10年選手ってこともあるし。ガタもくるよね」
「がたがくるってレベルじゃねーだろ? よくスクラップにならないもんだ」
エンジニアが愚痴のように言ってくる。
「そろそろ新しい船が必要だと思いますよ。普通、宇宙空間で10年も使えばボロボロになるのが一般的です。まだ、これで稼働しているのであれば、物持ちが良いほうです」
「ラッキースター号の名前もだてではないな」
「空間跳躍を行うたびに、配線から火がでるのは問題だろ! 跳躍中にバラバラにならないか冷や冷やするこっちの身になってみろよ。
それに跳躍のたびに消火する俺と二代目の気持ちも考えろっていうんだ」
その通り! 心の中で合図値を打つタツマ。
跳躍前のドライブチェックを行っているため、鄭さんのいうような冷や冷や感との表現は大げさだと思うが、それでも出火頻度が高いのは事実だ。
船の新造要望は、数年前からの話題である。
昔の船は頑丈らしいとの精神論とそれを支持するようにドックに入っても問題なしの診断の回答がいつものことになる。
とはいえ、長い間、一緒に惑星やら宙域海賊団との戦闘を経験しているため一種の戦友感があり、文句は言うが、行動しないのが現実になる。
ブリッジの自動ドアが開く音が聞こえてきた。
私の父親――社長が入ってきた。顔は、見た目からわかるぐらい嬉しそうだ。
自分にとって吉報だといいと思うが――さて、何を発言する気だ?
***
私の父親は、宙域貿易商として仕事をしていたが、軍事関連の裏仕事を請け負い、見事成功し、その実績により惑星間貿易商の地位を得た人物である。
まぁ清廉潔白だけでは生き残れないのが宇宙の厳しいところ。
宙域貿易商とは、惑星圏内のコロニーや主惑星への運搬を行う運輸業者のことである。
ただし、他の惑星圏の侵入は、御法度になっている。
違法に侵入するものもいるが、見つかった場合、罰金刑や最悪、船の撃沈の恐れがある。
他の惑星間との取引は、DMZと呼ばれる宙域で積荷の積み直しが必要になる。
一方で、ランクが上の惑星間貿易商がある。これは文字通りウェヌス(金星)、テラ(地球)、マールス(火星)など惑星間と直接の取引ができる。
そのため他の惑星圏への出入りが自由である。惑星間貿易商は、惑星間の移動を中心とするため宇宙船も巨大となり兵器の搭載も 惑星間協定 で認められている。
もちろん惑星間貿易の手形の取得は難関である。
黎明期に投資した会社や自分の惑星に対して利益をもたらした会社に与えられることが多い。
会社としての権利であるため一度とると既得権益になりやすいが、惑星間協定に違反すると他の貿易商よりも厳しい ※2ペナルティ がかされる。
そのため、惑星間貿易商は、高い倫理と誠実性が求められるが、その恩恵として信頼度は、初対面であっても絶大である。
各惑星の法律からの独立性も保護されており、犯罪にからめば聴取はされるが、起訴されることは殆どない。故に惑星間協定に違反しなければ何をしてもいいともう輩もいるのも事実だ。
また文化文明の伝道師の観点から国家元首などのVIPとの面会が設けられることもある。
さしずめ、民間外交官との表現が適切であろう。
自分の父親ながらよくここまで会社を軌道に乗せたと思うし、その手腕はさすがだ。
***
「タツマ!!今日からお前が社長だ。俺は引退する」
「……えっ?……。まだ20歳だよ。こんな若造に惑星間貿易商の看板は重すぎるって」
「見習いふくめて10年以上この仕事に従事しているんだぞ。学があって、実績もある。問題ねーじゃねえか。能力がないわけないだろ?それともヒルベルト商会から独立するか? 」
この親父。また、無茶なことを言い出したぞ。
***
タツマは、現在20歳である。
学生生活は、学び屋ではなく宇宙船の中での遠隔授業が主なものであった。
そのため、集団での学校生活の経験はなく、同い年の旧友や学友がいない。
子供時代は勉強と貿易商の業務の雑用をこなしていた。
家業の手伝いの枠を超え、明らかに児童労働で、テラの国際労働基準法に抵触しているはずなのだがここまで来てしまった。
とはいえ、大人たちに交じって父の貿易業務を手伝いながら、他の惑星人との交流と持ち育ったため、知識と実践が両方身に付いた形になった。
結果として知識を経験とすることで習熟度が早く、通信制の学校ではあるが、16才にはハイスクール卒業の資格、19才で大学の法律の学位を得ている。
彼からすれば、講義内容は日常業務の内容を難しく言っているだけで、レポートも問題なく解決してきた。
最も惑星間貿易商であれば学位の一つでもないと要人への接触が難しくなるとの観点から業務上取得した感じである。
本当は歴史を専攻したかったようだが、業務に合わないとの理由で出資者の親父から却下された。教養と無料聴講で知的欲求を満たしていたようだが。
彼の周りの大人たちは、惑星間貿易商であって宇宙船のコントロールや惑星間の法律に関する知識に長けている。
そんな基礎能力が高い人間の中で育てば、仕事を通して英才教育まがいになったのも当然である。
コミュニケーション能力・語学・機械・電気工学・法律・商学・経営・他の惑星での政治・文化をいやでも経験する。
出来なければ宇宙では生きていけないし、貿易商は務まらない。もちろん彼の父親は英才教育ではなく業務の一員としての認識しかなかったようであるが。
***
「その学位と経験をもって他の会社に就職するか? まぁ大手の惑星間貿易商に入るのは簡単だが、やっている内容はここと変わりないだろうな。そして自由はなくなるだろうさ」
惑星間貿易商は、名前だけで垂涎の資格になる。 例えるなら、外交特権に近い。
しかも資格を得られる会社は、惑星として100前後。 就職したい者も多いが、宇宙海賊襲われる危険のある仕事でもあるため、給料は破格になる。
もし、転職して惑星間貿易商大手に就職したところで今と変わらない業務になることは、目に見えている。
そして独立した場合、宙域貿易商からのスタートとなる。
宙域貿易商の資格は取りやすいが、業者の乱立もあり粗暴者も多い業界だ。ここから悪事に手を染め、宇宙海賊になる人間もいるぐらいだ。 二つの意味でのレッドオーシャンとなる。
「親父は引退して何をするんだよ。暇だろ? 」
「今度なマールス(火星)への荷役があるんだが、そこでなお前に紹介したい人がいる」
「……、……宇宙船は調子悪いし、いきなり無茶な依頼いわれるは、そのあとにまさかだと思うけど」
「お前の新しい母さんについてだ。 ※3 マールス(火星)人だ」
「親父の人生だから何も言わないけど。騙されているんじゃないの? マールス(火星)人って結構顔立ちが整った人が多かったよね。 ※4 読心術が使えるのも多いと聞くし。
実際、テラ(地球)人が、結婚詐欺で引っかかる事例も多くなかったっけ? 」
「大丈夫だ。 彼女とは10年以上の付き合いになる。 ……おいおいそんな目で見るな。 不倫みたいなことは、してないさ」
「……ホントー? 」
この親父、年齢に関係なく、女性を口説いているからな。
「詳細は、向こうに着いてからだな」
「因みに急に引退だの、再婚だのなんで今日なん? 」
「この船はもうぼろぼろだろ? 俺もいつまでもこの船で貿易商できるとは思っていない。
造船所から新造艦の完成の報告が届いてな。 1ヵ月以内に引き渡せるとのことだ」
―― この親父! 黙って船を購入していただと!
じゃっかんのイラつきを抑えながらもタツマが会話を続ける。
「……新造艦と社長の座を一気に片づけるつもり? 」
「お前の察しの良さは、商人として重要だぞ。 いい二代目に成長したようだし、俺も安心して引退できそうだ」
「じゃぁ、社長命令で再雇用契約を提案する」
「断る! 職業選択の自由があるからな。 労働規約に基づき退職金はいただく。 無理に却下するか? 法律を修めたお前ならそんなことしないよな」
重力から自由なのに法律には縛られるのか。世知辛い。
「要件は伝えたぞ。ブリッジのみんな!!聞いた通りだ。次の航海からになるが、社長は俺の息子だ。今まで通り使い倒してくれて問題ない。
社長だからといって、踏ん反り返ったり、パワーハラスメントをするようであれば、いつでも報告してくれ。 直ぐに張り倒しに飛んでくる」
―― この人たちにパワーハラスメントなんてしたら、たちまち返り討ちだろう
「大丈夫ですよ。 二代目は、そんな人じゃないことは10年以上仕事している俺らが理解していますから。 それに例え弟子であっても新社長に対しても最低限の礼儀は尽くしますよ」
「……昇進のようで、貧乏くじにしか思えなんだけど」
タツマの心の嘆きが、声に出る。
それらを無視して親父が手を叩き、気持ちを仕事に切り替えていく。
「さぁ仕事の続きだ。ウェヌス(金星)からの製品を地球に降ろして、新造艦の受け取りだ。今回の製品は精密機械だから注意して運べよ」
アリエフさん達が直ちに仕事に戻っていく。
*
ラッキースター号は、そのご順調に航行を進める。 徐々に近づくテラ(地球)の大きさとそして我々の母港であるテラ(地球)スペースステーションが近づいて来る。
指定距離になりアリエフさんが、テラ(地球)スペースステーションに対して停泊許可を求める。
≪ステーション・ステーションこちらヒルベルト商会、登録番号を送信します。連合への中継基地へ進入許可をお願いします≫
≪登録番号……確認しました。長旅おつかれさまでした。寄港の許可がおりましたので進路310に向かってください≫
≪了解。これより向かいます≫
ドッキングベイに近づくと、ステーションからのトラクタービームにより自動航行運転に切り替わる。
トラクタービームは船の制御権ユニットに接続する機能である。 これを受け入れると一切の制御権の喪失を意味する。
海賊船でもこのトラクタービームを受け入れることで降伏を認めたことになり、それ以上の攻撃は行わないとの暗黙のルールが存在する。
我が商会の船(600m)は、惑星間用の船のため大型船(500m以上)に分類される。そのため、通常のベイとは離れた場所に誘導される。
操舵者が窓から中型・小型艦のドックを見ながら
「大型艦は少ないから、ベイの待ち時間がないのが特典だよなー」と呟く
中型・小型艦は、地域宙域艦が多いためどうしてもドックに空きがなくなる。そうなると、ドック外で待機になり、1日~7日間の待機が発生してしまう。
その間の乗組員はステーション内に移動して書類や休息をとるのだが、その費用も結構な金額になるようだ。
一方で先ほど述べたように惑星艦は大型艦になるためドックの空きが多い。 そのため多くの場合すぐに停泊できる。これも惑星間貿易商の特典になる。
ドックに停泊し、荷下ろしを実施する。といっても船のコンテナエリアを開放するだけである。
ベイのドックから荷受けドローンが発艦され、コンテナ番号を識別して特定ポイントに自動で運んでくれる。無重力とは便利なものだ。
副社長のバルティスが、ドローンが積み荷を仕分けし運び出す様子を見ながら社長のダイゴに話しかける。
「社長、今回もウェヌス(金星)からの荷役ですよね。テラ(地球)との交易が随分と多くなっているな」
「交易があることは良いことさ、経済は物の行き交いが基本だからな。 経済が良くなれば俺らの仕事も安泰ってことよ」
「まぁ、そうなるか」
ウェヌス(金星)は、先ごろといっても十年前ほどだが、北方大陸の大陸国家である“イシュタル帝国”に賢人帝とも呼ばれる現皇帝が即位した。
ヒルベルト商会の輸送履歴を確認すると、そのころからウェヌス(金星)との交易が、徐々に増加し始めている。 国を富ませる政策を打ち出し、見事に成功しているようだ。
「賢人帝ね――完全領土を達成して、先住民への迫害も多いと行くがどうなんだろうね」
タツマが呟く。
「政は理想論だけじゃ動かねーからな。 まぁ新天地開拓用の資材と金の流れがこうして俺達を潤してくれていると考えれば、それもやむなしだ。 それにそろそろ世代交代の時期とも聞いている。 また色々面白くなれば、こっちの商売も順調になるってもんよ」
親父の意見は、功利的である。
「……」
そんな話をしていると、シップマスター(セレン)から状況の報告が上がって来る。
『下船の許可がおりました。 各員準備をお願いします。 社長、積み荷、戦利品の処分、新造艦の受け入れがあるので各員に休暇をお願いします』
「了解だ。 今回は、新造艦の受け取りと、戦果の処理もあるから……2ヵ月の休暇だ。 メンテナンスは、新造艦で実施する。 よって補給はいらん。 シップマスターお前も引っ越しの準備をしておけよ」
『新造艦の工程を受領しました。 了解です。 過去データの破棄と維持に関してはどうしますか』
「とりあえず、纏めておいてくれ。 判断はまかせるが、不明なものは新造艦に全部移してから破棄しても問題ないだろう」
『了解です。 よい休暇を』
全員がブリッジを後にする。
―― 休暇だ、休暇。 久々にテラ(地球)の歴史書でも漁ってくるか。
ドキュメントの多くが場所を取るからとの理由でデータ化されている時代。
しかし、紙媒体の書籍も未だ健在であり、それらの書籍は嗜好品に近いモノである。
所有欲を満たす部類のものであるが、それでも需要はある。
全員が合理的に動かないのもまた人間。
タツマの唯一の道楽になる。
※1 宇宙安全機関: テラ(地球)国際統括連盟の一機関である。 統括連盟が所有している、数少ない物理部門であり、各国の政治の思惑に左右されながらも、何とか独立を維持している。
※2ペナルティ: 惑星間貿易商として資格停止・艦の没収・莫大な罰金 等々
※3 マールス人: 耳がとんがっており、テラ(地球)の物語に出てくるエルフにした特徴がある。目鼻立ちは整っており、テラ(地球)のショービジネス業界で人気である。しかし、その特徴故、悪事も多い。
※4 読心術: 人の心が読める能力。この世界のマールス(火星)人が持つ能力であり、人の心や揺らぎが読めるが、思考までは読めない。もちろん、能力差もある。 マールス(火星)人は、おおむね整った相貌を持っており、この読心術を合わせて詐欺事件を他の星で起こすことが多い。




