農地奪還
プロメンテに戻って半月が過ぎた。
ネス邸の一角でアルプとタツマが籠りっきりで計画の詰めを行っている。
アルプにもプロメンテの法律や情報整理を手伝ってもらっている。
『タツマ。農家同士の争いで民事調停を行う場合、無料で申し立てができます』
農家には何かと特典が多い。
それを聞きタツマが、プロメンテの法律書を開きながら調べていく。
「なるほど――プロメンテの法律だと農地をもっていたら農家だから……。 いいね。使える」
サナエさんが怪訝な顔で、
「あなた※スラップ訴訟でもやる気なの? 」
※強者が弱者に使う、嫌がらせ、見せしめに行う訴訟手法
「失敬な。 農家として役割を果たしてくださいとお願いをするだけですよ。それに調停です。裁判ではありません。 両者の言い分を聞いて折衷案をだしてくれるのです。
法的な根拠に基づいてね。今まで放棄していた迷惑料もこみで請求する予定だけど」
それに裁判では金がかかるし。
「なんか、すごい悪い顔になってるわよ」
ワクワクするからね。
「ネスさんのリストは――」
『こちらです』
アルプがデータを送って来る。
ざっと1万世帯の農家のうち約6000世帯が都会住みの住所ですかー。
いいねーやりがいがありそうだ。
「よーし 最後の詰めにいきますか。ネスさんと協議しましょうか」
--- ネス邸客室
このところ穏やかな日々が続いているようだ。部屋の中は暖房がなくても温かい。
さて、農地収奪法から5年。プロメンテの生産高は、プロメンテ内を賄うぐらいしか生産されていない。
「さて準備はまだありますが、計画の説明をしますね」
丸テーブルに相変わらずの3名がいる。
「よろしくお願いします」
ビャーネさんに第一段階目の事業計画書を手渡す。
概要をサクッと説明していく。
「まず、プロメンテの農地を持っている都会住みの者に対して、ちゃんと農家をしてくださいとの連絡をします。そのために各農地が荒れている証拠の画像を用意してください」
「なるほど。われわれもしっかりと作物を育ててもらえれば何も言うことはありません」
「しかし、恐らく多くの者は、農業なんてしないでしょう。土地が欲しかっただけなんだから。そこで裁判所に民事調停の手続きを実施します。
因みに農家同士の争いに関しては、無料で申し立てできるとのことです。
そして、プロメンテの法律では、農地所有者は農家に帰するのでこの周囲の土地所有者は、すべて農家に属します。 なので、弁護士料の費用負担も軽くなります」
「……」
ネス氏は黙って聞いている。
「その際に今までの迷惑料を請求します。雑草や害虫被害への対応を加味して、1物件あたり50~100万(500~1千万)マリベルを想定しています」
ネス氏の顔が曇って来る。
「……本気ですか? 」
「ええ。 そして恐らくですが、彼らは、金を払わないし農業もしないでしょう。 そして、この地を訴訟の土地にします。 厄介な地域になりますよ」
「……」
「しかし、長期間にはならないでしょう。裁判所からの召喚状が届いたのち、ヒルベルト商会が各所有者に土地を譲ってくれませんか?
プロメンテで農家したいんです。 でもお金ありませんと提案して回ります」
「……ただで土地を手に入れる気ですか? 」
「商社なんで。 儲けが第一ですから。 これが、農地を格安で取り返す計画です。質問ありますか? 」
「いえ。そうですか。 裁判ですか。 だから弁護士ですか」
調停ね。
「では、ここの住民に声をかけて画像の提出をお願いします。手続きはこちらでします。計画に取り掛かりましょう」
さて、土地の取り戻し計画第一段を実施しますか。
--- 裁判所からの民事調停のお届け
絶対貰いたくない、面倒な不幸の手紙が所有者に届くのは、タツマの説明後、暫くしてからだった。
調停だから出席しなくても不調で済むが、その後の裁判での慰謝料の減額なんて一切、認めず増額するとの文言を付けてやった。
不調に終わりしたのも向こうだし、印象悪いだろうし、まず勝ち目ないよね。さぁてどう出る?
***
プロメンテ・シティ地区の様々な場所で悲鳴が上がっている。
“はー!!裁判所からの調停への招集令。金を50万マリベル払えって。なんなんだこれ”
“ふざけるなよ。あんな田舎で農業しろって!?しないと100万マリベルってなめてんのか”
“やだやだやだ。田舎で農業しないとお金払えなんて。ひどい。私がなにしたっていうの?”
***
恐らくこんな状況でしょう。君たちも土地の人に色々酷いことしているんだけどね。
さて、3日後ぐらいにヒルベルト商会からお手紙が届くはず。
これから各弁護士さんに労働してもらいますよ。
一人600人程度がノルマになる。各人の奮闘をお願いしますね。
--- 6か月後
「ようやく移管の手続きが終わりました。 大変でしたよ」
弁護士さんもぐったりモードだ。
しかし、それなりの報酬で契約しているから問題ないでしょう。
「これがヒルベルト商会への土地譲渡の契約書です。 税金の管理は、ヒルベルト商会でお願いします」
「了解です」
約6000通の土地の契約書が目の前にある。それにしてもすごい量だ。
「6000通ってすごいわー」
「アルプ。 念のため全部確認して。 ネスさん一部屋借りますね」
『了解です。対応します』
「わかりました。隣の部屋をお使いください」
「サナエさんも契約書の量が多いので、アルプを手伝ってもらっていていいかな」
サナエさんも何かを察してくれたようで素直に了承してくれる。
「はーい」
アルプとサナエさんが契約書を持ちながら隣の部屋に向かっていった。
弁護士さんも一通り協議が終わると、帰っていった。
やっと一仕事が終わった感じになる。
とりあえず、完了となり、ネスさんから出されたお茶を飲みながら一息をつく。
「さて、ネスさん。 とりあえずこれの土地を皆様に返せば依頼は終わりということでよいでしょうか」
「……」
「どこの土地を誰に返すかは、そちらで決めてください」
「あの……」
「なんでしょう? 」
「もうしばらく。 こちらにいてくれないでしょうか? 」
「何のために? 我々もヒルベルト商会の仕事がありますので。 本来はお金をもらっての業務を、完全にボランティアですからね。 といっても掛かった費用は、後程トリュフィナ(議員)さんから取り立てますけど」
「恐らく、この地を返してもらっても、今の住民では、もてあますだけでしょう」
「……」
「わかっていたんです。 今の住民ではどうにもできないと、今までいた住民でもなにもできないことを。 人は楽な方に流れますから……。
以前の農地所有者は、目先利益のみで農作物が収穫できれば良いとの考えしかない。 一方でプロメンテの民は、言われたことをしていれば当面の食事には困らない。
農機具への投資も効率的な農業への転換もしない。それでも利益が出てしまっている。
豊かな大地であるため、そのサイクルが可能だった。
豊かであるが故、双方の怠慢を生んでしまっていたのです。 しかし、私にはどうすることもできなかった」
「それで、ネスさんの希望は何でしょうか? 」
「豊かな大地を再び見たいのは事実です。何とかならないでしょうか? 」
「条件があります」
「どうぞ」
「約6000件の契約書はヒルベルト商会の所有とする。一方で、この地にヒルベルト商会の100%出資で会社を開きます。 社名は――“商社プロメンテ”でいいですかね」
「はい」
「そして、ヒルベルト商会は、土地を商社プロメンテに貸し出します。
商社プロメンテの事業は、巨大農業をとします。さらに農業の効率を上げるため、住民に更なる土地の拠出をお願いしたい」
「……」
「代わりに、大型の農機具代は、商社プロメンテで整備します。 追加でネスさんの私鉄を 商社プロメンテ に譲渡してください。 商社プロメンテ の社長は、ネスさんとします。 そしてヘスベリアへ鉄道延長経計画を実施します。
これが第二段階目の事業計画書になります。総投資額200億マリベルです」
※2000億円の投資
第二段階の事業計画書をネスさんに渡す。
「……すごい計画ですね」
事業計画書を読みながらネス氏がつぶやく。
「事業計画遂行にあたっては、地域住民の協力が必要です。もし無理なら、この件からおります。この金額は、安くありませんから。
農業従事者は 商社プロメンテ の社員として雇います。しかし、余剰人員も発生しそうです。
そこで、生産地の利点を生かした食品加工工場の設立も計画に入っています。穀物や加工品の輸出先は、ヘスベリア(港町)とレーベ(サバエア南部都市)を中心としたサバエアへの大規模輸出を行います」
説明をしていく。
もし、本当に実行するのであれば、ヒルベルト商会の内部留保をかなり吐き出すことになる。失敗はできない。
たださえ、ハッピーカムカム号の支払いでいっぱいいっぱいなんだから。
いやその前に、本当にハッピーなのか? あの船?
成功した場合、3年(地球歴6年)で投資金額を回収できるとの試算がでている。
おかしいよね。また社長1年目だよ。何でこんな社運を左右する投資案件処理しなきゃいけないのよ。
因みに土地の契約書が整う6ヵ月間は、追加調査の連続だった。
ヘスベリアへの食料卸しの開拓・レーベの販路開拓・鉄道施設の事前許可
特にレーベでの販路開拓と説明では、キンメリアの国とのことで疑われたけどヘスベリアを介するとすぐに打ち解けてくれた。
あの爺さんヘスベリア旧市街地の顔役とは、どうりで裏事情に精通している。
鉄道施設の許可もあの爺さんのお陰で円滑に進んでいる。
サバエア の輸出は、小型船を用いる。いきなり大型船を用いても大量の食料が増産できるとも思えないし。まずはどれだけの商売ができるかだな。
事前の根回しは済んでいる。この6ヵ月間、とにかく働いた――無給だけど。
加えて、サナエさんが行く先々で義賊“白翼の騎士団”とか言って余計な問題に首を突っ込み、問題ばかり起こしていく。
最終的なしりぬぐいは、全部こっちに回ってくる形式になってしまった。
世直し義賊であればヒルベルト商会を助けてよ。支払いでアップアップなのよ。我が会社。
世直しより会社の立て直しが先じゃない?
まぁとにかく。ここまでの段取りは作り上げた。あとはここの住民がどう思うかだ。
「では、商社プロメンテの社長に最初の仕事を与えます。ネス社長。本計画を住民に説明してください。そして、周辺農家から事業の了解を得てください。
期間は1ヵ月とします。もし、了解が得られなければ、すべて事業計画を破棄し、私はここを立ち去りますので」
「わかりました。対応しましょう。この地域のために」
使命感と意欲にみなぎっている。その心意気をサナエさんにも持ってほしい。
--- プロメンテ・シティ地区・執政官庁舎
シティ地区の一等地に執政官の建物がある。それなりに厳か、かつ豪華に作られている。ヒューリ・オーレ。改革派との触れ込みでプロメンテの執政官に当選している。
プロメンテの政治は三頭政治である。しかし、彼に異を唱える執政官はいない。土地収奪法案があっさりと議会を通過したのもこのためだ。ぽっと出の執政官に歯向かえない理由。
弱みを握られているらしい。タニアの後ろ盾を得て、盗聴・盗撮・暴力・買収その他もろもろで、各執政官の不正やスキャンダルを押さえている。
そのため、議場(3人が公開で討論する場所)も機能していない状況だ。
彼の仕事ぶりは?客観的に見れば、何もしていない。
しかし、行政を行っている風を装うことには長けているようだ。
口先だけで対応している政治家そのものだ。しかし、住民は彼を信頼しているようだ。
その雰囲気を信用しているのだろう。
一人の男性が執務室をノックする。
「誰だ~プライベートタイムだぞ」
「リーラインです」
「入ってくれ」
男性が、執務室に入っていく。
執政官は、キレイ目のコールガール達と一緒に酒を飲んでいる。
久々に上等な酒が手に入ったと上機嫌だ。
その光景を見ながら半ば呆れつつもいつものビジネススタイルを崩さない。
「ヒューリ閣下」
「おう。どうした? 」
「プロメンテ・農業地区においてヒルベルト商会なる商社が、広大な農作地を手にいれているようです」
「それで? 」
「いえ。 その――よろしいのでしょうか? 」
「別にどうでもいいだろ。もうあそこの土地は用済みだ。 好きにさせとけ」
「承知いたしました。 それでは」
男は部屋を出ていく。
気分がいい時に仕事の話とは興が、そがれると思いながら彼女たちとの会話が弾む。
彼女たちと会話、酒を楽しんでいると、今度は携帯端末が光る。
「また、イスペリアからの指令か」男は呟く。
(白翼の騎士団を調査しろ? なんだこれ……)
よく分からないと思いつつ、“いつもの工作員を送り込むか”とつぶやく。
今日は、プライベートタイム中に仕事の話が多い。
「まったく。 うまい酒がまずくなる、明日だな明日」
彼は酒が残ったグラスを置き執務室から彼女たちと一緒に部屋を出ていく。
因みに彼が飲んでいたのは、1本10万(100万円)マリベルもする至高の一品である。
--- 約1か月後
約束の期日になった。1ヵ月間何をしていたかって?
ヒューリとか情報収集ともろもろの対応よ。
事務所は、コンテナを追加購入してサナエさんと私用の部屋を設けた。
トレーラーハウス群のようだ。さて、そろそろ期日になる。ネス邸へ向かいましょうか。
ネス邸に向かっている最中に後ろから
「ちょっと置いていく気!!」と声が聞こえる。
彼女といると退屈はしないが、休まりもしない。“そんなわけないじゃないですかー”と雑談を入れつつ、玄関に向かう。トークンが門番をしているので扉を開いてくれる。
玄関を入っていつもの客室に向かう。客室脇には会社名が掛かっている。
暫定的にここが商社プロメンテの事務所になる。一間の事務所。
スタートアップとしては、上等だろう
ノックをすると“どうぞ”との反応。
いつもの丸机のダイニングテーブルにネス社長が座っている。
「さて、我々の事業計画に対しての反応について、結果を聞きましょうか」
タツマが口火を切る。
ネス社長は、報告書を出し口を開く。
「地域の土地を他人に利用されるのは、屈辱的との意見もありました」
「そうでしょうね」
「しかし、自分達の怠惰が引き起こした結果であることも理解させました」
「なるほど」
「結論から申し上げます。 商社プロメンテ に事業をお願いします。との意見で集約ができました」
「それはよかった。では、これで準備に取り掛かれますね」
「タツマさん。よろしいでしょうか? 」
「なんでしょう? 」
「このようなことをしなくても、一方的に事業を開始することは、可能であったと思います。なぜこのようなことを」
「会社経営としては、事業を地元住民に邪魔されては、元も子もないというのがあります。一方で、一人の人としては、自分たちの行動を見つめ直してほしかったんですかね。
確かに土地収奪法は悪法以外のなにものでもないでしょう。しかし、ずっと法律の責任にしていたら前に進めませんからね。
他責にするのは簡単ですが、本当にそれだけかと。考えてほしいと思ってね」
「いつもながらの洞察力恐れ入ります」
「傾きかけた会社のただの若造ですよ」
カッコはつけたものの。はー結局、内部留保の20億リドルが飛んでいくのかー。
まぁ仕方がない。農業で本当に儲けられるのか?人生ハードすぎるだろう。
--- 事業の開始
さて、住民の理解を得たので事業を開始しますか。
根回しをしているサバエアのサバ(工業都市国家)から巨大な農業機械の購入を実施する。
区画整理等の技術者もセットだ。トリュフィナ(議員)を通して対応させる。
10億マリベル。
製造から入荷まで半年なので、その間に商社プロメンテにテラファームの事業計画を立てる。また、人材の雇用と農地の耕作準備だ。
プロメンテとヘスベリア間の道路の整備計画。
鉄道延長計画も正式な許可が下りた。
150億マリベル。
設計に2年、建設には2~3年程度がかかるが、早速開始だ。土地の無償供与により金額が抑えられそうだ。ヘスベリア・プロメンテから人をかき集めて鉄道の建設にはいる。
工場の建設への設計と建設だ。
40億マリベル。
工場では原材料を加工して、食品を製造する。この辺りは、工場がないから個人店からの購入になるが、工場での大量生産を実施して食料を増加させる。
まったく。 お金って使うのは簡単だよね。
この金だって、宇宙海賊と命を懸けた戦いをして得た金だよ。
と軽く愚痴るが、ともあれ準備は整った。
しかし、どれも稼働までに12ヵ月以上かかる。
その間どうするか?
このカーゴ車を資本にして運送業でも始めようか。
それとも、長期休暇を楽しむ線も捨てがたい。
楽しむのであれば、あのコロニーであった墓地の管理者から聞いた、遺跡の島エリシウム散策、それともオリンポス山登山、タルシス三山でレジャーも考えられる。
人生で初めての長い休暇。 夢は広がるばかりである。
「さてと! 久々の好機到来! 冒険の始まりだ」




