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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第3章 私は、世界で一番栞のことが好き

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第77話 バレちゃったら

「先輩が最近変わったって噂、めちゃくちゃ聞きますよ」


 昼休みにいつもの場所へ行くと、栞が不貞腐れたように唇を尖らせた。


「クラスでもみんなと話すようになったとか! 挨拶したら返してくれるようになったとか! 今日の休み時間だって、クラスの人と楽しそうに喋ってましたし!」

「挨拶に関しては、前から無視したことはないんだけど」


 ただ、最近挨拶をしてくれる人は多くなったなと思う。クラスメートもそれ以外の人も、すれ違う時に挨拶をしてくれるようになった。


「……先輩が人気者になっちゃって、寂しいです」

「それ、栞が言うの?」

「言いますっ!」


 頬を膨らませて、栞が私に抱き着いてくる。彼女こそ学校の人気者で、誰からも愛されているというのに。


「……先輩。余所見しないでくださいよ」

「しないよ。昼だって、誘われても断ってるから」

「た、たまにはお友達と食べても、い、いいですけど」


 震え声の栞は嫌がっているのが丸分かりだ。しないよ、と頭を撫でると、安心したように私に擦り寄ってくる。

 こんなに可愛いのに、どうして栞は不安がるのだろう。


「告白とか、されてないですよね?」

「されてないよ」

「心配です。このままだと、みんなが先輩のこと好きになっちゃう」


 いったい栞の目に、私はどう映っているのだろうか。


「先輩」

「なに?」

「チャイナドレス、届いたって言ってましたよね」

「うん」

「試着姿、最初に私に見せてください!」


 当日トラブルを防ぐため、衣装は事前に各自で確認しておくことになっている。そして私はまだ、チャイナドレスを着ていない。


「いいよ」

「絶対ですよっ!? 約束ですからね!?」

「うん」

「髪の毛とか、私がセットしてもいいですか!?」

「うん」


 やったー! と無邪気にはしゃぐ栞が可愛い。

 優しく話しかけてくれる人が増えて、大好きな恋人はこんなに可愛くて。

 あまりにも幸せな日常が、時折少しだけ怖くなる。


「栞」

「はい?」


 軽く手を引いて、じっと栞の顔を見つめる。一瞬だけ照れたような顔になった後、栞は私にキスをしてくれた。


「もう、先輩。こういう時は、ちゃんとちゅーしたいって言わなきゃだめですよ?」

「ごめん。もう一回、ちゅーしてもいい?」

「いくらでもどうぞ!」


 大きく両手を広げた栞の唇にそっと触れる。すっかり慣れた温もりは、心の中にある小さな不安をいつも和らげてくれる。

 安心するのだ。彼女の熱に触れるたびに。

 私には栞がいるのだと思うと、私は、世間のいろんなものが怖くなくなる気がする。


「ありがとう、栞」

「え? なにがですか?」


 なんでもない、と彼女を抱き締める。腕の中の温もりが一生続いてくれたらいい。

 そうすれば、他にはなにもいらない。

 だけどこの温もりがあれば、私はなんだって頑張れるような気がする。





「天笠さん、またね」


 教室を出る寸前、クラスの何人かが手を振ってくれた。同じように手を振り返して、栞の教室へ向かう。

 きっと今日は、文化祭の準備で少し帰りが遅くなっているのだろう。


 校内はすっかり文化祭モードだ。教室装飾のために作られた道具がダンボールに詰められ、教室の隅や廊下に置かれている。

 校内を歩く生徒の顔がいつもより浮かれて見えるのも、気のせいじゃないだろう。


 去年はこういう空気、嫌いだったのにな。


「栞」


 教室の扉を開く。栞は教室の中央に、六人くらいの女子達と集まっていた。


「夏鈴先輩!」


 他の子達に会釈をして、教室の中に足を踏み入れる。


「わっ、天笠先輩だ!」

「やっぱり綺麗ですね」

「てか栞、先輩がきた途端すっごい笑顔じゃん」


 クラスメートにもみくちゃにされた栞が、うるさい、と照れたように騒ぐ。


「栞。今日、忙しい?」

「いえ! 全然暇です今から先輩を迎えにいこうと思ってましたし!」


 本当にそうだろうか、と少々不安になったけれど、周りの子達の表情を見ると本当らしい。

 そして彼女達の中心には、大量のメイド服が入った段ボールが置いてあった。


「メイド服、届いたんだ」

「はい! 私のはこれなんですよ!」


 栞が見せてくれたのは、丈の短いメイド服だった。フリルやレースが大量に縫いつけられていて、秋葉原のメイドカフェなんかにありそうな衣装だ。

 どうやら人によって少しずつメイド服の形は違うらしく、丈の長いクラシカルな物を持っている子もいた。


 私のために短いスカートにしてくれた……っていうのは、きっと自惚れじゃないよね。


「栞。よかったら今日、うちにこない?」

「へ?」


 栞がびっくりしたように目を見開いたのはたった一瞬だった。

 すぐに大きな瞳をきらきらと輝かせ、高速で頷き始める。


「絶対行きます!」


 栞が叫ぶと、近くにいた子達が笑った。


「栞って本当、天笠先輩のこと大好きだよね」

「もちろん! というわけで、私は先輩とデートだから! じゃあね、みんな!」


 笑顔の栞が私の手を引っ張る。廊下に出て二人きりになると、栞が小さい声で呟いた。


「……本当にデートだって、バレちゃったらいいのに」

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