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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
1章 揺蕩星間
2/176

惑星間貿易商

「クッソ、敵が多すぎる!  さばききれない!」


発言の主は、タツマ・ヒルベルト。 惑星間貿易商ヒルベルト商会に努める2代目になる。


いわゆる会社経営者の息子である――と言えば聞こえはいいが、実態は同族経営の中小企業だ。


タツマは、コントロールコンソールに指先を叩きつけながら絶叫している。 普段は雑用ばかりのタツマだが、今この瞬間は、迫り来る死に直面していた。


ウェヌス(金星)からテラ(地球)へ向かう交易ルートの真っただ中。 彼らの母艦“ラッキースター号”は、宇宙海賊の猛襲に晒されていた。


「右舷に海賊の強襲舟艇、5隻迫る! 距離三〇〇〇、突入経路(アプローチ)に入ったぞ!  接舷される!」


副社長のバルティスの怒号が、ブリッジに響く。 彼もまた、タツマと同じくドローン戦闘機の遠隔操作に脳細胞を焼き切らんばかりに集中させていた。


宇宙海賊の戦力は、母艦(中型艦)1隻・小型戦艦2隻にそして群がる有人戦闘機(アタッカー)を相手している。


こちらの商船一隻には、厳しい状況だ。 加えてこの船の乗組員は全員で6名。 数的不利は火を見るより明らかだ。


バルティス(副社長)と鄭(エンジニア)、そしてタツマが、遠隔でドローン戦闘機を駆使して小型戦艦の排除を担当しているが、強襲舟艇まで手が回らない。


「鄭《エンジニア》! タツマ! 小型戦艦の足を止めはまだか!  舟艇《シャトル》に構う! 装甲の薄いスラスターを狙え!」

社長の怒号が飛んでくる。


タツマと鄭《エンジニア》は、モニターに群がる光点を睨みつけ、小型船排除に取り掛かっているが、戦果が思わしくない。


―― くっそー アタッカーの量が多すぎる!


敵アタッカーにドローン戦闘機の進路と妨害が発生しており、定期な攻撃が通らないでいる。


社長である親父は、高射砲と魚雷で海賊の母艦を攻撃している。 親父もここで小型艇が近接戦闘を行われれば正直もたないとの認識であり、早々に小型船を沈めることの重要性を認識している。


操舵士は、海賊の猛攻を回避しながら、船を操舵している。


向こうは多勢。そしてこちらは4名と本来であれば、この時点でラッキースター号は、白旗になるのだが、この船には秘蔵のスペシャリストがいる。


本船の砲撃・武装運用・運航やスペシャリストである ※1シップマスター・セレン。 


いわゆる船長であり、海賊のアタッカー(有人戦闘機) と 敵母艦 の排除と 我々の支援と幅広い担当になる。


セレン(シップマスター)の担当が多いって? AIだからこの程度してもらわないと困る。 


我が母船ラッキースター号は、このセレン(シップマスター)というAIが、その名の通り船を運営している。


親父曰く、特注のAIでスーパー高性能とのこと。 宇宙海賊のアタッカーは有人機だが、こちらのドローン戦闘機は無人機である。


その無人機15機をセレン(シップマスター)が操り、戦闘を均衡に持ち込んでいる。


有人機は臨機応変・即時対応が可能なためドックファイトに向いているが、パイロットの肉体が耐えられる加速、旋回速度運動に制約が発生する。


一方、無人機のドローン戦闘機は、肉体的限界がないが、遠隔操作であるためどうしても動きが緩慢になる。


そのため、ドックファイトには向かず、船など巨大な的への対応が主流となっている。 その差を埋めるのが、弊社のセレン(シップマスター)になる。


15機のドローンが、まるで一つの生き物のように完璧な連携《リンク》を見せ、海賊の有人機を次々と撃墜していくのだ。


有機的な機動で敵の背後を取り、20mmのガトリングでキャノピーを粉砕する。


当初、数的有利と思われた海賊機のアタッカーであるが、シップマスターの操るドローン戦闘機の機動力と連携により、敵も深刻な被害に陥っている。


想定外の被害に、海賊の通信網がパニックで乱れるのがノイズ混じりの電波から伝わってきた。圧倒的有利だったはずの海賊たちが、完全に浮足立っている。


ドローン戦闘機に次々に海賊側が落とされるため、徐々に攻撃圧力が弱まってきている。


しかし、逃げようにも、彼らの母艦への被害も甚大になっており、戦域内の選択肢が限られてきている。


こっちは、落とされても次の戦闘機を出すだけなので人的被害がなく、セレン(シップマスター)の働きにより、海賊のアタッカー排除 と 母艦 への攻撃は、優勢になっている。


と言いつつも、海賊の数が多すぎる――多勢に無勢の現実は変わらない。

こちらのドローン戦闘機も徐々に落とされていく。


「周囲の小型艦、両艦とも沈黙! 動力破壊を確認!」

タツマが声を上げ報告する。


鄭と2人がかりで、ようやく小型戦艦のエンジンを叩く。こっちは小型艦を止めるのに2人がかりだ。 セレン(シップマスター)からの現状の報告がはいる。


『戦果を報告します。


海賊の母艦航行停止を確認。

周囲の小型艦2隻 航行停止を確認。

海賊の航空戦力 無力化を確認。

総合評価海賊戦力被害甚大


被害を報告します。

ラッキースター号外壁損傷率50%超

ラッキースター号魚雷弾数残弾20

ラッキースター号ドローン戦闘機残機5

総合評価ラッキースター号戦力被害甚大

両軍ともに戦力被害甚大』


一瞬の静寂。だが、セレンの警告は終わらない。


『――警告。海賊の強襲舟艇1隻、右舷後方ハッチへの強制接舷に成功。 敵兵、侵入を開始します。 これより、船内白兵戦へと移行』


「セレン(シップマスター)! いつのもの準備だ! 」

高射砲の制御シートから立ち会がり、親父(社長)が首の筋を立てて怒鳴った。


『了解です。コンバットスーツ隊には、カービンとショットガンをジャガーノートには局地制圧兵装を準備します』


セレン(シップマスター)からの状況分析より白兵戦用にカービン銃とショットガンが準備される。


タツマ達は、制御コンソール席から立ち上がり、脇に置いてあるバイザーメットを被りブリッジから出撃することになる。


いつも通りの、ピンチな状況だ。


ブリッジのハッチが開き、全員がバイザーメット装備の状態で。部屋を飛び出す。 


壁の兵器庫(ウェポン・ラック)には、すでにセレンによって解錠された火器がずらりと並んでいる。


それらを手に取り火器装備を整える。


「まったく、艦隊で商船を襲うなんて反則だろ……!」

艦隊で襲ってくるとは。 それに3隻はかなり厳しい。


通常戦闘員にはコンバットスーツ、通信機器と強固なプレートで覆われているパワードスーツの戦闘バージョンになる。


我々の仕様は軍使用の高級品だ。 カービン銃のサイトにバイザー画面への同期や味方との連携など多くの作戦遂行アプリが付いている。


先頭に立つ副社長のバルティスが身に纏うのは、ジャガーノートと呼ばれる重装備型のコンバットスーツを装着している。 


ジャガーノートは弾幕に耐える仕様になっており、弾除けになることが目的だ。


両腕に盾を装備しており、ランドセルのウェポンラックは、ミサイル・カノン砲・バルカン砲等が装備可能だ。 状況によって換装ができる。


重量がかさむ為、機動性が落ち、的になりやすいが、局地制圧や防御陣地の突破の能力が高いことが特徴だ。


運用には、コンバットスーツの部隊で、敵を殲滅するコンビネーションが求められる。


『敵戦力が侵入しました。 戦力数104。船内の全ての武装人型トークンを出撃させます。 敵のマーカーをセット。 自軍のマーカーをセット 』


シップマスターの情報が、各員のバイザーメットに投影される。

船体の図面とそこに丸と三角の光点が映し出される。 ホームゲームでの最大の利点である。


社長の親父もコンバットスーツとショットガンを装備している。


人型トークンは、いわゆるロボットになる。 船内の雑用から戦闘までを担当してもらっている。 武装とついているのは、銃器を装備させた状態で出撃させているからだ。


うちの全人型トークンは、80体。数では負けている。しかし、攻撃を受けても人のように行動が著しく低下しないのが利点ではある。 欠点といえばプログラム通りの行動しかできないこと。


この欠点を克服するため、我が船のトークンは遠隔制御が可能である。制御をAIに任せることで、柔軟な対応ができるはず。つまりは、うちのAI(セレン)頼みだ。


副社長はジャガーノートで装備を整えている。操舵者は引き続きブリッジに残り操舵に専念。 エンジニアと私はコンバットスーツを装備している。


4人での迎撃となると人手不足が悔やまれる。幸いにも人型トークンがいることで、防衛線が構築できそうだ。


あとは、トークンでどこまで、敵戦力が削り切るかが、生存への分岐点になりそうだ。 ラッキースター号内の各員の士気も高い。


「海賊御一行様の到着だ! 派手に迎えてあげようじゃねえか!!」

ジャガーノートの巨体の中で、バルティスが獰猛に吠える。


「テンション上がるぜー」

鄭(エンジニア)が呼応する。


そして社長(親父)の檄が飛ぶ。

「セレン(シップマスター)。無力化した海賊船を拿捕しとけよ。テラ(地球)で売りさばく!! 」

『了解です』


続けざまに、

「よし野郎ども、ここからが正念場だ! こっちもボロボロだが、敵のケツにも火がついてる! この一戦が生死の分かれ道だ、ぬかるんじゃねえぞ!」


『社長。 海賊はこちらの誘導に従って向かってきています』

セレン(シップマスター)が、船内の隔壁を操作して、海賊を自分たちの有利な環境に誘い込んでいるようだ。


「これで3回目だよ。 襲撃が多すぎない。 それになんで、艦隊なんだよ」

タツマがつい弱音を吐いてしまう。


「俺たちの熱心なファンなんだろ? 罪な男たちだぜ、俺たちは!」

バルティスが、ノリノリで応じる。 むさい宇宙海賊に好かれても、命がいくつあっても足りない。


『隣接ブロックまで侵入してきました。 人型トークン、接敵。 交戦に入ります』


銃撃音が聞こえてくる。 激しい重低音と、隔壁を震わせる銃撃音が鼓膜を叩いた。

爆発音、銃撃音と気勢が交じり合って、隔壁越しにも激しい戦闘だと分かる。


よりにもよって商品倉庫で戦闘になる。 もちろん商品は、宇宙での運送を考えているため、頑丈なコンテナに入れられており、カービン銃ぐらいでは破壊できない。 が気持ちのいいものではない。


しばしの時間の経過の後、トークンが現状報告を伝えてくる。


『トークンの損耗率10%を超えました。敵戦力の損耗率30%を確認。我が方、優勢です』


「よし、頃合いだ!  ここで畳み掛けるぞ、気合い入れろ!!」


「了解!! 」

全員の声が重なる。


トークン部隊が、敵を押し始めている。

ここでジャガーノートによる強襲を畳みかけ、敵の交戦意志をへし折る好機だ。


「作戦はいつも通り、ジャガーノートを先頭に敵の陣形を崩壊させる。四散した敵を各個撃破しろ!! 開扉!! 」


社長(ダイゴ)の合図と共に隔壁が開き、ジャガーノートの制圧ミサイルが撃ち込まれる。

「突撃!! 」


その合図と共にバルティスのジャガーノートから放たれた局地制圧ミサイルが、入り組んだ倉庫エリアで炸裂する。


 爆発の衝撃そのものの威力ではなく、一定距離で炸裂して数千発のベアリング弾を周囲に放つ局地制圧仕様になっている。


容赦ない鉛の嵐が、海賊の先鋒を肉飛沫ごと消し飛ばす。 そして爆発音と煙に乗じてラッキースター号の強襲部隊(4名)が、スラスターにより鉄火場に飛び込むことになる。


上下左右のない世界での白兵戦。スラスターや姿勢制御に慣れていないと即死亡の特殊な戦闘空間になる。


惑星暦の時代だろうが、レーザーガン? ビームソード? そんなSFあるわけないでしょ。 鉛玉よ、鉛玉。7.62mm弾で生存の道を切り開く。


先制の小型ミサイルの使用により、海賊の戦線がさらに崩れていく。 活路が見いだせてきたか?


コンテナを盾にしながらの銃撃では、手榴弾や榴弾が飛び交う。 至るとこで爆発音が響き、銃撃の硝煙で周囲に靄がかかる。


銃弾でなくとも榴弾の破片で間接的にコンバットスーツにダメージが入る。

「クソッ」


局所エリアであるためタツマの装甲に跳弾が弾ける音が響く。 軍用スーツの装甲厚が勝っているとはいえ、冷や汗が背中を伝う。


コンバットスーツを着ているため敵らの発砲や跳弾を受けても、直ちに戦闘への支障はない。 しかし、受けすぎるとコンバットスーツ自体が破壊される。


勿論、スーツを装備せずに戦闘した場合は、即死確定の戦場になる。 死と隣りあわせの戦場。 生きた心地はしないが、生き残るにはこの場を切り抜ける必要がある。 


無重力空間での戦闘は嫌と言うほど潜り抜けているため、姿勢制御技術もこちらが上だ。 経験値を元にした自信だけが、判断の原動力になっている。


「敵の装甲はもろいぞ!! 一気にけりをつけろ!! 」

社長(ダイゴ)の気勢と共に戦場の銃撃戦は一層激しくなり、無線が怒涛の勢いで飛び交う。



≪バルティス! 制圧ロケットだ≫

≪了解だ。 範囲を転送する! 巻き込まれるなよ! ≫


バイザーメットに赤い予測円が展開され、直後、視界がフラッシュバンを焚かれたように白転した。激しい衝撃波がスーツを揺らす。


『敵残存数、さらに減少! 』

セレン(シップマスター)からの報告が入る。


≪タツマ! そっちはどうだ! ≫

親父の怒号。


≪こっちは精鋭だ! 完全に捕まった、援軍をくれ! ≫

タツマもかなり苦戦している。よりによって敵の精鋭部隊を引き当てたようだ。 タツマは背後の壁を蹴り、迫り来る海賊に対してカービンを連射しながら無線を飛ばす。


≪鄭(エンジニア)! いってやれ!≫

≪こっちも手一杯だ! 味方トークンが、薄すぎて手が回らん! ≫


≪了解だ! 俺が行く! バルティス。 マーカーを投影する。マーカーの位置を死守しろ! ≫

バイザーメットに親父の位置の光点が一層強く光る。 この位置を守れとのことなのだろう。


≪忙しいな! 了解だ! ≫


気勢を上げての白兵戦が続く。 被弾した海賊の悲鳴が無線に混じり、射殺された肉体から球体となって浮遊する鮮血が、バイザーメットに当たる。


トークンも破損し停止していく。セレン(シップマスター)からの現状報告が入ってくる。

『味方損耗率50% 敵損耗率70% いぜん交戦中』


≪いい加減降伏しろよ!!こっちがもたないぞ!!≫

無線から副社長の怒鳴り声が聞こえてくる。


『降伏勧告をやっていますが、聞く気がないようです。』


≪了解だ。弾薬を温存しての交戦だ。 敵の攻勢限界も近い。そのときまで気を抜くな!! ≫

親父が落ち着かせるように、言い聞かせてくる。 親父(ダイゴ)の声が、戦場の狂気を辛うじて繋ぎ止める。


敵戦力は押されており、時間の経過とともに敵からの圧力が弱くなって来る。

―― そろそろ潮か。


≪ 総攻撃を仕掛ける! 俺に続け! ≫


親父の合図と共にヒルベルト商会が、一斉に襲い掛かる。 より激しい銃撃戦が繰り広げられる。 無煙火薬であっても弾幕の多さにあたりに靄(もや)が掛かる。


前後左右に上下に繰り広げられる最終決戦。無重力ならではの戦闘になる。


コンバットスーツを着ているので音の伝わりを抑えられているが、生身で聞いていると聴覚障害を起こしそうな騒音のなか、敵の最後の攻撃が圧殺されていく。


『――敵残存戦力10名。……たった今、敵より全面降伏の信号を受信しました』

セレン(シップマスター)からの言葉が響く。


≪くっそ! 手間かけさせやがって……組織抵抗を無力化完了! ≫

親父(ダイゴ)の無線が入って来る。


≪了解! 全員無事か?  ≫

バルティスの生存確認。


≪もうダメだ……死ぬ~≫

鄭(エンジニア)さんが疲れ切った声が無線で届く。


≪もう勘弁して……≫

タツマも嘆き。


≪全員生きていて何よりだ≫

最後に社長(ダイゴ)からの音声が届く。


全員が一気に脱力していく。 と同時に残存トークンが疲れ知らずに海賊の拘束に入っている。

―― 仕事熱心なことで


                  *


戦闘後の船内の掃除はトークンに任せる。カチコミをされると常に後始末が大変になる。


事実戦闘後の清掃は生々しく憂鬱なものはない。内臓や体液が浮遊する空間を放置すれば、最悪の伝染病の温床になるため、どんなに疲れていても即座の清掃は必須だった。


生き残った海賊は、艦内の海賊10名程度を確保。 加えて母艦や小型艦の中に海賊の残党がのこっている程度である。 海賊船は航行不能な損傷を受けているため、曳航を開始する。


海賊艦は、それなりにダメージを負っているが、修理は可能であり、買い手はそれなりに探せそうだ。


戦利品を売りさばいてこれでラッキースター号の装備の補充や修理をせねば、この被害の対応ができない状況になる。


事実ラッキースター号は、その古さとあまりの襲撃率の多さに、保険会社からブラックリストに載せられ保険が結ばせてもらえない状況になっている。


船内の清掃が終わり、利用できるもの、出来ないものを選別する。 排出区画にそれらをまとめるが、その中には戦闘で倒れた海賊の死体もある。 宇宙は厳しい生存競争でなりたっている。


惑星間貿易商の船への攻撃はご法度になっているが、この広い宇宙、目の届かないところも多い。加えて撃沈され、見つからなければ放置が多い。


救難信号を受け取って近くの船が救助に向かうことも多いが、海賊の場合があるので厄介だ。騙し討ちなど日常茶飯事の状況だ。


各惑星で宇宙艦隊を保有はしているが、貿易商の船程度で動くことはない。


よほどのVIPが乗っているか、動かざるを得ないとき以外は動かない。

基本、自力で何とかするしかないのが現状である。


エアロックの開放時の警告音が船内に鳴り響くと、排出区画の様々なものが宇宙に放出される。

この瞬間は、例え相手が誰であっても何とも言えない気分になる。


戦闘時には、それなりの恐怖と襲われ理不尽な戦闘に対しての怒りがあるのだが、命が消えた者に対しては、それなりの畏敬念すら生まれて来る。


そのため、散っていった者への追悼を込め、放出時に胸の前で手を合わせる。


鄭(エンジニア)が怪訝そうに話しかける。


「二代目(タツマ)、またですか? 毎度、毎度、放出時のその対応――相手から突っ掛ってきて、俺達が放出される側になってもおかしくなかったんですよ?」


「まぁね。 でもさ――死体に対してまで敵意を向ける必要もないし。 最後ぐらい敬意を払ってもいいだろ? 」


「まったく。 命をやりあった相手に対して甘すぎるんじゃないですかね? 」

「かもね――でも。 死人に罪はないだろ? 」


「死ねば全てが許されるとか。 勘弁してくださいよ。変な宗教じゃあるまいし 」

「そこまでは思ってはいないさ。 この行為だって、ただの自己満足だよ」


鄭(エンジニア)が呆れたように言う。


「外道ばかりの相手に礼儀とは――奴らが死んでもラッキースター号の被害は変わらないんですよ? 魚雷の99%の損失。ドローン戦闘機26機の損失。外装甲の損傷50%。


今、海賊に襲われたら、すぐに白旗です。 礼儀もないとおもいますけどね。 加えて、艦内は傷だらけ。まったく、また修理の日々ですよ。 二代目(タツマ)も手伝ってくださいよ! 」


それなりにおかんむりであるが、鄭(エンジニア)さんの気持ちも納得できる。


副社長(バルティス)も口を開く。

「外道ばかりでしょうが、死人への最低限の礼は必要か……」

黙とうを捧げている。


鄭(エンジニア)さんもやれやれといった感じのようだ。


常に宇宙のどこかで、海賊と商船との攻防が繰り広げられている世界。 ヒルベル商会は、今日も泥臭く、逞しく、明日の飯のために船を動かし続ける。



※1:シップマスター:船長

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