暗雲
--- プロメンテ庁舎一室
執務室内でヒューリは、寛いでいる。
彼のデスクには、マールス(火星)製のトークンが座っており、多くの書類にサインを記している。
ドアがノックされる。
「リーラインです」
ドア向こうから声が聞こえてくる。
「入れ。開いているぞ」
こんな状況は、第三者に見られと問題だが彼になら問題がない。
「失礼します……閣下また手を抜いておられますね」
書類にサインをしているトークンを見て、リーラインはおもわず苦笑する。
「ふん。 手を抜いている訳ではない。 こんなもの誰が書いても一緒だ。 ならばそれに適した者を宛がうのが合理的と言うものだ」
悪びれる様子もなく返答するヒューリ。
「ところで、閣下あまり良い情報ではないのですが……」
秘書官が打って変わって表情を曇らせ、報告する。
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「俺の支持率が下がっている? 気にするな。こんな指標は一時的な住民の気まぐれだ。それに奴らに政治が分かる訳ないだろう? 」
「それが、6ヵ月連続の下落です。すでに危険領域に入って3ヵ月になります。 問題は対抗馬になってきているのが ネス氏でありまして……」
支持率が危険領域に入ったまま6ヵ月以上政権が維持できた執政官はいない。
リコールが発動するためだ。
支持率が危険領域にはいると3ヵ月~4カ月を目安にリコール発動される場合が、ほとんどである。
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マールス(火星)の地方都市国家の政治体制の多くは、※1準直接民主政体を取っている。
3~5人の執政官を選挙で選出する寡頭政治体制であるが、住民が議員となって政策を進めていく制度になる。
そのため議員がおらず、行政コストの圧縮が可能となっている。
しかし、寡頭政治は、独裁により社会が混乱しやすい。
そのため、政治監視のため住民には、執政官の強制排除である ※2リコール という強力な権限が与えられている。
もちろん大きな都市国家では、護民官(議員)がいるところもある。
例としては、トリュフィナ氏はエリスの護民官として議員の立場になる。
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「ネス? 誰だ。 そいつ?」
「商社プロメンテの社長になります。荒れたプロメンテの耕作地を甦らせ、また閉山寸前シメリア鉱山でオガネソンの鉱床を発見したことで、住民や労働者など多くの人から支持を受けているようです。 その手腕と労働者への待遇を改善の実績から、農耕地域を中止に次期執政官へとの後押しがあるようです」
「たかが、中小企業の社長風情でか? 」
「しかし、会社の潜在的成長は、惑星随一との調査もあります」
ここでいったんヒューリが考えこんだ後、口を開く。
「……潰れかけの耕作地……そんな案件があったな」
リーラインの不安が的中した形になる。
「確か例の法律は、まだ有効だったな」
「はい」
「そうであれば、そいつの地盤をまた取り上げる。 準備をしてくれ」
ヒューリは、権力を使うことに躊躇がない。 しかし、ここでリーラインが反論する。
「閣下。それが少しまずいことになりまして」
「まずいこと?」
「はい。 ヒルベルト商会なる惑星間貿易商が、プロメンテ社の持ち主になっておりまして。 惑星間貿易商の持ち物に手を付けるとなると、かなり大ごとになります」
「クッソ。 面倒くさいやつが入ってきたのか 」
「惑星間貿易商は各惑星の準代表者的な位置づけでして、取り上げる場合は、※3 惑星間裁判所への申し立てが必要になります。
裁判所は、マールス(火星)にもありますが、不公平な裁判を行った場合、マールス(火星)に対する悪影響もあるので、法律自体の正当性を各惑星の陪審員に証明しないといけなくなり、横暴なことは控える必要があります」
「まぁいい。 そんな老いぼれいずれいなくなる」
イライラしながらもまずはそう吐き捨てるオーレであるが、焦りは隠せていない。
秘書官は、一通りの報告を終えると執務室を後にした。
ヒューリが気づいているかは知らないが、秘書官はタニアが、彼につけた鈴である。
自分のオフィスに戻りながら、彼は思案する。
恐らく奴は、力ずくで対応するだろう。
なぜなら、以前、無理な法案で強引に土地の収奪を行い、それが成功したからだ。
一度経験した成功体験は抜けないもの。おそらく奴は、自分の権力に酔っているはず。
しかし、それはタニアが与えたもの。作戦も議員の口封じも同様だ。
自分の力量では、とうてい達しえないほどの成功体験を得てしまっている。
今回は、惑星間裁判所があるため、通常の方法では無理だろう。 ならばどうするか。
奴は短絡的な思考しかできない。口は上手いがそれだけだ。となると……。
「内戦だな」
おもわず、口から洩れる。
奴は恐らく、プロメンテ軍を農村部に派兵する。理由はなんとでも作るだろう。
恐らくプロメンテ社を悪としての派兵。 理由は前回と近いものになるだろう。
さて、この派兵。 タニアとして乗るか、降りるか……。
彼の判断は決まったようだ。自身のオフィスへの足取りが早くなる。
--- 商社プロメンテ社 オフィス
サナエさんがプロメンテを旅立ってそれなりの日数が経過している。
彼女は、親父からの案件のため、現在ハッピーカムカム号に滞在中とのこと。
商社プロメンテ従業員は、すでに500名を超えている。
そのため、彼女が旅立ってから、コンテナハウスやプレハブ等お仮設の事務所を整備している。
ネス邸を急造で広くしている。
見た目は不格好だが、ようやくオフィスらしい部屋も増えてきた。
親父からセレンから資金繰りのおおよその工程が出てきた。
未公開株による都市国家への販売か。まぁ仕方ない。
シメリアの狸には啖呵きってみたが、ここまで金が不足するとは思わなかった。
鉄道の設計も完了して施工可能なエリアから随時実施している。
穀物も悪路であるが、カーゴ車両を用いてヘスベリア(港町)への出荷、テッサリア(キンメリア大陸の筆頭都市国家)の大規模消費地には鉄道を用いての出荷している。
シメリア鉱山は、今のところ鉄鋼石の産出で糊口をしのいでいる。
こればかりは、金がないと先に進まない。
色々問題はあるが、ようやく上手く回ってきた。
マールス(火星)に着星して1年(地球時間2年)でビジネスができる形になってきた。
サナエさんが出発する際に事業が忙しくなるからとアルプを支援用としておいて行ってくれたのが助かっている。
それと同時にプロメンテから出発する前に、私のDNAを採取したいと口や鼻腔にキットと入れられた。
―― 何だったんだ。 あれ?
ともあれもうすぐ、冬季に入る。
この辺りは雪が少ないので、冬季でも工事ができるので助かる。
シメリア(鉱山都市国家)側に向かうと、雪や地面の凍結が発生するため冬季工事が不能になる。
今度は、鉄道敷設の現場に入ることになりそうだ。
さてと農耕器具から建設重機に乗り換えて、会社が軌道に乗るまで一作業員で頑張るしかない。
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--- 冬季の入口のある日
鉄道敷設の工事として、引き続き重機を動かしている。本日も冷え冷えの日が続く。
耕作地といい、鉄道といい、重機運用を任されられることが多いタツマ。
宇宙船に乗っていたことが理由らしいが、地上の重機扱えるかは別の内容になるはず。
しかし、当の本人は活き活きと労働しており、そのまま工程が進んでいく。
そんな作業中に一報が入る。
「タツマさん大変です! 直ぐに本社に! 」
ビャーネ(ネス社長)さんからの“大変です”は、あまりいいことがない。
たまにはいいことであって欲しいなと思いながら、重機作業を中断して、本社に向かうことになる。
今度は何でしょうかね。シメリア(鉱山都市国家)からの恫喝か?
それともヘスベリア(港町)に海賊でも現れたとか?
本社入口でアルプと合流し、ビャーネ氏の執務室に向かう。
「タツマさん。プロメンテのヒューリから」
「ヒューリ……? ああ、あの収奪法案の奴か。 で今度は一体何用ですか? 」
ビャーネさんが手紙を寄越してくるので受け取り読み込んでいく。
<(略
商社プロメンテの繫栄は、目を見張るものがあり我が国の誇りでもある。
そんな会社の経営に我々の優れた知識を貸し与え、ますますの発展を考えている。
近日中に場を設けて、今後の商社プロメンテの発展に関して大いに談論風発をしようではないか。
(略>
手紙を読み上げ終わると、アルプが質問をしてくる。
『タツマ。 このメッセージの意図はなんでしょうか? 不明瞭です』
「うーん。 “経営にかかわらせろ”って読めるけど。 現在の奴の状況ってどんな感じ? 」
『非常に良くない状況です。 ビャーネ氏への最近の取材によりプロメンテの国民の次期執政官への要望が増加しています。
結果として、彼の無能ぶりがより際立つようになっております。コールガールを交えての大騒ぎ、住民への侮蔑的発言、加えて本業での無策ぶりなどがあります。
他の執政官たちも黙認しており、プロメンテ市民からの執政官達への反発が強まっています。 現在の彼の支持率は、危険水域に入って3ヵ月目にあり、リコールに手が掛かっている状態です。6ヵ月を越えた執政官は今のところ居ません』
「会社を一緒に経営して、有権者の信頼なんて回復するの? 」
『執政官の候補と共に会社を運営していくことで、住民からの不満は抑えるパフォーマンスでしょうか? 』
「パフォーマンスねぇー」
タツマはあまり納得していない様子である。
ビャーネ氏がおもむろに語らいだす。
「いや、そうではないと思います。奴の政策の被害者としては、恐らく会社の共同経営とかの意味では、“ない”と思います」
「というと? 」
「奴の思考回路は、単純です。力ずくで奪うことを主眼に置いています。恐らく、潜在的政敵となった私を完膚なきまで破滅させる算段だと思います。この会談は、そのための布石と考えるべきです」
「布石ねー。 まだ立候補もしていない人間にそこまでする?」
ビャーネさんはタツマの発言に回答することなく、話を続けていく。
「我々に全てを差し出せ。さもなくば……」
「力づくで? ……治安隊を送り込んで来るとか? 」
「いえ、それ以上かもしれません」
「軍隊でも送りこんでくるとか――まさかーそこまでの強硬手段をとる? ただの中小企業相手に内戦まがいのことをする? 」
「商社プロメンテは、ヒルベルト商会。 つまりは、惑星間貿易商の配下です。 治安隊クラスで暴れたとしても、惑星間裁判所で正統性を勝ち取るのは、難しい。 やつもその程度は分かっているはずです。 となれば、それよりもレベルを上げた対策になる」
「レベルを上げるって……」
「内戦を引き起こし、都市国家の治安を悪化させた理由で奪うのが最も確実です」
「冗談でも笑えなんだけど」
タツマが少し引くことになるが、ビャーネさんはいたって真剣な様子で持論を続けていく。
「私は政敵になった覚えも、なるつもりもありませんが、彼の中で政敵認定されているのであれば、恐らく潰しにくる。 しかも民間人であれば、力で財産の没収という形が最も早く決着がつく――といったところだと思います」
「……」
タツマは沈黙する。
「内戦下では惑星間法律の適用は厳しいですし、プロメンテ社が政府に歯向かったとなれば、例えどんな理由であれ、惑星間裁判所にも筋が通ります。
耕作地がダメになっても、主力は鉱山ですから、恐らくこの地を戦場にしても彼にとってはどうとも思わないはずです」
――どうやら、とことんまで腐っている人物のようだ。 ヘスベリア(港街)の爺さんが言っていた事柄からの想定でもっともヤバい方向になりそうだ。 こんな奴を説得できるのか?
「もしタツマさんは、説得を考えているようであれば、それは無理というものです。 それが出来れば、収奪法案のような悪辣な法は施行されませんよ」
「……」
――見抜かれているか。
現実から目を背けても仕方がない。可能性が高い以上、対抗策を考えるしかない。
ヘスベリア(港街)の爺さんからの警告をもとに、暫定的であるがビャーネ邸、中庭のカーゴ内で準備はしてきた。
派兵となれば議事案件だし。今日明日とは出兵はできない……と思いたい。
おそらく3ヵ月ぐらい先だろうか?
取り敢えず、刈り取りが終わった冬で良かったのかもしれない。
重苦しい中でタツマからビャーネさんに質問をする。
「まずは何を? 」
「プロメンテとの会談だと思います」
「なるほど――出来るだけ伸ばして下さい。 その間に対策を考えます」
「分かりました」
ビャーネさんは、ほぼ腹が決まっているようだ。
―― 地域住民への対応とかも……そっちは、ビャーネさんに考えて貰おう。
ここでの唯一の救いは、サナエさんがいないことだろう。
彼女を巻き込ませないだけ、タツマの気持ちは多少軽い。
とは言いつつ、商社プロメンテを出る足取りは重い。
「あー どうしよー」
今のタツマには、嘆きがプロメンテの冬の青空に響き渡る。
もし、本当に戦闘となれば、周辺への被害は確実であり、ここの来た時の惨状が再びになる。
ビャーネさんには、出来るだけ時間を伸ばして欲しいといったが、それは相手がいること。
無限には伸ばせない。
「アルプ」
『何でしょうか? 』
「敵兵力の予測は? 」
『私に戦力分析・作戦立案・戦闘経験はありませんので、何とも。公開されている情報のみの提示が可能です』
「了解。とりあえず、スマイル号に向かうか」
*
かなり重たい話なので、スマイル号のカーゴから衛星通信でセレン(シップマスター)を呼び出す。
「セレン」
『……』
「……? セレン」
『……』
返答がない。
「……」
タツマは。衛星回線をサナエさんに繋げる
**** 通信中 ****
≪サナエさんいる? ≫
≪いるわよ。どうしたの? ≫
≪セレンが動かないんだけど? ≫
≪いま修理中。 稼働にはしばらく待ってー。 ほら会長の要望の件で今改修中よ≫
ヤバいどころの話じゃない。
≪――冗談だよね≫
≪動かないのが証拠よ≫
≪すぐに直して欲しいのだけど≫
≪無理ね。1ヵ月は必要よ。どうしたの? ≫
タツマが取り乱し始めている。
≪いいから、直ぐに! ≫
≪無理なものは無理 ! なんなの! ≫
口論にアルプが割って入る。
『マスター。 アルプです。 かなり厳しい状況が予想されています。 時間は多少あると予測されますが、プロメンテ軍の派兵が考えられます』
≪はぁぁぁー? プロメンテ軍って内戦でも始める気? ≫
『そうです。直ぐにではないでしょうが、恐らく起きるだろうとの見立てです』
≪いつ頃? ≫
『恐らくは、3ヵ月以内との見立てです 』
アルプがいて助かった。感情的になりすぎた。ピンチの時こそ冷静に判断せねば。
≪サナエさん。すまなかった。少し取り乱した。 とにかく早めに修理して欲しい。 戦力分析と作戦立案を早急に実施したいんだ。 恐らくセレンも戦闘に加わってもいらいたい。 トークンの制御で参加して欲しんだ≫
≪わかったわ。 やれるだけやるわ ≫
≪すまない。 頼む≫
**** 通信中終了 ****
『タツマが、取り乱すとは。 珍しいですね』
内戦が始まるかもしれない、加えてに渦中だぞ。冷静でいられる方が難しいだろ。
いないものに頼ってはいても仕方ない。こちらで作戦の立案をするしかない。
切り替えていく。
時間は多少ある。まぁ落ち着け、落ち着くんだ。自分に言い聞かせる。
「アルプ。敵の既存戦力はわかるか? その――公の情報だけで構わない」
『公開情報では、兵員8,000人となっていますが、正規兵は、4,000~5,000ですね。残りは予備役で賄っているようです。詳細まで調べ切れていませんが、プロメンテの戦歴は、サバエアのトロイ上陸作戦時に参加しているとの記録があります』
ナーミャンが勝利したやつか。
『プロメンテ軍は、確かに軍隊ではありますが、活動は主にシメリアやシメリアの災害救助がメインで、周辺諸国から頼りにされている部隊のようです。 災害が起きたらまず、プロメンテに要請が来るようです』
「へーでもこの辺りは、それほど災害も起き無さそうだけど? 」
『元来、穀倉地帯ということもあり、それなりに国庫が豊であったこと。近隣との関係は非常に良好であるとのこと。
軍隊を持っていても安全保障よりも災害救助に傾倒し、他の国家が手に負えない災害時の支援を中心にキンメリア大陸南部地域一帯は、プロメンテの軍に全幅の信頼を置いているようです』
どうやら平和の軍隊らしい。だが、“やる”のであれば“やる”しかない。
「兵器は?」
『回転翼機・航空機・歩兵戦闘車・戦車・野戦砲、などなどです。公表されている数字ですので、数はおおよそと見ておいてください。周辺情報もお送りします』
アルプからデータが送られてくる。
プロメンテの農業地帯の周辺の地図を確認する。
プロメンテの農業地帯に進行するには、北の森を通り抜けるルートと北東の大平原ルートになる。
幸運にも河川によりシティ地区と農村部が分断されていてよかった。プロメンテの農耕地を支える重要な水源が地上部隊の侵攻障害にもなる。
迎撃するなら樹林地帯での奇襲しかないが……。
セレンの助言が得られないが、こちらで可能な限り作戦素案を作成する。
といっても相談相手も欲しい。誰に相談するか――。
「トロイ上陸作戦指揮官は、ナーミャン(少将)だったよね。彼女に相談だな」
--- フォボスとの通信
映像パネルにナーミャンの顔が映る。
**** 通信開始****
≪貴様からの連絡とは。 久々だな≫
相変わらずの仏頂面ですね。
≪そうですね。久々なのに相変わらず素っ気ないですね≫
≪……どうした、いつもの軽口がないぞ ≫
画面越しでも、こちらの雰囲気が伝わっているようだ。
≪かなりの大きな問題に直面していて、その相談です ≫
≪大きな問題――金か? あまり多額の金額は工面できないぞ? ≫
≪内戦です≫
仏頂面が、急に険しい顔になる。
≪……あまり笑えない冗談と言いたいが、その様子だと事実のようだな。何があった ≫
≪プロメンテの執政官ヒューリが、軍を用いてプロメンテの農耕地域に侵攻してくる可能性があります≫
≪おなじ国内だろ? ありえないだろ? ≫
そう。ふつうならあり得ない。
≪それが、あり得そうなので相談です≫
≪あの収奪法案の主犯格か≫
≪タニアが主犯格ですよ。証言しかありせんが ≫
その言葉に彼女の僅かに顔が歪むが、長距離通信故のノイズかそれとも彼女の心情なのか、までは不明である。
≪……で相談とは? ≫
≪トロイ上陸作戦時の状況を教えてください≫
≪どうしてそれを――ああ、プロパガンダとして公表されていたな。 聞いてどうする≫
≪当時のプロメンテもテッサリア側に立って1個中隊を現地に派遣していました。 恐らく当時の参戦者が、侵攻軍の指揮官になる可能性があります。 少将がどのように勝ったのか、相手がどう負けたのかを知りたいです≫
≪お前、迎え撃つ気か! ≫
≪ええ。 やる気ですよ≫
≪いくら何でも正規軍相手では、分が悪すぎるぞ。 それにお前自身、軍を持っていないだろう! ≫
≪それは、少将からの報告を聞いて判断します≫
一端の沈黙がおりるが、目の前のナーミャンが口を開きだす。
≪まったく――まず海軍と連携しての艦砲射撃で海岸に橋頭保を築いた後、 陸戦隊での上陸作戦だ。抵抗はそこまで強力でなかったが、陣地深く切り込んだところで、接敵。分厚い防御陣に阻まれた。当時トロイ島はテッサリア管轄。
持久戦に持ち込んで、こちらの物資不足を狙ったのだろう。
事実、兵站は確かにテッサリアが優勢だったからな。
我々としても連戦続きで兵站も厳しいものがあった。が運よく海上の封鎖の穴を着いてその時は、ある程度の物資が調達できていた。そこで部隊を3つに分けた≫
≪航空支援は? ≫
≪当時、奴らには、アイギスシステムという防空システムをもっていてな。これが強力でエリスからの航空支援はまず望めない状況だった≫
タツマは黙って聞いている。
≪加えて、それにエリス近隣での航空戦があったので、それどころではなかったのでな≫
≪当時は押されていたんですか? ≫
≪エリス近郊に敵航空機が飛んでいたぐらいの窮地だ。なので、小さな島の上陸作戦は見向きもされなかった≫
≪テッサリアもエリスの陥落に力を向けていたので、結果としてトロイ島は両者とも地上戦になったわけだ。 話がそれたな。 部隊を3つに分けて、1日中の攻撃を仕掛ける物量戦の実施だ。
目的は奴らに寝る暇を与えないこと。 敵さんもしばらくしてこちらの意図に気づいたらしいがね。 テッサリア軍も遅れて対応するようになったが、先手必勝。 我々の手数に分があった。ここで戦場の主導権がこちら側に移ったわけだ。
奴らもフラストレーションがたまり、奴らを防御陣から引きづり出すことに成功。三軍に分割していた中央をおとりにして包囲戦を実施した。
一日中銃弾が聞こえる環境下では、健康状態も判断も悪化するだろう。結果、中央分隊の誘導につられておびき出し、3,000名の包囲が成功したわけだ ≫
すげーな。本物の英雄だね。
≪トロイ島はなぜ攻略対象に?≫
≪アイギスシステムの奪取と破壊だ。それとキンメリアへの物資の中継基地が欲しかった。逆にキンメリアはこの島の喪失によりサバエア領内のテッサリア部隊の孤立が確定した。
島の奪取後、戦局はこちらに傾き、トロイ島を橋頭保にしてティレナ地域のテッサリア司令部を叩いて、イーブンとなり停戦となったわけだ……。どうだ、作戦は思いついたか? ≫
再びの沈黙。タツマが考え込み、顔を上げ回答する。
≪取り敢えず、当時の戦況は分かりました≫
≪……そうか。 私が意見する立場でないが、逃げた方がいいんじゃないか? ≫
≪そこは、私が助けてやるじゃないんですか? ≫
≪助けてやりたいさ。しかし、お前との関係のみで軍を動かすことはできんのだ。 そもそもが国民のための力。 故に、民意で選ばれたものが動かす。 この原則を曲げるわけにはいかない。 すまないな≫
ナーミャンらしい回答だ。思わず苦笑いがでる。
≪でしょうね。 何とかしますよ。 それじゃ≫
**** 通信終了****
『何か閃いたのですか?』
「まずは、状況が判ることが重要だ。 後は、どれだけの数の兵が出てくるかだな。 いくら議場を牛耳っているといっても今回の出兵は道理が合わない。……報道戦略も練っておくか」
とにかく出兵数の減らす策を練らないと。
現状は、ビャーネさんの予想でしかない為、まだ制約も掛かっていない。
「アルプ。追加で親父にこれらを頼んでおいて、ツケで」
『了解しました……武器ではないようですが?』
「そう。武器ではないが必要なんだ。お願い」
『了解しました』
さてと、ビャーネさんには、ヒューリとの会談の対応以外にも周囲の人への内戦への準備を知らせるように促さないとな。
子供や女性・戦えないものは、ヘスベリア(港町)とシメリア(鉱山)に疎開してもらう可能性がある。局地的な戦闘で終わればいいけど。
タツマのおぼろげながらのイメージにより、状態が動き出す。
※1 準直接民主政体:マールスの都市国家が採用している政体。
都市国家ゆえ少数の為政者による寡頭政治を採用している。議員はおらず政策採決は住民全員が議員の立場として、政策の可否を行使する政治システムになる。 為政者自身の政策責任を明確にするため、少数の為政者による政治体制である寡頭政治を採用している。執政官の任期は設けず、リコールで対応するのが、特徴である。 長期間の制度作りを途中でひっくり返して、混乱する場面も多いための処置になる。また、寡頭政治で多く存在する独裁的政治になった場合、リコール制度により直ちにやめされることができる仕組みになっている。
※2 リコール:全ての投票は、ブロックチェーンに基づいた分散ネットワークによる投票制度である。そのため、市民全員が議員の役割になる。 為政者自身の責任を明確にさせるため、少数の為政者による政治体制をとっている。 定期的に信任決議や法律の可否についての投票を市民が持っている端末から行うことになる。 リコールに関しては、この不信任投票が一定数を越えるとクビなる仕組みなる。
市民全員が議員であるため、投票により得られる“仮想ポイント”が、都市国家の運営に関わっている証拠となる。このポイントが少ないと、自国への責任放棄と他者に責任を負わせたとし、対価として住民税の増額ペナルティが発生する。
※3 惑星間裁判所:惑星間のもめ事を対応する組織。 マールス(火星)・ウェヌス(金星)・テラ(地球)の各惑星3名の計9名が、惑星間協定に基づいて判決を下す。 惑星間貿易商は、準外交官特権のため、惑星間貿易商が問題を起こしたとき、または起こされたときは、ここに駆け込むことになる。




