第82話 文化祭当日
いよいよ今日は、文化祭当日だ。朝は通常授業よりも二時間ほど早く集合して、当日の準備を行う。
文化祭が始まってからはシフト制でクラスの出し物に参加し、それ以外の時間は自由時間だ。
私のシフトは午前中で、栞のシフトは午後。
かぶっていないおかげでお互いのクラスに遊びに行くことはできるけれど、一緒に他のクラスを見て回ることはできない。
「天笠さん。そろそろ開店だから、女子は更衣室で着替えてきてって」
岸本さんに促され、女子達と一緒に移動する。階ごとに設置された更衣室は既に大混雑だったけれど、なんとか着替える場所を確保することができた。
そういえば栞も、普通に女子更衣室で着替えるんだよね。今日とか、体育の時とか。
栞の着替えを、私以外の人も見てるってことだよね。
当たり前といえば当たり前なのだけれど、いざ意識するともやもやする。誰か一人くらい、栞を邪な目で見る人がいてもおかしくない。
「天笠さん? どうかした?」
「あっ、いや、なんでもない」
「それならよかった。接客中、変な人がいたらすぐ教えてね。天笠さん美人だから危ないねって、昨日もみんなで言ってたの」
うんうん、とクラスメート達が頷く。こんな風に扱われるのは新鮮だ。
中学時代の頃も見た目を褒められることはあったけれど、結局、常に話題の中心にいるのはすみれだったから。
「ありがとう。……その、みんなもなにかあったら、言ってね」
「うん! ありがとう、天笠さん!」
普段学校は部外者の立ち入りが禁止されているが、文化祭時は別だ。校内の出入りは制限されていないため、毎年それなりに多くの客がやってくる。
中にはナンパ目的の男子高校生や女子高校生が好きなおじさんもいて、事前に学校側からも注意喚起が行われたくらいだ。
栞は可愛いから、心配だな。
メイド服の栞が笑顔で挨拶してきたら、私だったら絶対にナンパしてしまうと思う。おこがましいと分かった上で、それでも奇跡を諦められないだろうから。
一緒のクラスだったら、よかったのかな。
もし私と栞が同級生だったら———と少しだけ想像してやめた。なんとなく、あまり仲良くなれていない気がする。
それでもきっとどうせ、私は栞を好きになっただろうけれど。
◆
中華風に飾り付けた教室内に、長テーブルと椅子で簡易的に客席を作ってある。
開店準備を終えた今、既に教室前に長蛇の列ができているらしい。
文化祭の開始時間と学校の一般開放時間は同時だ。つまり現時点で並んでいるのは、全員この学校の生徒である。
「……うわ、すごい人」
カメラを首からぶら下げた加藤さんが廊下を覗き、目を見開いた。新聞部所属の彼女は、今日と明日の二日間、教室内での写真撮影を許可されている。
「みんな、天笠さんに会いにきたんじゃない?」
からかうようにカメラを向けられる。なんとなくピースサインをしてみせると、ノリいいね、と楽しそうに笑ってくれた。
「別に、そういうわけじゃないと思う。私、知り合いも少ないし」
「それは嘘。私、めちゃくちゃ天笠さんの写真くれって男子達に言われたし」
「……そうなの?」
「もちろん全部断ってるから安心して」
当日だけじゃなく、準備の時も加藤さんはよくカメラで撮影をしていた。けれど誰を撮る時も必ず事前に声かけをしていたし、無許可でみんなに写真を共有することもない。
いい人、なんだよね。
加藤さんだけじゃない。岸本さんも、文化祭準備を通して話すようになった子も、みんないい人だ。
「でもさ、天笠さん。絶対先頭の子は、天笠さん目当てじゃない?」
からかうように言って、加藤さんが教室のドアを開けた。すぐに栞と目が合う。
「夏鈴先輩!」
ぶんぶんと手を振って、真っ直ぐに栞が見つめてくれる。
栞は私のチャイナドレス姿をもう見ているし、いつだって私と会えるのに、一生懸命先頭に並んでくれたんだと思うと嬉しい。
いつも友達に囲まれている彼女が一人なのは、とにかく急いでくれたからだろう。
「……ちょっとだけ話してきてもいい?」
「どうぞ。ちょっとだけね」
時計を見ながら、加藤さんが私の背中を押してくれた。慌てて教室の外に出る。
「先輩」
いきなり、栞に腕を掴まれた。まるで後ろに並ぶ人達に見せつけるかのように、ぐい、と私の腕を引っ張る。
「……先輩、綺麗すぎて心配です」
「大丈夫だよ。ちゃんと対策もとってるし」
文化祭のルールとして、校内での撮影は許可をもらった新聞部の生徒と教師のみに限定されている。
不審者通報、ナンパ等の迷惑行為についてもきちんと対策を練ってあるし、問題ないはずだ。
「なにかあったら、私に言うんですよ?」
「……それは、心配かも」
むぅ、と栞が頬を膨らませたのと同時に、天笠さん、と名前を呼ばれた。そろそろ開店の時間らしい。
「栞」
「はい」
「きてくれてありがとう。それから改めて、誕生日おめでとう。また、すぐ後にね」




