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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第3章 私は、世界で一番栞のことが好き

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第81話 天使の日

 深呼吸をして、時計を見つめる。現在の時刻は10月3日、23時45分。天使の日———栞の誕生日まで、残り15分。


 恋人の誕生日って、0時ぴったりに祝うもの……だよね?


 常識かどうかは分からないけれど、きっと栞はそれを望む気がする。私だって、0時に祝ってくれたら嬉しい。


「でもなんか、家族で祝ってるような気もする……」


 栞を祝いたいのは私だけじゃない。電話をかけて家族の時間を邪魔するのは申し訳ない。だけど、私だって栞を一番に祝いたい。


「うーん……」


 迷っているうちに、どんどん時間が経過していく。こんなことなら昼間、栞に確かめておけばよかったのかもしれない。


「……よし」


 結局、電話をかけることにした。でも、電話に出なくてもがっかりしない。

 栞の誕生日を祝う人がたくさんいるのは、いいことなんだから。


 通話ボタンを押す。プル、と流れ出した着信音を耳が捉えるよりも先に、栞の声が響いた。


『夏鈴先輩っ! 電話待ってました!』


 あまりにも勢いのある声に笑ってしまう。こんなにすぐ出てくれるなんて、私からの電話を待っていたとしか思えない。


 電話、かけてよかった。


「……待っててくれたの?」

『はい! っていうか、55分になってもかかってこなかったら私からかけようと思ってました』


 誕生日祝いの電話を自分からかけてまで祝福されようとするなんて、栞らしくて可愛い。

 それと同時に、彼女の変化が愛おしくなる。

 自分がしてほしいことをここまではっきりと口にしてくれるようになったのは、私と栞が付き合い始めたからだろうから。


『ねえ先輩。15歳の私、あとちょっとで終わっちゃいますよ』

「そうだね」

『15歳の私は、先輩にとってどんな人でしたか?』

「そうだな……」


 考えながら、ふと思い立って栞に提案する。


「ビデオ通話に切り替えられない? 15歳最後の栞、見たいんだけど」


 この展開は栞も予想していたのだろう。すぐにビデオ通話が始まった。

 スマホに映る栞の顔は、綺麗なメイクがほどこされたまま。前髪だってまだ固まったままだった。

 明日は文化祭で、今日は早く寝なきゃいけないはずなのに。


『ふふ、私、先輩に可愛い顔を見せられるように準備してたんです!』

「いつでも可愛いのに」

『その中でも! 私は常に最高の可愛いを先輩にお届けしたいんです!』


 えへへ、と笑う栞が愛しい。隣にいたら、今すぐ抱き締めてキスができたのに。


『それで先輩。15歳の私はどんな人でしたか?』

「大事な人だよ。大事で、大好きな人」


 恥ずかしいけれど、今日はいつもよりも素直に気持ちを伝えたい。今日は栞の誕生日だから。

 不思議なものだ。自分の誕生日にはそれほど意味を感じていないのに、栞の誕生日だとこんなに特別になるなんて。


「私のことを、救ってくれた人」


 栞のおかげで私は過去にちゃんと区切りをつけることができた。きっともう、街ですみれとすれ違ってもなにも感じない。


『先輩。あと、ちょっとです』

「うん」

『本当は一緒にいたかったなぁ』

「私も同じこと考えてた」


 秒針が、10月3日最後の一周を始めた。

 なにかが大幅に変わるわけでもないのに、なぜか緊張してしまう。


「10、9、8、7……」


 そして、0。


「栞。誕生日おめでとう」

『はいっ! ありがとうございます、先輩!』

「生まれてきてくれて、私に出会ってくれてありがとう」

『はい』


 にやけた顔で栞が頷く。もっと、もっとと言葉を欲しがっているのが丸分かりだ。


「大好きだよ、栞」

『私も、夏鈴先輩が大好きです』

「15歳の栞も大好きだったけど、きっと16歳の栞のことはもっと大好きになると思う。17歳の栞のことは、それよりもたくさん」

『私がどんどん年をとって、おばあちゃんになっていっても?』

「うん」


 先のことなんて分からないのに、確信がある。私は時間を重ねるたびに、どんどんどんどん深みに落ちていくのだろうと。


「プレゼントは明日、デートの時に渡すから」

『はい。先輩からのプレゼント、楽しみにしてます!』

「お風呂もまだでしょ? 電話、そろそろ切るね」

『はい。本当はもっとお話ししてたいんですけど、最高のコンディションで夏鈴先輩に会いたいので!』


 おやすみ、と言い合って電話を切る。胸いっぱいに幸せが広がって、息をするのが苦しくなった。


 今日は10月4日。天使の日。栞の誕生日。

 大好きな人が、この世界に生まれた日。


「私、生まれてきてよかった」


 神様、ありがとう。

 なんて感謝するのに、これほどぴったりな日はない気がする。

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