アッカ攻略戦
--- マラム地域 オイフェ川の戦い
アッカとタミナを区切る地形的境界線、オイフェ川。 海に近い為、川幅こそはあるが、流れが穏やかなのが特徴である。
典型的な河口付近の特徴的な流れになる。
土手は高く降りると陸地側からよく見えない状況である。
この時期、この土地周囲はシダ類が覆われ茂っている。
川には、橋が掛かっており、両エリアの交易にとって重要なインフラになっている。 いざこざが起きる前は、アッカとの交易で頻繁に利用されていた。
最初に異変に気づいたのは、アッカの斥候であった。 進軍して来るタミナ車両の発見したことから事態が動きだす。
戦いの幕は、銃撃からではなく500名のタミナ漁港コミュニティ攻撃隊がオイフェ川を渡り、アッカ側に陣取ることから、始まった。
500名が戦闘キャンプを作ったことで睨み合いが発生する。
アッカからも1000名の部隊が到着し前線基地を作る。
タミナ側は橋を守るように布陣している。
---アッカ側 防衛陣地
アッカの司令部も慌ただしい。軍隊のようであるが、半農半兵。
そのため長が、前線に出向かないと部隊が動かない。
「司令官(アッカ農業コミュニティの長)。 斥候より“タミナ漁港コミュニティ”側は最新のコンバットスーツを身に着けているとの情報です」
「なるほど。 ケーネス・ファミリーの親父は、惑星間貿易商で仕事をしていたな。 そこでコンバットスーツを仕入れたのか……」
「恐らくそれで気が大きくなっているでしょうか」
「だろうな。 500人程度でこちらに攻め込んできている。 もっとも暗殺が失敗したのも大きいかもしれんがな」
「しかし、本当に暗殺は必要だったのでしょうか? 」
「エイストラ地区の動きがきな臭い。とくに、疲弊していた“ライムドタ”の動きが、近年活発になっている。 恐らく――大きな後ろ盾を得ている可能性がある。
このまま進めば、アフロディア大陸に全体に隷属という名の影響が出る。 それに対応するためにも東側でまとまる必要があるのだ」
「ならば、話し合いもあるでしょう」
「出来ると思うか? この地で」
「……無理ですね」
「屈服させるしか道がないんだ。 まぁ負けそうなら私の首を差し出せばいい。 それで奴らの軍門に下れ。悪いようにはしないはずだ」
「……」
「とはいえ、最初から負けるつもりもないさ」
司令官はオイフェ川周辺の地図を広げる。
「奴らがいるのはここだ。橋を守るような形で布陣しているが、車両を盾として塹壕を掘り進めながら、少しずつこちらに前進している」
「橋を守っているように布陣しているのは、兵站の確保でしょうか? 」
「恐らくな。 しかも橋を落とすにも守っている以上、厳しい。そこでこの陣全体への包囲戦仕掛ける」
「取り囲むのですか? 」
「そうだ。徐々に削り陣を潰しかない」
「なるほど」
「各隊に準備と作戦指示してくれ。明日の早朝に決行だ」
「了解です」
司令官の戦場の副指令官らしき人物が、指揮所の天幕から出ていく。 司令官は、戦況図を凝視している。
「アッカ側の兵力は、やつらの倍はいる。問題ないはずだ」
司令官の感想が洩れる。
---早朝
早朝の包囲戦を実施する部隊が移動する。 シダ類の藪に隠れて進行している。
しかし、彼らはアルプのバグドローンネットワーク内に気づかずに入ってしまう。 早朝の敵の動きがあった信号が、タミナ部隊への連絡が入る。
アッカ隊の包囲網が狭めてくる。
攻撃場所に着いたのだろうか。“アッカ”隊からの一斉砲火が始まる。
“タミナ”陣地は、塹壕戦を掘り、車両を盾に弾幕を耐えていく。
「耐えろ! ここが踏ん張りどころだ! ティルパの本体が到着まで耐えろ! 」
バルティスが部隊を鼓舞する。 敵がこちらを取り囲むまでティルパ達は動けない。 早すぎた場合、敵が散会し、包囲出来ない。
一方で、遅れた場合は、集中砲火を受けている中央陣地の部隊が全滅の可能性がある。 シビアな部隊運用になる。
射撃と迫撃砲で周囲は土煙が舞い上がり、車両は文字通り蜂の巣になっていく。
迫撃弾のいくつかは、空中で撃ち落とされている。
――流石、アルプ。 良い腕をお持ちで。
バグドローンから敵の動きを察知して、アルプより敵の動きが報告される。
『アッカ全軍! 前進速度が上がっています。 突撃体制です』
タミナの無線も情報が乱れ飛ぶ。
≪負傷者発生! ≫
≪後退させろ! くっそ敵さん張り切り過ぎだ! ≫
≪ティルパ! そろそろ頼むぞ! 長くは持ちこたえられん≫
バルティスからの指示も飛んでいるようだ。
“タミナ”側も反撃しているが、数が違い過ぎる。 倍の戦力での猛攻であるため、中央陣地の“タミナ”の部隊は、徐々に倒れていく。
突如として無線が入る。
≪パパ! お待たせ! 斉射! ≫
まさに囮部隊としては、女神のような声であったろう。
“アッカ”側は、背後からの予期せぬ攻撃に浮足立つ。
“タミナ”部隊の本体が、川に船を並べた仮設橋を作り、シダ類の茂みに隠れアッカ部隊の大外からの包囲戦を展開している。
斉射による攻撃により動揺した“アッカ”部隊の統率が緩む。 どうしても半農半兵であるため練度が問題になってくる。
包囲したと思ったら包囲されている状況であるため、“アッカ”側が防衛と包囲網突破のために粘ってくる。
本来であれば、絶対絶命で一致団結して包囲を突破する為士気があるところになる。 しかし、ここでアッカ部隊の一部が、タミナ側の攻撃陣の薄いところを発見し、そこから敵前逃亡が発生する。
こうなるとアッカ部隊は、攻撃組織の体をなさなくなり、あっというまに部隊の瓦解が進んでいく。
窮地に追い込まれている部隊は、一目散にその手薄の場所を目指して逃走を試みている。
≪タツマ。部隊の中に周囲を固められた人物を発見しました≫
≪了解だ……仕留めろ≫
一発の弾丸が対象者を打ち抜く。
≪沈黙を確認≫
≪全部隊に、オープンチャネルで準備したプログラムの放送だ≫
≪了解≫
暫くして、バイザーメット内部に放送が流れる。
≪アッカの方々に告ぎます。 我々は司令官を打ち取りました。 今なら降伏を認めます。 降伏するのであれば武器を捨てて、その場でうつ伏せにしていてください。 逃亡は、戦意ありとみなし攻撃の対象になります。 繰り返します……≫
放送後には、投降するモノと逃げる者がいる。 逃走者に対しては、背後から銃弾が浴びせられることになる。
逃げることで闘争心を失っているが、時が立てば反逆に転じる可能性がある。 早期に反逆の芽を摘むとのバルティスの案になる。
終わってみれば、最終的にアッカ部隊の半数程度が死亡することになった。
*
今は、アルプ・副社長・ティルパとタツマで戦場跡を見て回っている。 生き残りの有無と戦利品の有無の状況確認も兼ねている。
戦の後は、いつ見ても慣れることがない。 悲惨な光景が目の前に広がる。
コンバットスーツに穴が開き、大量の血で大地が濡れている。 頭部が無い物、胴体が無い物、死屍累々という言葉が、まさに当てはまる。
―― こんな旧型のコンバットスーツで我々に挑んでいたのか。
勝利で沸き立つタミナ部隊とは裏腹に暗澹たる思いがよぎる。
「副社長。 可能な限り彼らを弔ってくれ」
「あんた何言っているの! やり合った連中よ! 」
ティルパが、嚙みついてくる。
「それでもだ。 私が参謀を続ける以上付き合ってもらう。 嫌ならここまでだ」
「わかった――確かに伝染病も怖いかなら」
副社長が、意外に早く決断する。
「パパ! 彼らからの攻撃でこちらにも被害があったのよ! 」
ティルパが声を上げて諫めてくる。
「それでもだ。タツマ。 言い出したのは、お前だ。 もちろん、お前も手伝うのだろう? 」
「ああ」
「ティルパはしなくてもいいぞ。 俺達2人だけでもやる」
全くと言った顔を露骨に示しながら、ティルパはその案を了承する。
「はいはい。手伝いますよー。まぁ部隊の奴らが少し落ち着いたら呼んで来るから。どうしちゃったのかしらねー」
ぶつくさ言いながら、勝利に沸き立つ部隊へと向かっていく。
「すまんな。 まだ若いんだ」
「私と大して年齢が、変わらないでしょう? 」
「海賊退治で戦闘技術や船の操作を覚えてな。 この辺りでは負けなしなんだ」
「危なっかしいな。 傲慢は戦場で身を亡ぼすぞ」
「同感だ。それに我々のウェヌスの生死観は、といってもこの周辺の生死感になるが、死はそれ以上でも以下でもない。 死者を弔うことに関しての意識は希薄なんだ。 死に疎いといった方かもしれない」
「死に疎いか。それにしては、副社長は死者の尊厳を守るんだね」
「ダイゴと居れば、そんな気持ちも芽生えてくる……因みにできるところまでだぞ」
副社長が釘を刺してくる。
「こちらもそのつもりだ。 しかし、死体からの伝染病は怖い。 加えて交易路である以上、衛生面も必要と言うのは同意してくれると思うけど? 」
「まったくお前と言う奴は……」
こんな事は、衛生面確保には役立っている。 しかし、倫理面から見れば、ただの自己満足の偽善でしかないのかもしれない。
それでも少しでも自分の心に平穏が訪れるのであれば対応したい。
タツマがさらに言葉を継いでいく。
「それとアッカに降伏の余地を与えてくれてありがとう」
「こっちも死傷者が少ない方がいい」
「生存数は? 」
「穂量の数は、400名前後ってところだ。 取り逃がしたのもそれなりにいるからな。まぁ、生存は600名ほどだろうな」
「なるほど……アッカは、タミナに従いそう? 」
「勝者に従う。 この地域は、そうゆう地域だ。 恐らく問題ないさ」
しばらく、バルティスが口をつぐむ。 一旦の沈黙後、再び口を開く。
「この作戦のおかげで、タミナの死傷者もわずかで済んだ」
『15名の死者と32名の負傷者になります。想定をはるかに下回る犠牲だと思います。作戦の成果と考えます』
アルプが、集計データを回答してくる。
―― それは数字だ。 確かに2000名に対して50名の死傷者は少ないかもしれない。 しかし、争いが無ければ普通にケガも死亡もなかった。50名の人生は決して軽くないはずだ。
「嫌になるな」
タツマが呟く。
「それでも俺は、タツマに感謝している。この犠牲がなければ、俺達のコミュニティもタダでは済んでいないはずだ。 もしかしたらタミナの街中での市街戦すら考えられた。 そうすれば、住民の日常生活も維持できるか分からなかった」
副社長は、煙草に火を付け、空を見上げる。
「禁煙したんじゃないの? 」
タツマは、未だにバイザーメットは、取らずにいる。 銃も直ぐに反撃できる態勢になっている。
「宇宙船内は禁煙。ダイゴは嫌煙家。テラの禁煙場所が多いからな……」
「匂いで居場所がわかることもある。 戦闘で最もまずい状況だから、基本禁煙ね」
「分かっている……なぁ……生きるのは辛いな」
紫煙が空に昇っていく。副社長が言葉を継いでいく。
「戦のない世界が欲しいよな。 世界とはいかなくても“マラム地域”の南部だけでも」
「それであの地域? 」
「まぁな。 こんな状況が頻発しているんだ。 強いリーダーや組織が必要なんだ」
「なるほどね。それであの地域を征服か」
「前も言ったが征服でなく、安全な商業圏の確保だ」
「知っている……話は変わるけどアッカの現状把握は、迅速にお願い」
「調査はするが、どうしたんだ? 」
「斥候時にエイストラ地方の状況が起きてからアッカの長の方針が変わったと耳にしたんだ。
つまり、リスクを取っても アッカ自身も領土を広げないといけないと判断したわけだ。 できれば本人から聞きたいところだけど」
「……西側で異変が起きているのか? 」
「それも含めて早期に状況を把握する必要がある」
「また厄介なことを」
副社長が頭を押さえる。
「そう厄介だ。 先行部隊をアッカに入れて、早急に治安維持を図って欲しい。 街の安定は任せるけど、人的資源の消耗が発生している。食料確保のため人的手当をお願い。 兵站……食料確保は戦線維持に欠かせない要素になる」
「了解だ」
勝利の後こそが、行動の慎重さが求められる。




