表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
3章 火星着星
16/52

日々労働

長期休みを確保して、人生で初めての悠々自適自適の時間を手に入れたタツマ。

自由の謳歌に期待を膨らませるが、彼の縁がそうはさせないと立ちはだかる。


--- 6か月後


長期休みが得られる……と思っていたころもありました。


「さーて、みんな。 今日は、農道の路床改良の工程だ。まずは重機による床掘だ。重機班は、砕石が来る前に工程終わりにするぞ。 本日も安全に!! 」


「今日も安全に!! ヨシ!! 」


タツマは、いま商社プロメンテに雇われて工事現場にいる。

重機班に属して床掘作業の真っただ中である。


宇宙を駆ける惑星間貿易商からマールス(火星)で穀倉地帯の区画整理や農道補修に従事している。


「タツマさん今日も頑張っていますね! 」

重機を操作終了後、同僚から声を掛けられる。


「まぁね。 稼がないとさ」

「若いのに――奥さんにも働いてもらえばいいのに」


「ハハハ……」

タツマが、愛想笑いでその場をごまかす。


「でも、あんな綺麗な人が嫁さんで羨ましいよ……」などなど


あまりの周囲への染まり具合により、商社プロメンテオーナーであることを知られずに普通に現場で働くタツマの姿がそこにはあった。


どうしてこうなった? どうしてこうなった?

いやおかしくない。


いや働くことはいいとしてもなぜ現場? 商社プロメンテの持ち株会社のオーナーだよ。

椅子に座って投資戦略を考える立場じゃないの?


でもまぁこっちの方が、あっているかも。体を動かして、自然を感じながらの労働。

結構すがすがしい。襲われる危険性のない仕事がこんなにもいいものとは。


このような状況になったきっかけは、サナエさんだよ。


*** 回想 ***

場所は、商社プロメンテの事務所になる。

ビャーネ(ネス氏)さんは、実務作業の段取りで忙しく動き回っている。


今は、その手伝いにアルプも貸し出している。

そのため丁度、タツマとサナエさんの2人切りで事務所にいる状態になる。


「タツマ。とりあえず、この投資の成果がでるのは、1~2年後だけど。あんたそれまで何する気?」

サナエさんが、それとなくこちらに話を振ってくる。


「うーん。とりあえず、このカーゴ車を使っての物流業でもしようかなって思っているけど? 趣味も兼ねてエリシウムとか行って見たいし」


「働かざる者に食料はないわ。 働きなさい」

「だから、物流業を――」


「新規事業で現場は。 人手不足なの。 行ってきなさい」

サナエさんが、テーブルに一枚の社員証を置くと、それをタツマが、覗き込むように確認する。


<……農工部 工事課 タツマ・ヒルベルト>

「何これ? えっ……? 工事現場に出ろってこと? 」


「そうよ。 稼いできなさい。 ネス社長に私が話を通したわ」

「いやいやいや。おかしいでしょ。分野が違い過ぎるし」


「黙りなさい。 資本家気取ってんじゃないの! あなたは、労働して少しは投資を回収してきなさい」


ムカッ

「じゃあ。 サナエさんは何するのさ。 現場で働いてくるんだよね! 白翼の騎士団の活動とかなしだからね! 」


タツマもサナエさんに負けずに食って掛かる。


「私はヒルベルト商会の仕事よ。 前会長ダイゴから直々の案件があるの。 それなりのものを貰っちゃているしー」


「何なんだよ! 案件って」

「それは、 秘密です。 契約者からの情報は公開できませーん」


正論で返されると弱い。

そして、いつもこのパターンで負けるのが形式美になっている。

***回想 おわり***


でっ。口論で負けて、今に至るわけだ。

いつも一緒いるから、夫と妻の関係になってしまっている――


マールス(火星)にきて12ヵ月が経過しようとしている。因みに火星は24か月で1年なので。

マールス(火星)では半年になる。


これでプロメンテの状況を改善したらトリュフィナ(議員)さんの“地域の問題を解決して欲しい”との希望を叶えているわけだが、これで何か変わるのか?


たしかに悪政でボロボロになった土地の復興事業になっているけど。どうなんだろう?


しかし、恐るべきは、タニアの智謀か。一国の政策を引き金にして、戦いもせずにキンメリア大陸における各主要港を押さえることができたわけだ。 大した人物がいるのだろう。


まぁ私にとっては関係のない問題。これが終わればまた宇宙かな?

耕作地の傾斜に腰を下ろし、空を見ながらとめどなく考える。


携帯端末が点灯した。


メッセージからルヴェリア(サバエアの工業地域)から大型農耕器具が到着したようだ。

さすが、トリフィナ氏。 その権威をいかんなく発揮しているようで。


取引のない商社プロメンテからの大型納入を成功できたのも、エリスの護民官の信頼のお陰である。

取引に信頼の2文字はやはり重要であると改めて感じる。


耕作地の粗の補修も種まきまでには間に合いそうだ。

大型機で一気に土質が変えられる。これから耕作が始まるのか……。


ネス社長からメッセージもそれに続く。

<農耕器具の運用をお願いします>


どうやら、次は建設重機から農耕器具に乗り換えのようだ。

本格的に農業に従事しないといけない雰囲気になってきている。


このまま、田舎で農業を中心としたスローライフを送るのも意外にあっていそうだな。

転職も悪くないかも? 


ぼんやりしながら工事の中休みが終わっていく。


--- サナエさんの独白


ダイゴからの要望であるシップマスターセレンの症状改善の研究は行き詰まっていた。

気づいていました? 見るたびにサナエさんは、タブレットをにらんでいました。


論文を漁って、仮説を立てて、シミュレーションの考案、実施していた。


しかし、12ヵ月たっても成果は出でず、悶々とする日々を過ごしていた。


プロメンテ(穀倉地帯)来る途中もヘスベリア(港町)にいるときもレーベ(サバエア南部の都市)にいるときも。


とにかく結果が出ない。

「あーもうダメ。 私でも無理」


AI細胞への精神薬の投薬は、依存症や能力低下に通じる。

AI細胞への情報量流入制限は、出力の精度の低下を招いている。

AI細胞の増加では、特に変化なし場合によっては状況が悪化する。


シミュレーション上、すべてアイデアがとことんまで弾かれる。

シミュレーションと実験は違う? しかし、彼女は直観的に同じであると感じている。


恐らく実験しても近い結果しか出ないと感じる。

そもそも有機AIの論文事態がほとんどない。あっても失敗でした、無理でした 報告ばかり。


この世界でもまだ未知の分野であるため、普及していない最大の要因になっている。


『無理ですかね』

スピーカからセレン(シップマスター)の音声が聞こえてくる。


「モーわかんない。情報が発散して、全然収束していかない! どーなっているのよ! 」


とにかく悩んでいる。

タツマを工事現場に出したのも、セレンのことで感づかれるのを恐れたからだ。


あの人の洞察力は鋭すぎる。この状況はセレンと1対1になる場合が多い。

であれば何れ気づく。気づいたら地球に戻って研究機関での解析を依頼してしまう。


目の前の面白い研究を取り上げられるのは、本意ではない……。


『マスター。 紅茶です。 一休みしては如何ですか』


相変わらずのアルプの気遣いに感謝。

アルプはその有機AIと通常とのハイブリットで性能を向上させており何ら問題なく稼働している。


アルプを見ながら、完全有機AIの通常利用の道のりの長さを実感せずにはいられない。

『サナエさんはキンメリアの生まれでしたが、気晴らしに故郷には帰省しないのでしょうか』


スピーカからセレンが質問してくる。

サナエさんが問診をしながら症状の解決を図るため、設えたモノである。 


画面にはハッピースマイルのような映像が映っており、発現した内容によって表情が動くように設計してある。


「あんまり両親との仲よくないし」

『天才科学者であればご両親の自慢の子供だと思いますが』


「自慢ね……。まぁある意味自慢かもね。自分達の自尊心は高まったじゃない」

『そんなことはないと思いますよ。 帰省してみれば如何でしょうか? どのみちこの状況が当分続くだけでしょう』


「私はさー。子供の時からちょっと学習能力が他の人と違っていたの。いわゆる天才児っていうやつ? その結果、子供のときから周囲から妬みを買ってきたわ。


逆に両親はさ、そんな子供社会はどうでも良くて、成績のみを気にしていた。ペーパー試験の結果のみでよければ喜んで。悪ければ怒鳴られる」


何かを吐き出すように感情を表に出してしゃべりだす。AI相手だと心を許しているのだろうか? いや、セレンが相手だからなだろうか?


「だいたい6歳(地球年齢12歳)で10歳(地球年齢20歳)の講義に着いていけってのが、無理な話でしょう? でもやったけどさ――及第点だったけど。


で8歳(地球年齢16歳)で大学の教育課程をすべて完了して10歳(地球年齢20歳)で研究室をもったのよ。


大人の世界に入るとさらにきつくなってきた。才能あふれる若い天才科学者?

もう嫉妬の嵐よ。話すこと全てに揚げ足を取るような連中ばかり。


だから、自分の才能を使ってこのアルプを作ったのよ。何でも気軽に話せる話し相手としてね」


マールス(火星)において、潜在的に忌み嫌われているAIを彼女が信頼しているのはそこから来るのだろうか? 


彼女が吐き出し終わった後に、セレンが、話始める。

『成績ばかりしか見てない両親に嫌気がさしたと? 』


「そうよ。 私は学習より外で体を動かす方が好きなの。友人としゃべって騒いでそんな人生がいいに決まっている! 」


『人生論は別として、貴方もここの住民と同じでないでないでしょうか?』


「ハァァー何言っているの! 」

言葉に怒気がこもっている。


『あなたは既に多くのものを手に入れている。自分の歩きたい人生を歩けると思いますが? 少なくとも保護されるべき幼子ではない。幼年期からの思考の固定化で視野が狭くなっているだけと見受けられます』


セレンは一拍を置く。


最近は、かなり冷え雪もちらつくが、それなりに穏やかな日が続いている。

労働日和で工事も捗るとかタツマも言っていた。動くと熱くなるから、寒いくらいがちょうど良いとのこと。


一作業員としても優秀らしい。研究のために追い出したはずなのだが、環境適応能力が高いのか、今では工事チームのリーダーだとか。


荒れた耕作地も 商社プロメンテにより整理が進んでいる。


一拍おかれる時間でそんな外の風景を見ることで、一瞬上がった頭の温度が、平常に戻っていく。

故に彼女はセレンの会話内容に反論しない。


『長い間、一定の環境に置かれると、思考が固定化されるのは仕方がないこと。プロメンテの住民しかり、あなたもです。 


客観的に見れば、地位 対面 など狭いことにこだわり過ぎていると思います。世界は、宇宙は広いですから。 なんせ3つの惑星に住めるのですよ?


過去の自分ではなく、未来の自分に目を向けては、如何でしょうか? 』

サナエさんから怒気が消える。


『もっとも、最近の。特にマールス(火星)についた後のあなたは随分と自由に生きているように見えますが? 』


「……」


『まぁ。無理に里帰りするなら、私の方に注力して頂きたいです。 私も早くこの症状を解決して欲しいので』


「随分とお喋りなAIね」

『そうでしょうか? 他のAIと比較したことがないので』


「ふん! まぁいいわ。 気晴らしになった」

『それはよかった。 いつでも話しかけてください』


アルプより高性能なだけはある。それなりの経験者の様な返しは、人と喋っている感じすらする。

その上、AIであるため、裏切りも情報漏洩ないため安心して胸の内を話すことができる。


揚げ足を取られず、相手に勝つ。

それが、今までの会話の状況であり、格闘技のようでもあった。


しかし最近、タツマも含めて全く異分野の人間との会話で気がまぎれることもある。

考えが整理することもある。 今回のような例えAIであっても……


(色々な意見を聞けって教訓なのかしら――様々な異なる意見、違うからこそ、別なものが生まれる。同じ環境にいては、無理よねー。


……違うから……か。 全く違うAI細胞を入れ込むとか……。 違うAI細胞を同じシステムの中に入れたらどうなるのだろう? )


「やってみる価値はありそうね。セレン。 貴方のDNA情報を出せる? 」

『可能ですが、何をするつもりですか』


「全く違ったAI細胞を同じチェンバーに入れた際の状況を確認してみたいの」

『了解しました。データを転送します』


「さてと! ダメ元感が強いけど。 シミュレーション準備に取り掛かりますか! 」

多少、やる気が出たサナエさんが再び業務を開始する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ