船内襲撃
--- 出航
夕食の終了後、船にヒルベルト商会からのコンテナが積まれていることを確認して、船に乗り込む。 日はだいぶ傾いており、周囲は薄暮である。
ちなみに、ダイナーでは、俺がおごるとか言って、ヒルベルト商会で領収書切っていたよね?
どうゆうこと!
「……」
タツマは、ジト目で副社長を見る。
「俺は、権利を行使したまでだ」
まぁ色々世話にもなっているからいいか。 美味しいものも食べられたし。
ここからの足は、客船しかない為、乗船客はかなり多い。
「で? 我々の部屋は? 」
「俺達は、特等船室だ。タツマの分も取りたかったんだか、船便はこの状態だ」
乗客数が多く、かなりの列をなしている。
――嫌な予感しかしないんだけど
「3等船室になっちまった。済まないな」
副社長からチケットを渡される。
――うっそだろ?
「……交換しなさい」
「うちの娘を有象無象と一緒に過ごさせるわけないだろう! 」
「あたいは、どっちでもいいけどね」
ティルパ嬢は、特に気にしていない。
タツマがそれに呼応するように回答する。
「だそうですよ」
「ダメだ! 」
副社長は、譲らない。
お客様じゃないのかよ。
「へいへい。 しょうがない。 行きますよ」
「こいつを持っていけ」
固いボロ布を渡される。
「床は硬い。包まっておけよ」
「お気遣いありがとうございますね」
船内に入り、階段を降り船底に向かう。 質感むき出しの壁に薄暗い廊下と部屋。 いや部屋と言うより、大広間に近い。
大広間には既に大勢の人が雑魚寝の様な状況で敷物を敷いている。 金属プレートの上の直に眠るのは確かに厳しい。 それに寝床の脇に歩く人間がいるのであれば、寝付きも悪そうだ。
―― 如何にもな3等らしい雰囲気じゃない。 スラム街でも、もう少し衛生観念があるぞ!
大部屋内の人をかき分けて、空いていているスペースを見つける。
「くっそ。 なんて場所だ! 」
『そうでしょうか? タツマには、このようなアウトローな雰囲気の方が似合っていますよ』
「いつからそんなイメージになっているの? 」
―― 何? 眼帯一つでアウトローのイメージは困るんだけど。 こっちは、品行方正な惑星間貿易商なの。
寝床のスペースを確保するため、副社長から貰ったボロ布を敷いて座る。
かなり固い布だな、その上ここで床に雑魚寝かー。 ひどくない?
―― あーあ。海でも見に行くか?
タツマが、徐に立ち上がろうとする。
『夜間は表に出らいないとのことです』
自分の行動を見透かしたように、アルプが回答をくれる。
船底の3等船室は、目を離せばすぐにモノが消えそうなぐらい治安が悪そうだ。
ボロ布以外は手ぶらで助かった。
端末が光る。
*** ✉メッセージ中 ***
<快適か? >
<豪華客船の船底にいるような乗り心地だ >
<この船にアッカからの刺客が紛れ込んでいる >
―― いきなりこの手の話かよ
<恐らくこの部屋を狙っているのは間違いないだろう >
<リッチマンのために貧乏人が手を貸せと? >
タツマが3頭船室の嫌味を言う。
<そう言うなって。 作戦は挟み撃ちだ>
<挟撃ねー。 彼女はどうする? >
<彼女も戦士だ。問題ない >
<なるほど。 しかし、テラ人が、ウェヌス人相手にコンバットスーツなしで立ち向かうのは自殺行為だと思いますが? >
『タツマ。 私が居ます』
アルプが入り込んでくる。
<アルプがいるだろう。 お前は支援だ >
同じ思考のようだ。
最初からこれを狙っていのか。
<因みに、その布は防弾性だ。 俺と話していたお前も狙われる可能性がある >
*** ✉ 通信終了 ***
「……」
―― ご丁寧にありがとうございます。 えー。最初から荒事なの? 平穏な時間はないの?
『ここを出られるのは如何でしょう。2名が、こちらを監視しています』
アルプからの助言が入る。
―― さっそく? さてどう迎撃するか? ウェヌス人との殴り合いはかなりキツイな。
とりあず、手洗いに向かうふりをして、ボロ布を纏い3等客室を出る。
アルプはその場に残る。
船は、大型で手洗いもかなり離れている。のろのろと歩くタツマに徐々に近づいてくる2名の影がある。
しばらくすると、予定調和の展開になる。
「貴様。 何者だ」
布の上から銃が突きつけられているのが分かる。後ろを2人に抑えられている。
「ただの商人ですが? 」
「ケーネス親子(副社長のファミリーネーム)と話していただろう? 」
「ああ。商売の手を広げようと思いまして。 その商談相手です」
「証拠は? 」
端末のホログラムより惑星間貿易商のデータ手形を見せる。
「惑星間貿易商? 嘘だろう。 そんな大物が、こんな田舎に何の用だ! 」
「田舎かどうかは、関係ないんですよ。 実際に場所の可能性を探し発掘するのが仕事でしてね」
「……」
「そろそろ銃を降ろして頂けませんかね。 商人は、この星では尊ばれる職業と聞いていますが? 」
「……うるさい。 このまま――」
暴漢の声が消え、どさりと倒れると音が聞こえる。 アルプの電気ショックで、同時に彼らの意識が飛ばしたのだろう。
『随分と危ない橋を渡りますね? 』
「彼らも馬鹿じゃない。船の廊下で銃をぶっ放すことはないさ」
彼らの銃を拾い上げ、懐にしまう。
「たとえ、消音器が付いていたとしてもだ」
『彼らはどうします? 』
「廊下の脇に避けておいて。 その内、誰かが気付いて医務室に行く程度だろ。 そのまま倒れていても酔っぱらいとして片付けられるだけで、死にはしないさ」
これで武器が手に入った。
「さてと、副社長救出作戦といきますか? 」
あの巨体のおっさんの救出かー。 大丈夫じゃない? とかは思っている。
『途中のゲートはどうします? 』
「どうせコードは入手済みなんだろ? 」
『さすがですね。慌てる姿も見たかったのですが』
――なんか性格悪くなっていない?
「バグドローンは? 」
『展開済みです。 特等船室の両隣にそれらしき人物が入っています』
「なんと脇からの挟撃ねー考えるじゃない。 部屋の修理も大変そう」
『保険があるから大丈夫でしょう。 なんせウェヌスですから』
とりあず、そのままお手洗いに行き、個室に入る。
下層の手洗いだ、衛生面は推して知るべしだな。
個室からメッセージを送る。
*** ☎ 通信中 ***
≪動きがあったぞ≫
≪了解。どうした? ≫
≪廊下で寝てもらっている。得物が2丁ある。マガジンも。両隣は、副社長の熱烈なファンらしい≫
≪了解。 壁からか……≫
≪たぶんね。 作戦は? ≫
≪正面から来るものと考えていたが? どうするかね ≫
≪恐らく入口の両隣からの3方向からの一斉攻撃だろうね。 自分なら時間差をつけて、攻撃だな≫
≪怖いねー。 正面入り口の敵を排撃してくれ逃げ道にする≫
≪なるほど、その後は? ≫
≪入口に爆薬をセット。両脇から入り追い詰める≫
≪爆薬? ≫
≪護身用の手榴弾ぐらい持っている≫
―― 手榴弾は護身用ですかね? 戦場ですか、ここは。
≪了解。こっちでも作戦を協議する≫
*** ☎ 通信終了 ***
バグドローンからの映像が、端末に転送される。 正面のドアは、副社長の部屋になる。
―― さて、乗り込むタイミングをどうするか?
早くいけばこちらが攻撃され、遅すぎれば致命的な事態になりかねない。
別のバグドローンからの映像では、廊下が全部見えている。廊下に人はいない。
タツマの悩みを感じ取るかのように、アルプが進言してくる。
『消灯時間になれば、船内の消灯が暗くなります。 その時を狙って襲撃を仕掛ける可能性が考えられます』
「了解だ。消灯時間に合わせて動く」
となると、このトイレの個室にしばらく缶詰かー。 三等船室の手洗い場。 臭いがキツイ。
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先ほど敵を撃破しているため、安易に顔を晒す訳にも行かないため、タツマとアルプは、三等船室の厠の個室で待機している。
臭いで気が滅入ってくる。 三等船室の乗客だけあって利用者の個性も中々強い。 歌や独り言は序の口で、酒によっぱらって粗相をしているものやケンカを始めるもの。
『随分と自由な空間ですね』
「無秩序というんだ」
『そろそろ時間です』
「了解だ」
―― ようやくこの陰鬱な空間から解放される。
手洗い場を出でて、周囲を確認しながら船内の廊下を進む。 内部の階段を上がっていくとゲートがある。 コンソールにコードナンバーを入れる。
ガラスのゲートが開き1等以上の船室へ侵入していく。
「向こうさんは準備万端かね? 」
『間違いないでしょう』
そんな会話をしながら、階段を上っていく。
現状コンバットスーツがないため、被弾は致命傷になる。そのためアルプを前面にしている。
天上のスピーカより音楽と共に消灯時間であることを告げる案内が流れる。
その後、灯りが消え周囲が暗くなる。
「こいつは暗いな」
『不審者3名をドア前に確認』
「副社長に報告」
『了解』
かなりの大型船。廊下と階段があり目的地までは少し時間が掛かる。
先ほど奪い取ったハンドガンを準備する。
『制圧に関してですが、敵は、デッド オア アライブ?』
「状況を聞き出せるのは、生きている人間だけだ。 生け捕りを中心に対応してくれ。 作戦開始だ」
『了解です』
アルプが、タツマの合図から急加速し、あっという間にタツマの視界から消える。
曲がり角の3名の部隊に対して三角飛びを駆使して空中から襲い掛かる。
犯人たちは、ドアに集中していたため、トークンの襲撃には反応ができないようである。
それと同時に、奥の方から爆発音が聞こえてくる
「始まったな! 」
ハンドガンに消音器が付いているためアルプの発砲音は、消えている。
敵3名の腕部と脚部を打ち抜き、サイボーグ化していない箇所を縛り上げている。
タツマが、目的地に着いた時には、制圧は完了していた。
≪バルティス! 正面制圧≫
アルプからの無線が入る。
≪了解≫
副社長からの返信が聞こえてくる。
内部からの発砲音も聞こえてくる。正面ドアが開き、副社長が出てくる。
「俺は奥を対応する。 手前側を頼む」
『了解』
アルプが回答している。ここまで自分の出番なし。
タツマがハンドガンで手前の部屋のドアノブを破壊する。
アルプから、伸びている輩の得物であるアサルトライフルをタツマに渡す。
『先に行きます』
そういって破壊されたドアから中に入っていくアルプ。 その後ろにタツマが続く。
―― 流石に特等室。 良い作りだな。
前方にアルプがいるため多少周囲に気が配れる。 輩から奪ったアサルトライフルを構えていながら室内を進むと、リビングルームと思しき場所の壁に大穴が開いている。
先に行っていたアルプが立ち止まりバグドローンで中央の部屋の状況を確認している。
『敵勢力6名。ドアのトラップを解除中』
反対の部屋のバルティスの声が聞こえてくる。
「観念しろ! 表の連中は倒した! 直に※1船内治安隊が乗り込んでくるぞ」
※1船内の治安を管理する武装集団
タツマと犯人との間は一瞬の膠着状態になるが、それを状況を破るに用に第三の勢力が割って入ってくる。 船内治安隊だ。 彼らが、絶妙のタイミングで部屋に乗り込んでくる。
「全員武器を捨て、手を上げ、床に跪いけ! 」
彼らは、タツマ達にも銃を向けている。 彼らからすれば、武装している全員が、敵の可能性がある。 タツマ達が銃を捨て、手を上げ跪くと締め上げられる。 かなり手荒い。
「一つお願いが……」
タツマが押さえつけながらも、発言する。
「うるさい。口を閉じろ! 」
船内治安隊は気が立っている。
「中央のドアに仕掛けがあります。 そのまま開けると爆発します……」
「こちら1班! 中央のドアは開けるな! 奥から進め! 」
無線で報告してくれたようだ。
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---船底の牢
―― 3年ぶり2回目の牢屋生活です。
「またこれかい」
相変わらず、ヒンヤリしている床である。 それでも3等船室のようにごった返していない分だけ、こちらの方が上等か……いやいや、独房以下のところにいたのか?
守衛が話しかけてくる。
「タツマさん。 お話が」
今回は人を殺めてもいないし、何とかなるか?
取調室には、書記と尋問官の2名がいる。
「君の身分は調べさせてもらった。“惑星間貿易商”ね」
「ええ」
「この地には何用かな?」
「商人ですから。 商売です」
「こんな田舎に? 」
「田舎かどうかは関係ないですね。 住民のやる気など総合的に判断し投資をするんです。 ケーネスさんが“タミナ”に詳しいとのことなので、投資を見分けるために下見に来たわけです」
「なるほど」
「彼から緊急通話が来たので、手助けしたまでです。 実際に人死にはないでしょう? 」
「ああ。 犯人拘束の状況は、鮮やかだったよ。 まぁ人死が出ていたとしても“惑星間貿易商”となると、我々では手が出せないがね――あんたが、善人の方で助かったよ」
この善人は、彼らにとってということだろうな。
「でも、まぁ奴らの仲間が、まだいるかもしれない。 アフロディア大陸に着くまでは、できれば地下牢で過ごしてもらいたいのだが、どうだろ? 」
「わかりました。 従います」
尋問官は安堵した様子だ。
こちらも3等船室のごたごたした中よりも一人で寛げる独房の方がましだしね。
とりあえず、襲撃事件の幕は下りた。
“アッカ”から隣接する“タミナ”の頭目を狙っての襲撃らしい。 あわよくば、土地の支配も考えているのだろうか?




