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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
3章 火星着星
17/52

田舎でのスローライフ?

新しく来た住居のような大きさの農耕器具(トラクター)を触りながら、よくこんなものに金を投じたとシミジミ思う。


―― 一体何台あるんだよ

100台以上並んでいる姿は壮観でもある。こんなのが次から次へと届く予定だ。


どうやって、プロメンテ各地の耕作地に運ぶかって? 農道経由だよ。

そもそも、この為に農道工事をしていたわけよ。


でもさ――異なる世界にさ、飛ばされた主人公の農業って、もっとほのぼのじゃない?


困っている可愛い村娘を助けてさ。それが切掛けで仲良くなって、一緒に農地を耕して種をまき、水と肥料を上げる。


草や害虫から畑を守り、時には大型動物からの畑を守るために柵を築いたり戦ったりする。

時折、喧嘩したりして互いを認めていく。そして、収穫祭で深い中になるとかさ。


そんなんだよね――いい――すっごくいいそんな田舎のスローライフ……。

……ふふふ。 


「はーぁぁ」

タツマから大きなため息出て、現実から目を背けそうになる。


現実は、引きこもりの科学者の世話、バカみたいな宇宙船(戦艦)の費用返済、そしてこのプロメンテの土地を開発と会社存続をかけての市場で生存競争中。


200億マリベル(2000億円)投資は、会社を傾けるには十分すぎるほどの金額だ。

故に市場競争に勝たないと会社がヤバい。


―― こっちはハードライフの農業経営なんだけど? あー、もう魔法とか使えないのかよー。


現在プロメンテ地区耕作地の30%以上が、商社プロメンテの配下だよ。 土地収用なんてしなければ良かったのだろうかとタツマが悶々と悩んでいる。 やった後に気後れする典型的な後悔タイプである。


管理方法については、ビャーネ社長(ネス氏)やその他役員を含めての連日の会議である。

現場やって経営やって一体何をしているのだろう。 


いずれにも特化していない自分への疑問も出て来る。


しかし、テラファーム(大規模農場)を実現するため農地収容を行ったため、とにかく管理農地が広大すぎる。集めたものの管理方法もこれといった案が出てこない。


新規事業のため、熱が入るが現実は進まない。悩ましいところだ。


―― それに農業専用のAIを作る金はないし……。


今は、オーナーとして届いた農耕具の受領中であり、工事業務からは外れている。

受領書類にサインをして、各地域のリーダーが取りにくるまで待機中である。


―― セレンは宇宙船用だしなー

タツマの中で身近なAIが、脳裏を過る。


―― 高性能だけど導入後の保守を考えると、ローコストで改修とかできる代物が良いんだけど……そんな都合の良い……いたなー。 サナエさんのアルプを貸してもらおう! 


サナエさん自身。アルプは優秀とかいっていたから、何とかなるだろう。 とにかく人手不足なのだ、分野違いのAIにも働いてもらうしかない。


こっちは魔法使えないが、それなりのAIがいる。 利用して使い倒すしかない。


ビャーネ邸のベースキャンプに向かう。


タツマが運び込んだのか、表のカーゴも随分と増えている。はた目から見るとちょっと集落のようにも見える。その中の一つのカーゴをノックする。


「サーナエ さーん」


しばらくして、カーゴの中なら声が聞こえて来る。

「何? 何かよう? 」


うわー機嫌悪そう。というか寝起きの様な声にも聞こえる。

――寝ていたな。


といっても、顔ぐらい見せてもいいんじゃないですかね。一応社長ですし。

「農機具の基本AIとしてアルプ使わせて欲しんだど? 」


「私の最高傑作を農耕器具に入れる気? 」

「世の役に立つのが科学者の使命じゃないの? でこれから、現場に行くから少し貸して欲しいんだけど」


「わかった――準備するから、ちょっと待って」

「りょうかーい」


準備するもなにも、アルプだけ連れて出てきて欲しいだけなんだけど――まぁいいか。

それにしても、時期は春季いい感じの季節、テンションが上がるよね。


しばらくするとスッキリしたツーピース姿で登場したサナエさんといつものアルプ。

下調べとして向かったサバエア大陸のレーベで何やら買い込んでいたと思ったら、衣料品だったのか。


「どうよ! 」

サナエさんが、ポーズを決めて来る。


「おお。いいじゃない! いいじゃない! 似合っている」

春らしい軽い素材で動きやすそうだ。少しは毒気が抜けたのか?


褒められたら少し照れている。

「……ふん!」


ナーミャン(少将)みたくもう少しわかりやすいといいんだけどね。

それともマールス(火星)人は照れ屋が多いのか?


まぁ自分はいつも工事や農作業の現場だから作業着なんですけどねー。


さて、おしゃれなサナエさんを連れて重機のところに連れていく。

プロメンテの気候は、春になると晴れたり小雨になったりと気候が目まぐるしく変化する。


一時的に雨が降ったと思ったら、直ぐに晴れたりの繰り返しである。

気まぐれな天気の季節である。


とはいえ、宇宙船生活や特に都会での暮らしが長い為、このような雨の上がった後の湿った土の匂いはどことなく、ノスタルジックを感じる。


サナエさんが隣にいるものの、その光景に両者とも無言で歩く。

こうしてみると、耕作地の区画整理も間に合った。


内戦での重機もどかせたし。道も補修できた。

何とか農耕期に間に合ったのは、この地の人々の努力のお陰だとしみじみと思う。


「こうしてみると地平線の彼方まで耕作地か。ここが一斉に実ったら凄いことになりそう。土も黒いし。いい土地だよね」

タツマから沈黙を破る。


この周辺の農作物は、プロメンテウィード(小麦)・ヘラススナップ(大豆)・シメリアコーン

(トウモロコシ)などテラ(地球)に似た作物が多い。さぞかし、良い穀倉地帯になりそうだ。


「農業の事は、よくわからないけど、黒い土が良いのは聞いたことがある。 たしかに穀倉地帯と言っているのもうなずけるわね」


少し間が置く。

「ところで、あなたも少しは、洒落てみたらどうなの? こんな美人が横にいるんだから! 」

何かこちらの格好についての指摘が飛んでくる。


「うーん考えておく。 実際、私服があまりないんだよねー。 公式の場での正装さえあればまぁいいかなで今まで来たから。しかし、サナエさんがおしゃれするとは意外」


「何よ? 」

少しおかんむりな感情が、言葉に乗っている。


「科学者って研究以外に興味ないと思っていたから。実際、会ったときも大きくてゆったりした服装だったじゃない。 今もだけど」


広大な平原という言葉が当てはまる地の農道を2名と1体が歩く。

この雄大さに神秘性を求めるのは仕方ないことか。


タツマは、言葉を続ける。

「正直に言えば、カーゴから出て来た時は、びっくりしたよ。 本当にモデルと見間違うくらいに。 まぁ気分転換には良いんじゃない」


「……」

言葉数が少なくなる。サナエさん。


マールス(火星)人は他人の心の動きが読めるが、こちらは雰囲気が察せられる。


自分から美人ということだけはあるか。これならナンパされそう。

しかし、隣を歩くトークンがいるのに話しかける方も大したモノだとは思う。


「ふふふ。 最初のナンパの手法もそれだったわね」


「まーね。因みにナンパじゃないから。純粋の誉め言葉だから! 」


「いいわ。そうゆうことにしておいてあげる」

いつもの元気いっぱい口調から、何時になく穏やかな口調になっている。


「そうそう、今さ。アルプに現場を任せるとして、商社プロメンテよる広大な耕作地の管理方法を検討しているんだけど、アイデアが出ないんだ。 何かない? 」


「はぁー美人といるのに仕事の話? もう少し色気のある話はできないの? 口説こうとは思わないの」


「えー。色々死活問題が多くて。社員も養わいといけないし。ここの住民の仕事場も作らいないといけないし」


「まったく。貴方、損な性格しているわね」

「で、何かあるの」


「問題は、なによ」


「そうだね。広大な農地の管理方法をどうしたものかと。アルプに農機具を対応してもらうのはいいとして、スケジュールや収穫時期、水や肥料の発注までの管理なんだ。管理するエリアが、恐ろしく広くて――」


惑星が違えど春季は、気持ちいがいいものだ。 特に雨上がりのあの感じは何とも言えない高揚感がある。 


農作業重機の駐機場に到着。

他愛もない会話の影響だろうか、目的地までの到着時間が短く感じる。


「まったく。 よくもこれだけ買い込んだわね。 まるで住宅街にいるようね」


「これからまだまだ届く予定だよ。これの基本AIにアルプを使用したいんだ。

高性能で同質のプログラムであれば作業に差異も発生しないし、運用管理者が1つに絞れることで命令系統も明確になると思って」


「通常の農業用AIでは無理なの? 」


「これだけ広大だと、場所ごとに調整が発生するかもしれない。それを自動で判断して報告し修正できる高性能で手に入るAIが欲しいと思って。


アルプの機能って相手を乗っ取ることができるようだけど、機能同期ってことでしょう? 数百ある農耕器具に対してもデータを同期し、機器動作の自己修正が実施できるんじゃないかと。


そうすれば、複数の経験を集約してから最適な作業を構築できるような気がしてね」


そのアルプはと言えば我々の会話より、農機具に興味津々のようで駐機場についてから周りをウロウロしている。 どう動くのか興味があるのだろうか? 


「分かった。 インストールしてあげる。 アルプ。 聞いていた? 対応できそう? 」

サナエさんが、アルプに話しかける。


サナエさんの質問にアルプが返答してくる。

『説明書を見ると、農業に特化した重機のようです、運用は難しくないと思いますが、おそらく複数個所での調整が入りますね。 乗り込んで基本動作を実行します。 修正部分はまた命令を貰うことになります』


農機具と通信をして内部の情報を見ているようだ。

――ワクワクしているのか? いつもより語彙が早口になっている。


「だって」

サナエさんが、なんか呆れるような感じで回答してくる。


「ああ。ありがとう。 これで農機具の運用は何とかなるか。 あとは運営だけど――サナエさんセレンは使えないの? 」


「セレンに何をさせる気? 」

サナエさんが怪訝な面持ちで聞き返してくる。


「主に全体のAIを含めた、農業運営をやっても貰うかなと。 種まきや肥料や水まき、刈り取りのスケジュールの組み立てと耕作地の状況判断や相場に応じた最適の出荷時期も。ああ、それと効率のいい作物の選定もやってほしいかも」


「なぜ急にセレンなの? 」


「さっきの会話からさ、よくよく考えていたら商船内の内容とよく似ているなと思って。 まぁ自然相手というのが大きく違うけど。 セレンの出した命令をもとに、プロメンテの従業員やアルプが動くと上手くいく気がして。 実際、ヒルベルト商会ではそんな感じだったからね。 実働はアルプで、運営は、経験が多いセレンかなと思ってね」


(ここでセレンの状況が分かれば、彼は地球に帰るのだろうか……)

「とりあえず、アルプを調整してみるわ」

「アルプに出来るの?」


「セレンは、宇宙船用でしょ? 下手に弄って動かなくなったら問題だし、その点アルプは、私が勝手知ったるシステムだから、問題が起きても直ぐに調整が効くわよ。 それにビャーネさんも近くいるから、話し合いながらフローが作れるわ」


「確かに。でも大丈夫なの? 経営と実働ってかなり違うよ。判断が混濁するとAIって誤った学習するよね」


「そこは、新進気鋭の私にまかせなさい。農業用アルプと経営用アルプを調整・作成するわ! 」


「おお! そんなこともできるんだ。 さすが天才! よろしくお願いします」


タツマとサナエさんの会話の結論から、アルプによる農耕器具操作の検証が始まる。


会話が終わるとアルプから農機具に自らをインストールさせてほしいとの要望があったので許可をする。


インストール直後に巨大な農機具が急に動き出したのは驚いたが、農機具の移動を禁止として近くに人が来た場合は事情を説明すること条件にアルプの興奮も一旦収束する。


農耕具の操作の方は何とかなりそうだ。

あとは農業計画や経営を含めたシステムは、サナエさんに任せよう。


タツマ達はアルプを残して一旦カーゴに戻る。

AIでも興奮することがあるのか。まぁ新しい環境での作業だからな。


―― 知意識生命体だっけ? 新しい事に興奮するねー案外、人間染みている感じもあるかも。

帰り道のサナエさんとの会話は、完全に仕事の話になっていた。


「とりあえず、少し時間を頂戴。現在のシステムをベースに型違いを作るつもりだから」

カーゴベースにつくとサナエさんは、その言葉を残して自分のカーゴに入っていく。


さてと、農業運営の自動化ができるまで、重機の配車計画とアルプの耕作スケジュールを組まないとな。 各エリアにあてる従業員は、ビャーネ社長に計画を立ててもらっているかいいとして――。


そんな次の工程を考えカーゴに入ると、携帯端末にメッセージが入る。


<緊急事態です。直ぐにプロメンテ社に来てください>

ビャーネさんからである。


――何かあったのね。折角ここ数か月順調だったのに。


ネス邸に向かう。


門番のトークンが顔を確認すると、トークンがドアを開けてくれる。


いつもの客室のドアをノックしている最中に、サナエさんが邸宅の入口から入ってきた。

いつものぶかぶかの服装の格好だ。


ふふふ。こっちもこっちで元気いっぱいって感じだね。

「……何よ」

「別に。さっ行きますか」


ビャーネ社長が扉を開き中に招き入れられる。

テーブルに座る前に口を開いてことの顛末を話し始めた。


「お待ちしていました。早速ですが、鉄道設計班が盗賊? に襲われまして」


「盗賊? 何がとられたの」

サナエさんが椅子に座りながら応じる。


「いや特に取られたものもなく、軽いけがで済んでいるんですが、社員を開放する際に、これ以上の事業を進めるには筋を通してもらうとの脅しを掛けてきまして」


「その対応の相談ってところ?」

今度はタツマが応じる

「はい。 直ぐに対応しないと思いまして」


かなり焦っているようだが、今までこのような事態が無かったのが不思議なくらいだ。

莫大な金額が動いていれば、そんな輩が出てくるのが当たり前だ。


「おお、久々の取りもの、白翼の騎士団の出番だね」嬉々としている。

「なるほど。対応方法ねー」


制圧の前に相手の素性が不明なのが、非常に気になる。


「あの……お二人は、あまり驚いていないように見えるのですが」


「この程度は想定内ですよ。ただ、落としどころが難しいので」

「えー。 制圧しちゃえばいいじゃん」


レーベ(サバエア)やヘスベリア(キンメリアの港町)でかなり暴れたからね。

それに宇宙海賊に比べれば、もめごとクラスだけど。


「それは簡単だけど、そうじゃないんだなー」

「またー、見せしめは重要だと思うけど? 」


相変わらず怖い考え方のサナエさん。

奴らを叩いて見せしめにすれば商社プロメンテに逆らう組織は、一時的にはなくなるだろう。


しかし、逆恨みされヘスベリアへの長距離鉄道を爆破や妨害される可能性もある。

長距離鉄道の安全の担保をしたいところ。殲滅して周辺から恨みを買うのは早すぎる。


――とりあえず、ゴロツキの正体を突き止めるところからだな。


「では、動きますか。 鉄道設計班は、事件解決まで今までのデータ整理など内勤での業務を進めておいて下さい。ケガをした人への休暇や保証もお願いします」


「わかりました。よろしくお願いします。 因み襲われた時の状況とケガをした社員の報告書です」


タツマがそれを受け取り、両名が部屋を出る。


「タツマ。 どうするの? 」

「ゴロツキであっても事情があるかもしれない。少なくとも従業員に傷つけていないようだし」

報告書を見ながらタツマが回答する。


「さっき軽傷者がいるって、言っていたけど? 」

報告書をサナエさんに渡す。


「社員の軽傷は、驚いて転倒しただけのようだ。 少なくともこの連中は、犯罪に慣れていない感じがする。 それにタダの脅しに対して、命を奪うのは違うだろう。 それに、トークンが3体いたとの報告も気になる」


トークンがいれば、無茶な作戦でも遂行が可能な場合がある。しかし、彼らは、そのトークンを持っているにも関わらず、脅しだけで、人質もとらず社員を見逃している。


これをどう考えるか……。


「じゃあゴロツキの身辺調査ね」

「そうなるね。 分かってきたじゃない」


「新進気鋭ですからね」

彼女は胸をはり、満足げに答える。


                      *


その後、数日をかけて調査を実施する。

鉄道班への聴取や地元への聞き込み、ゴロツキの正体解明にあたって朧気ながら見えてきた。


分かってきたことは、ヘスベリアからの流れ者のようであること。

そして、彼らは、職にありつけなかったこと。の2点。


おそらく、プロメンテの大型事業があるとの噂でこっちに来たのだろう。

といっても我々もスタートアップだ。会社としての収入がない。


新たに雇う資本もないので追い返されたので、腹いせか生活苦のどちらかが犯行の原因になるだろう。

そうなると、彼らは犯罪素人同然と見ていいだろう。


しかし、金に困っている者が、トークンを3体も保有できるだろうか。 トークンは、デフォルトでも最低1体30万マリベル(300万円)の代物である。


――何か裏があるのか? 根城を探し出し、事情聴取といきたいところだが。


作戦は2択。

襲撃か交渉かのいずれかだが、決定に際しての根拠がない。


戦力は現時点ではこちらが有利に思えるが、実際の相手の戦力を把握していない。

安易な考えで敵に姿をさすのも、戦闘を仕掛けることも控えるべきだ。


「犯人の身辺調査の後、行動を決定する。 アルプまずは奴らの根城の散策だ。 可能性のある地域を絞ってくれ」


『了解です』



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