第78話 私はいつだって先輩に本気です
「な、なーんて! 冗談ですよ!? 私、言いふらしたりしませんから!」
慌てたように言って、栞が笑みを作った。
「それより、お家デート楽しみです! 先輩から誘ってくれたのも、すっごく嬉しいですし」
行きましょう、と栞はいつもより強く私の手を引いた。
◆
「どうします? 一緒に着替えます? それとも、別の部屋で着替えます?」
家に着くなり、栞は難しい質問を投げかけてきた。
部屋の床には私のチャイナドレスと栞のメイド服がある。お互いに試着して見せ合おうということになったのだ。
ていうか、それ目的で家に呼んじゃったんだけど。
「先輩は私の着替え、見たいですか? それとも楽しみは後にとっておきたいタイプですか?」
「……えっと」
どっちの気持ちもあるから、即答はできなかった。
制服を脱いでメイド服に着替える栞のことはもちろん見たい。けれどいきなりメイド服姿を見て興奮したい気持ちもある。
贅沢な悩みだ。たとえるなら、ショートケーキの苺を最初に食べるか最後に食べるか、みたいなことだろう。
「折衷案をとってもいい?」
「折衷案?」
「最初の着替えはばらばら。でも、次の着替えは一緒」
少しの間考え込んだ後、栞が嬉しそうに笑う。
「それってつまり、私のこと、脱がせたいってことですね!?」
きらきらとした顔でこんなことを聞いてくるのは狡い。欲望を口に出すだけで喜んでもらえるなんて、私に都合がよすぎるのではないだろうか。
「分かりました。じゃあ私、着替えてきます。先輩のチャイナドレス姿も、楽しみにしてますね!」
栞は素早く出ていくと、ドアの外で着替え始めた。ドア越しに衣擦れの音がしてどきどきする。
そういえば前、栞が言ってたっけ。お店だから覗いちゃだめだって。
今は私の家だから……もしかして、覗けってこと?
ごくり、と唾を飲み込む。別々に着替えようと言ったのは私だ。でももし栞が私の覗きを待っているのだとすれば、覗かないのは失礼にあたるはず。
深呼吸して、そっと部屋の扉を開ける。ちょうど栞が、ブラウスのボタンを全部外し終わったところだった。
今日も、白い。
栞をお家デートに誘ったのは突発的なことで、前もって伝えていたわけではない。けれど栞の豊かな胸を包む布は純白で、今日も私の好みを反映している。
もしかして、毎日用意してくれてる、とか?
たまには違う色だって楽しみたい気持ちもあるのだけれど、こうして栞が健気に準備してくれているのだ、という事実に嬉しくなる。
栞の手がスカートのホックに伸びた瞬間、栞がゆっくりと後ろを振り向いた
目が合って。栞の目がちょっとだけ大きく開いて。
恥ずかしそうに、でも、嬉しそうな目で私を見て。
「……夏鈴先輩の、えっち」
覗いてよかった。
心の底から、私はそう思った。
◆
「おかえりなさいませ、夏鈴お嬢様っ! なーんて、先輩、どうですか?」
メイド服に着替えた栞が、スカートの裾を持って笑う。しかも頭には大きなヘッドドレスをつけていて、それがもう、騒ぎたくなるくらい似合っている。
「可愛い、すごく」
「ふふっ、やっぱり。先輩もとっても似合ってますよ。やっぱり先輩、赤が似合いますね!」
「……そうなのかも」
着替え終わって鏡を見た時、確かに似合うな、とは思った。他の色だったら、きっとここまで似合わなかっただろう。
思ったよりもスリッドが浅かったのも助かった。
「夏鈴お嬢様。私が、お嬢様の髪の毛を結んであげます」
上機嫌に笑った栞はベッドに座って、私を手招きした。彼女の足の間に入るような形で床に座る。
「ふふっ、ゴムとかピンとか持ってきててよかったです」
「……ありがとう」
ふと鏡に視線を向けると、今の体勢がとても気になってきた。足の間に頭を入れているなんて、見方によってはかなりいかがわしい体勢な気がする。
だめだめ。せっかく栞がヘアセットしてくれるのに、こんなことばっかり考えちゃ。
心を落ち着かせるように深呼吸をする。栞は私の髪を櫛でときながら、サラサラですね、とそっと頭にキスをした。
「先輩。お団子、一つと二つどっちがいいですか?」
「……どっちでも」
「もう! ちゃんとリクエストしてください」
耳元で喋られると、ちょっとずつ変な気分になってくる。反応してしまったら、情けないと栞は思うだろうか。
「先輩がリクエストしてくれないから、私好みの先輩にしちゃいます」
「うん」
「だから先輩。終わるまで、いちゃいちゃはちょっとだけ我慢してくださいね?」
ふっ、と耳に息を吹きかけられ、反射的にびくっと身体が震えた。しまった、と思った時にはもう遅い。
「夏鈴先輩、可愛い」
はむ、と耳を甘噛みされる。変な声が出そうになるのを唇を噛んで耐えた。
「……栞。からかわないで」
「からかってません。私はいつだって先輩に本気です」
ぺろ、と耳を舐められると、さすがに変な声が出てしまった。自分でも聞いたことがないような、不自然に高い声。
「先輩、だぁいすき」
今度は、耳を丸ごと食べられてしまった。はむはむ。口の中で柔らかくもてあそばれて、指の先に力が入る。
理想の死に方なんて、今まで考えたことは一度もない。だけど今日、決まってしまった。
私、死ぬ時は栞に食べられて死にたい。




