キンメリア大陸への道中
サバエア大陸南部の検問都市プレヴィアで一泊し、タツマ達はメレア街道を東進していた。
ここから先は、長距を車両で移動することになる。
プレヴィアの宿泊施設では、やたらとマッド・キャミャエルに絡まれた。
”今までどんな仕事をしてきたの?”だの、
“宇宙海賊に襲われたことは?”だの、
質問の嵐だった。
特に食いついてきたのは、テラやウェヌスといった他の惑星での体験談だった。 彼女は異星の文化や習慣に興味津々らしい。
“今の時代、端末一つ叩けばすぐに調べられるだろう”と言ったものの、
彼女は“実際の経験談が聞きたいの”と引かなかった。
“夜更かししても、運転するのはトークンだから問題ないでしょ?”
そう言って結局、夜遅くまで話し相手に付き合わされる羽目になったのだ。
一応は男と女だ。
色気のある展開……なんて不埒な考えが一瞬でも過らなかったと言えば嘘になる。 だが、そんな妄想はすぐに吹き飛んだ。
彼女には、アルプという高性能トークンが従者として付き添っている。 下心を覗かせようものなら、即座に恐ろしいお仕置きがある可能性がある。
実際、宿で絡んできた質の悪いナンパ集団を、アルプと名乗るそのトークンは瞬く間に撃滅してみせた。……見た目に反して、容赦がなさすぎる。
確かにサナエさんの見てくれは良い。 しかし、今のタツマにとっての推しはナーミャンになる。 この案件をサクッと片付けて、彼女のデートしてもらう。
タツマの脳内優先順位は、概ねそんな感じで占められていた。
メレア街道に入って、すでに二日目。
これから数日かけて街道を進み、途中の小さな衛星コミュニティで燃料補給や宿泊を挟みながら、キンメリア大陸を目指す。
土地勘のない自分一人では、到底不可能な行程だ。キャミャエル一行の案内だけが頼りになる。
静かに滑るカーゴのシートに身を任せる。
議員が用意した車両だけあって、乗り心地は抜群だ。 座席のクッション性能が高く、これなら長時間の移動でも腰を痛めずに済みそうだった。
三人乗りの運転席も、ゆったりとした余裕がある。
車内に流れるラジオの軽快な音楽。その横で、マッド・キャミャエルはタブレットに視線を落として何かを読み込んでいる。
―― 揺れる車内でよく文字が読めるな。酔わないのか?
流れる音楽を聴いているだけというのも退屈で、口寂しくなったタツマは、運転席のアルプへ何気なく話しかけた。
「この辺りの車輛燃料は、バッテリーが主流なのかい? やけに静かだけど」
『ええ、モーター駆動ですが主です。 主に燃料バッテリーですね』
「へー燃料バッテリーねー。 エリスやタニアじゃあまり見かけない駆動機構だよね? レドックス燃料なんて、こんな地方まで普及しているのかい?」
『はい。 液体電池協議会が普及を図っている段階ですね。 もっとも、これはタニア王国からの化石燃料依存脱却を狙ったものです。
特にこのサバエアやキンメリア大陸は、過去にタニア連合王国に酷い目に遭わされていますから。 安全保障を兼ねてレドックス燃料へ移行した経緯があります』
エネルギー政策が、国際政治の牽制手段になるのは、いくら惑星が変わろうと同じか。
一日の大半を車輛に揺られて過ごす。
宇宙空間の無機質な航行と違い、車窓の風景が刻一刻と移り変わっていくのは新鮮であり、タツマにとっては、飽きることがない。
―― 今日は晴れるって天気予報で言ってたが、だいぶガスってるな……
外の景色を眺めながら、ナーミャンの意図について思考をまとめようとしたが、次第に頭が重くなってくる。
―― あー……なんか、だんだん面倒になってきたな
景色を見ながらの道路からの心地良い揺れは、完全なリラクゼーション効果をタツマにもたらす。
といっても、舗装されている道とはいえ、所々に陥没や割れがある。 長距離の道路だけあって補修するのも金がかかるのだろう。
時折揺れたり跳ねたりするが、特段酔うこともなく進む。
車内のラジオ放送からは、軽快な音楽が流れている。
「番組変えるね」
マッド・キャミャエルが、こちらの返事を聞く前にチャンネルを切り替える。
軽快な音楽からお昼の報道に変わる。
≪メレア共同ネットワーク。 お昼の報道です。 最初です。 サバエアの国家群が、トロイ島周辺での合同軍事演習や演習を実施しました。
サバエア大陸のエリスとキンメリア大陸のテッサリア間の2カ国大戦で両国の関係系は冷え切ったままであり、大陸中央の島。
トロイ島の実効支配を強めるエリスにより、今回の行動は、テッサリの態度をより硬化させるものと懸念されております≫
「……」
≪続いてです。 キンメリア大陸のイスペリアで昨日、イスペリアとタニア連合王国との協議が、行われました。
食料の自由化と港の自由航行権をキンメリア大陸内で確保ししているタニアですが、ヘラス地中海の内海にも貿易拡大の狙いが有るものとされています。
これに対して大陸内のタニア連合のプレゼンスの高まりを危惧し、テッサリアの執政官より不満が表明されています≫
――惑星が違えど、起きていることはあまり変わらないな
「こんなのは、どうでもいいんだけど! 」
―― 商人にとっては、大切なんだけど。 卸した国が吹き飛んだら売掛金も吹き飛んじゃうし。
≪メレア地域内の報道です。 メレア地区の秋季の味覚メレアソーリーの季節になりました。 多くの漁港では、メレアソーリーの水揚げで市場が活気づいております。 メレア地域の――≫
「メレアソーリーかー ヘルシーでいいわよね。 魚の油は、太らないし」
マッド・キャミャエルが、独り言のように、ラジオに呼応する。
「メレアソーリーってなに? 」
タツマが口を開く。
『タツマ様は、メレアソーリーはご存じない? 』
「ご存じないです」
端末に画像とメッセージが届く。
『そのような食用の魚ですね。 この時期に取れる魚ですかね。 油が豊富に乗っている魚ですね』
アルプが説明する。
―― サンマか?
タツマの子供時代の記憶を遡り出て来る魚の名前になる。
「へーこれが美味と」
「そうよー。 肉より魚の方がヘルシーだしねー」
マッド・キャミャエルが、タブレットに目を落しながら回答してくる。
「この辺りは、来たことがないから、食事事情もあんまりだな」
『ほぅ。 では、マールスでは、どんなところに訪れていたのでしょうか? 』
「そうだねー。 エリス、アルゴス、バポニス、ノクティスラビリントス辺りが多いかな」
マールスの代表的な都市国家になる。
『なるほど。 気触れていますね』
―― ちょっと。 このトークン。 口悪くない!? 仕事での来訪だから!
ラジオからは、天気の情報が流れて来る。
≪続いてメレア地域の天気になります。 全地域にまたがり、昼間は晴れの日が続くでしょう。一方で夜間は冷え込みに注意してください。
これにより、昼夜の寒暖差による体調管理に気を付けてお過ごしください。就寝の際は温かい寝具での対応が必要となります。 各地の天気です。 メレア東部――≫
「夜は温かくしないとかー。 冬物持ってきてよかった」
マッド・キャミャエルが、つぶやく。
≪また、この時期は、昼夜の寒暖差が大きい為、メレア街道走行のドライバーの方々は、濃霧注意報に警戒し、安全運転を心がけて下さい。以上、お昼の報道でした≫
軽快な音楽が鳴り、何かのCMが始まっている。
―― 晴れと言いつつ、ガスっているけどねー。 ってか曇りじゃない? それにしても濃霧注意報か。 確かに濃そうだね
「アルプさん。 このメレア共同ネットワークとは何でしょうか? 」
『メレア地域にも複数の都市国家や衛星国家が有るのですが、通信インフラを整備するのは、コストが掛かるので、共同運用での放送所ですね』
「仲悪くなったりしないの? 」
『あるでしょうね。 しかし、南部地区はそれほど裕福でないので、互助性が強いのでそれほどの問題にならないのです』
回答を終えたアルプに、マッド・キャミャエルから質問が飛ぶ。
「アルプー。 メレアまでどのくらいで到着するの?」
『日が沈むのは確実です。 夜ですね』
かなりキンメリアには、着実に近づいているようだ。
しかし、何なんだろう? この状況。
あの合流の後、マッド・キャミャエルに “さあ、さあ”と急かされて、スマイル号(カーゴ車)に乗り、アルプがハンドルを握り出発した。宿泊施設でも私の事ばかり聞き出して、
説明をお願いしても、“まだ君は興奮しているから少し穏やかになってからね” の繰り返しで
一切説明がないまま、数日が過ぎてしまっている。
「あのー。 キャミャエルさん? 」
「なに? 」
「そろそろ我々は、何をしに。どこに向かっているのか教えてもらってもいいでしょうか? 」
「知りたいのですね」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
「ふふふ。 私は、あなたより年上です。 お姉さんなのです。 なので、マッド・キャミャエル ではなく、キャミャエルさん と心から敬いましょう。 そうすれば教えます」
くっ。 面倒くさい。
「面倒くさいとか思っているのですね。 それでは、ダメです」
マールス人特有の読心術か――面倒くささに輪をかけてくるか。
「わかりました、降参です。 しかし、情報共有は必要かと」
「まぁ、だいぶ落ち着いたようなので教えますか。 私たちは、これからメレア街道を通ってキンメリア大陸のプロメンテに向かっています」
「プロメンテ? どんな場所? 」
「農業地域でキンメリアの食糧庫とも呼ばれて場所。肥沃な大地と快適な気候で――」
「なぜそんな場所に? 」
「あなた親父さんからの要望よ。 詳細は、現地に諜報員がいるから聞いて欲しいって。 私も詳細を聞いていないだよねー」
そんな、片田舎っぽいところで何をさせる気なのか?
詳細は最後まで不明か――途中で放り投げるのを阻止するためか?
あの親父。 次会ったらとっちめてやる。
いずれにせよ。行くしかない様だ――スマイル号は海沿いを走り続ける。
地中海の海岸沿いの道はそれなりに気持ちいい。今は秋季であるが、ヘラス地中海は、温暖な海のため、海周辺汚の気温がそこまで低くならない。 また、その気候から海産物が豊かである。
道の陸側は急斜面になっている。
この急斜面の向こうにメレア山脈があるようだが、ここからでは見えない。高い山々でかなりの標高がある。
そしてメレア山脈のより南極の冷たい空気が、防いでいるためこの辺りは、マールスの中では、それなりに温かい。
海沿いのため湿度もそれなりに高く、道路が湿っている。
空に雲がないところを見ると霧か何か出ていたのだろうか。
先ほどの濃霧注意報と言っていたが、その影響か?
道路わきの斜面は、青々としている。この地域周辺があるていど肥沃な土地なのだろう。
しばらくすると、樹木帯に入る。木々により日が欠けるとそれになりに寒くなるため、
窓を閉め引き続きボケーと外を見ている。
こんなに何も考えず、何もしない時間なんて過去にあっただろうか?
これはこれで、よかったのかもしれない。 命の洗濯だっけ? そんなもいいかなー
―― とりあえず、片田舎についたら、適当に対応して後は、親父達に丸投げすれば、問題ないだろう。
そんな思いに耽っていた最中である。
突然銃声が響く。
この世界のマールス(火星)の地図を掲載してみました。マールス(火星)は、基本は都市国家(州、県~市)による運営が多く領土面積も人もそこそこになる。
これもかつてのノーマンズライジング呼ばれるAIの暴走に起因した大規模戦闘による環境破壊によるとこととが大きく、巨大国家を維持できない状況下での人が寄り添い街を自治を形成した結果です。
そして、ここ以外にも多数の都市国家が存在している感じです。




