腐敗と再生
--- プロメンテ・シティ地区・執政官庁舎
プロメンテ・シティ地区の一等地に執政官の建物がある。 それなりに厳か、かつ豪華に作られている。
ここの主の一人であるのが、ヒューリ・オーレになる。
改革派との触れ込みでプロメンテの執政官に当選している。
プロメンテの政治は三頭政治である。 しかし、彼に異を唱える執政官はいない。 土地収奪法案があっさりと議会を通過したのもこのためだ。
ぽっと出の執政官に歯向かえない理由。 各執政官が弱みを握られているとのまことしやかな噂が流れている。
事実、タニアの後ろ盾を得て、盗聴・盗撮・暴力・買収その他もろもろで、各執政官の不正やスキャンダルを押さえており、議場も機能していない状況だ。
彼の仕事ぶりは、客観的に見れば何もしていない。 しかし、行政を行っている風を装うことには長けているようだ。
口先だけで対応している政治家そのものであり、住民も彼を信頼しているようだ。
おそらくその雰囲気を信用しているのだろう。
一人の男性が執務室をノックする。
「誰だ~プライベートタイムだぞ」
ヒューリが応じる。
「リーラインです」
「入ってくれ」
男性が、執務室に入っていく。
執政官は、キレイ目のコールガール達と一緒に酒を飲んでいる。
久々に上等な酒が手に入ったと上機嫌だ。
その光景を見ながら半ば呆れつつもいつものビジネススタイルを崩さない。
「ヒューリ閣下」
「おう。どうした? 」
「プロメンテ農業地区にてヒルベルト商会なる商社が、広大な棄て地を買い集めているようです」
「あー? で、それがどうした?」
「いえ……よろしいのでしょうか? あそこは確か……」
「ハッ! 好きにさせとけ」
ヒューリは、酒を一口あおる。
「あんな干上がったド田舎の土地、もう用済みだ。 農民どもがいくら足掻いたところで、タニア様から食料を買わなきゃ生きていけない仕組みは完成してるんだ。 いまさら患うことがどこにある」
「……承知いたしました」
部下が去った後、ヒューリの通信端末が明滅した。裏のスポンサーからの暗号通信だ。
<義賊“白翼の騎士団”の動向を調査せよ>
「ちっぃ……また面倒な命令を……適当に工作員でも送り込んでおくか。……まったく。 うまい酒がまずくなる、明日だな明日。 さあ、続きだ!」
彼は酒が残ったグラスを執務室置き、そのまま彼女たちと一緒に部屋を出ていく。
因みに彼が飲んでいたのは、1本10万マリベルもする至高の一品である。
***
―― プロメンテの農耕地区では。
約束の1ヵ月が経過した ――
タツマ達の事務所は、コンテナを新たに追加購入してサナエさんと自身用の部屋を設けた。 ネスさんの邸宅の庭は、傍から見ればトレーラーハウス群のようになっている。
ネス邸へ結果を聞きに行くためにコンテナハウスを出立する。
―― ここでコケれば、このトレーラーハウス郡も引き払うことになるか
整然と並んだ、コンテナ一群を見渡す。 勢いでの購入してしまった感がある。
この1ヵ月間ヒューリの事情を集めながら状況を整理していった。 結果、このヒューリとかいう奴が、あまりにも怪しすぎるため、どうしても保険は必要になる。
―― まぁ法的には問題がないはずだ……
タツマが、ネス邸に向かっている後ろから声が掛かる。
「ちょっと! 置いて行かないでよ!」
サナエさんの声である。
彼女といると退屈はしないが、休まりもしない。
「そんなわけないじゃないですかー」
と軽く流し、アルプも合流し賑やかな会話を交わしながら、ネス邸の玄関に向かう。
トークンが門番をしているので、顔で確認して扉を開いてくれる。
室内に入って、ネスさんの執務室に足を向かわせる。
丸テーブルの前に座るネス社長は、晴れやかな、実に引き締まった顔をしていた。
室内に入ると早速タツマが口火を切る。
「さて、我々の事業計画に対しての反応について、結果を聞きましょうか」
そう言いながら席に着く。
「タツマさん。周辺農家および全住民への説明が完了しました」
「そうですか。 結果は?」
ネス氏が、口を開く。
「地域の土地を他人に利用されるのは、屈辱的との意見もありました」
「そうでしょうね」
「しかし、自分達の怠惰が引き起こした結果であることも理解させました」
「なるほど」
「結論から申し上げます。 商社プロメンテ に事業をお願いします。との意見で集約ができました」
「それはよかった。 これで計画に取り掛かれますね」
タツマも満足そうにしている。
ネス氏が、緊張を崩さずにそのまま口を開く。
「タツマさん。1つよろしいでしょうか? 」
「なんでしょう? 」
「なぜ……今回のような遠回りの方法で住民の同意を得たのですか? 法律上は強引に進めることもできたはずですが」
「会社経営としては、事業を地元住民に邪魔されては、元も子もないというのがありますが、一方で、一人の人としては、自分たちの行動を見つめ直してほしかったんですかね」
「……」
ネス氏は黙っている。
「確かに土地収奪法は悪法以外のなにものでもないでしょう。 一人一人が今後の土地の在り方を確認して進めることを自覚させる必要がありました」
「自覚……」
「ええ。 ずっと法律が悪い、政治が悪いとしていたら前に進めませんからね。 他責にするのは簡単ですが、本当にそれだけかと。 考えてほしいと思いまして」
「洞察力恐れ入ります」
「傾きかけた会社のただの若造ですよ」
その場は、カッコはつけながら、協議は終わる。
自室に戻るとその裏事情は、かなり重たい。
「はーまいったなー」
大きな呻きが室内に響く。
自身で作成した計画書を改めて確認する。 鉄道以外にもかなりの追加計画がある。
まずは、住民の理解を得たので本格的なテラファームの事業を開始するのだが、最初は農業機械の購入からの開始になる。
巨大な農業機械の購入には、ルヴェリエからであるが、取引履歴がない。 そのため、スキュレス議員を通して対応させる。
農業機械の購入に10億マリベル。
製造から入荷まで半年なので、その間に商社プロメンテにテラファームの事業計画を立てる。 また、人材の雇用と農地の耕作準備だ。
プロメンテとヘスベリア間の道路の整備計画に200億マリベル。
鉄道延長計画も正式な許可が下りた。
設計に1年、建設には2~3年程度がかかるが、早速開始させる。 土地の無償供与により金額が抑えられそうだ。 ヘスベリア・プロメンテから人をかき集めて鉄道の建設にはいる。
次に工場の建設への設計と建設に40億マリベル。
工場では原材料を加工して、食品を製造する。 この辺りは、工場がないから個人店からの購入になるが、工場での大量生産を実施して加工した食料を増加させる。
―― まったく。 お金って使うのは簡単だよね。
ため息が出る。
この投資資金も宇宙海賊と命を懸けた戦いをして得た金だろうと軽く愚痴るが、ともあれ準備は整った。
しかし、どれも稼働までに12ヵ月以上かかる。
―― その間どうするか?
このカーゴ車を資本にして運送業でも始めようか。
それとも、長期休暇を楽しむ線も捨てがたい。
楽しむのであれば、あのコロニーであった墓地の管理者から聞いた、遺跡の島エリシウム散策か、それともオリンポス山登山、タルシス三山でレジャーも考えられる。
人生で初めての長い休暇。 夢は広がるばかりである。
「さてと! 久々の好機到来! マールスでの冒険の始まりだ」




