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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
14章 東部小競合
102/107

静寂蠢動

--- 始動


バルティスの部屋でタミナ(漁港コミュニティ)の軍議が開催されている。

といっても4名だけになる。


バルティス(副社長)ティルパ(副社長の娘)、アルプ、タツマである。

ダイニングテーブルには地図が広げられている。


タツマが、作戦内容を示していく。


「まず、橋を越えて500名の部隊を川向うに展開する。アッカ(農業コミュニティ)部隊が1000名とすると相手は、自身らがダブルスコアと判断するはず。 結果、アッカ(農業コミュニティ)部隊を容易に引っ張り出すことができる」


「まぁそうなるな……」

バルティス(副社長)が怪訝そうに話に聞き入っている。


「船を用いた仮設橋により残存1500人をシダの茂みに隠れつつ、北の南に展開、アッカ(農業コミュニティ)が、こちらの500名を囲み始目ると同時に、こちらもアッカ(農業コミュニティ)部隊を取り囲む包囲を実施する」


挿絵(By みてみん)


「その間は、こちらの中央部隊は、猛攻に晒されるわけか……囮だな」


「……」

ティルパの眉間に皺が寄ってくる。 タツマの話は続く。


「敵に包囲されても500名は、その場に待機。 攻撃の拍子をとり、包囲中のアッカ(農業コミュニティ)部隊を包囲した1500名のタミナの部隊で攻撃。 ただし、包囲に穴を開けておく」


「敵を逃すのか? 」

バルティスの反論を無視してタツマは続ける。


「敵は有利と思っていたが、実は不利になる。 そうなればパニックに陥る。 しかし、そうなった場合、死地に道を作るために一致団結して果敢に戦い出す可能性がある。こちらとしては、それは困る。


故に意図的に逃げ道を作り、脱走兵を作り出しやすい環境を作る。 脱走兵は敵の戦意の喪失に大きく寄与するはずだ」


「なるほど」

「同時に彼らの指揮命令系統次第だが、前線に指揮官が要れば必ずそこから逃げる可能性が高い」


「同時に頭を抑える算段か」

「ああ。 これで対象は瓦解して組織的な行動不能に陥るはずだ」

タツマは、作戦内容を説明し終える。


「囮作戦じゃない! 」

ティルパが興奮し叫ぶ。


「そうだ」

タツマが冷静に答えていく。


「ふざけんじゃないわよ。 あたいの街の住民はみんな家族なんだ! 見殺しにしろっていうのかい! 」


「見殺しにはならいないさ。部隊の展開と拍子しだいだ」

「……」


バルティス(副社長)は黙って聞いている。


「それとも正面からぶつかるかい? 」

タツマが、別案を提示する。


「正々堂々とやり合うのが、我々の通りだ――」

ティルパが、胸を張りながら宣言する。


『それはどうでしょうか? この作戦では小を頼りに、大を生かす作戦です。 最終的に残る数は、多いでしょう。 正面からぶつかるより生存率が高いですね』

アルプからの指摘が入る。


「この作戦なら俺でも分かる。 確かに有効だ。俺が、囮の中央部隊の指揮官になる」

「パパ。 ちょっとまって。 それはダメ。 絶対ダメ! 危険すぎる! 」


「危険な場所だからこそ、部隊を鼓舞する人間が必要なる。 早めの救出を頼むぞ」


バルティスの目を見て、ティルパも反論をあきらめる。

「……いいわ。 乗ってあげる。 誰も死なせない。明日から部隊の調練を開始する」


ティルパはカリカリしながら部屋を出ていった。

部屋には、副社長(バルティス)とタツマとアルプが残ることになる。


アルプは立ち上がり、会議のお茶のカップを片づけ始める。

座ったまま、動かない副社長(バルティス)とタツマ。


副社長(バルティス)から口を開く。

「流石だな」


「所詮、人殺しの方法だ。 褒められても嬉しくない。 彼女。 聞いていたこの地域の特色と随分違うね」


「※1マラミズムか? 」


「ああ。 最初に聞いた時は耳を疑ったけどね。 彼女はそんな感じではなさそうだったので。 やはり現実とは異なる感じ? 」


「どうかな。 上の世代は未だマラミズム世代だ。 この地域の戦闘が多いのも死をそれほど悲観していないというのもある」


「……そう」

―― まじかー


タツマにも動揺が走る。 死を恐れない部隊ほど怖いものはないがここでは、論点からそれるので、話を進める。


「それにしても囮部隊に志願するのかい? 」


「ああ。どちらかが指揮する必要がある。 なにまだ死なないさ」

「相手の武装が知りたい。特に迫撃砲の有無は重要だと思う」


「確かにな。と言っても情報がない。調べてくるしかないな」

敵地への偵察か――。


アルプ共に寝床がある棟に向かう。


『迫撃砲があったらどうします? 』

「弾丸を打ち落とせるか? 」


『また、難題を。マスター並みに荒い使い方ですよ』

アルプが呆れながらの返事が返ってくる。


それを無視してタツマが訪ねる。

「可能? 」


命のやり取りであるため真剣そのものである。

『こちらの武装は? 』

「12.7mmの対物ライフルがある」


『やってみましょう』

「期待している」




---翌日


漁が終わった後の防衛隊の軍事調練が始まっている。 前線部隊と支援隊とで業務が別れている。支援隊は木材を集めて小型の船を作っている。


外から勇ましい声が聞こえてくる。

「3班展開おせーぞ!! 死にてーのか!!」

鬼隊長(ティルパ)からの(げき)が飛んでいる。


別部隊はコンバットスーツによる運用と慣らしを実施している。

そちらは、副社長が対応している。運用法からコンソール見方までの指導だ。


タツマは何をしているのか? 彼の向かった先は、気にあるオイフェ川の対岸になる。

コンバットスーツを着て戦場の下見 兼 偵察任務である。


スナイパーがいる可能性も考慮し、バイザーメットは装着中。

シダが多いので助かっている。


相変わらずのコンバットスーツの上には、道中合羽を羽織っている。

≪アルプ。バグドローンによる解析は? ≫

≪敵戦力は居ませんね≫

アルプからの無線が入る。


シダの茂みに隠れながらの移動をしている。

コンバットスーツがなければ、かゆくなりそうな環境である。


暫くするとオイフェ川が見えてくる。それなりの川幅がある。

タツマは川岸に降りて周囲を観察する。


橋が掛かっているが、いきなり車両だと目立ち過ぎるので、徒歩で先行偵察を行っている。

事実、斥候のタイミングが全く不明なため、車両を準備してアルプ伴に後方で待機している。


アッカ農業コミュニティの状況を調査するため川辺に降りる。

川岸におりると土手の高さがかなりある。


海が近いこともあり川の流れはそれなりに緩い。

―― この川向うがアッカ(農業コミュニティ)の領土か――


もちろん政府も管轄する自治体もない。 獣の縄張り程度の意味合いしかない。

川岸におりる陸地からは、土手により上手い具合に死角になる。


≪周囲に人はいません≫

≪了解≫


≪地理に詳しい人間にしてもらえばよかったのでは? ≫

≪そうもいかないさ。 おおよその地形は教えてもらっている≫


タツマとしては、初めての土地である。戦闘に必要な情報を掴んでおかないと部隊を危機に陥れてしまう。


土手の低い部分があるなあそこから川を降りて渡ってもらうか?


≪海が近いので川幅が広いですね≫

それも考慮して船を作ってもらっている。


≪タツマはどうするんですか? ≫

≪泳いで渡る ≫


マルチロール(多機能)スーツの本領発揮。水の中でも快適に泳いでいく。

対岸に着く。多少時間が掛かったが何とか渡り切った。


対岸を渡り切り土手を上がっていく。完全に敵の領内に入る。

≪アルプ。センサーはあると思う? ≫

≪センサー用無線通信はないです。しかし、指向性や有線では察知が難しいですね≫


事前のアッカ(農業コミュニティ)の情報は、農業が盛んであること、装備はこちらに近いとのこと。 加えてこちらと同じ平穏を望んでいることらしい。


そのため今までアッカ(農業コミュニティ)との間に争いはなかったが、コミュニティの長が変わったことで、こちらに侵略の手を伸ばしてきたようだ。


シダの中を進んでいく。


≪バグドローンのネットワークを使えば相手の位置も大丈夫そうか? ≫

≪問題ないですね。プロメンテの内戦を思い出しますね≫


≪あの時は1ヵ月籠りっきりだったよな――≫


≪遠方より斥候です! 道沿いに見えました≫

≪了解≫

鳴りを潜める。


それなりの時間が経過する。8分の1(15分)時程経過しただろうか

足音が聞こえてきた。


“コミュニティ同士の戦争ってなんなんだよ”

“世知辛いよなー”


“東方の貧乏コミュニティ同士が争ったところで、大した利益なんぞないだろう? ”


“同感だが、“長”の決めたことだ。それに、あの長が根拠なく動くとは思えない。 エイストラ地方の動きもあるんだろ? ”


“そんな遠い場所の動きが、この貧乏コミュニティに何の影響があるってんだ?”

“さぁな”


“それにまとまりたいのであれば、話し合いで決めればいいだろ”


“相手はケーネス親子のタミナだぜ。受け入れられる訳ないだろう。 それに変な妥協は、禍根がのこるからな。戦うしかないんだよ”


その反論に相方の斥候は黙ってしまう。 おそらく、それに対しての反論が無いのだろう。


“……はぁ。嫌になってくるな”


“同感だ。 まぁ少なくとも今日の軍事教練は、斥候業務で抜けられたんだ。 僅かながらの運はある。くよくよするな”


“あーあ。 軍事教練ばかりで耕作が進まねーし。 平和になんねーかな”

“しょうがないさ”


斥候は歩いて行った。


≪聞いている話とかなり違うんだけど≫

≪同意します≫


コンバットスーツ内の会話は外に漏れない。


≪どうにかならないの? ≫

≪それはバルティス(副社長)に聞いてみるしかないでしょう≫


斥候が、道を戻っていくのを確認する。

≪斥候が戻っていく。 車両を移動させてくれ。 一気に進むぞ ≫

≪了解です≫


斥候がいるとしても向こうもタダのコミュニティ。 それほど多くの人間を監視に廻せる余裕もない。


アルプが運転する車両は橋を渡って向こう岸からやって来る。

『お客さんどちらまで? 』


変なことを学習し始めているトークンである。




---アッカ 樹林帯

日が落ちて、周囲が暗くなる。 星とクピドーの明かりが周囲を照らす。

本来であれば、その幻想的な雰囲気に酔いしれるのだろうが、敵陣営の入っているため緊張状態が続いている。


車両だけあって移動速度も速い。


近隣に身を隠せる樹林帯を発見し周囲にバグドローンを張り巡らせて休憩をとる。


「通信は可能? 」

『いけます。どうぞ』


                 *** 通信中 ***


≪こちらタツマ。 現在アッカ領内≫

≪こちらバルティスだ。 聞こえているぞ≫


≪領内に入ったんだが、聞いている話とかなり違うようだが? ≫

≪違う? ≫


アッカ(農業コミュニティ)は、戦をしたくないとの意見もあるようだけど? ≫

≪誰だってしたくないさ ≫


≪それとこの辺りでは、副社長達は、随分と強敵らしいね ≫


≪海賊を撃退しているからな。漁師にとって海賊は天敵だから、撃退したことで名が上がったかもしれないな ≫


アッカ(農業コミュニティ)との和平協議は、できないのかい? ≫

≪相手が望めばな。しかし、できないだろうな ≫


≪なぜ? ≫


≪2つの地域をまとめるには主導者がいる。話し合いで合意をしたとしても、結局主導権争いが内部で発生して、分裂後の争いか、内紛が発生するんだ。この地域の特徴だ ≫


≪…… ≫


≪恐らく斥候かコミュニティの人間の世間話を聞いたんだろう? でも言ってなかったか“戦うしかない”と ≫


言っていたな。


≪故に戦闘の回避は不可能だ。交渉に出向いても撃たれるか、拒否の回答を得た上で武器などの身ぐるみを剥がされた状態で帰されるだけだ ≫


きっついなー。


≪そうやってこの地域は存在してきた。敵戦力の分析を期待する。幸運を ≫


                *** 通信終了 ***


『ダメそうですね』

「ああ」

ウェヌス(金星)の世界は、どこよりも原始的でキツイ世界のようだ。


ウェヌスの夜は長い。

樹林帯の中、木を背もたれにして休んでいる。


テントも何もない完全な野宿である。満点の夜空が、現状の不条理を一時忘れさせてくれる。


『周囲に明かりが無い分、夜空が凄いですね』

「ああ。まさか本当の野宿とはね」


外部音は、虫や生き物の鳴く音が聞こえてくる。

夜の気温変化もコンバットスーツのおかげで気にならない。


『平穏に生きようとしても、周辺のコミュニティの動向は分からない。特にこの地域は離散集合が激しいようです』


「らしいな」

惑星が違うため星の並びも違う。


『平穏を維持したければ戦うしかない。大きな国、コミュニティを作るしかない。その様な地域です』


―― 皮肉なものだな


「了解だ。もう休む」

満点の夜空を見ながら眠りにつく。


―― サナエさん。どうしているかな?



※1: マラミズム:マラム地域の思想であり、アフロディア大陸 南部を中心とした生死感であり、マラミズムに沿った正義を行っている限り、魂は永遠に消えないという考え方。 マラミズム的正義とは、主に自己犠牲である。 仲間のため、集落のため、街のために命を落して戦うことは最大の正義であり、それまでの悪行を全てなかったことにできるくらいの行いらしい。 そのため、死の概念が希薄であり、死は通過点であるとの考え方。


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