じゃじゃ馬
銃弾がカーゴのボディに当たり着弾音が室内に響く。
「そこの車両、止まれ!!」
静寂を切り裂く怒号。 厳つい男が3人と、銃を構えた戦闘トークンが5体。街道の真ん中に不気味な壁となって立ちはだかっていた。
「クソッ、何事だ!」
ウトウトしていたタツマが一瞬で覚醒し、心臓が早鐘を打つ。
――10秒。 いや、体感としては一瞬だ。 大型車両が脇の森から飛び出し、道を完全に塞ぐ。トラックは横滑りしながら、砂埃を上げて急停車した。完全に袋のネズミだ。
『マスター。どうしますか?』
運転席のアルプが、この状況でなお平坦な声を出す。
「どうしますかねー?」
助手席のマッド・キャミャエルが、こともなげにラジオの音量を下げた。
なぜこの状態で落ち着いていられるんだ! 丸腰だぞ。コンバットスーツも、銃も、コンテナの中だ。
「10数える前に出てこい。でなければ、発砲する!」
外から男の脅迫が響く。
『とりあえず、出ますか? いけますよ?』
「おお。いいねー」
サナエが楽しげに頷く。
「ちょっと待て!! 君たちも丸腰だろ? 今出たらハチのすだぞ!」
タツマは完全に焦っていた。 だが、キャミャエルグループの二人は余裕の表情だ。
「そうはならないと思うけど。さっさっ、早く出ましょう?」
有無を言わさず、タツマはカーゴの外へと押し出された。
車外に出ると盗賊の男が、下卑た笑みを浮かべて近づいてくる。
「へっへっへ、聞き分けがいいようで何よりだ」
「なんだ? 美人連れのドライブとは、ごきげんじゃねーか。 お前さんには悪いが、女と積み荷は、俺達が頂く。 まぁ運が悪かったと思って諦めるんだな」
「おお!! 久々の美人だぜ!!」
後ろの男たちが品定めするようにキャミャエル氏を見ている。
状況は絶望的だ。 俺の唯一の武装は防刃性のアンダーウェアだけ。 攻撃手段がない。
とりあえずトークンを盾にして、キャミャエル氏を逃がしつつ……。
タツマの思考を知ってか知らずか、キャミャエル氏が話出す。
「へー。 あなた達トークン持っているんだ? この大陸では珍しいわね?」
余りに場違い過ぎる発言。 しかし、その発言を気にせず、盗賊は会話に応じる。
「ここら辺じゃトークンに嫌悪感を持つ住人もいない。こんな便利な道具を使わない手はないしな。 高価な小間使い人形って感じだが、襲撃の成功率は急上昇よ」
盗賊団はアサルトライフルを構えたトークンを前面に出し、自分たちはその後ろに隠れている。トークンを盾にする形だ。
「いいわね――とりあえず、それ頂戴?」
―― 何言ってんだ、この女!
タツマが内心怒りを爆発しそうになるが、声を発する訳にはいかない。
「いいぜ!! 嬢ちゃんが俺たちの女になればな!」
下卑た笑いが周囲に響くが、直ぐに盗賊のリーダーがこちらを睨む。
「その前に、その男には消えてもらう」
盗賊のアサルトライフルが発光する。 死を覚悟した瞬間。 タツマの体が宙に舞い上がった。
――何事!!
次の瞬間、タツマはカーゴのルーフの上にいた。 脇には、彼の体を片手で掴んだマッド・キャミャエルがいる。
「くっくっくっ。 私に牙を向けましたね。 あなた達は終わりです」
盗賊団もとっさの出来事に立ち尽くす。
「……嬢ちゃん。 人一人片手で持ち上げてルーフに乗るなんざ。大した運動能力だ!」
リーダーの指示が飛ぶ。
「しかし! 丸腰のお前らに何ができる! 奴らを仕留めろ!」
銃口が俺たちに向けられる。 瞬間、銃声が響き、タツマはとっさに目を瞑ってしまった。
だが、次に聞こえたのは盗賊たちの悲鳴だった。
俺が目を開くと、盗賊団が全員膝をつき、崩れ落ちていた。
「な、何が起きたんだ……?」
盗賊のトークンが、一斉に彼らのマスターである盗賊団の足を打ち抜いたのだ。 キャミャエル氏が、邪悪な笑みを浮かべる。
「利き腕もやっちゃいなさい!」
指示と同時に、銃口を向けたトークンたちが再び火を吹いた。 盗賊団の腕が打ち抜かれる。
こだまする悲鳴。 タツマは何が起きているか全く理解できなかった。
「拘束しなさい!」
盗賊団のトークンたちが、かつての主人を暴れるを力づくで拘束していく。 一通り現場が治まると
キャミャエル氏がルーフから降り、タツマを地面に降ろして盗賊たちの前に立つ。
「我々は、義賊 ※1 白翼の騎士団! 我々に手を出した以上、制裁を受けてもらいます!」
―― 助けてもらったのはありがたい。だが、この人は何を言っているんだ? 白翼の騎士団……? あの※2 ノーマンズライジング時の御伽草子に出てくる英雄達一派か
痛みにもがく盗賊たちに、キャミャエル氏が顔を近づける。
「さて、治安隊に突き出す前に、聞きたいことがあるんだけど素直に答えて欲しいな」
勝ち誇った笑顔で相手を挑発する。
「あなた達のお宝はどこですか? 罪なき人々から奪ったものはどこですか?」
―― こいつ、盗賊から強盗する気か?
「言いたくなければ別にいいんですよ。ただし、あなた達が明日を迎えられるかどうかは、こちらの気分次第ということも理解してくださいね~」
キャミャエル氏が手を挙げると、トークンが銃口を一斉に彼らに向ける。
「言う……言うから……」
聞き出したエリアをマップに示す。
キャミャエル氏が、手を広げる。
「ふーん。 いいでしょう! アルプ。 早速トークンを向かわせて! 二体で行かせましょう。 我々は、2体の帰りを待ちましょうか! 」
盗賊団が焦りだした。 おそらく、道案内として一緒に連れて行かれる気でいたようだ。
彼女が、ニッコリ笑う。
「罠やもぬけの殻であった場合……自然に帰ってもらうから」
そして威圧的な表情になる。
「最後の確認です。 お宝はどこですか?」
盗賊団は観念したように新しいポイント示す。プロメンテへの途中である。
「えげつないな……」
タツマが声を洩らす。
盗賊団を彼らの車両の荷台に詰め込み、“良い旅を!”と嬉しそうに扉をしめる。
荷台にはトークンの一体が乗り込み、応急手当てに当たらせる。
追剥をする科学者……。
トラックに何事もなかったように乗り込み、運転を開始するアルプとキャミャエル氏。
ラジオからはジャズのしっとりした音楽が聞こえてくる。
「アルプー、メレアの到着時間はどんな感じ?」
『今回の戦闘と戦利品の回収があるため、真夜中になります』
「だよねー。夕食どうしよっか?」
『保存食でお願いします』
「そっかー。仕方ないねー」
『はい。仕方ありません』
先ほどのでたらめな事象は日常ともいわんばかりに話題にしていない。
彼女の腕力も、アルプとかいうトークンのハッキング能力も、常識を逸している。
「あのーキャミャエルさん? さっきはありがとうございました。助かりました」
タツマは、まずは助けて貰った礼を言う。
「いえいえ。どういたしましてー」
「 盗賊のトークンの暴走は?」
「ひみつ」
「あの跳躍力は何したの?」
「ひみつです」
――なんなんだ。この人は。
「興味があるのですね?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。またこの展開か。
「私たちは、これから結構な時間を共にします。なので、キャミャエルさんではなく、サナエさんか、サナエお姉ちゃんと呼んでください」
「えー……」
「さぁ。サナエお姉ちゃんです!!」
「分かりました。サナエさん」
「サナエお姉ちゃんは、ダメですか?」
「20歳を過ぎた成人男性がお姉ちゃんと呼ぶのは、流石にきついです」
「仕方ないですね。では私はタツマと呼びます」
「どうぞ」
「じゃ、さっきの秘密を教えます。大したことじゃないんだけどねー」
サナエが、少し自慢げに話し始めた。
「トークンの暴走はハッキングじゃなくて、うちのアルプの配下に入ったの。 アルプは高性能AIだから、無機AIを配下における技術の優位性ってやつね。 研究成果が実戦で使えて、感動しちゃった! 凄いでしょう!」
「……凄いです」
「で、腕力と脚力は、これ」
サナエが上着を脱ぐと、体のラインに密着した黒い潜水服のようなスーツが現れた。
「人工筋増力駆動系のスーツよ。作業用に用いられるパワードスーツの軽量型。 ウェヌスのサイバネティクス技術とマールスのAI制御を応用したの。まだ開発中だけどね」
―― 天才すげーな
「実際この装備がなくても、このカーゴは硬質化装甲で武装も付いているから、薙ぎ払うのは容易だったんだけどね」
――こいつ、人が恐怖していたのを、楽しんでたな。
サナエが目を細めるタツマに気づき、いそいそと話題を変える。
「細かいことは良いじゃない。まずはお宝よ!」
*
カーゴはそのまま進む。暫くすると、周囲を樹木で囲まれた二股の道に出た。中央はただの緑地帯のように見えるが、アルプの調査によると、地面に地下基地への入口があるようだ。
トークンで偵察を実施し、基地内の戦利品が見つかった。
『現金と武器ですね』
トークン5体と武装・現金・車両。特にトークン5体は心強い。 トークンが基地内を漁っている間、タツマはコンバットスーツによる武装化を急いだ。
通称『棺桶』。 現行のスーツは強固性を高めるため、棺桶に似た入れ物に入っている。
入ると自動で蓋が締まり、頭だけ出した状態で各パーツを装着してくれる寸法だ。だが、装備までに|180~300カウント《3~5分》も掛かる。
「それよりも、この棺桶場所取るんだよな……」
装備を整え、道中合羽を上から羽織り、カーゴの外に出る。腕を動かし可動域を確認する。
「おー。 アルバの時と同じ格好だね」
「治安を忘れていたよ。 あんな経験二度とごめんだ」
「サナエさん、アルプとの情報リンクを頼む」
「了解。アルプお願い」
『了解しました。タツマ、同期を確認してください』
バイザーメットを被り、灰色や宇宙からの映像に切り替わる画面を見つめる。
「鮮明だ。アルプ、ほかには何ができる?」
『赤外線サーチ、作戦進行状況、衛星との接続。ターゲットに目標をさだめることで、コンバットスーツの動きを連動させることも可能です』
カービン銃を構え、照準を樹林帯の木に合わせる。腕や腰が自然と動く。 これは便利だ。
『調子はどうですか』
「良好だ。これで暴漢であっても余裕で交戦ができる」
メットを脱ぐと、日が暮れた冷えた空気が、顔に触れた。戦利品をカーゴに運び込む。
「取るもの取ったし、ずらかるぞ!!」
サナエが意気揚々にトークンに伝える。
―― それは悪党側のセリフですよ。サナエさん。
再び一行は走り出す。
『マスター。 タツマ。 一休みしてはいかがでしょうか。 何かあれば起こしますので』
アルプの提案に、甘えることにする。事実緊張の連続で神経はそれなりに張っていたこもあり、かなり疲れている。
「じゃぁお願いしようか」
一時の安息の時間が流れる。
やっかいなことに巻き込まれた感はあるが、ワクワクする気持ちもまた、静かに目を閉じると同時に緊張も解れ一気に眠りに着いた。
※1 白翼の騎士団:ノーマンズライジングを終わりにした英雄達の総称
※2ノーマンズライジング:人で無き敵と繰り広げたマールス人類とAIとの壮絶な戦争の通称。




