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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
14章 東部小競合
101/104

アフロディア大陸 マラム地域

--- タミナ漁港コミュニティ タミナ港


船はユルト自治区のものであり、犯人はユルトの法律に従い裁かれるとのこと。

この辺りのコミュニティーや自治国家の法律には、犯罪者に対しての投獄はない。 税金で囚人を食わせるほど余裕も温情もない。


ではどうするか? 囚人は国家労働力資源として用いられることになる。 犯罪者は、公共事業や戦場における兵隊として労働力を国家に捧げる。


そのため、囚人はウェアラブルデバイスにより管理され、実質一般生活を送ることになる。


ただし、政府の命令には対応しなければならず、無視した場合には、治安隊による強制連行や、凶悪犯では、そのまま死が訪れる仕組みになっている。


加えて、再犯は直ぐに分かり、犯罪のレベルに応じて裁判なしの対応になる。

罪の大小で拘束の長さが決まるようである。


―― 今更ながら、テクノロジーって怖い。


タミナ漁港コミュニティは、港街というより、漁港に近い。


白壁なのは、ユルト自治区のベイエリアと同じであるが、家の前に船が係留してあり、生活臭が前面に出ており、観光地向きではない外観になっている。


ユルト自治区のベイエリアも恐らくこのような場所もあるのだろうが、視界に入っていないだけかもしれない。


副社長(バルティス)も無事に船から降りてくる。 壁を破壊したのは彼らだからね。


「よう! 元気か」

副社長(バルティス)から話しかけてくる。


「気持ちが晴れ晴れとは、いかないけどね。 襲撃の件、直前まで黙っていたな」

タツマの眼が厳しくなる。


「まーあくまでも予測だったしな。 コンテナは牽引車で目的地まで運ばせる。 俺たちも行くぞ!」

上手い具合にはぐらかされる。


現在は朝である。 ここからかなりの距離を歩くことになる。

ティルパ嬢も疲労の様子はない。 戦士と言っていたのも(うなず)ける体力である。


                  *


どのくらい歩いただろうか? 日がかなり高くなっている。

―― くっそ! どれだけ歩かせるんだ! 

心の中で愚痴がこぼれる。


街中は平坦であった道は、徐々に上り坂になっており、現在は完全に坂を上がるイメージある。 目的地はどうやら丘の上にあるようだ。


『随分と歩きますね』

疲れ知らずのアルプから、副社長(バルティス)に質問が飛ぶ。


「まぁな。もう少しだ」


「もう少しってどのくらいだよ! 」

タツマはイライラしているのと疲れが来ている。


「パパ。 本当にこいつが、マールス(火星)を畏怖させた人間なの? しょぼくない」

―― 可愛い顔して毒舌か? こいつは。 ってか副社長も何話しているの? 


丘の上が近づいてくる。視界には空以外のモノが見当たらなくなる。

ようやく、丘の上のようだ。 視界が開け、遠目には建物がある。 かなり大きめであり、この辺りと同じ白の漆喰で外壁が覆われている。


近づいていくと円を中心に四方に菱形が出ている※1アフタブ教のシンボルが、屋根の突端に掲げられている。


―― アフタブ教の教会か? 


建物は、柵で囲われ、中では子供たちが駆け回っている。

この光景は見たことがある。 タツマも一時期いた場所――孤児院だ。


遠くから子供たちの声が聞こえてくる。

「牧師さんだーお母さんもいるー」


タツマが横目で副社長(バルティス)を見る。

「牧師ねー。 神に仕えるにしては、ずい分と戒律を破っているように思いますが? 」


(なんじ)。生き残れが、俺の聖書には追加かされているんでね」


副社長(バルティス)とティルパ嬢が、速足で一足先に孤児院に向かっている。

子供たちも入口に集まっているようだ。


『意外ですね、孤児院とは。 商人には似つかわしくないです』

アルプが発言する。


「いいんじゃないの? 金の使い方は人それぞれだ」


子供達とじゃれ合っている副社長(バルティス)は、普段では見せない表情になっている。

あそこまで、無防備な副社長(バルティス)の笑顔は、宇宙船のなかでは見たことがなかった。


心のよりどころなのだろう。


『人とは、理解しがたいですね』


―― 御高説ごもっとも。 私も理解できていないよ。





--- タミナ漁港コミュニティ 丘の上の孤児院

白壁作りの質素な作りの教会になる。裏には畑と墓地があり、手入れが行き届いている。

土は柔らかい為、植物の育成には問題なさそうだ。家畜も放し飼いにしてある。


牧歌的という言葉が何よりも合う。


今は、副社長(バルティス)が、家だと言う棟にいる。内部は質素そのものだ。

「室内まで真っ白ですか? 」


部屋内部にも白の漆喰が施されており、木で作られたダイニングイスに座りながらお茶が出てくるのを待っている。


目の前の木製のテーブルと木目の色彩と白い空間とが相まって、お洒落スペースを演出している。 何もない、質素だからこそ、逆にセンスのいい空間になっている。


「ハイカラだろう? ハーブティーだ」

ガラスのカップに緑色が映える。どこかのカフェと勘違いさせる空間だ。


「裏庭で取れたんだ」

―― 似合わない……しかし、香りはいいな。


アルプは隣にいる。ティルパ嬢は子供達のお守のため教会側に行っている。

「どうだい? ウェヌス(金星)は」


「最悪ですよ。 いきなり ドンパチング は勘弁して欲しいですね」


答えた後に、タツマは一口ハーブティーに口を付ける。 清涼感が口に広がり、鼻腔からハーブ独特の香りが抜ける。


副社長(バルティス)も苦笑いをしている。


「まーな。 俺もそう思う。 ところで、俺がこんなことをしているのは、意外かい?」

「どうですかね」


「ここのちび達は、俺の家族なんだ」

思いに耽りながら解答している。 副社長(バルティス)にとっては、大切な場所なのだろう。


少しの沈黙が続く。


「でっ。その大切な場所に、私を呼んだ理由はなんでしょうか?」

タツマが切り出す。 話の本題。 今回の要件の本丸になるはずである。


タツマが話を切り出すと、何やら棚を漁り、大判な四つ折りの紙を持ち出してきた。

「これを見てくれ」


副社長(バルティス)が、四つ折りの紙を広げる。 アフロディア大陸の地図になる、東側がマラム地域で西側がエイストラ地域となっている。


「我々がいるのはここ。タミナ(漁港コミュニティ) だ」

副社長が指を指す。


マラム地域の東の端 タミナ(漁港コミュニティ)

――本当に東の突端だな。


近隣には、問題を起こしたアッカ(農業コミュニティ)があり、副社長バルティスが付けたと思われる丸で囲われた地域には、“ライマ コミュニティ”、“ヴァレダ コミュニティ”、“ローシェン自治区”がある。


挿絵(By みてみん)


「この丸で囲われた地域は? 」

「俺達の敵だ」


「敵?……それをどうしろと 」

「倒してほしい」


「……無理だろう兵士も装備もない」

「兵士はいる。うちのティルパは、戦士だ! 」


「いや。 そんな一人や二人いたところで無理だ! 」


タミナ(漁港コミュニティ)には、2000名からの兵士がいる。 それの指揮の支援を執って欲しい」


「戦で、国盗りをしろって? 惑星暦1400年だぞ? 」


「ここでは、地球の※2 先史文明の中世時代だ」


「なぜ? 」


ウェヌス(金星)は、知っての通り力で問題を解決する傾向がある。 コミュニティの長を打ち取って。我らの地域に組み込む」


「それで、従うのかい? 」

―― 正直疑わしい。 長が打ち取られれば、復讐に出てきそうな気がするが?


「他の星は知らんが、ここではそれがまかり通る。逆にそうしないとこの土地も危ない」

―― そーかー……って、とんでもないことを引き受けさせようとしていない?


「実際にアッカ(農業コミュニティ)の連中はこちらにちょっかいをかけ始めてきた。 こちらとて戦のようなことはしたくない。 しかし、やらないとやられるのが、この土地なんだ」


戦争地帯かー。


(いくさ)に理由はない。 奪い取るか取られるかの世界なんだ。 頼む力を貸してくれ」

「ただの商人に何をさせる気だよ」


「あんたは、ただの商人じゃない。 ただの商人は、キンメリア南北戦争を勝利に導けないし、メンドゥーサ(レーダーサイト基地)も落とせない」


「運がよかっただけだ 」

「運で戦は、勝てないのは、知っている。頼む!! 」


副社長が跪く。

―― まいったな……


と言ってもここまで来てしまっている以上、無下に断る訳にもいかない。

事実そんな感じもしていた。


「で、相手戦力は? 」

結局引き受けてしまう。 自分の性格が嫌になる。


「ほぼ同数だが、内部で主導権争いが発生しているようなんだ。現リーダーが拡張政策派を抑えきれず、出兵の可能性が非常に高い。とはいえ、一枚岩でないので、実際の戦場に出てくるのは1,000名ぐらいだろう」


「ダブルスコアか」

―― なるほど、対応は可能か?


「相手の武装は? 」


「基本的に航空機や戦車、装甲車、ミサイルはない。装甲車もどきの自動車とアサルトライフル、ロケット砲が限界だな。 こちらも似たようなもんだ」

―― 旧式の武装ゲリラ程度の装備ねー


「こちらの武装の詳細は? 」


「コンバットスーツを2000体は揃えてある。アサルトライフルやロケット砲もある。マールス(火星)で購入した最新鋭のモノだ」


―― 随分前からこの作戦を考えていたわけか

アッカ(農業コミュニティ)を支配して何する気? 」


「商業圏を作りたい。海の幸を陸の幸を交換し、経済を活性化させたいんだ」

「噓でしょ? 原始時代の生活じゃあるまし」


「そのレベルなんだよ。この地域は内戦で疲弊しきっている。 従来は安全な取引はできなかったんだ。 別に領土が欲しいわけじゃない、安全が欲しいんだ。 そして、ちび達のためにも少しでも満足な暮らしが欲しい。 それだけだ」


副社長(バルティス)の顔は、真剣そのものだ。


―― 荒事対応か……とりあえず、タミナ(漁港コミュニティ)の現状戦力の確認が必要になりそうだ。



--- タミナ(漁港コミュニティ)の日常


この地域は、港町という名の漁村になる。 この地に到着してからタツマ達は、日常をこのコミュニティ内で過ごしている。


漁村民だけあって、船の使い方には慣れているようだ。 それにこの地の海洋資源は、かなり豊富なようで、漁獲量はコミュニティ内で消費できる量と少し多めになっている。 干物にして他のコミュニティに売りに行くようだ。


海の男たちも、体も大きく、精神力もある。 サイボーグ化していても耐海洋仕様のため、錆ないとのこと。


現在は、漁から帰ってきた男たちと市場の様子を見ながら、副社長(バルティス)と街を見回っている。


「これだけの人材がいれば、自分達で何とかできるんじゃないの? 」


「見た目は確かに立派さ。 体もデカいし、体力や戦闘能力も問題ないだろう。 しかし、頭脳がな。 海賊相手の船上という限られた戦場なら何とかなる。


しかし、地上戦となると、船より広いエリアの戦闘だ。 正面からぶつかって消耗戦の上で勝っても今度は、街の経済が破綻する。 漁をする人間がいなくなると、この街は衰退するからな」


―― だろうね。


タツマが戦争を嫌がる理由はここにある。 戦いによる人的資源喪失。人的資源喪失による生産・経済活動の停滞。結局その地域がダメになるのは、容易に想像が付く。


「だからこそ、被害を最小に抑えつつ、相手を制圧したい。 それには戦術や戦略が立案できるヤツが必要なんだ。 彼らに戦術や戦略を立てる能力があるとは思えない。もちろん俺もティルパもだ」


「話し合いで何とかならないの? 戦で消費した人的資源の回復は、時間がかかるんだけど? 」


「お前さんの言いたいことは分かる。でもここの住民が、全員お前さんのような思考ができるかと言えば違う。取るか取られるか。従うか従わせるかなんだ。 撃つしかない。」


「……」

―― 随分と混沌した地域だな


「ところで、軍権は、誰が持つんだい?」

ティルパ(副社長の娘)だ」

「……」

その言葉を聞きタツマが一旦沈黙する。 その雰囲気を感じ取ったように副社長(バルティス)が、タツマに確認を取って来る。


「不服か? 」

「理由は聞きたいところ。副社長(バルティス)の方が、戦歴は長いはずだ」


タツマが指揮を得たところで部下は従わない。 ここの兵士を動員し命令を聞かせるのは、ここの人間の信頼を得ている人物のみ。 


そして、その中でも幾阿多の戦を潜り抜けたのは、間違いなく副社長(バルティス)になる。


「彼女は、タミナ(漁港コミュニティ)の住民に慕われている。そして機転も効き、戦闘力も高い。それに――」

「それに? 」


「この町の防衛隊の隊長だ」

―― なるほどね。 実力も統率力もあるってことね。


「で、副社長(バルティス)は副司令官とか? 」


「そんな感じで行く。お前は参謀だな」

―― 脇役ですね。


「しかし、保母さん 兼 防衛隊の隊長ねー」

「世知辛いよな」


「同感だ」


一人仕切り市場を見つつ、市場で購入した魚介餡が入った揚げパンを昼食代わりに食べながら

教会に戻る。


中の魚介餡のうまみが効いていて旨い。


「それで、策は出来そうか? 」


アッカ(農業コミュニティ)タミナ(漁港コミュニティ)の間に 川が流れているだろう? 」


「ああオイフェ川か? 」


「斥候の人達と一緒に見て回ったけど、あまり河川付近は管理していない感じ? 両側とも荒れ放題だね」


「まあ、この時期はシダのような植物で覆われているからな。 それに管理する人間も当てられない。 加えて、この状況だ。 アッカ(農業コミュニティ)の斥候とあったら、間違いなく発砲沙汰になる。 遠くから確認する程度で終わりにしている感じだ」


―― なるほど

「コンバットスーツは、見せてもらったよ。 随分と奮発したね」


「ああ。マールス(火星)にいた時に、執政官の屋敷でやり合った奴の中にコンバットスーツが、異常に固い奴が居たんだ。 そいつの購入先を調査して購入した代物だ。 カスタム機だが、性能は抜群だよ」


―― カスタム機と来たか


「……装甲車・戦車や戦闘車両は、どんな感じ? 」


「それっぽい装甲車はあるが、戦車や戦闘車両はない。 要望があればテクニカルぐらいは作れる。 船の修理をしているから、機械いじりは問題ないはずだ」

―― 自作か


「船は準備できる? 」

「船? 漁船か? 」


「あの川を渡れるぐらいの 」

「可能だが……橋が架かっているし、まさかあの橋を落すのはなしだぞ!! 」


タツマからは、副社長(バルティス)の言葉を特に気にしている様子はない。

何かを考えている様子は、傍から見ても分かる。


「最後だ。相手戦力をどうしたい? 」

「どうしたいとは? 」


バルティスが怪訝そうに尋ねてくる。


「完全殲滅したいか、否か」

「……」


二人の男が教会に続く上り坂を上がっていく。


アルプは、子供たちの子守り係になっており、ティルパ嬢と一緒に孤児院で働いている。

毎日驚きがあるようで仕事での疑問をタツマに質問してくる。


人間の感情を理解したいようだ。


トークン(機械人形)は、子供の世話をする中で人の感情に興味を持つ。 一方で子供を放棄した、放棄せざるを得ない人間の親たち。 


「難儀な世界だ」

夏季であるため虫の鳴き声が周囲に響いている。



※1 アフタブ教:ウェヌスの宗教の一派になる。 太陽神に選ばれた民であること自負し、全ての困難は、神からの試練との考え方になる。


※2 先史文明:惑星間暦前の文明のこと。 テラ(地球)では紀元後の世界


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