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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第3章 私は、世界で一番栞のことが好き

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第85話 栞への誕生日プレゼント

 レストランへ移動し、予約していた名前を伝えるとスムーズに席へ案内してもらえた。いつも栞とくるお店よりは少しだけ価格帯の高い店だから、ちょっと緊張する。


「では、料理をお持ちしますね」


 店員が去っていくと、栞が目を輝かせた。


「もしかして先輩、コース予約してくれたんですか?」

「まあ……誕生日だし」


 ドリンク付きで一人3000円のコースだ。それなりに奮発したつもりだけれど、誕生日ディナーの価格としてはそれほどではないだろう。

 たとえばすみれは、誕生日にすごく高そうなディナーの写真をイソスタに載せていたことがあるし。


「大学生になったら、もっといいところを予約するから」


 付き合って初めての誕生日だ。もっと頑張るべきだったかもしれない、と不安を覚えながら栞を見つめる。

 栞は大きくまばたきをした後、幸せいっぱいの笑顔を見せてくれた。


「それ、再来年も、私の誕生日を祝ってくれるってことですよね」


 どうやら栞には、大学生になったら、という部分が響いたらしい。両手で頬を包み、ふふ、と何度も楽しそうに笑う。きっと幸せという概念を擬人化したら、栞みたいな女の子になるのだろう。


「うん。栞がよければだけど」

「私はずっと、先輩が祝ってくれなきゃ嫌です!」


 夏鈴先輩、と栞がテーブルの下で足を絡めてきた。


「ねえ、先輩。先輩の誕生日は絶対、私がたーっぷり祝ってあげますから」

「ありがとう」

「なんか、早く先輩の誕生日になってほしいくらいです」


 私の誕生日は2月だ。名前のせいで夏生まれだと勘違いされることが多いけれど、真逆の冬生まれである。

 名付け親は母ではなく父で、二人が夏に出会ったからだと言っていた。

 二人の出会いについて、小さい頃はよく母が語ってくれた。一目惚れだったのだと、恥ずかしそうにしていたのを覚えている。


「栞が祝ってくれるなら、誕生日が楽しみだな」

「たーくさん祝います! だから、たくさん楽しみにしててくださいね」


 頷いたタイミングで、前菜が運ばれてきた。お洒落な皿に盛りつけられたサラダだ。


「わっ、美味しそうっ!」


 栞、野菜はそんなに好きじゃないのに。


「私、こんなに美味しいサラダは初めてです!」


 笑顔でサラダを頬張る栞が愛しい。私もだよ、と返してサラダを口に運ぶ。確かに、フルーツソースのかけられたサラダは美味しかった。





「ご飯、美味しかったですね!」

「うん。そう言ってもらえてよかった」


 実際、料理は期待していたよりも美味しかった。もしかしたら、栞と一緒に食べたからそう思っただけかもしれないけれど。

 さりげなく店員さんと目を合わせて頷く。食後、バースデープレートを用意してもらう手筈になっているのだ。

 バースデープレートを持った店員さんが、ハッピーバースデーと歌いながら近づいてくる。テーブルに運ばれてきたケーキを見て、わっ! と栞が飛び跳ねた。


「誕生日おめでとう、栞」

「せ、先輩がこういうの用意してくれるタイプだったなんて……!」

「栞は好きそうだと思ったから」


 慌てて栞がスマホを取り出し、撮影を始めた。ろうそくの火がついているうちに、写真を撮ろうとしたのだろう。

 おめでとうございます、と笑って店員さんが去っていく。

 撮影を終えた栞が、笑顔のままろうそくの火を吹き消した。


「先輩。私、こんなに嬉しい誕生日は初めてです」

「来年は、もっと嬉しい誕生日にしてあげる」

「……私、嬉しすぎて倒れちゃうかもしれません」

「それは困る」


 微笑んで、鞄の中から綺麗にラッピングされた小さな箱を取り出す。待ってました、とでも言いたげな顔で栞が見つめてきた。


「これ、誕生日プレゼント。気に入ってくれるといいんだけど」

「絶対気に入ります!」


 丁重な動作で小箱を受け取ると、開けていいですか? と栞が確認してくる。頷くと、栞がゆっくりと包装をはがし始めた。

 包装をはがすと、真っ白なケースが出てくる。開けていいですか? と栞はもう一度同じ質問をしてきた。


「……うん」


 気に入ってくれるはず、という自信はある。それでも、プレゼントを渡すのは緊張してしまう。

 栞がゆっくりと箱を開ける。そして、中に入っている物を見て目を見開く。


「……これって」

「うん。実はもう一個、私の分もあるの」


 ラッピングされていない、同じ小箱を鞄の中から取り出す。箱を開けると、サイズ違いで同じ物が入っていた。


 栞へのプレゼント。栞のことをたくさん考えて選んだ物。

 それは、お揃いのピンキーリングだ。

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