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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第3章 私は、世界で一番栞のことが好き

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第76話 おっ、お友達ができてよかったですね……

「はい、天笠さん。どうぞ」


 学校へ行くと、岸本さんからチャイナドレスをもらった。どうやら、クラスで一括注文していた物が届いたらしい。


「ありがとう」


 栞の意見を採用して、私は赤いチャイナドレスにした。こんなものを着る機会が人生であるとは思わなかったけれど、これはこれでいい経験になる……かもしれない。


「岸本さんもキャストだっけ」

「うん。その、恥ずかしいけど、思い出作りって言われちゃったらね」


 結局、部活動等で参加できない一部の女子を除き、クラスの女子はほぼ全員がキャストになった。

 岸本さんの腕の中には、黄緑色のチャイナドレスがある。


「放課後、ちょっとずつ準備が始まったりするけど、天笠さん、参加できそう?」

「……塾がない日なら、たぶん」


 栞も、今週から文化祭準備が始まると言っていた。帰る時間を合わせるためにもちょうどいいだろう。


 参加するのに、準備は全然しないっていうのも、悪いし。


「よかった。じゃあ、よろしくね。作業日調整はクラスLIMEでするから、後で回答しておいてくれると嬉しい」

「うん、分かった」


 頷くと、岸本さんは他の人に声をかけにいった。こうやって、クラスで孤立気味な子一人ひとりに声をかけてくれているのだ。


 中学の時にはいなかったタイプの子だな。


 岸本さんだけじゃない。この高校の雰囲気は、私が通っていた中学校のそれとは大きく異なる。

 今まで関わろうとしなかったクラスメート達も、別に嫌いなわけじゃない。私が少しずつ周囲と話すようになれば、席が近い子達は毎日挨拶してくれるようになった。

 栞の言う通り、世間はそんなに冷たくないのかもしれない。





「天笠さん。これ、よかったらどうぞ」


 放課後、文化祭に向けて装飾の作成を手伝っていると、背後から声をかけられた。岸本さんが持っているカゴの中には、いろいろなお菓子が入っている。

 個包装の飴、チョコレート、クッキー、煎餅……本当にばらばらで、統一感が全くない。


「……これは?」

「部活とかで放課後の準備に参加できない子達が差し入れってくれたやつだよ。だから、どうぞ」


 促されて、醬油味の煎餅を手に取る。すると岸本さんはそのまま私の隣に座った。


「ねえ、天笠さん。一緒に作業してもいい?」

「いいよ」


 隣に座っても、すぐに会話が弾むわけじゃない。だけど不思議と嫌な感じはしなくて、少しすると、他の女子達も集まってきた。


「ねえ、天笠さん。天笠さんって普段よく本読んでるけど、どんなのが好きなの?」


 いきなりそう聞いてきたのは、眼鏡が似合う小柄な女子。確か加藤かとうさんだ。新聞部に入っている……と言っていた気がする。

 私が口を開くと、みんなの視線が私に集中した。


「いろいろ読むけど……小説が多いかも」

「そうなの? なんかおすすめとかある?」

「最近読んだのだと『春の蕾』って本が面白かったかな」

「あー! 知ってる。それ、連作短編のやつだっけ?」


 加藤さんが頷くと、何人かの子が分かる分かる! と言ってくれた。知らないかも、と口にした子達もスマホで調べてくれる。


 ……みんな、本当に私のこと気にしてくれてるのかな。

 いや、優しいだけかも。


 だけど。

 この優しさは、きっと中学時代にはなかったものだ。


「ねえ、天笠さん。隣駅に大きな本屋さんできたの知ってる? よかったら今度、帰りに寄らない?」


 加藤さんは笑顔のまま言ったけれど、背中の裏に隠した指先が一瞬、震えているような気がした。


「じゃあ! その帰りに近くのハンバーガー屋さんはどう? ほら、最近SNSで話題の!」


 やたらと大きすぎる声で会話に入ってきたのは岸本さんだ。

 そして次々に他の女子達も、近くにお洒落なカフェがあるとか、可愛い洋服屋さんがある、なんて言いながら会話に入ってくる。


「……誘ってくれて、ありがとう」


 私が頷くと、みんなが緊張した顔で私を見つめた。


「今度……よかったら、一緒に行きたいな」


 緊張して、誰と目を合わせたらいいか分からなくなってしまう。だけどおどおどした私を見ても、誰も笑わない。

 ほっとしたように胸をなでおろした加藤さんが、いつにする? とスケジュールアプリを起動した。


 クラスの子と一緒に遊びに行くのなんて、いつぶりだろう。


 純粋に嬉しい。戸惑いで上手く楽しめないかもしれないけど、でも嬉しい。


「誘ってくれて、ありがとう」





「……先輩?」


 二時間目の後、体操服姿で教室に入ってきた栞が目を丸くして固まった。

 栞の視線は、岸本さんと加藤さんに向けられている。


「栞。どうしたの?」


 今は昼休みでも放課後でもなく、ただの10分休みだ。それなのに教室にくるなんて、なにかあったのだろうか。


「もしかして忘れ物?」

「違います! て、ていうかこれ、どういう状況なんですか!?」

「普通に、休み時間に喋ってただけ」


 岸本さんと加藤さんは、栞を見てぺこりと頭を下げた。彼女達は以前私が勧めた本を読んでくれて、その感想を話しにきてくれたのだ。


「ふ、普通って、先輩……っ!」


 栞の唇が震えている。私がクラスメートと話すようになったくらいで、こんなに驚かなくてもいいのに。


「夏鈴先輩」

「なに?」

「おっ、お友達ができてよかったですね……」


 そう言った栞は、酸っぱい梅干しを大量に食べたような顔をしていた。

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